開講年度2018
科目名経済学特講Ⅲ
科目ナンバーE331-234-23
開講種別秋学期
対象学年3年
担当者吉田 文和
単位数2
曜日・時限秋学期 金曜日 3時限
キャンパス名城公園
実務経験のある教員による授業科目


テーマ
「ドイツの挑戦:エネルギー政策の日独比較」をテーマに講義する。福島原発事故後、最終的に脱原発を決めたドイツと再稼働の日本の比較を行う。
授業の概要
日本のこれからのエネルギーをどのように賄うのか。これに対して、福島原発事故を最終的な契機として、脱原発を決めたドイツは2022年までに最終的な「ゼロ原発」を目指すとともに、再生可能エネルギーと省エネルギーの徹底による「エネルギー大転換」を進めている。
日本には、この見通しはないのか、をドイツと日本を比較しながら検討する。
授業の到達
目標
ドイツの脱原発の歴史と理由、原発の停止・廃炉・解体・中間貯蔵、放射性廃棄物問題、原子力をめぐるリスクと倫理、エネルギー大転換の目標・枠組み・政策手段、再生可能エネルギー固定価格買取制度の改革、ドイツの熱電併給CHP制度と現状、送電網と電力市場問題、再生可能エネルギー利用と地域活性化、などを日本と比較しながら理解する。
授業計画
回数授業スケジュール授業時間外学修・時間(分)
1第1回 はじめにー本講義の目的と方法 

ドイツの「エネルギー大転換」は、まず再生可能エネルギーの抜本的拡大を目指し、第2に集中型のエネルギー供給から、消費者自身が生産者となる分散型のエネルギー供給が行われるからである。
第3に、エネルギー需要を管理する需要側管理による省エネを目指すからである。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:吉田『ドイツの挑戦』、斎藤誠『震災復興の政治経済学』日本評論社、2015年。
2第2回 ドイツ脱原発の「なぜ」と「どのように」
「なぜ」脱原発か?①原発の安全性が高くても、事故は起こりうる、②事故が起きると、他のどんなエネルギー源よりも危険である、③次の世代に廃棄物処理などを残すのは倫理的問題がある、④原子力より安全なエネルギー源があるからである。⑤再生可能エネルギー普及と省エネ政策で原発を段階的にゼロにしていくことは、将来の経済のためになる。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:吉田文和『ドイツの挑戦』、倫理委員会『ドイツ脱原発倫理委員会報告』大月書店、2013年
3第3回 原発の停止・廃炉・解体・中間貯蔵
グライフスバルト原発の歴史、停止と解体方針、廃炉と解体と中間貯蔵施設、解体・除染のための作業施設(ZAW)、中間貯蔵と残る放射性廃棄物、環境モニタリング、福島原発との違い、ドイツの原発立地、ここでは、世界で最大規模の廃炉・解体・中間貯蔵を行っている旧グライフスバルト原発の調査・聞き取りを行い、ドイツの制度的枠組み、目標と政策、現状と課題を検討する。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:上澤・沢井「ドイツの原子炉解体の例と中間貯蔵」『科学』第83巻第10号、2013年
4第4回 放射性廃棄物問題
ドイツの放射性廃棄物問題、ドイツにおける放射性廃棄物管理の概観、歴史的経緯、ドイツの放射性廃棄物管理、処分場選定法を含む法的枠組み、立地手続きの現状、情報政策と社会を含んだ参加形態、学ぶべき教訓、日本の高レベル放射性廃棄物問題
行政や事業者が「決定し、知らせ、守る」伝統的なモデルから、幅広い関係者が「交渉し、参加し、影響する」新しいモデルの変わりつつある。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分について(回答)」2012年
5第5回 原子力をめぐるリスクと倫理
安全なエネルギー供給に関する倫理委員会の経緯と背景、ドイツは福島をどう受止めたか、 倫理とリスクの考え方―前提となる倫理的責任論、必要とされるのは総合的なリスク評価、 脱原発への道筋、絶対的な否定論の立場、相対的比較衡量論の立場、倫理委員会の共通の判断、脱原発とエネルギー転換のチャンス、大型技術の便益過大評価とリスクの過小評価、
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:吉田『ドイツの挑戦』、倫理委員会『ドイツ脱原発倫理委員会報告』大月書店、2013年
6第6回「脱原発とエネルギー大転換に関する日独比較」ベルリン会議報告、続・ベルリン会議報告:グローバルな「エネルギー大転換」
ドイツの学会、行政の代表者、日本の研究者が、「ドイツのエネルギー大転換」、「大転換のモニタリング」「第3の産業革命」「ドイツの気候政策」「大転換の危機」「ドイツの脱原発政策」「公共的受容性」「気候変動政策」「ドイツの送電網」「日本の原発力と脱原発」など、報告、議論した。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
参考文献:吉田文和『ドイツの挑戦』、倫理委員会『ドイツ脱原発倫理委員会報告』大月書店、2013年
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
7第7回 エネルギー大転換の目標・枠組み・政策手段
目標設定、エネルギー消費とエネルギー効率、省エネ改造と省エネビル、交通分野、温室効果ガス削減、専門家委員会の批判と提言、日本における電源ミックス論、下水排熱の利用
電力のみならず、エネルギー全体政策を検討する場合、前提条件、目標、枠組みを総合的に検討し、経済性、国際競争力、支払い可能性、環境保全性、などをよく検討することである。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:IEA,The power of Trasformation、2014
8第8回 再生可能エネルギー固定価格買取制度の改革
固定価格買取制度の成果と課題、固定価格買取制度の概要、電力価格:価格の一部としてのEEG賦課金、
ドイツの再生可能エネルギー法改革の中心は、種類別に買取価格と買取期間、条件を定めて、再生可能エネルギーを拡大してきた制度の効は認められるが、電力料金負担のあり方、負担の公平性、国際競争力の確保が課題である。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:吉田「ドイツの再生可能エネルギー制度改革」『環境経済・政策学研究』第8巻第1号2015年
9第9回 ドイツの熱電併給CHP制度と現状
CHP普及の目的、CHP電力の買取保証、設備投資の補助金制度、地域暖房網の所有、管理、接続義務、ドイツの事例:フランクフルト市、学ぶべき教訓
CHPは熱電併給により、天然ガスやバイオガス、バイオマス、廃棄物などの再生可能エネルギーを熱源として発電し、その排熱を暖房に使い、90%近くのエネルギー効率を達成できる。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:コージェネレーション・エネルギー高度利用センター『コージェネレーション白書2012』
10第10回 送電網と電力市場問題
ドイツ政府の立場、送電網・パイプライン拡大、日本の発送電分離、自動車王国:ドイツ
ドイツのみならず、デンマーク、スペインなどでも、共通して、制度上、再生可能エネルギー電力の送電線への接続を保証して、さらに電力自由化と発送電分離を進め、さらに「発送電分離」を進め、さらに送電料金も独自に設定できるようになっている。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:IEA,The power of Trasformation、2014
11第11回 再生可能エネルギー利用と地域活性化
772もあるエネルギー協同組合、エネルギー協同組合の取組、ドイツ全国の取り組み事例、エネルギー自給村:フェルドハイム、ドイツの再生可能エネルギー関係の雇用者数は33万人近くで,内訳は風力14万人,バイオマス11万人,太陽光4万人である.市民所有率の高さが重要で、市民と農民の所有率が、過半に迫っていることが背景にある。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:アゴラ・エナギーヴェンデ他『ドイツのエネルギー転換10のQ&A-日本への教訓』2017
12第12回 日本の再生可能エネルギーと地域経済――北海道を中心として――
再生可能エネルギーと地域経済の関係、再生可能エネルギー事業モデルと評価指標、豊富で多様な北海道のポテンシャル、太陽光発電―浜中農協のメガソーラー、畜産系バイオガスと林業系バイオマス、畜産系バイオガスと林業系バイオマス、洞爺湖温泉の地熱利用、少子高齢化 北海道のとくに大型のものは80%が本州資本である。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
参考文献:内村鑑三『後世への最大遺産・デンマルク国の話』岩波書店
13第13回 風力発電と地域活性化
なぜ、風力発電をとりあげるか? 分析視点、ドイツの風力発電と地域の取組、ニーダーザクセン州東フリジア地方の取組、ダルデスハイム、ハルツ郡「再生可能エネルギーのまち」、 ドイツの風力発電――成果と課題
ドイツの新しい発電システム (2015年夏)は、約15万 太陽光発電機 約3万 風力発電機 約1万機 バイオマス発電プラント約3万機 中小熱電併給発電
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
吉田文和『ドイツの挑戦』第Ⅲ部2章
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
14第14回 北海道の風力発電
日本の風力発電のパイオニア苫前町、日本最北端の風力発電基地・稚内、地方財政危機打開の寿都町営風力発電、日本初の洋上風力に取り組む道南せたな町、日本の市民風車のパイオニア北海道グリーンファンド、北海道の風力発電―成果と課題
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
吉田文和『ドイツの挑戦』第Ⅲ部2章
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
15第15回 まとめ:ドイツの挑戦と日本
ドイツがこの間学んだ最大の教訓は、「関係者の参加と透明性」による合意形成であり、その前提として、「事実と倫理性」、「長期的見通しと戦略」「公論と公論形成」「リスクの捉え方」の5つが、日本がドイツから学ぶことができることを理解する。
【予習】テキストの該当部分をよく読むこと(60)
吉田文和『ドイツの挑戦』むすび
【復習】具体的事例を通じて理解すること(60)
    
16全体のまとめとレポートの提出
評価方法・基
準(評価割合)
学生に対する評価は、毎回の講義で小レポートを提出してもらう(30%)。さらに、はじめに各テーマについて講義した後で、学生諸君が環境経済学に関して、とくに関心をもつテーマについて研究して、報告してもらうことによって評価を行う(30%)。さらに最終試験・レポート(40%)によって評価を最終的に行う。
テキスト
書名著者出版社価格ISBNコード備考
1.『ドイツの挑戦』吉田文和日本評論社2400978-4535558410
参考書
  ・
参考資料
書名著者出版社価格ISBNコード備考
1.『ドイツ脱原発倫理委員会報告』ミランダ・シュラーズ、吉田文和大月書店1944427233082
参考URL
質疑応答
講義中の質疑応答、参加者のプリセンテーションを重視する。オフィスアワーは、毎週木曜日午前中と金曜日の昼と金曜日午後3時から5時まで、研究室2710室である。あらかじめ、メール(fyoshida@dpc.agu.ac.jp)での予約が必要である。
備考
①受講計画にかかわる情報
この科目で扱う、エネルギー問題、原子力問題などについて強い関心があることが望ましい。
環境経済学A、Bの受講が望ましい。
②受講のルールに関する情報
授業中の私語、携帯電話は厳禁とする。
2/3以上の出席した者もののみ成績評価の対象とする。
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更新日付2020/02/10 19:11:25