【予言】

★1a.予言された運命から逃れようとしても逃れられない。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)162「子供と烏」  生まれてまもない子供が、「烏に殺される」と予言されたので、母親は大きな箱に子供を入れて守る。蓋を開け閉めして食物を与えていたが、ある時、箱の烏鉤(かぎ)が子供の脳天に落ちかかり、子供を殺した。

『オイディプス王』(ソポクレス)  コリントス王の息子として育てられたオイディプスは、アポロンから「父を殺し母と交わるであろう」との神託を得る。オイディプスは予言の実現を恐れ、父母のもとを離れて旅に出る。しかしコリントス王は育ての親に過ぎず、オイディプスの真の父親はテーバイの王ライオスだった。それを知らぬオイディプスは、恐ろしい運命から逃れようとしてテーバイへ向かい、かえって神託どおりの運命を招く。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章  「娘の産んだ子供に殺されるだろう」との神託を得たアクリシオスは、娘ダナエを青銅の部屋に閉じこめ、男が近づかないようにする。しかし、大神ゼウスによってダナエはぺルセウスを産み、後年、ぺルセウスの投げた円盤に当たってアクリシオスは死ぬ。

『ニーベルンゲンの歌』第25章  グンテル王やハゲネらの率いるニーベルンゲンの勇士たち、一千人の騎士と九千人の兵卒が、エッツェルの国へ向かう。ドナウ河で水浴する水の乙女たちが、「王室司祭以外は生きて帰れない」とハゲネに予言する。ハゲネはこの予言を無化すべく、司祭を船から投げ落として殺そうとする。しかし、ろくに泳げぬ司祭が無事に岸に帰り着いたので、ハゲネは死の運命が避けられぬことを悟る。

*→〔十五歳〕の『いばら姫』(グリムKHM50)。

*→〔落下〕1aの『捜神記』巻19−9(通巻448話)。

*→〔運命〕1a・1b・1cに関連記事。

★1b.予言にそそのかされて行動する。

『マクベス』(シェイクスピア)第1〜2幕  マクベスはグラミスの領主で、スコットランド王ダンカンに仕えていた。ある時、三人の魔女が荒野でマクベスを待ち受け、「将来の国王よ」と呼びかけた。マクベスは魔女たちの予言を実現させるべく、ダンカンを暗殺して、自らが王となった〔*マクベスは魔女の予言を頼るが、ダンカンの忠臣マクダフに倒される〕。

★1c.死の予言を人為的に実現させる。

『百喩経』「婆羅門が子を殺した喩」  婆羅門が予知力を世人に示すべく、子供を抱いて「我が子はあと七日で死ぬ」と哭泣する。人々が「寿命は予知できぬもの」と慰めると、婆羅門は「私の予言ははずれたことがない」と断言し、七日目に自ら子を殺して自説を証明する。人々は子供が死んだと聞いて感嘆し、婆羅門を敬う〔*→〔観相〕2の『近世畸人伝』(伴蒿蹊)巻之3「相者龍袋」も、予言の人為的実現に近いところがある〕。 

★2a.死の予言を無視して、命が助かる。

『捜神記』巻18−25(通巻437話)  鼠が現れて、「お前は某月某日に死ぬ」と、王周南に告げる。しかし彼はとりあわない。予告された日に再び鼠は現れ、「お前は昼に死ぬ」と繰り返すが、王周南はやはりとりあわない。真昼になると、鼠は「お前が返事をしないなら、おれはもう何も言わぬ」と言い、ひっくり返って死んだ。

★2b.死の予言をそのまま受け入れて、命が助かるばあいもある。

『生まれ子の運』(昔話)  「十八歳の時に桂川の主(ぬし)にとられる」と予言された息子が、その年、大水の桂川へ仕事に出かける。親はあきらめて、家で葬式の準備をする。息子は途中で出会った娘に餅を御馳走するが、その娘が、実は川の主だった。おかげで、餅の返礼に、息子は寿命を六十一歳までのばしてもらえた(兵庫県美方郡)。

『ちきり伊勢屋』(落語)  易者白井左近が、質屋ちきり伊勢屋の若主人伝次郎の人相を見て、「来年二月十五日の九刻(ここのつ)に死ぬ運命だ」と占う。伝次郎は来世の幸福を祈り、財産を困窮した人々に施して、死を待つ。しかし時刻が来ても死なない。白井左近が見直すと、人助けをしたため死相が消え、八十歳以上の長命の相に変わっている。伝次郎は、駕籠かきをして人生の再出発をし、以前施しをして救った家の娘の婿になり、ちきり伊勢屋を再興する。

★3.予言の真の意味がわからず、誤った受け取りかたをする。したがって、意想外の形で予言が実現する。

『現代の英雄』(レールモントフ)第2部「運命論者」  死期は運命によってあらかじめ定められているか否か、議論が起こり、ヴーリッチ中尉とペチョーリンが賭をする。ペチョーリンはヴーリッチの顔に死相を見、「君は今日死ぬ」と予言する。ヴーリッチは銃を額に当てて引き金を引くが、不発だった。しかしそれから三十分後、酔ったコサック兵にヴーリッチは斬り殺された。

『史記』「秦始皇本紀」第6  燕人盧生が鬼神の告げとして奉った録図書(未来記)に「秦を滅ぼすものは胡なり」とあったので、始皇帝は胡国を討伐した。しかし「胡」は秦の二世皇帝胡亥のことであった。

『史記』「陣渉世家」第18  陣勝と呉広が秦に対する反乱を起こそうとして、まず占ってもらう。卜者が「鬼神に託することになろう(=汝らは死んで鬼となろう)」というのを、陣勝・呉広は誤解して「衆をおどせとの教えだ」とうけとり、喜ぶ。

『白鯨』(メルヴィル)117章・135章  老船長エイハブは、ピークォド号で白鯨モービーディックを追い続ける。それは命をかけた追跡だった。乗組員の一人である拝火教徒が、「ロープだけがお前さんを殺せるのだ」と予言する。エイハブは「絞首台のことか」と思って笑う。しかし、エイハブが白鯨との死闘の最後に銛を撃ちこんだ時、銛についているロープが輪となって首にまきつき、エイハブを殺す。

『歴史』(ヘロドトス)巻9−33  「大きな勝負に五回勝つ」との神託を得たテイサメノスは、これを「体育の勝負に勝つ」と誤解して五種競技の練習をするが、優勝できなかった。後に「戦争に勝つ」との神託であることがわかり、テイサメノスはスパルタに多大の貢献をした。

*→〔あり得ぬこと〕2の『マクベス』(シェイクスピア)第4〜5幕。

★4.無意識のうちに未来を予知する。

『炎天』(ハーヴィー)  画家と石屋が、それぞれの仕事を通して、無意識のうちに、互いに相手の近未来の運命を描き出した。八月の炎暑のある日、画家は、犯罪を犯して被告となった石屋の絵を描き、石屋は、墓石に画家の名前を刻んだ(*→〔絵〕6〔墓〕7)。その夜、暑さで気が変になった石屋は、発作的に鑿(のみ)で画家を殺した。 

『修禅寺物語』(岡本綺堂)  夜叉王は面(おもて)作りの名人で、彼が打った面は「生けるがごとし」と賞賛された。しかし源頼家の似顔の面に限り、幾度打ち直しても魂のない死人の相になるので、夜叉王は自らの技のつたなさを嘆く。しかし、それからまもなく源頼家は暗殺された。夜叉王は「神ならではわからぬ人の運命が、まず我が面にあらわれたのだ」と納得し、「『技芸神に入る』とはこのことよ」と、自讃する。

★5.何気なく発した言葉が、将来の自分の運命の予言になる。

『過去』(志賀直哉)  昔、「私」は自家の女中・千代を恋し、結婚しようと思った(*→〔身分〕1bの『大津順吉』)。千代は田舎育ちで教養もなかったので、「私」は千代を教育する必要があった。ある時、「『秋の日は釣瓶落とし』という言葉がある」と教えると、千代は「『男心と秋の空』ってね」と言った。「私」はがっかりした。その後、「私」は千代と別れた。「私」をがっかりさせた言葉が本当になったのだ。

『ボルヘス怪奇譚集』「セキリアの物語」  人妻セキリアが、姪の結婚についての予言を求め、寺院へ行く。セキリアは椅子にすわり、姪は立って、予言を待つ。疲れた姪が「すわりたい」と言ったので、セキリアは「私と替わるといいわ」と言う。この言葉が予言となった。まもなくセキリアは死に、姪がセキリアの夫と結婚したのである(キケロ『予言について』)。

 

*予言の書・未来記→〔未来記〕

*予言を誰も信じない→〔契約〕3の『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第12章。

*人相を見て将来を予言する→〔観相〕に関連記事。

*予言の書だと思ったら、ただの日記だった→〔暗号〕6の『ドラえもん』「大予言・地球の滅びる日」。

 

【横取り】

★1a.AとBが貴重な品を巡って争い、通りかかったCがその品を横取りする。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)147「ライオンと熊」  ライオンと熊が、鹿の仔をめぐって争い、互いに傷つき横たわる。そこへ狐が通りかかり、仔鹿を取って立ち去る。

『茶壺』(狂言)  酔って寝た男の茶壺を、すっぱが奪おうとし、目をさました男と「これは私の物」「いや、みどもの物」と争いになる。通りかかった目代が「論ずるものは中から取れ」と言い、茶壷を横取りして逃げる。

『百喩経』「毘舎闍鬼の喩」  二匹の鬼が、魔法の箱・杖・履物を取り合うのを見て、ある人が「平等に配分してやるから離れていよ」と言う。鬼たちがしりぞくとその人は、箱・杖・履物を奪って逃げる。

★1b.A・B・Cが貴重な品を巡って争い、通りかかったDがその品を横取りする。

『千一夜物語』「バイバルス王と警察隊長たちの物語」中の挿話・マルドリュス版第949夜  空飛ぶじゅうたんをめぐって争う三人の男を見た少年は、みずから審判官をかって出る。三人を遠ざけておいてから少年はじゅうたんに乗って逃げる。

★1c.AとBが金を巡って争い、通りかかったCがその金を預かる。

『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)(河竹黙阿弥)「大川端庚申塚」  春の節分の夜。大川端で、お嬢吉三とお坊吉三が百両の金を奪いあい、刀を抜いて切り結ぶ。そこへ和尚吉三が仲裁に入る。盗みをしても非道はしないことで名高い和尚吉三に敬意を表し、お嬢吉三とお坊吉三は百両を和尚吉三に預ける。三人はその場で義兄弟の契りを結ぶ。

★1d.AとBが争い、通りかかったCがAとBを獲物として得る。

『戦国策』第30「燕(2)」469  ドブガイ(あるいはカラスガイ・ハマグリ)が肉を出して、日にさらしていた。シギ(あるいはカワセミ)がその肉をついばんだので、ドブガイは貝を合わせてシギのくちばしをはさんだ。両者が争っているところへ漁父が来て、両方とも捕えた〔*「漁父の利」の故事〕。

★1e.AとBが争い、通りかかったCが争いをやめさせて、A・B双方の命を救う。「漁父の利」とは異なる展開。

『日本書紀』巻19欽明天皇即位前紀  二頭の狼が山で戦い、血だらけになっていた。秦大津父(はたのおほつち)という人が通りかかり、「あなた方は貴い神で、荒々しいわざを好みます。猟師に遭ったら捕らえられてしまうでしょう」と言い、二頭の噛み合いをやめさせた。そして血で汚れた毛を拭い洗って放してやり、二頭の命を助けた。この報いであろうか、後に彼は欽明天皇に召され、重んぜられた。

★2.手柄を横取りする。

『唄をうたう骨』(グリム)KHM28  「猪を退治した者に王女を与える」との布告に応じて、高慢な兄と無邪気な弟の二人兄弟が出かける。小人が、弟の善良な心を認めて槍を与え、弟はその槍で猪の心臓を突き刺す。しかし兄が悪心を起こし、弟を殺して手柄を横取りし、王女を得る。

『ペンタメローネ』(バジーレ)「序話」  王女ゾーザが、壺いっぱいに涙をためて王子タッデオを蘇生させようとするが、あと少しのところで眠りこむ。奴隷女が壺を横取りして、自分の涙を加える。たちまちタッデオは棺から起き上がり、奴隷女を花嫁にする→〔涙〕2a

『魔笛』(モーツァルト)  王子タミーノが大蛇に追われ、気を失って倒れる。夜の女王に仕える三人の侍女が、大蛇を退治する。王子が意識を回復したところへ、鳥刺しパパゲーノがやって来るので、王子は、パパゲーノが大蛇を退治したと思って、礼を言う。パパゲーノも自分の手柄にして自慢する。侍女たちは戻って来て、パパゲーノの嘘をとがめ、罰として彼の口に錠前をはめる。

*獣や龍を倒した手柄を横取りしようとする→〔舌〕2

*敵の首を討った手柄を横取りしようとする→〔耳〕1cの『平家物語』(延慶本)巻9−21「越中前司盛俊被討事」

 

*夢の横取り→〔売買〕4に記事。

 

【横恋慕】

★1a.王などの権力者が、部下の妻に横恋慕し、部下を迫害する。

『明石物語』(御伽草子)  播磨に住む明石三郎の北の方に、関白の息子高松中将が横恋慕する。関白は明石を上京させ、捕えて奥州外の浜に流す。明石の北の方は国元を脱出し、夫を尋ねて奥州へ旅立つ。

『仮名手本忠臣蔵』  足利幕府の執事高師直は塩冶判官高貞の妻顔世御前に横恋慕するが、顔世は拒否する。これがきっかけで師直と判官の対立・殿中の刃傷・判官切腹となり、大星由良之助らが復讐のため討入りをする〔*『太平記』巻21「塩冶判官讒死の事」が原話〕。

『神道集』巻6−34「児持山大明神の事」  伊勢国司基成が、加若次郎の北の方に横恋慕する。基成は、加若次郎が義父阿野権守とともに謀叛を企てている、と父関白に讒言する。加若次郎は下野国の室の八島に流され、北の方は夫を尋ねて東国への旅に出る。

『雑談集』(無住)巻5−5「咒願ノ事」  山中に修行する梵志の妻が美人なので、国王が彼女を召した。梵志は憤り、天より大石を落として国王並びに人民を殺した。

『鶴の翁』(御伽草子)  藤原宗房が四国へ下向中、その妻照日の御前に越後国守直江左衛門が横恋慕し、彼女を越後に連れ去る。

『鶴の草子』(御伽草子)板本系  左大将むねまさの子宰相右衛門督は、鶴の化身である美女を妻とするが、守護宮崎左衛門督が彼女に横恋慕し、自分のものにすべく軍勢とともに攻め寄せる。

『日本書紀』巻14雄略天皇7年是歳  雄略天皇は、吉備上道臣田狭の妻が美貌であると聞いて彼女を欲し、夫田狭を任那の国司として送り出した後に、召し寄せた。別本に、夫を殺して自ら召した、という。

『春雨物語』「宮木が塚」  河守十太兵衛が、恋人の遊女宮木を連れて生田の森の桜を見る。宿駅の長藤太夫が美しい宮木を見て横恋慕し、十太兵衛に無理難題を命じて罪に落とす。十太兵衛が病気になると、藤太夫は医師を買収して毒を盛らせ、ついに十太兵衛を殺してしまう→〔入水〕5

*→〔水浴〕2の『サムエル記』下・第11章。

*→〔にせ花婿〕1bの『アーサーの死』(マロリー)第1巻第2章。

*王が部下の妻に横恋慕して、難題を出す→〔難題〕4a

★1b.夏目漱石は、権力者の横恋慕をモチーフとした作品を二つ、明治三十九年に発表している。

『趣味の遺伝』(夏目漱石)  江戸時代の終わり頃。江戸詰めの紀州藩士・河上才三は、隣家の小野田帯刀の娘と相思相愛で、結婚の日取りも決まっていた。ところが、小野田の娘は藩中一の美女だったため、国家老の息子が彼女に横恋慕する。殿様の御意(ぎょい)によって、小野田家と河上家の縁組は破談となり、小野田の娘は国家老の息子のもとへ嫁ぐことになった→〔転生〕2c

『坊っちゃん』(夏目漱石)  日露戦争当時の四国の中学校。教頭赤シャツは、英語教師うらなりの許婚マドンナに横恋慕し、邪魔なうらなりを九州へ左遷して、マドンナに求婚する。数学教師の坊っちゃんと山嵐は義憤にかられるが、弁舌では赤シャツにかなわない。そこで彼らは、赤シャツと子分野だいこが芸者と一緒に宿屋へ泊まった翌朝、帰り道で待ち伏せし、鉄拳制裁を加える〔*言論に対して暴力で立ち向かうなど、全体の構造は→〔横恋慕〕1aの『仮名手本忠臣蔵』に類似する〕。

★2.横恋慕に起因する殺人と自殺で、男女三人が皆死ぬ。

『トスカ』(プッチーニ)  画家カヴァラドッシは、政治犯をかくまったため逮捕され、警視総監スカルピアが彼に死刑を宣告する。カヴァラドッシの恋人である歌姫トスカが助命を請い、スカルピアは引き換えに彼女の肉体を要求する。トスカは承知し、スカルピアは部下に、形式だけの銃殺刑を行なうよう命ずる。しかしスカルピアがトスカを抱こうとすると、トスカはナイフで彼を刺し殺してしまう。処刑の時刻が来て、空砲で撃つはずのところ、実弾が発射され、カヴァラドッシは死ぬ。トスカは絶望して、露台から投身自殺する。

★3.横恋慕された女の夫が迫害されず、かえって昇進する物語もある。

『なよ竹物語』(別称『鳴門中将物語』)  後嵯峨帝が、蹴鞠の会を見に来た美女に眼をとめ、後宮に入れようとする。しかし彼女は、某少将の妻であった。困惑する彼女に、夫少将は「帝のお召しならば、やむを得ない」と言い、彼女は時々、帝の召しに応じることになった。帝はまもなく、少将を中将に昇進させた。世の人は、彼を「鳴門の中将」と呼んだ。鳴門はわかめの産地で、「良き『め(=女)』の上る所」だからである。

★4.横恋慕とは逆に、若い二人の幸福のために身を引く男。

『出来ごころ』(小津安二郎)  中年の鰥夫(やもめ)・喜八は工場労働者で、小学生の息子が一人いる。喜八は、身寄りのない娘・春江の就職を世話したのが縁で、彼女に傍惚(おかぼれ)する。喜八の弟分・次郎青年が「年を考えなよ」とからかうと、喜八は「お半長右衛門(*→〔心中〕2の『桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)』)を知らねえな」と言い返す。しかし春江は次郎青年を慕っており、それを知った喜八は自らの恋を諦めて、若い二人が一緒になれるようにはからう。 

 

【夜泣き】

★1.特別な素質・運命を持つ人物が、幼い頃に夜泣きをする。

『かるかや』(説経)「高野の巻」  あこう御前の産んだ金魚丸(=後の空海)は、胎内にある時からすでに読経をしていた。人々はこれを夜泣きと思い、「夜泣きする子は七浦七里枯るるゆえ捨てよ」と言った。

『平家物語』巻6「祇園女御」  白河院は寵愛の祇園女御を平忠盛に下賜し、院の胤である男児を、忠盛は自分の子として育てた。幼い頃夜泣きをしたので、白河院は「夜泣きすとただもり(忠盛)たてよ末の世にきよくさかふる(清盛)こともこそあれ」との御詠を忠盛に与えた。それによって、男児は清盛と名づけられた。

*→〔成長〕2aに関連記事。

★2.幼い子が、霊を感知して夜泣きする。

『源氏物語』「横笛」  深夜、夕霧の夢に、亡友柏木の霊が生前と同じ袿姿であらわれ、歌を詠み、語りかける(*→〔笛〕2a)。その時、幼い若君が夢におびえて泣き出し、夕霧は目覚める。若君はひどく泣き、乳を吐く。北の方雲居の雁は、「あなたが月を見るために格子を上げたので、もののけが入って来たのですよ」と、夕霧のせいにする。

『半七捕物帳』「お文の魂」  三歳の娘お春が、毎夜「ふみが来た」と寝言を言って泣き叫ぶ。あたかも幽霊を感知したかのごとくであったが、実は昼間に、草双紙に描かれたお文という幽霊の絵を見ておびえ、それが夢の中に出て来るのだった。母お道はこれを利用して、「自分も幽霊を見た」と作り話をする→〔離縁・離婚〕8

 

*夜泣きする娘→〔蟹〕3の蟹沼の伝説。

*夜泣き石の伝説→〔石〕11

 

【四人兄弟】

★1.四人兄弟の長子が王位を継承する。

『ラーマーヤナ』  コーサラ国アヨーディヤーの都を治めるダシャラタ王が、子を請う馬祠祭を行い、四人の王子を得た。まずカウサリヤー妃から長子ラーマ、次いでカイケーイー妃からバラタ、スミトラー妃から双子のラクシュマナとシャトルグナが誕生した。ダシャラタ王の死後、ラーマとラクシュマナはランカー島に遠征して魔王ラーヴァナを滅ぼし、その間、バラタとシャトルグナが留守を守った。ラーマは帰還後王位につき、彼の治世は一万年に及んだ。

★2a.四人兄弟の末子が天皇になる。

『古事記』上巻〜中巻  ウガヤフキアヘズとタマヨリビメの間に、イツセ、イナヒ、ミケヌ、カムヤマトイハレビコの四兄弟が誕生した。次子イナヒは海原に入り、三子ミケヌは常世国に渡った。長子イツセと末子カムヤマトイハレビコが東征の旅に出るが、長子イツセは戦死し、末子カムヤマトイハレビコが日本初代の天皇(=神武)となった。

『日本書紀』巻3神武天皇即位前紀〜元年正月  ウカヤフキアヘズとタマヨリヒメの間に、イツセ、イナヒ、ミケイリノ、カムヤマトイハレビコの四兄弟が誕生した。末子カムヤマトイハレビコが十五歳で太子(ひつぎのみこ)となった。四兄弟は東征の旅に出るが、長子イツセは戦死し、次子イナヒは海に入り、三子ミケイリノは常世郷に往き、末子カムヤマトイハレビコが神武天皇として、橿原の宮で即位した。  

★2b.四人兄弟の末子が総領になる。

『鉢かづき』(御伽草子)  山蔭の三位中将の四人の息子のうち、三人は妻帯していたが、四男の宰相だけが独身だった。宰相は、屋敷の湯殿の火を炊く鉢かづき姫を見そめ彼女と結婚して、四男ながら一族の総領となった。

★3.四人兄弟が協力して大蛇を退治する。 

『名人四人兄弟』(グリム)KHM129  四人兄弟が修業の旅に出、長男は泥棒、次男は天文覗き、三男は狩人、四男は仕立屋になって、四年後に戻る。王女が大蛇にさらわれたので、次男が遠眼鏡で王女の居所を見つけ、四人は船で救出に行く。長男が大蛇から王女を盗み取り、三男が大蛇を射殺し、四男が壊れた船を縫い合わせて、無事帰還する。四人は褒美に王国の半分をもらい、仲良く暮らす。

★4.四人兄弟と父親との関係。

『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)  フョードル・カラマーゾフは、最初の妻との間に長男ドミートリイ(二十八歳)、二番目の妻との間に次男イワン(二十四歳)と三男アリョーシャ(二十歳)、乞食女との間に私生児スメルジャコフ(二十四歳)をもうける。スメルジャコフは、父フョードル・カラマーゾフを殴殺した後に縊死する。イワンは、自分が無意識のうちにスメルジャコフをそそのかして殺人を犯させたことを知り、発狂する。ドミートリイは父殺しの犯人と見なされて流刑になる。修道僧であるアリョーシャは、父からも兄たちからも信頼され愛されているが、一家の悲劇をくいとめることはできなかった。

 

【四人姉妹】

★.四人姉妹それぞれの生き方。

『細雪』(谷崎潤一郎)  船場の旧家蒔岡家の四人姉妹のうち、長女鶴子と次女幸子は結婚し子供もいる。三女雪子は何度も見合いを繰り返した後、三十五歳になってようやく結婚相手が決まる。四女妙子は、商家の道楽息子と駆け落ちし、写真師の恋人と死別し、バーテンと同棲して死産する。

『若草物語』(オルコット)  父親が、十代の娘四人を残して、南北戦争に従軍牧師として出征する。父親が帰還するまでの間に、長女メグは結婚相手と出会い、次女ジョーの小説が新聞に掲載される。三女ベスは猩紅熱にかかり、四女エイミーは氷の張った川に落ちるが、ともに無事であった→〔クリスマス〕5

 

【呼びかけ】

★1.一声だけの呼びかけ。

『えぞおばけ列伝』9「魔の呼び声」  幽霊でも魔でも、人を呼ぶ時は一声しか呼ばない。山でも里でも沖でも、一声しか呼ばれなかったら、決して返事をするものではない。三度目に呼ばれて、いよいよ人間の声だとわかってから、はじめて返事をするものだという教訓が、どこのアイヌにもある。

狐の風の話  狐は人間に化けても、一声しかしゃべることができない。往来などで、誰かから「もし」と一声だけ呼びかけられたら、それは狐だから返事をしないのがよい。逆に、人に声をかける時には、「もしもし」と二声以上言わないと、「狐ではないか?」と疑われてしまう。

★2.妖怪や幽霊などの呼びかけに、返事をしてはいけない。

『西遊記』百回本第34回  金角・銀角に名前を呼ばれて返事をすると、彼らの持つ瓢箪の中に吸い込まれる。孫悟空は偽名を用いるが、偽名であれ何であれ、返事をすれば、吸い込まれてしまう。

『太平広記』巻352所引『北夢瑣言』  江河の辺にはチョウ鬼(=溺死者の霊)が多く、往々にして人の名を呼ぶ。これに返答すれば必ず溺れる。死者の霊が誘うのである。

船幽霊の伝説  船幽霊は海で死んだ者の魂で、仲間を海に引きこもうとして現れる。「人語につく」といわれるので、船幽霊がでたら静かにしているのがよく、呼びかけられても返事をしてはならない。

*魔や霊などの問いかけに、返事をしてはいけない→〔返答〕1

★3.化け物の呼びかけに返事をしてはならない、という俗信を利用した詐術。

『宇治拾遺物語』巻9−8  醜貌の若者が美男子と偽り、長者の家の婿になる。婿の仲間が鬼のふりをして、天井の上から「天の下の顔よし」と呼び、三度まで呼ばれて婿は返答する。長者から「なぜ返事をしたのか」と問われ、婿は「思わず返事をしてしまった」と答える(*これは、化け物に返事をしてはならない、という俗信があったからであろう)。鬼は婿に「お前の顔を吸い取る」と言う→〔闇〕3b

 

【読み間違い】

★1.ひらがなの読み間違い。

『読みちがい』(落語)  信心者の善兵衛が、毎日観音様へ参詣する。ある朝、一枚の紙が飛んで来たので、見ると「おんかしあるへえさとうせんへい」と書いてある。これは菓子屋のチラシで、「御菓子。有平(=アルヘイ糖)。砂糖煎餅」の意味だったが、善兵衛は「おうかじあるべえ。さとれ、ぜんべい(大火事あるべえ。悟れ、善兵衛)」と読み間違え、火事に備える〔*実際その夜、大火事が起こったので、善兵衛の読み間違いも、観音様のおはからいだったのであろう〕。  

★2.漢字の読み間違い。

『平林』(落語)  平林という家へ使いに行く男が、往来の人々に「平林」と書いた紙を見せ、読み方を尋ねる。ある人は「『たいらばやし』と読むのだ」、と言い、またある人は「『ひらりん』と読むのだ」と言う。「一八十の木木(いちはちじゅうのもくもく)」とか、「一つと八つで十木木(ひとつとやっつでとっきっき)」などと教える人もいる。男はどれが正しい読み方かわからず、いろいろな読みを連呼して平林家を捜す。

★3.アルファベットの読み間違い。

『失われた時を求めて』(プルースト)第6篇「逃げさる女」  愛人アルベルチーヌが死んで何ヵ月もたった後のこと。「私」は、「アルベルチーヌ」と署名した電報を受け取った。無沙汰を詫び、結婚のことについて話したい、との内容だったので「私」は驚いた。実際はそれは、「私」がかつて恋したジルベルトからの電報で、彼女がサン=ルーと結婚することを知らせて来たのだった。ジルベルトの筆跡は独特なもので、電報局の局員が「G」を「A」と読み違えるなど何文字かの誤読があって、ジルベルトからの電報が、アルベルチーヌからの電報になってしまったのだ。

*数字の読み間違い→〔取り違え夫婦〕の『覆面の舞踏者』(江戸川乱歩)。

 

【嫁】

★1.嫁くらべ。

『岩屋の草子』(御伽草子)  海士の岩屋に住む対の屋の姫君は、二位中将に見出されてその妻となる。中将の母がこれをきらい、他家に嫁いでいる四人の娘と対面させて恥をかかせ、追い出そうとする。しかし、美貌も教養も姫がいちばん優れていた。

『じゃじゃ馬ならし』(シェイクスピア)第5幕  ペトルーキオ、ルーセンシオ、ホーテンシオという新婚の三人が、誰の妻がもっとも従順かの賭をする。「すぐここへ来い」との夫の命令に従ったのは、意外なことに、かつてのじゃじゃ馬娘、今ではペトルーキオの妻であるキャサリンただ一人で、彼女は他の二人の妻に、従順の美徳を説教するのだった。

『鉢かづき』(御伽草子)  山蔭三位中将家では、四男宰相の妻になった娘が、鉢をかぶった異様な姿なのでこれを嫌い、彼女に恥をかかせて追い出そうと、四人の息子たちの嫁くらべをする。しかし当日、鉢が割れて娘は天人のごとき美貌をあらわし、和琴・和歌などあらゆる点で三人の兄嫁を圧倒する。

★2a.嫁いじめ。

『黄金のろば』(アプレイウス)第4〜6巻  プシュケは人間の身でありながら、「女神ヴェヌスに劣らぬ美しさ」と言われ、人々は女神同様にプシュケをあがめた。そのプシュケが息子エロス(=クピード)の嫁となったことに母女神ヴェヌスは立腹して、プシュケを打擲(ちょうちゃく)し、さまざまな難題を課していじめる→〔難題〕2b

『捜神記』巻5−6(通巻97話)  丁氏は十六歳で謝家へ嫁いだが、姑が彼女をこきつかい、笞で叩くのでたえきれず、九月九日に首をくくった。死後、丁氏は神となり、「家々の嫁の労苦を哀れに思うゆえ、九月九日は嫁に仕事をさせるな」と託宣する。以来、この日は安息日となった。

『不如帰』(徳冨蘆花)  浪子は十八歳で海軍少尉川島武男のもとに嫁ぎ仲睦まじく暮らすが、旧弊な姑お慶がうるさく口出しして浪子をいじめる。やがて浪子は喀血し、武男が軍務で不在中に、お慶は一存で浪子を離縁する。

嫁殺し田の伝説  意地悪な姑が嫁に、「今日中に一人で田を植えよ」と命じる。嫁は懸命に植え、広い田も残り少なくなる。その時嫁は、太陽がどのあたりにあるか気になり、立ち上がって見る暇も惜しいので、田植えの姿勢のまま股の間からのぞく。その途端に嫁は目をまわし、死んでしまった(長野県北安曇郡松川村)。

*→〔手紙〕4aの『カンタベリー物語』「法律家の話」・〔濡れ衣〕1cの『六羽の白鳥』(グリム)KHM49。

★2b.善意の押し売りが、結果的に嫁いじめになる。

『近世姑気質』(三島由紀夫)  律子は、一人息子が嫁をもらった時、「理想的な姑になろう」と決意した。律子は、一家の炊事も洗濯も掃除もすべて自分でやってしまい、嫁にはまったく家事の苦労をさせなかった。さらに、自分の居室を若夫婦に明け渡して、女中用の三畳の小部屋に移ろうとさえした。嫁はいたたまれず、里へ帰ってしまった。律子はこうして無意識のうちに、気に入らない嫁を追い出すことに成功した。

★3.嫁と姑の対立。

『ジャータカ』第432話  嫁が姑を嫌い、夫をそそのかして、姑を墓場で焼き殺そうとはかる。姑は死体を身代わりにして逃れ、墓場で出会った盗賊の持つ宝石類を手に入れて、家へ帰る。姑は「墓場で火葬された者は、その功徳で宝石が得られる」と嫁に教え、嫁は宝石欲しさに、火の中に入って死ぬ〔*少年が王に語る挿話〕。

『半日』(森鴎外)  高山博士の妻は結婚当初から姑を嫌い、同席を拒む。一月三十日の朝、宮中賢所の孝明天皇祭に博士が出席しようとすると、妻が、「姑の声を聞くのがいやだから娘を連れてどこかへ行く」と言う。博士は御所への参内を取りやめ、妻の話し相手をする。やがて台所で下女が昼食の支度を始める。

『本朝二十不孝』巻4−2「枕に残す筆の先」  鰹屋助八夫婦は、一人息子助太郎に嫁を持たせて隠居する。ところが嫁が姑を嫌って尼寺に駆けこみ、助太郎も妻恋しさに家を出る。姑は、「自分が命を捨てればよい」と思いつめて、絶食死する。一年後に、嫁を恨む姑の書き置きが発見される。世人は助太郎夫婦との交際を絶ち、助太郎夫婦は刺し違えて死ぬ。

*→〔蛇〕5bの『蛇』(森鴎外)。

★4.嫁が姑に孝行を尽くす。

『二十四孝』(御伽草子)「唐夫人」  唐夫人は、姑長孫夫人が年老いて食事を歯で噛めないので、自らの乳を含ませたり、毎朝髪をとかしたりなどして、数年間姑によく仕えた。長孫夫人は臨終時に一族を集め、唐夫人への感謝の言葉を述べた。

★5a.嫁選び。年頃の娘たちを城へ招く。

『灰かぶり』(グリム)KHM21  国王が王子の花嫁を決めるため、三日間の饗宴をもよおし、国中の娘たちを城に招く。継母からいじめられている「灰かぶり(シンデレラ)」が、美しい装いで城へ出かけ、王子の心をとらえて、その花嫁となる〔*『サンドリヨン』(ペロー)では、「嫁選び」とは明示されない〕。

★5b.嫁選び。年頃の娘たちがいる女学校へ行く。

『婦系図』(泉鏡花)前篇「縁談」  文学士河野英吉とその母親が、嫁選びの目的で女学校の授業参観をする。ドイツ文学者酒井俊蔵の一人娘で五年生の妙子が、首席であり、優美で上品で愛嬌もあるので、河野母子は妙子を嫁の第一候補として、健康状態や家の財産など、身元調査を始める〔*後に河野家は、妙子が芸者の子である(*→〔秘密〕2a)ことを知って、破談にする〕。

『若い人』(石坂洋次郎)39  間崎慎太郎の勤める女学校では、三学期になると、中年過ぎの女たちが何人か連れ立って、息子の嫁選びのためにやって来る。学校側は、訪問者の家庭の事情や希望条件を聞き、候補者二〜三人の写真や成績表を示した上で、授業参観をさせる。五年生たちは「来たわ来たわ、私たちのマザー・イン・ローが」と言って騒ぐ。

★6.夫が死んだ後に、舅・姑の家へ行き、嫁として仕える。

『わが青春に悔なし』(黒澤明)  太平洋戦争前夜。京都帝大の八木原教授は、自由主義思想ゆえに罷免された。彼の教え子である野毛は大学を去り、東京へ出て反戦運動に従事する。八木原の一人娘幸枝は、野毛を愛し彼と同棲する。しかし野毛はスパイの嫌疑で逮捕され、獄中で病死する。幸枝は、亡き野毛の妻として生きたいと願い、田舎の野毛の両親のもとを訪れ、「この家に置いて下さい」と頼み込む。彼女は、かつてピアノを弾いていた手で苗を植え鍬を握り、農家の嫁として懸命に働く。終戦になり、八木原教授は教壇に復帰する。幸枝は京都へ赴き祝いを述べるが、すぐまた、自分の生きる場である野毛の両親の家へ帰って行く。

 

【夜】

 *関連項目→〔闇〕

★1.夜に変身する。

『日本霊異記』上−28  文武天皇の時代、役の優婆塞(=役行者)は、「天皇を害しようとした」と讒言され、捕えられて、伊豆の島に流された。彼は昼間は勅命に従って島にいたが、夜になると富士山まで行って修行をした〔*彼は三年後に釈放され、都に帰った〕。

『白鳥の湖』(チャイコフスキー)第2幕  悪魔ロットバルトが、王女オデットと侍女たちに魔法をかける。彼女たちは昼間は白鳥の姿になっていなければならず、夜だけ、湖のほとりで人間の姿にもどれる。夕暮れ時、狩に出たジーグフリード王子は美しいオデットを見て、彼女との結婚を誓う〔*しかし悪魔には勝てず、二人は愛をつらぬくために死を選び、湖に身を投げる〕。

『常陸国風土記』那賀の郡茨城の里哺時臥(くれふし)山  ヌカビコ・ヌカビメという兄妹がいた。ヌカビメは名も知らぬ男と夫婦になり、小蛇を産んだ。小蛇は、昼間は口のきけない者のごとくだったが、夜になると母ヌカビメと語り合った。ヌカビコ・ヌカビメ兄妹は、「これは神の子だろう」と思った。

*→〔一人二役〕1aの『昼顔』(ケッセル)。

★2a.夜に謎の外出をする。

『大鏡』「伊尹伝」  義孝少将が、細殿の女房たちと言葉をかわし、夜中頃に立ち去る。女房たちが後をつけさせると、義孝は世尊寺まで行き、紅梅の下で「滅罪生善往生極楽」と唱えて西に向かい幾度も額づいていた。

『壺坂霊験記』  盲目の沢市は、妻お里が毎晩こっそり外出するのを咎める。しかしそれは、お里が夫の目を治そうと、壺坂寺の観音に願かけに行っていたのだった→〔開眼〕4

『墓場の鬼太郎』(水木しげる)  血液銀行の社員水木が、幽霊族の子・鬼太郎を育てる。鬼太郎が六歳になった頃、時々夜中に外出するので、あとをつけると、鬼太郎は墓場の穴の中へ姿を消した。鬼太郎は目玉親父に連れられて、死人の世界へ遊びに行っていたのだった。

『耳なし芳一のはなし』(小泉八雲『怪談』)  盲目の琵琶法師芳一が、夜ごと平家の武将に呼ばれ、高貴な方の屋敷へ行って、壇の浦の合戦の物語を語る。芳一が居住する寺の和尚が、芳一の夜の外出を怪しみ、下男たちにあとを追わせる。芳一は墓地に座し、安徳天皇の陵墓の前で琵琶をかき鳴らしており、まわりには無数の鬼火が燃えていた。

*夜、墓地へ行く僧→〔死体〕6の『閑居の友』上−19。

*夜、墓地へ行く妻→〔無言〕2aの『野の白鳥』(アンデルセン)。

★2b.夜、身体は家で眠っていて、魂だけが外出する。

ぬけ出してあそぶ魂(1)(現代民話)  昭和四〜五年の話。善宝寺の門前の店のおばさんは、夜中に近所の子供たちが寺へ遊びに来る声が聞こえ、姿が見える。その中に、たまに淋しそうにうつむいた子供がいると、四〜五日後に、その子は死ぬ。夜、子供たちが眠ると魂は身体を離れ、寺の境内のお地蔵さんの所へ来て遊ぶので、おばさんにはその姿が見えるのだそうだ(山形県)。

★3.夜にだけ現れ、明け方とともにどこかへ姿を消す神や鬼。

『黄金のろば』(アプレイウス)第5巻  プシュケは、西風によって山上から谷あいの宮殿に運ばれる。そこでは形のない声が、彼女を案内し給仕する。毎夜、正体不明の夫がどこからか訪れてプシュケとともに寝、夜明け前に去る→〔夫〕4

『神道集』巻4−18「諏訪大明神の五月会の事」  ある夜、在原業平が百本ほどの笛を隠し持って、鬼王官那羅に会い、青葉の笛を借りて吹く。明け方近くに鬼王が「笛を返してほしい」と言うので、業平は別の笛を渡す。鬼王が「違う」と言うと、業平はまた別の笛を渡し、これを繰り返すうちに鶏が鳴く。鬼王は仰天し、笛を忘れて逃げ去る。

『日本書紀』巻5崇神天皇10年9月  倭迹迹日百襲姫は大物主神の妻となった。しかし夫の神は、昼には現れず、夜だけやって来た→〔夫〕4

*山姥が現れる時も、にわかに日暮れとなった→〔山姥〕1の『山姥』(能)。

★4.夜は外に出て行動し、昼はとじこもる怪物。

『吸血鬼ドラキュラ』(ストーカー)  吸血鬼ドラキュラ伯爵は、昼間は棺のごとき木箱の中に寝て、夜だけ活動する。彼は人々を襲って血を吸い、嬰児をさらうこともある。吹雪の日、雇われたジプシーたちが、ドラキュラを入れた木箱を荷馬車で運ぶ。雪が止み、夕日が沈む直前に、ジョナサン・ハーカーたちが待ち伏せし、木箱を開けて、刀や匕首でドラキュラを刺す。ドラキュラの身体は、たちまち粉々の塵と化す。

★5a.夜が先に生じ、後に昼が生じた。

『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第1巻第1章「タレス」  タレスは、ギリシアの七賢人の一人だった。ある人から「夜と昼とどちらが先に生じたか?」と訊ねられて、タレスは「夜のほうが一日だけ先だ」と答えた。

★5b.はじめは昼だけで、後から夜ができた。

『マイトラーヤニー・サンヒター』  双子の兄ヤマが死に、妹ヤミーはいつまでも「ヤマは今日死んだ」と言って忘れなかった。その時代には昼のみあって夜がなかったので、神々が夜を作り、翌日というものが生じた。そこでヤミーはヤマを忘れることができた。

 

【四十歳】

★1.初老となった四十歳で、あらたに結婚し・出産して、人生の新段階をむかえる。

『一寸法師』(御伽草子)  津の国難波に翁と媼がいた。媼は四十歳まで子がないことを悲しみ、住吉大明神に参詣して子授けを祈願した。大明神はこれをあわれみ、翌年、媼は四十一歳で懐妊し、十ヵ月後に一寸法師を生んだ。

『源氏物語』「若菜」上〜下  光源氏は四十歳の時に、兄朱雀院の懇望により、十代半ばの女三の宮をめとった。それから数年後に、光源氏の最愛の妻紫の上は重い病を得、幼な妻女三の宮は柏木と密会して子をもうける、などのことが起こった。

『蛤の草子』(御伽草子)  天竺の「しじら」という男は独身で、老母と暮らしていたが、四十歳の時に、釣り上げた蛤から出現した十七〜八歳の美女と結婚する。しじらは、美女の織った織物を売って莫大な富を得る。また彼は、観音浄土を訪れ七徳保寿の酒を飲んで、七千年の長寿を得た。

『文正草子』(御伽草子)  文正は塩を売って長者になったが、子供がなかった。文正の妻は四十歳になって鹿島明神に子を祈願し、蓮華二房を賜る夢を見た。妻は十ヵ月後に姉娘を、それから一年後に妹娘を生んだ。

*→〔申し子〕1の『風流志道軒伝』巻之1。

★2.初老に達した人を殺す。

『枕草子』「蟻通し明神」の段  昔、帝が若い人だけを寵愛し、四十歳になった人を殺したので、老人は他国に身を隠し、都の中に老人はいなくなった。

 

 

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