坂野雄一の現在進行中の研究内容

最終更新日:2025年4月28日

私は、人の視知覚メカニズムの解明を行っています。また、そのメカニズムに基づき、人が視覚情報(つまり映像)によって感じる臨場感の、定量的・客観的な評価技術を開発しています。




以下では、現在進めている各研究の概要をご説明致します。




1.質感(光沢感):メカニズム解明とディスプレイ評価への応用

1−1.光沢知覚のメカニズム

【メカニズム】 人間が、両眼に映る物の明るさ(正確には輝度)の違いや、頭部運動に伴う物の明るさの変化に基づいて光沢を感じていることを明らかにしました。


光沢,両眼視と頭部運動の図   ステレオ光沢のデモの図

左図は実世界での光の反射の模式図です。左上:光沢のある面を両眼で見ると、右眼と左眼で面の明るさが異なります。左下:一方、光沢のない面を見ると、両眼で面の明るさは同じです。同様に、頭の位置を動かすと、光沢のある面の明るさは変化します(右上)が、光沢のない面では変化しません(右下)。人間はこのような物理的な関係を使って、両眼で明るさが違ったり、頭の動きに合わせて明るさが変化するときは光沢があるように見えるのです。

右図は両眼視のデモです。右眼と書かれた列を右眼で、左眼と書かれた列を左眼で見て下さい。寄り目にする(近くを見るようにする)か遠くを見るようにするとできます。寄り目で見る場合は、一番左の右眼の列と中央の左眼の列で見て下さい。遠くを見るようにする場合は、中央の左眼の列と一番右の右眼の列で見て下さい。すると、上の面では両眼で明るさの違いがあり、下の面では違いがないのですが、上の面には光沢があり、下の面にはあまり光沢がないように感じられると思います。

下図は面の明るさ変化のデモです。明るさが変化しない間は光沢があまりなく、変化し始めると光沢がより強く感じられると思います。光沢の違いが分かりにくい場合は画面の明るさを変えてみてください。

頭部運動による光沢のデモのGIF動画


論文






1−2.立体ディスプレイの評価

【応用】 上記の光沢知覚メカニズムの特性を応用して、通常の2Dディスプレイに比べて二眼式立体ディスプレイや多視点立体ディスプレイの方が光沢感の再現性に優れていること、また、二眼式立体ディスプレイよりも多視点立体ディスプレイの方がさらに光沢感の再現性に優れていることを明らかにしました。

2D,二眼式,多視点立体ディスプレイの光沢感再現の図



論文





【応用】 多視点立体ディスプレイによる光沢感の再現性が高い条件は、視点間隔が狭く、クロストークが適度に小さい条件であることを明らかにしました。また、光沢感の再現性は、頭部運動に伴う輝度変化の残存率で説明できることを明らかにしました。


多視点立体ディスプレイによる光沢感の再現性が高い条件は、視点間隔が狭く、クロストークが適度に小さい条件であることを示す実験結果


論文





1−3.光沢知覚の脳内メカニズム

【メカニズム】 人間がものの光沢(つや)を感じるのに関与する脳部位を特定しました。具体的には、hV4、VO-2、V3A/Bと呼ばれる3つの大脳皮質上の部位が光沢知覚に関与していることを明らかにしました。


光沢のfMRI実験の実験1の刺激の図   光沢のfMRI実験の結果の図



論文


報道発表


解説記事






2.光沢による魅力度

2−1.光沢が顔の魅力度に与える影響

【メカニズム】 肌の光沢が顔の魅力度などの様々な印象を向上させることを明らかにしました。具体的には、マットな肌よりも、テカリのある肌、さらに、つやのある肌の方が、顔の魅力度などが高いことを明らかにしました。


マット、テカリ、つやのある肌の顔写真



学会での発表

論文

報道発表(共同研究相手より)






2−2.光沢による顔の魅力度を反映する脳活動

【メカニズム】 眉間の数cm後方にある、眼窩前頭皮質内側部の活動量が、肌の光沢による顔の魅力度を反映することを明らかにしました。


魅力度と眼窩前頭皮質内側部の脳活動の関係


学会での発表

論文

報道発表






3. 広視野3D映像による没入感と立体感:メカニズム解明と定量的・客観的評価への応用

3−1.fMRI用広視野立体映像呈示装置の開発

【応用】 fMRIによる脳活動計測中に被験者に広視野立体映像を見せる装置(評価用装置)を開発しました。


広視野立体映像呈示装置の写真



国際会議での発表


報道発表


特許






3−2.ベクション(視覚誘導性自己運動感覚)の脳内メカニズム

【メカニズム】 上述の客観的評価のため、この装置を用いて、ベクション(映像が後ろに流れることにより、自分が前進しているように感じること)の脳内メカニズムを現在解明中です。映像サイズや流れのパターン、両眼立体表示等を操作することにより、先行研究で自己運動処理との関係が示唆されている脳部位の中でも、大脳皮質内側部である帯状溝視覚野(CSv)が特に関連が強いことを示しました。


オプティカルフローの図
ベクションに関連する脳部位の図


論文






3−3.前後方向のものの動きを見るメカニズム

【メカニズム】 人間が、前後方向のものの動きを見るときに、両眼に映る映像の速度の差(両眼間速度差)に基づいた、方向選択性のある(脳内の)仕組みを用いていることを明らかにしました。方向選択性があるというのは、その仕組みの中で、あるユニットは観察者に近づく動きに対して反応し、別のユニットは観察者から離れる動きに対して反応するという意味です。


両眼間速度差の図

論文

レビュー論文






【メカニズム】 人間は、前後方向のものの動きを見るときに、その対象物を目で追うために左右の目を逆方向に動かす(輻輳眼球運動を行う)場合と目を動かさない場合があります。前者では目に映る像は動かず、後者では動きますが、いずれの場合でも、対象物の前後の動きを検出できる仕組みが脳のV3Aという部位にあることがわかってきました。これは、V3Aでは単純に目に映る像の動きだけを検出している訳ではなく、目の動き(輻輳眼球運動)も考慮して対象物の前後の動きを検出していることを示唆しています.


研究会での発表






3−4.高解像度3D映像による遠隔操作の作業効率

【応用】 多視点立体映像を用いることにより、2D映像と比べて、比較的遠い距離(5〜6m 程度)にある棒の奥行き位置調整精度が向上することを、クレーンゲーム式の実験で明らかにしました。このことより、建設機械の遠隔操作に多視点立体映像を用いることで、現状の2D低解像度映像よりも効率よく作業が行える可能性が示唆されました。


クレーンゲーム式実験の図


研究会での発表





【応用】 建設機械の遠隔操作に高解像度(4K)3D映像を用いることで、現状の2D低解像度映像よりも作業時間が短くなることを実証しました。


建設機械の遠隔操作実験の写真

論文

解説記事

研究発表






3−5.半透明可視化された多視点立体映像の立体感の定量的評価

【応用】 医用画像など、複雑な三次元構造を可視化するには半透明可視化手法が用いられますが、その構造は見ても分かりにくく、また、奥行きが小さく知覚されてしまうという問題がありました。本研究では、以下の各手法により、複雑な三次元形状の奥行きがより正確に知覚されることを定量的に示しました:多視点立体ディスプレイによる両眼視差と運動視差、低い透明度の適用、用いた半透明可視化手法に固有の輝度勾配の適用、半透明の補助面を重ねること、エッジの強調、強調エッジへの不透明度勾配の適用。


半透明可視化された等値面 半透明多重面


論文







4.著書

4−1.図説 視覚の事典

書籍「図説 視覚の事典」の「両眼立体視とその応用」(第2章 第13節,p92-95)を執筆しました(2022年11月1日刊行)。本ページでご紹介している研究の一部や周辺の研究について概説しております。本書は図解も多く、大変わかりやすい書籍となっております。ぜひお買い求めください。(出版社(一部試し読み可))

図説 視覚の事典

第2章 第13節「両眼立体視とその応用」の章立て:




4−2.ヒトの感性に訴える製品開発とその評価

書籍「ヒトの感性に訴える製品開発とその評価」の「光沢知覚のメカニズムと評価」(第1章 第4節, p31〜p40)を執筆しました(2018年6月29日刊行)。本ページでご紹介している研究の一部や周辺の研究について概説しております。ぜひお買い求めください。(出版社)

第1章 第4節「光沢知覚のメカニズムと評価」の章立て:

  1. 光沢知覚のメカニズム
    1. 単眼性の静的な光沢手がかり:画像統計量とハイライトの向きや位置
    2. 複数の網膜像
    3. 両眼性手がかりと時間的手がかりが光沢知覚に与える効果
  2. 立体ディスプレイによる光沢感の定量的評価
    1. ディスプレイの種類(平面、二眼式立体、多視点立体)による光沢感の違い
    2. 多視点立体ディスプレイの視点数とクロストークの影響
  3. 光沢の脳内処理
  4. 脳活動計測に基づく質感評価への展望




坂野雄一の研究業績

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