両眼視差

最終更新日:2024年2月23日

両眼視差とは、両目の網膜に映る像の、位置の違い(差)のことです。網膜とは、目の後ろ側にあるスクリーンの役目をする部分のことです。例えば下の図では、オレンジ色の星(☆)と青い丸(●)が異なる奥行き位置に配置されています。この場合、右目の網膜上と左目の網膜上では、☆と●の像の相対的な位置が異なります。この相対的な位置の違いが両眼視差(より厳密には相対視差)です。そしてその大きさ(下の図の、両目の網膜にある茶色の部分を足しあわせた角度)が両眼視差の大きさになります。

[両眼視差の定義の図]


人は両眼視差から奥行きを知覚することができます。

本当に両眼視差から奥行きが見えるか、ちょっと実験してみましょう。下の図を見て下さい。正方形の枠が二つあって、それらの中にドットがランダムに分布しています。(ちなみに二つの正方形の枠の中のドットの分布は一見同じに見えると思います。)この二つの正方形をそれぞれ別の目で見て下さい。うまく見えれば、二つの正方形が三つに見えるはずです。

うまく見るコツはいくつかありますが、一つの方法は、このコンピュータの画面よりも遥か遠く向こう側を見ようとする方法です。もう一つの別の方法は、少し寄り目にすることです。どちらかをすると、二つの正方形が横にずれていくように見えると思います。段々ずれて、三つに見えれば成功です。最初は見えなくても、何度かやってるうちに段々上手に見えるようになってきます。

さて、三つに見えた時点で、そのうちの真ん中の正方形の枠の中のドット分布の中心辺りに何か浮かんで(もしくはへこんで)見えませんか?(答えは図の下。)

[ランダムドットステレオグラム1]








そうです。(少しいびつな)正方形が浮かんで(もしくはへこんで)見えたら大成功です。ではもう一つだけ。今度のもさっきのと一見同じに見えますが、今度は何が見えますか?

[ランダムドットステレオグラム2]








はい。今度は上下二つの横長の(ちょっといびつな)長方形が、上のはへこんで、下のは浮き出て見えたら(もしくはその反対だったら)正解です。

では、なぜ、一見左右で同じに見えるドットの分布から四角形が浮き出て見えたりへこんで見えたりするのでしょうか?。。。そうです。両眼視差です。実は左右二つの正方形内にあるドットの分布には両眼視差がつけてあるのです。そして、この両眼視差があったために奥行きが見えたのです。

幾何学的に説明すると以下の通りです。

まず最初に二つの正方形をそれぞれ別の目で見てもらいましたが、これによって、一つの正方形を両目で見ているのとほぼ同じ状況となります。そのため、以下では、説明を簡単にするためにその状況での説明をします。(興味のある人は、実際と同じ状況、つまり二つの正方形を別々の目で見ている状況での幾何学的説明も考えてみて下さい。)

正方形の枠内の中心付近にあるドットには、枠や周辺のドットに対して視差が付いています。すなわち、両目で対応するドットの位置がずれています。下の図では、赤い横線が右目に見えるドット分布領域、緑の横線がそれに対応する、左目に見えるドット分布領域です。この図では、左目に見えるドット分布よりも右目に見えるドット分布の方が左側に配置してあります。これらのドットは両目で対応をとると、青い横線のように枠の位置よりも手前に位置します。(赤と緑の左端(●)もしくは右端(■)に着目すると分かりやすいと思います。)すなわち、このような視差の付いたドット分布は浮き上がって見えることになります。このような視差のことを交差視差と呼びます。最初のデモの絵の中心部や二つ目のデモの下側の長方形の範囲では、右目で右側の正方形の枠、左目で左側の正方形の枠を見ると、ドットにこのような交差視差が付いています。なお、視差の大きさは、左目網膜の位置に茶色の線で示してあります。

[交差視差の説明図]




一方、最初のデモの絵で、右目で左側の正方形の枠、左目で右側の正方形の枠を見ると、正方形枠内の中心付近のドット分布領域が、下の図の青い横線のように正方形の枠やまわりのドットに比べてへこんで見えると思います。これはこのドット分布領域で、左目に見えるドットよりも右目に見えるドットの方が右側に配置してあるからです。このような視差のことを非交差視差と呼びます。

[非交差視差の説明図]




以上が上のデモで奥行きが見えたことに対する幾何学的な説明でした。

あとがき: 以上、両眼視差についてほんの少しだけ説明しました。少しでも面白いなと思って頂ければ成功かなと思います。人が両眼視差から奥行きを見る仕組みに関しては、その重要性と魅力から、世界中で本当に多くの研究が複数の研究手法によってなされてきています。ここでお見せしたのは、実はそんな多くの両眼視差の研究でよく用いられているランダムドットステレオグラムというものです。(厳密に言うと、実際に実験で用いられるものは、ここでやってもらったように二つの絵を別々の目で見るのが簡単になるような装置を用いますが、原理は一緒です。)ランダムドットステレオグラムは、絵を描くソフトがあれば誰でも簡単に作れます。同じドット分布を二つ作って、そのうちの一つで、奥行きを見せたい場所のドットを横に少しずらすだけです。大きくずらす程大きな奥行きが見えます。(あまり大きすぎると奥行きは見えなくなります。)逆方向にずらすと反対の奥行き(手前か奥か)が見えます。興味のある方は是非作ってみて下さい。何か新しい発見があるかもしれません。:)


書籍「図説 視覚の事典」の「両眼立体視とその応用」(第2章 第13節, p92-95)を執筆しました(2022年11月1日刊行)。本節では、様々な立体ディスプレイやその用途、奥行き手がかり統合、奥行き運動知覚、両眼による光沢知覚など、両眼立体視に関わる広い範囲の最近の研究について執筆しました。本書は図解も多く、大変わかりやすい書籍となっております。ぜひお買い求めください。(出版社(一部試し読み可))

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