5.Q.舌苔の清拭はどうすればよいのですか

A.宮崎医科大学医学部歯科口腔外科学講座 教授 芝 良祐

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舌苔とは:
 舌表面の糸状乳頭という上皮組織が毛の様に伸び、そこに口腔粘膜の剥離上皮、食物残渣、細菌などが付着して白っぽく見えるようになったものである1)(図1)。
図1.舌表面の立体図[F.H.Netter(山形敞一監修):The Ciga Collection of Medical Illustrations Vol.3,Part,日本チバガイギ−,1978より]
この乳頭は、食物を食べたり口に物をくわえたりしたときに舌が傷付かないように保護するためと食物を舌の表面でしっかりと捉えるためにあると考えられている2)。即ち、糸状乳頭の先端は毎日少しずつ伸びているが、咀嚼や会話などの舌運動に伴って少しずつ削り落とされるので、通常は落屑(らくせつ、皮膚や粘膜の表面が少しずつはげ落ちること)と再生の平衡が保たれて非常に短い毛のように見える(図2)。
図2.舌苔(黒褐色の着色を伴うことが多い)


 歯がなくなり入れ歯が適合していないと、食事に際してあまりしっかり噛んで食べれないため、糸状乳頭の先端が削り落とされることがなく、どんどん伸びてしまって舌表面に白っぽい毛のようなものがびっしり生え、そこに口腔内の種々のものが付着して舌表面に苔が生えたように見えるようになる。これが舌苔である。いいかえれば、皮膚に垢がたくさん付着したのと同じようなものが舌に生じたと考えればよい。従って、舌苔は食物をしっかり噛んで食べているか否かの目安となるものであるが、これが多く付着しても不潔に見えるだけで、健康上はあまり問題ないことが多い。
 舌苔が付着しやすい誘因として、胃腸障害、糖尿病、腎疾患、血液疾患、喫煙、抗生物質連用、飲酒などが挙げられている1)が、これらと舌苔との関係は必ずしも明確なものではない。これらのものは舌糸状乳頭の過形成を促す要因となるか、あるいはこのような背景因子のある人はあまりよく噛まずに食物を食べることが多いのかも知れない。
 しかし、この舌苔があまり長期間にわたって多量に付着していると、種々の細菌が増殖しやすく、舌の異和感、味覚異常、痛みなどを生ずることもある。

舌苔の清拭の仕方:
 舌背の表面を満遍無く歯ブラシで軽く擦るのが最もよい。べったり付着した舌苔を一度にすべてを取ってしまおうとせず、気長に毎日ブラッシングして徐々に少なくなるのを待つべきである。しかし、ブラッシングを止めるとすぐにまた舌苔は付着し始める。
 殺菌性のうがい薬や抗真菌剤の塗布を勧める人もあるが、舌苔のでき方を考えるとあまり効果は期待できない。

舌苔の予防法:
 しっかり噛んで食物を食べる環境と習慣を作ることである。歯がなく噛めなければ歯科医院に行って義歯を作ってもらい、義歯の適合が悪ければより噛みやすい義歯にしてもらうことが必要である。

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舌苔と鑑別を要する疾患:
a. 舌白板症:前癌病変として要注意である。舌苔が糸状乳頭のある舌背にのみ左右対称的に生ずるのに対し、白板症は舌縁や舌腹に生ずることが多い。
b. 舌カンジダ症:単にカンジダ菌のコロニー(塊り)が舌に付着している場合はガーゼなどで強く拭うだけで消失するが、粘膜下に深く侵入したカンジダ菌は簡単に取れず白板症とも区別し難い。
c. 地図状舌:部分的に糸状乳頭が消失し、地図状に赤く見えるところが舌背部に生ずる。この場合、赤くならなかった部分が舌苔のように見えることがある。日によってその形は変わるが自覚症状に乏しく、特に治療の必要もない。原因は不明である。

参考文献
1)神谷祐司: 舌苔と舌毛. 佐々木次郎他編, 歯科医の知っておきたい医学常識103選.
P.196-197, デンタルダイヤモンド社, 1990.

2)歯科医学大事典編集委員会編: 糸状乳頭. 歯科医学大事典縮刷版. P.1173, 医歯薬出版社, 1989.