英語の勉強に辞書はつきもの。私も学生たちに授業中は辞書を使うことを半ば強制しています。テキストや教材に出てくる難しい単語や表現をこちらから説明することはせずに、ある程度の時間を学生に与えて自分で辞書で調べさせています。ところが今時の学生さんは重たい辞書を持ってくるのがいやなのか、授業に持ってきません。またもってきていても学校にあるロッカーに置き忘れたままになっているのです。たしかに重たい辞書を鞄の中に入れて通学してくるのはすぐに地べたに座ってしまうほどの軟弱体力の学生さんには負担なのでしょうね。
でも辞書を使わなければ語学力が付かないのは、このページの読者の方々ならよくご存じのはず。ではどうすればよいのでしょうか。私は新学期のはじまりに電子辞書の紹介をしています。電子辞書は数千円のものから数万のものまでいろいろと種類に富んでいて、軽いものは10g程度のものから重くても300g程度です。なんといってもこの軽さは魅力で、持ち物に気を遣う女子学生でも簡単に持ち運びができるのです。
先生の中にはこのような電子辞書を毛嫌いして、かならず紙の辞書を持たせたがる人もいるようですが、今の時代ではむしろ紙にこだわって辞書嫌いをつくるよりも積極的にこのような道具を活用することを紹介する方が効果的な教育ができると思うのですが、みなさんはどう思いますか?
電子辞書の一番便利なところはキーを押すだけで素早くターゲットの表現の意味を調べられることです。紙の辞書のページをめくっている間に電子辞書なら数語を調べることができます。また電子辞書ならではの機能として、スペルを正しく覚えていなくてもいくつかの候補を表示してくれることです。また単語の意味で、同意語や反意語などがリンクしてある場合にはすぐにその語を調べることもできるのです。
このような電子辞書は教員の側にもメリットがあります。たとえば授業中ちょっとした単語の意味を調べたいときに学生に話しながら辞書を操作して、調べることができるのです。しかも小さい電子辞書なら手のひらの中にすっぽり入りますから、学生にばれずにこっちもこっそりカンニングができるというわけです。ちょっと威厳を気にする先生に特におすすめできます(笑)。私が使っているSHARPのPA-J10のように名刺と同じサイズのものならポケットの中にすっぽりと入りますし、使うときには手のひらの中にも入ってしまうので、まさか辞書を見ているとはわからないはずです。
PA-J10を閉じたところ
PA-J10を開いたところ
では電子辞書には短所がないのでしょうか? 考えられる短所はいくつかあります。まず第一に紙の辞書と比べて価格が高いことです。紙の中辞典ならせいぜい数千円で買えるのに同じ内容の電子辞書だと2万円前後するからです。これはたとえば、中学生や高校生には勧めることはできないかもしれませんが、今や経済的にも恵まれていてルイヴィトンのバックを平気で(しかもかなりお下品に)持ち歩く生徒が多いのも事実ですから、紹介するくらいはしてもいいのではないでしょうか。学校によってはこのような電子機器を禁止にしているところもあるようですが、社会で「IT革命に対応できる人材の育成」と叫んでいるのに、情報機器の使い方を正しく教えないというのはいかがなものでしょうか。「持てる子と持てない子がいるのだから公平にするのだ!」なんて声が聞こえてきそうですが、機器の使い方を紹介することに罪はないでしょう。あとは生徒の環境次第なのです。
第二の短所ですが、これは紙の辞書のように用例を掲載していない辞書が多いということです。紙でできた学習辞典の場合だと豊富な例文や用例などがあり、実際の語句の使い方が解説されています。電子辞書では限られたメモリー容量にできるだけ多くの語数を掲載しようとするためにどうしても語句の基本的な意味だけを掲載し、用例を省いたものが多いのです。これでは確かに中学生や高校生に勧めることはできないでしょう。ただし、このデメリットは購入する辞書により解消されます。たとえば私が使用しているSHARPのPW-7000という電子辞書は広辞苑、ジーニアスの英和・和英、漢和辞典が使えるものですが、例文がしっかりとついてきますし、用例解説も載っています。またSONYのDD-IC100はプログレッシブの英和・和英辞典でこれも例文が豊富に記載されています。このデメリットは端的に電子辞書の価格との折り合いということもできるでしょう。
第三のポイントはメモができないということです。紙の辞書ならそこにメモ書きを書いたり、あるいはアンダーラインを引くことができますが、さすがに電子辞書ではそれはできません。機種によっては「しおり機能」といって、マークすることくらいはできますが、さすがにメモ機能はないのです。これについてはまったくお手上げと言えるでしょう。
DD-IC100を閉じたところ
DD-IC100を開いたところ
今までは携帯型の電子辞書について話してきましたが、コンピュータで使用できるCD-ROMの辞書も豊富にあります。ノート型のパソコンをもっていればそこに辞書CD-ROMを入れて持ち運べばいつでもどこでも単語を調べることができます。重さも研究社の英和大辞典や小学館のランダムハウス英語辞典を持ち歩くのと大差はありません。これらのディスクにはパソコン専用のものと電子ブックに対応したものがありますが、コンピュータで使用する場合はそのどちらも同じように使用することができます。
使い方は簡単で辞書のCD-ROM(あるいは電子ブックのディスク)を購入して、ノート型パソコンのCD-ROMドライブにCD-ROMを入れて使うだけの話です。大変に簡単です。実際の使用の仕方はそれぞれの辞書のマニュアルをみればいいのです。私が実際にコンピュータで使用している電子辞書は次の通りです。
・ランダムハウス英語辞典(小学館)
・Oxford English Dictionary (Oxford University Press)
・Merriam-Webster's Collegiate Dictionary & Thesaurus, Deluxe Audio Edition (Webster)
・The Concise Oxford Dictionary and Oxford Thesaurus (Oxford University Press)
・研究社 リーダーズプラス (研究社)
・ジーニアス英和辞典 (大修館)
・研究社 新編英和活用大辞典
ただしこれらの辞書はCD-ROMですから、使い分けをする場合はいちいちCD-ROMを入れ替える必要があります。これではせっかくの携帯性もちょっと損なわれてしまいます。そこで裏技です。これらの辞書のCD-ROMのイメージファイルを作成し、それをノート型パソコンの内蔵ハードディスクに保存するのです。こうするといちいちCD-ROMを入れ替えなくても好きな時に好きな辞書が使用できます。このイメージファイル化についてはパソコンの雑誌をみていただければわかりますが、たとえばMacintoshを使っている場合、Apple社が提供しているDisk Copyというソフトを使うと簡単にできます。またWindowsの場合はCD革命というソフトを利用することでこのイメージファイルが簡単に作成できます。ノート型パソコンの内蔵ハードディスクに余力がある限りいくらでもイメージファイルを作成することができます。 また最近ではこれらのディスクをイメージファイルにしなくてもいつランできるソフトが出てきました。
居酒屋などに行くとちょっとすかしたお姉さんたちはやきとりを串からわざわざはずしてお箸で上品ぶって食べているのを見かけますが、やはりやきとりは串刺しのままガブッといきたいものです。実はCD-ROM(あるいは電子ブック)のディスクをコンピュータ上で使用する場合には紙の辞書ではまねのできない「串刺し」と呼ばれる機能を利用することができます。これは何か調べたい語句を入力するとその言葉に関して記載されている項目を複数の辞書から同時に検索し、表示するというものです。たとえば、英単語のinspireという語を調べたいとします。私がこの串刺しの機能をつかってinspireを調べると、たとえば、上記の辞書の中からリーダーズプラス、ジーニアス英和辞典、研究社新編英和活用大辞典、The
Consice Oxford Dictionaryから同時のこの語の意味と用例を表示してくれるのです。これは例文や用例などを確認するときには大変便利な機能です。
またこの機能を使用すれば英和辞典を和英辞典として活用することもできるのです。この機能は見出しだけではなく、本文の説明文にある語句も対象として検索をかけてくれるので、たとえば「こころ」という語をこの機能で検索すれば、「こころ」という語で使用できる単語を羅列してくれたり、あるいはその用例を表示してくれます。
CD-ROM (最近はDVD-ROMもある)や電子ブックによる辞書はなにも英語関連のものとは限りません。いわゆる百科事典もいくつか発売されています。代表的なものはMicrosoft社のエンカルタ、小学館の日本大百科全書(スーパーニッポニカ)、平凡社の世界大百科があります。また英語版ではEncyclopaedia
Britanicaなどがあります。 これらの辞書を内蔵ハードディスク内に収納すればノートパソコンはそのまま本棚となってしまうのです。普通これらの辞書を書籍でそろえるとどれくらいの冊数になるでしょうか?それぞれの辞典が平均全30巻だとすると冊数で90冊。そしてその1冊の重さが約2kgだとすると重さで180kg。これと同等の情報量を1kg〜2kgのコンピュータに入れて持ち運べるのです。
また90冊の辞書を本棚に収納しようとするとどれくらいのスペースがいるでしょう?1冊の厚さが平均7cmと仮定して、90冊分で6m30cmです。今私の書斎にある本棚の幅が68cmの収容力があります。ということは1段で約9冊収納できます。高さは5段ですから、単純に45冊入ります。ということはこの本棚二つ分ということになります。面積で換算すると本棚一つの面積が約2平方メートル。それが二つで4平方メートルということになります。そうすると約1坪ちょっとの面積をとるわけです。この一坪ですが、ちょっとした住宅地なら90万円ほどの値段です。あなたは辞書の保存に90万をかけることになるのです。しかもスペース的には他の本を収納することが大変難しくなりますし、重たい辞書をそう簡単に引こうともおもいませんから、自然と辞書は本棚の肥やしとなっていくこと請け合いです。
さらにこの本棚の電子化を進めると文学作品なども本から電子メディアになります。よく知られているところではShakespeareの全作品や、シャーロックホームズの全作品がCD-ROMになっています。また新潮社の文庫本の中にはCD-ROMメディアになっているものがあります。
最近では出版社が積極的に書籍の電子化をすすめ、それをインターネットで販売もしています。これらをノートパソコンに入れておけば好きなときに読めますし、収納の場所もとりません。そして表示文字の大きさも自在に変えられますから、小さな活字に目をこすらせることもなくなります。さ、はやいとこ、電子辞書を始めましょう!