『海の水はなぜからい(塩引き臼)』(昔話) 望みのものが出る挽き臼で弟が長者になる。兄がその臼と甘い菓子や餅を盗んで、小舟で沖へ行く。兄は甘い物を食べた後に塩が欲しくなって、臼を挽く。しかし止め方を知らなかったので小舟は沈み、臼は海底で今も塩を出し続けている(岩手県上閉伊郡)。
『パンタグリュエル物語』第二之書(ラブレー)第2章 昔ファエトン(パエトン)が父太陽神に代わって光明の車駕を操った時、技が拙かったために、車駕は黄道を逸脱して著しく地球に接近した。大地は熱せられて多くの汗を流し、それが海となった。それゆえ海は、汗同様に塩辛いのである。
『西遊記』百回本第42回 観音菩薩が浄瓶を海に投げ込むと、まもなく亀が背に浄瓶をのせて浮かびあがる。孫悟空が浄瓶を取ろうとするが、持ち上がらない。海に投げ込まれた時、浄瓶は海の水をすべて中に収めてしまったのだった〔*観音はこの浄瓶で、妖怪紅孩児の三昧火を消す〕。
*→〔無尽蔵〕2の『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』第46〜47章。
『出エジプト記』第14章 イスラエルの人々が、モーセに率いられてエジプトを脱出する。モーセが神に祈ると葦の海(あるいは紅海)が二つに分かれ、イスラエルの人々は海の中のかわいた地の上を行く。ファラオ(パロ)の軍があとを追って海に入るが、水がもとの場所へ流れ返り、エジプト軍は全滅する。
『太平記』巻10「稲村崎干潟と成る事」 新田義貞が、海上をはるかに伏し拝み「潮を退け道を開かせ給へ」と龍神に祈誓して、黄金作りの太刀を投ずると、稲村ヶ崎二十余町が干上がった。六万余騎は、遠干潟を真一文字に鎌倉へ攻め入った。
*→〔玉(珠)〕3の『太平記』巻39「神功皇后新羅を攻め給ふ事」。
*川の水をしりぞける→〔水〕2。
『マハーバーラタ』巻3「森の巻」 神々との戦争に敗れて、悪魔たちは海底へ逃げ込んだ。彼らは夜ごとに陸地へ上がり、多数のバラモンたちを食い殺して、また海底に隠れた。このままでは世界が滅んでしまうので、神々の依頼によって、アガスティヤ仙人が、一気に大海を飲み干す。干上がった海に神々が攻め入り、悪魔たちを殺した。
*海の水を飲み干すが、川の水は飲まない→〔契約〕2の『寓話』(ラ・フォンテーヌ)第1集「フリギアの人イソップの生涯」。
『三宝絵詞』上−4 大施太子が龍王から得た如意珠を、諸の龍たちが奪い返し、海中に没した。太子は再び如意株を得るために、「海の水は多いといっても限りがある」と言って、貝殻で海水を汲みつくそうとする。龍たちはあざ笑うが、天人が力を貸し、太子が一〜二度汲むだけで、海水の十分の八がなくなった。 龍王はあわてて如意珠を太子に返した〔*山を平地にしようとする愚公の物語と類想→〔山〕4aの『列子』「湯問」第5〕。
『山海経(せんがいきょう)』第3「北山経」 炎帝神農氏の娘女娃(じょあい)は、東海に遊んで溺れ死んだ。彼女は、化して精衛という小鳥になり、以来、つねに西山から小枝・小石をくわえて運んで来ては、東海を埋めつくそうとしている。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第4章 巨人オリオンは、一説では海神ポセイドンの子である。ポセイドンはオリオンに、海上を自由に歩く力を授けたという。
*水上に座す・水上を歩く→〔水〕3。
*湖面を歩く→〔湖〕2。
『丹後国風土記』逸文 水の江の浦の嶼子(=浦島)は、亀の化身である美女から「蓬山(とこよのくに)へ行こう」と誘われ、舟を漕いで海中(*「遠い海の彼方」とも「海底」とも解釈できる)の大きな島に到った。すると七人の童子と八人の童子が出迎えて、「この人は亀比売(かめひめ)の夫だ」と言った。美女(=亀比売)は、「七人の童子は、すばる星(=プレアデス星団)。八人の童子は、あめふり星(=ヒアデス星団)」と説明した。
*海の彼方は天の川につながっている→〔星〕3b。
『平家物語』巻11「先帝身投」 壇の浦の海戦で平家は敗北し、源氏の兵たちが平家の舟に乗り移って来る。二位殿(=平清盛の妻・時子)は、神璽(=勾玉)と宝剣(=草薙の剣)を持ち、八歳の安徳天皇を抱いて船端に立つ。二位殿は、「極楽浄土へお連れいたしましょう。浪の下にも都がございますよ」と安徳天皇を慰め、二人は海の底深くへ沈んで行った。
引き揚げ(現代民話) 第二次大戦が終わり、満州や朝鮮から内地へ引き揚げる日本人たちは、暴行され、殺され、飢えや病気で多くの人が死んだ。朝鮮の海辺で一人の母親が、「海の下には町があるのよ。おにぎりもお菓子もあるから、お母さんと一緒に行きましょう」と、しきりに子供に言いきかせているのを、聞いた人がいた。
『今昔物語集』巻11−15 新羅国の宰相が、東天竺小天子国から弥勒菩薩像を盗み出し、船で帰国する。途中、海が荒れたので船中の財宝を投げ入れるが、風波はおさまらない。「命が助かるためには、第一の宝である弥勒菩薩像の眉間の珠を海に入れるしかない」と考えて投ずると、龍王がこれを取り、海は静まった。
『続日本紀』巻1文武天皇4年3月己未 道照は、玄奘三蔵から不思議な鍋をもらい帰国する。途中、船が波間に漂い七日七夜動かない。「龍王が鍋を欲している」との占い師の言に従い、海に鍋を投ずると船は進み出す。
『平家物語』巻11「内侍所都入」 壇の浦の合戦の時、三種の神器(=宝剣・神璽・内侍所)のうち宝剣(=草薙の剣)は、安徳天皇とともに海に沈んでしまった(*→〔海〕6b)。神璽(=勾玉)は海上に浮かび上がり、内侍所(=鏡)は船中で源氏の兵が確保して、内裏へ戻された→〔前世〕2c。
『海士(あま)』(能) 唐土から興福寺へ贈られた三つの宝、花原磬・泗濱石・面向不背の玉のうち、面向不背の玉は讃州志度の浦沖で龍神に取られ、海底の龍宮に沈んでしまった。藤原淡海大臣の依頼を受けた海士乙女が海底に飛び入り、命を捨てて玉を取り戻した。
『古事談』巻6−9 唐人の船が沈みそうになる。種々の財物を投げても海中に入らず、水龍という笛を入れるとたちまち没して、船は無事であった。後、沙金千両と引き換えに龍王からこの笛を取り返し、平等院の宝蔵に納めた。
『冒険者たち』(アンリコ) 財宝を積んだ小型機が、アフリカのコンゴ沖に墜落する。中年男ローラン、青年マヌー、美女レティシアの三人が船で沖に出、潜水して海底から財宝を引き上げる。財宝をねらうギャングたちが現れ、まずレティシアが、次いでマヌーが銃撃されて死ぬ。怒ったローランは手榴弾を投げて、ギャングたちを皆殺しにする。ローランは、死んで行くマヌーに「レティシアはお前と暮らすと言っていたぞ」と語りかける。マヌーは「嘘つきめ」と笑って息絶える。
『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」 神々が、マンダラ山を地面から引き抜いて海に入れ、海をかきまわす棒軸とする。亀王クールマの背中にマンダラ山を乗せ、龍王ヴァースキを巻きつけ、その頭部と尻尾を引っ張って、マンダラ山を回転させる。海は攪拌されて乳状になり、ラクシュミー(=ヴィシュヌ神の妃)、神酒ソーマ、月、白馬ウッチャイヒシュラヴァスが現われる。そして神々の医師ダンワンタリが、不死の飲料アムリタ(甘露)の入った容器を押し戴いて、姿を現した。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章 ボイオティア王アタマスの息子プリクソスは、ゼウスへの生贄にされそうになったので、妹ヘレと一緒に、空飛ぶ金毛の羊に乗って逃げた。ヨーロッパからアジアに渡る海峡にさしかかった時、妹ヘレは羊の背から滑り落ちて、溺れ死んだ。その海は、彼女の名をとってヘレスポントス(=ヘレの海。現在のダーダネルス海峡)と呼ばれた。
『宇治拾遺物語』巻1−8 父親が易占いをして、自分の死後十年を経て娘が貧しくなる、との運命を知る。父親は、その時に役立てるため千両を隠し、娘に「十年後に宿を借りに訪れる旅人から千両を得よ」と言い残す。十年後に訪れた旅人もまた易をする人で、彼は娘の訴えを聞き、千両の隠し場所を占い出して、娘に与える。
『荘子』「徐無鬼篇」第24 相人がある人の子の相を見て「一国の君主と同じ御馳走を食べて生涯を送るだろう」と占い、それを聞いた父親は悲しむ。果して、その子は旅中盗賊につかまり、足の筋を切られて斉国の屠殺人街に売られ、君主同様に肉を食べて生涯を終わる。
『英草紙』第8篇「白水翁が売卜直言奇を示す話」 神社のほとりで占いをする白水翁に、茅渟官平という侍が八卦を見てもらう。白水翁が「貴君は今夜の三更に死ぬ」と占うので、官平は怒って帰る。しかし占いは的中し、その夜、官平は寝間を飛び出して橋上から川へ身を投げ、死ぬ→〔死因〕2c。
★2.多くの人の目前に迫った危難を、人相や手相から読み取る。
『今昔物語集』巻24−21 僧登照が朱雀門の前を通ると、門の下で休む人々に、死相があらわれていた。「たとえ悪人が来て殺すにしても、こんなに多くの人を一時には殺せまい。もしや、門が倒れるのではあるまいか」と登照は察知し、人々に「逃げよ」と警告した。まもなく、風も吹かず地震もないのに朱雀門は倒れた。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第12巻67ページ 辻の易者が、通りかかる人々の手相を見て、皆に水難の相があるので「ハテ」と首をかしげる。まもなく雨が降り出し、皆あわてて駆け出す。易者も店じまいして雨を避ける。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)161「占い師」 占い師が広場で客を集め、見料を稼いでいた。男が来て「お前の家の戸が破られ、中のものが持ち出されていた」と告げたので、占い師は驚いて家へ駆け戻った。居合わせた一人が「他人のことは前もってわかると言うくせに、自分のことは占ってみなかったのか」と言った。
『黄金のろば』(アプレイウス)第2巻 占い師が客に、旅立ちに良い日を教える。そこへ占い師の知人が来合わせ「一別以来どうしていたか」と問う。占い師は、つい正直に「乗った船が嵐で沈み、陸へ泳ぎついたら追剥に遭い、何もかも失った」と答える。客は占いの見料を払うのをやめて去る。
『御神酒徳利』(落語) 旅籠の大掃除の時、番頭の善六が、将軍家拝領の御神酒徳利の保管場所を捜し、台所の水甕に入れたまま忘れてしまう。その後、御神酒徳利が紛失したというので大騒ぎになり、善六は、今さら「私が水甕にしまった」とも言い難く、占いの真似事をして「台所の、水と土に縁ある器の中、との易が出た」と言う。皆、善六は占いの名人だと思う→〔過去〕4。
『馬喰やそ八』(昔話) やそ八が、ある家で人妻が情夫と酒盛りをするさまをのぞき見る。そこへ旦那が帰宅したので、妻は酒肴を隣室に、情夫をつづらに隠す。やそ八は、「私は旅の八卦置きだ」と言って家に上がり、馬の皮をもんで、「隣室に御馳走があり、つづらに化け物がひそんでいる」と占う。旦那は感心して、つづらの処理をやそ八に頼み、馬の皮を百両で買う(岩手県上閉伊郡)。
『神曲』(ダンテ)「地獄篇」第20歌 テイレシアスをはじめとする占い師たちは、不遜にも先のことを見すかそうとしたため、死後、罰を受けた。彼らは地獄の第八圏第四濠で、胴体の上に頭を前後逆につけられて、前を見ることができず、後ずさりして歩いている。
『鎌倉三代記』7段目 佐々木四郎高綱と百姓藤三郎は見まがうばかりよく似ていたので、北条家を欺くために高綱は藤三郎の命を買い取り、身代わりのにせ首とする。
『千一夜物語』「『ほくろ』の物語」マルドリュス版第268夜 教王ハルン・アル・ラシードの寵臣「ほくろ」は、財宝を盗んだとの濡れ衣を着せられ、絞首刑を宣告される。警吏長は「ほくろ」の親友だったので、獄中の死刑囚の中から「ほくろ」にそっくりの男を捜し出し、身代わりに絞首台につるす。
『捜神記』巻16−4(通巻379話) 尋陽の司令官宅に寄宿する居候が、冥府に連れて行かれそうになる。居候は必死で命乞いし、身代わりに、彼に容貌の似た司令官幕下の都督が死ぬ。
『壇浦兜軍記』2〜5段目 井場十蔵は、妹阿古屋の愛人景清に瓜二つであるため、間違って捕らわれそうになるが、やがて自らすすんで景清の身代わりをつとめ、命を捨てようとする。
『独裁者』(チャップリン) トメニア国の独裁者ヒンケルは、アーリア民族による世界支配を目指し、ユダヤ人を迫害する。ユダヤ人の床屋は、たまたまヒンケルにそっくりの風貌だったため、ヒンケルに間違えられる。本物のヒンケルもまた、ユダヤ人と間違えられて逮捕される。床屋はヒンケル総統になり代わり、自由・平和・民主主義を説く大演説をする。
『南総里見八犬伝』第8輯巻之3第78〜79回 長尾景春の母・箙大刀自が、犬川荘介・犬田小文吾を捕らえて首を討つよう命ずる。しかし長尾家の執事稲戸津盛が荘介・小文吾をかくまい、彼らの身代わりとして、山賊酒顛二の手下で荘介・小文吾に容貌の似た二人の首を斬る。
『二都物語』(ディケンズ) チャールズ・ダーネーは、民衆の犠牲の上に成り立つ貴族の生活を嫌い、侯爵の甥としての身分を捨てて生活していた。しかしフランス革命がおこり、ダーネーは逮捕され死刑を宣告される。ダーネーの妻ルーシーに思いをよせていた弁護士シドニー・カートンが、ダーネーを脱獄させ、自分の容貌がダーネーと瓜二つであることを利用し、身代わりに断頭台にのぼる。
『日本書紀』巻10応神天皇9年4月 「大臣武内宿禰が筑紫で謀叛をたくらんでいる」との讒言があり、応神天皇は、宿禰を殺すための使者をさしむける。臣下の真根子が、武内宿禰によく似ているため身代わりをかって出、自刃する。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第9話 フォンツォ王子は瓜二つの親友カンネローロと見間違えられ、カンネローロの妃と床をともにする。フォンツォ王子は二人の間に抜き身の剣を置く。
『めまい』(ヒッチコック) ギャヴィンが妻マデリンを殺し、死体を高い塔の上に運ぶ。マデリンそっくりの女ジュディが塔に駆け上がり、飛び降りるふりをして隠れる。ギャヴィンの友人スコッティは、「マデリンが自殺する」と思い、とめようとするが、高所恐怖症のため、めまいを起こす。その時ギャヴィンが、マデリンの死体を投げ落とす〔*後にスコッティは、マデリンに瓜二つのジュディを街で見かけ、ギャヴィンのマデリン殺しを察知する〕。
『レ・ミゼラブル』(ユーゴー)第1部第6〜7編 前科者ジャン・ヴァルジャンは過去を隠し、「マドレーヌ」と名乗る。彼は、貧しい人々を助けるなど数々の善行の結果、市長に推挙される。しかし、彼によく似た男がジャン・ヴァルジャンと見なされ逮捕されたため、マドレーヌ市長は法廷に乗りこみ、「自分こそジャン・ヴァルジャンだ」と名乗る。
*→〔演技〕4の『南総里見八犬伝』第4輯巻之3第36回〜巻之4第37回。
*→〔選択〕5の『源平盛衰記』巻16「あやめの前の事」。
*→〔誓い〕2の『七賢人物語』「皇帝の息子の語る第八の物語」。
★2.神・仏・悪魔などが、ある人間と瓜二つに化ける。瓜二つの人間を造る。
『古本説話集』下−56 吝嗇な留志長者の留守中、帝釈天が長者そっくりの姿になって、財物を人々に分け与える。そこへ本物の長者が帰宅するが、二人の長者のどちらが本物か誰も見分けられない。これは、長者を物欲から解放するための方便だった〔*『今昔物語集』巻3−22に類話〕。
『西遊記』百回本第39回 文殊菩薩の乗用の獅子が道士に化け、孫悟空と闘うが到底かなわないので、三蔵法師そっくりの姿になり、本物の三蔵の横に並ぶ。悟空が棒で打ちかかると、二人とも「悟空や、打つんじゃない。私だ」と言い、見分けがつかない。本物の三蔵は緊箍呪を唱えて悟空の頭の金環を締めつけ、自分が本物であることを示す。
『西遊記』百回本第58回 六耳の猿が孫悟空そっくりに化け、本物の悟空と「あいつこそ偽者だ」と争う。南海の観音菩薩が緊箍呪を唱えると、二人とも「頭が痛い」と訴える。天界の照魔鏡に映しても区別がつかない。霊鷲山雷音寺の釈迦如来が偽悟空の正体をあばき、本物の悟空が鉄棒で偽悟空を打ち殺す。
『ソラリスの陽のもとに』(レム) 惑星ソラリスの海は生命を持って思考活動をしており、惑星を訪れる人間の脳の中から記憶を引き出し、実体化する。心理学者ケルビンの前には、十年前に自殺した愛妻ハリーそっくりの女が現れる。ケルビンは、それがハリーではないことを知りつつ、愛し始める。
『未来のイヴ』(リラダン) エワルド卿の恋人アリシャは、美貌とは裏腹の卑俗な魂を持っていた。発明家エディソンが、アリシャと瓜二つで高貴な魂を持つ人造人間ハダリーをつくる。エワルド卿ははじめてハダリーと語り合った時、それをアリシャだと思う→〔人造人間〕1。
*→〔にせ花嫁〕2の『白鳥の湖』(チャイコフスキー)・〔婿選び〕の『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」。
『古事記』下巻 雄略天皇が、紅紐に青摺の衣の百官を率いて葛城山に登る。向かいの山に、まったく同じ服装の一団が現れる。「誰か」と問うと「誰か」と答え、矢をつがえると相手方も矢をつがえる。それは一言主の神であり、雄略天皇は拝礼する。
『隅田川続俤』「双面水照月・隅田川渡し」 永楽屋娘おくみと手代要助(実は吉田家嫡男松若)が京へ旅立とうとする所へ、法界坊の霊がおくみそっくりの姿をとって現れる。本物のおくみを見分けるために二人に踊りを踊らせるが、どちらも同じように踊る。観世音の尊像を差し向けると、ようやく法界坊の霊は本性を現す→〔穴〕6b。
『二人静』(能) 吉野山勝手明神に仕える菜摘女に静御前の霊が取りつき、写経供養を請う。神職が舞を所望し、菜摘女が宝蔵に納められた昔の衣裳を着て舞い始めると、静御前の霊が同じ衣裳で現れ、菜摘女の影のごとく二人一体で舞う。
『広異記』28「自分を占う」 「寿命を知りたい」と言って訪れた客のために、柳少遊が卦を立てると、「今日の暮れまでの命」と出る。客は悲しんで辞去し、門を出て数歩で姿が消える。見送った童が「今の客は御主人様と瓜二つでした」と告げるので、柳少遊は「あれは自分の魂だったのだ」と悟る。占いどおり、日暮れに柳少遊は死んだ。
*葬儀の場に、死者と瓜二つの人がやって来る→〔葬儀〕3。
『七賢人物語』「妃の語る第七の物語」 騎士が秘密の抜け穴を利用して、王妃と密通する。騎士は王妃を抜け穴から連れ出し、着飾らせて、「私の恋人です」と言って王に紹介する。王は「我が妃と瓜二つだ」と驚く。王は騎士の頼みにより、騎士と恋人(実は王妃)を教会で結婚させ、花嫁に「誰よりも騎士を愛せよ」と教える。騎士と花嫁が船で去った後に、王は妃を奪われたことを知る。
『カター・サリット・サーガラ』「愚者物語」第15話 夫の旅中に妻が情夫の所に行く。妻の腹心の下女が、帰宅した夫に「奥様は亡くなられた」と告げ、夫は嘆く。夫が妻の追善供養をすると、バラモンに扮した情夫が妻とともにやって来て、供養のご馳走を幾月もの間、食い荒らす。下女が「奥様は霊界からおいでになり、バラモン様と食事をなさっています」と言い、夫はそれを信じる。
*→〔双子〕に関連記事。
*関連項目→〔円環構造〕
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第34章 ロキと女巨人の間に生まれたミズガルズ蛇を、大神オーディンが深い海の中へ投げこんだ。大洋に横たわる蛇は陸地をとりまくようにして成長し、その口が自分の尻尾を噛むまでになった。
『新編常陸国誌』 地中にいる大魚(大蛇ともいう)が日本国土をとり囲み、首と尾とが茨城県の鹿島郡で出会った。鹿島明神が釘でその首と尾を貫き止めた。この釘が要石(かなめいし)である。それゆえ、この地には地震が少ない〔*要石は、鹿島の神が天から降臨した時に座し給うた石だ、との伝説もある→〔地震〕7の要石の伝説〕。
『ツァラトゥストラはこう言った』(ニーチェ)「序説」 一羽の鷲が空に大きな輪を描き、その鷲に一匹の蛇が絡まっていて、その蛇は鷲の首に輪のように巻きついていた。ツァラトゥストラは「あれはわたしの動物たちだ」と叫び、鷲と蛇をつねに身近に置いた。
*自分の足を食べる蛸→〔蛸〕1cの『死なない蛸』(萩原朔太郎)。
『神異経』「西荒経」 崑崙の西に、犬に似た「混沌」という獣がいる。目が見えず耳が聞こえず、食べた物は口から尻へ素通りする。何もせず無為の状態におり、いつも自分の尾を噛み、くるくる回転して、天を仰いで笑っている。
『ユープケッチャ』(安部公房) ユープケッチャは体長一センチ五ミリの昆虫で、自分の糞を主食とする。移動する必要がないため肢は退化して、なくなってしまった。ユープケッチャは体を左に回転させつつ食べ、食べながら脱糞する。糞はつねにきれいな半円を描く〔*→〔箱船(方舟)〕2の『方舟(はこぶね)さくら丸』にも、自給自足の閉鎖系の象徴として、この虫が出てくる〕
『あたま山』(落語) 桜んぼを食べた男の頭に桜の木が生え、皆が花見に来る。男がうるさがって木を引き抜くと、あとに大きな穴があき、水がたまって池になる。そこへ魚釣り客が大勢来て騒ぐ。男はたまりかねて、自分の頭の池へ身を投げる。
『一千一秒物語』(稲垣足穂)「どうして酔いよりさめたか?」 ある晩、「自分」は唄をうたいながら歩いていて、井戸へ落ちた。誰かが綱を下ろしてくれた。「自分」は、片手にぶら下げていた飲みさしのブランディびんの口から、匍(は)い出してきた。
『マイナス・ゼロ』(広瀬正) 昭和二十年、十七歳の伊沢啓子はタイムマシンに乗せられて昭和三十八年へ行き、浜田俊夫と出会って関係を持ち、身ごもる。その直後にタイムマシンの誤作動で彼女は昭和二年へ戻り、それとともに記憶を失う。自分が誰か忘れたまま彼女は翌年昭和三年に女児を産み、「啓子」と名づけて捨て子にする。やがて彼女は女優にスカウトされ、小田切美子の芸名を用いる。捨てられた啓子は、大学講師伊沢に養われ、伊沢啓子となって昭和二十年には十七歳になる。伊沢啓子は伊沢啓子自身から産み出されたのだった。
三すくみの話 ヘビがガマを、ガマがナメクジを、ナメクジがヘビを、追いかけて呑もうとする。三者は丸い輪を描くようにつながる。それぞれがそれぞれを呑み始めるにつれて、輪は小さくなって行く。三者は同じ速さで互いを呑み終わり、呑まれ終わる。その瞬間、三者はパッと消えてなくなった。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)363「子供と絵のライオン」 「息子がライオンに殺される」との夢を見た父が、正夢となることを恐れ、宙に浮いた住居を作りそこに息子を入れて、ライオンから守る。ある日、住居の壁に描かれたライオンの絵を息子が手で打つと、刺が爪につきささり、それがもとで息子は死ぬ。
『歴史』(ヘロドトス)巻1−34〜43 リュディア王クロイソスは、息子アテュスが鉄の槍に刺されて死ぬ夢を見、息子の身辺から投槍・手槍の類を遠ざける。アテュスが猪狩りに行くのを王は制止するが、アテュスは「手を持たぬ猪が槍をふるうはずがない」と言って、出かける。しかし同行者が猪をねらって投げた槍がアテュスに刺さり、彼は死ぬ。
*→〔予言〕1a。
『魚と指輪』(イギリス昔話) 領主が「運命の書」を開き、将来息子が身分卑しい娘と結婚する、と知る。領主は、生まれたばかりのその娘を捜し出し、川に捨てるなどして殺そうとするが、結局娘は、息子の妻となる→〔手紙〕3・〔指輪〕4。
『今昔物語集』巻31−3 湛慶阿闍梨は「某国某郡の女児と夫婦になる運命だ」と、不動尊からの夢告を得る。「女犯僧になるまい」と考えた湛慶は、その女児を捜し、首をかき切って逃げる。しかし女児は死なず、年月を経て、湛慶は成長した彼女と知らずして再会、愛欲の心をおこして結婚し、ついに還俗する→〔傷あと〕2。
『続玄怪録』 良縁を求める韋固は、冥界の老人から、妻となるべき運命の娘を教えられる。それは野菜売りの片目の婆さんに抱かれた三歳児だったので、韋固は怒り、下男に命じて女児を刺し殺させる。しかし女児は死なず、しかも本来身分ある人の娘であって、十四年後、成長した娘と韋固は結婚することとなる。
*母と結婚する運命→〔予言〕1aの『オイディプス王』(ソポクレス)。
『江談抄』第6−58 車子という名の人が生まれると自分の福が失われると知った男が、その生まれるべき年に、財産を運んで他国へ逃れる。旅の途中、従者の中に妊婦がいて子を生む。旅の車中で生まれたので車子と名づけられる。
『沙石集』巻9−10 海人の親子三人があり、毎日魚三つが釣れた。海人夫婦は、「子がいなければ、二人で魚三つを食うことができる」と考え、子を追い出した。その後、魚は二つしか釣れなくなった。
*→〔神〕6bの『発心集』巻7−7。
★2a.悪い運命が将来予想される時、その悪運を早目に終わらせてしまう。
『金枝篇』(フレイザー)第3章「共感呪術」 出生の日によって人の運勢は決まる。二月一日に男が生まれると、彼の成長後その家は焼ける。この災難を逃れるため、彼の友人たちは、運命の機先を制して前もって小屋を建て、それに火を放ち焼いてしまう(*マダガスカルの風習)。
『源氏物語』「若紫」「須磨」 十八歳の光源氏は、夢解きから「将来あなたは天皇の父となる。しかしそれまでの間に、身を慎まねばならぬことがある」、と告げられる。二十六歳の源氏が自ら須磨に退去するのは、慎むべき運命を経験し、その後に我が子の即位を現実化させようとしてのことである。
『源平盛衰記』巻25「はらかの奏・吉野の国栖の事」 天智天皇がまだ即位前に、乞食相があると言われた。帝位についてから乞食となってはいけないので、即位前にその運命を終わらせてしまおうと、帝は西国修行をした。
『英草紙』第9篇「高武蔵守婢を出だして媒をなす話」 浄御原の天皇(天武帝)は生来乞食の相があったので、皇子時代にこの運命を終わらせてしまおうと、僧は乞食に類する点があるゆえ僧形となって廻国した。これで大友皇子の威を避けることができた。
『今昔物語集』巻20−43 「月、大将の星を犯す」との勘文が奉られたため、右大将実頼は様々に祈りをするが、左大将仲平は何もしない。「自分は無能の老人。死んだとて何ほどのこともないから」と仲平が語るのを聞いた僧は「その御心ならば必ず三宝の御加護があろう」と感動する。その後、仲平は身に病なく七十余まで大臣でいた〔*『宇治拾遺物語』巻14−9に同話〕。
『十訓抄』第6−34 小野宮実資が新築の家に入った夜、火鉢の火が簾のへりに飛び、見るまに燃え広がる。実資は火を消そうとせず、家一つが焼失する。後に実資は「僅かな走り火が思いがけず燃え上がったのは天の与えた災いだ。人の力で防ごうとすれば、これ以上の大事が起こるかもしれぬ」と語る。
*火事にあったため、三悪道へ堕ちずにすむ→〔火事〕7の『今昔物語集』巻5−15。
『封神演義』第10回 殷の紂王から、西伯姫昌(周の文王)を都朝歌へ召すとの詔が発せられる。西伯が卦を起こして占うと、「朝歌へ行けば七年の厄がある」と出る。西伯は、「これは天数であり、あえて避ければかえって事態を悪化させるだけだ」と考え、災難を承知で朝歌へ向かう。
*死の運命をそのまま受け入れたため、死なずにすむ→〔予言〕2b。
『愚管抄』巻6 三星合という天変があらわれたので、慈円僧正が修法をすると三星合は消えるが、その間に後京極摂政良経が急死する。天文博士安倍晴光が「後鳥羽院の大事であったはずのところ、三星合が院を良経と取り替えたのだ」と語る。また、慈円僧正が後鳥羽院のために七日間の法華経の修法を終えると、まもなく法勝寺の九重塔が落雷により焼ける。慈円は「院に変事があるはずだったのが、転じられて塔焼失の凶事に移ったのであり、これは吉事だ」と院に具申する。
『三国志演義』第34回 劉表は、玄徳の乗った馬を気に入り、譲ってもらう。ところが、臣下から「これは乗る者に崇りをなす馬」と言われ、馬を玄徳に返す。玄徳にも、この馬には乗らぬよう忠告する者があったが、玄徳は「人の生死は定まったもの。馬には左右されぬ」と言い、乗り続ける。
『史記』「宋微子世家」第8 宋の景公の時、火星が宋の災いとなる位置に宿った。天文官が災いを宰相に移すよう景公に具申するが、景公は聞き入れない。人民に移すことも年に移すことも景公は拒否する。こうした景公の誠心のゆえであろう、火星は三たび動き、位置を変えた。
*悪い病気を人にうつすことによって、自身は治癒する→〔性交〕6a。
*死の運命を他人に移し、自分は助かる→〔呪い〕5の『リング』(中田秀夫)。
『徒然草』第146段 明雲座主の「自分に剣難の相はないか」との問いに、相人は、「傷害の恐れなきはずの身でそのようなことを思いつく、これがすでに危難のきざしである」と答える。はたして座主は、矢にあたって死んだ。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第17巻40ページ ワカメが曲がり角まで来た時に下駄の鼻緒が切れ、ワカメは「あーあ、運が悪いな」と言って引き返す。しかし、曲がり角の向こうには恐い顔の犬がうずくまっており、ワカメは鼻緒が切れたおかげで、犬難から逃れることができたのだった。
『不運つづきの娘』(ボーモン夫人) オーロールは、王弟アンジェニュと結婚する直前、茨で顔を傷つけて醜く腫れ上がり、結婚後も、生まれた息子がさらわれるなど、不運が続く。しかしそのおかげで、悪王フルバンの妃にされる災難や、息子を殺される災難に、遭わずにすむ。後、オーロールと王弟アンジェニュは難船して無人島に漂着するが、その不運もまた、行方不明の息子と再会するきっかけになった。
*→〔累積〕2。
*良いことばかりは続かない→〔寿命〕5の『源氏物語』「絵合」。
*福運を人にゆずる→〔売買〕2。
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