『磯崎』(御伽草子) 磯崎殿という侍が、愛人を家へ住まわせて「新し殿」と名づけ置く。本妻がこれを妬み、ある夜、鬼の面をつけて新し殿を威し、打ち殺す→〔面〕3。
『高野物語』(御伽草子)第4話 佐々木のせい阿弥陀仏は、在俗時、二人の妻を持っていた。彼が上京中に、本妻が新しい妻を酒宴に招き、酔わせ眠らせてから人に命じてくびり殺させ、死体を地蔵堂のある墓原に埋めた。
『史記』「呂后本紀」第9 漢の高祖が微賎であった頃からの妻呂后は、高祖の寵をうけた戚夫人を恨んだ。高祖が没した後、呂后は戚夫人の手足を断ち切り、眼球をくりぬくなどして便所の中に置き、「人豚」と名づけた。
『沙石集』巻9−6 ある公卿の北の方が、夫の愛人である女を捕え、懐妊した腹に火熨斗(ひのし)を押し当てた。女の身体は膨れ上がり、火ぶくれが裂けて死んでしまった〔*その後、北の方も病気になり、身体が膨れて死んだ〕。
『発心集』巻8−9 受領となった男が、愛人を捨て北の方を連れて下向する。愛人は貴布禰へ百夜参りし、北の方を呪い殺す。
『歴史』(ヘロドトス)巻9−108〜112 クセルクセスは弟マシステスの妻に恋慕し、次いで彼女の娘アルタユンテに恋着する。クセルクセスの妻アメストリスは、自分が夫に贈った上衣がアルタユンテの手に渡ったことを知って、元凶はアルタユンテの母(=マシステスの妻)であると考え、彼女の両の乳房・鼻・耳・唇を切って犬に投げ与え、舌までも切り落とした。
★1b.妻が生霊・死霊となって、夫のもう一人の妻を取り殺す。
『源氏物語』「葵」 光源氏は葵の上を妻としつつ、六条御息所とも関係を続ける。賀茂祭の御禊の日、六条御息所の車と葵の上の車とが争い、六条御息所方が負けて屈辱を受ける。御息所は葵の上を恨んで生霊となり、産褥にある葵の上を苦しめる。車争いから四ヵ月余り後の八月下旬、夕霧を出産直後の葵の上を、ついに生霊は取り殺す。
『破約』(小泉八雲『日本雑録』) 臨終の妻に、夫は「決して再婚せぬ」と誓う。しかし家の断絶を避けるため、彼は新しい妻を娶る。夫が城中に宿直し不在の夜、死んだ妻の幽霊が現れ、若妻の首をもぎ取って殺す。
*→〔八月十五夜〕9の『源氏物語』「夕顔」。
★1c.妻が死霊となって、夫のもう一人の妻を取り殺し、ついで夫の命をも奪う。
『雨月物語』巻之3「吉備津の釜」 正太郎は貞淑な妻磯良がありながら、遊女袖を愛人にする。正太郎は磯良から金をだまし取って袖と駆け落ちし、磯良は恨み嘆きつつ病死する。正太郎と袖は親類宅に身を寄せるが、磯良の死霊のたたりで袖は病みつき、七日を経て死ぬ。磯良の死霊はさらに正太郎をも襲い、正太郎は四十二日間の物忌みをする。しかし最後の夜に殺される→〔時間〕3。
『東海道四谷怪談』(鶴屋南北)「浪宅」 民谷伊右衛門は妻お岩を捨て、隣家の伊藤喜兵衛の孫娘お梅と祝言をする。お岩は死霊となり、祝言の夜にお梅と伊藤喜兵衛を殺す。後、お岩の死霊は夫伊右衛門をさまざまに苦しめ、伊右衛門は錯乱状態になる。伊右衛門は、お岩の妹お袖の夫だった佐藤与茂七に討たれる。
『水妖記(ウンディーネ)』(フーケー) 騎士フルトブラントは、水の精ウンディーネを愛して妻とする。しかし彼女の伯父の水怪キューレボルンがいろいろな悪戯をするので、フルトブラントは水の精と結婚したことを悔やむようになる。ウンディーネは嘆きつつドナウ川に姿を消し、フルトブラントは漁師の娘ベルタルダを新たな妻とする。婚礼の晩にウンディーネが来て、フルトブラントに死を宣告し、抱きしめる→〔涙〕3。
『酉陽雑俎』巻14−546 劉伯玉の妻段氏は嫉妬深く、夫を恨んで川に身を投げた。彼女は水神となり、美女が船で川を渡ろうとすると嫉妬して荒波をたて、不器量な女の時には無事に通した。その船着場を妬婦津という。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第1章 ゼウスの正妃ヘラは、夫が愛した女たちを迫害する。ゼウスはイオを犯した後、彼女を白い牝牛に変えてヘラを欺こうとした。ヘラは牝牛に虻を送り苦しめた。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第8章 ゼウスはカリストと床をともにし、ヘラに気づかれぬよう彼女を熊の姿に変えておいた。ヘラはそれを知り、カリストをそのまま猛獣として射殺しようとした。
『古事記』上巻 オホナムヂ(=大国主命)の后スセリビメは嫉妬深かった。稲羽のヤガミヒメは八十神の求婚をしりぞけてオホナムヂと結婚したが、彼女はスセリビメの嫉妬を恐れ、産んだ子を木の股にさし挟んで、去った。
*女神(弁天様)の嫉妬→〔縁切り〕5の井の頭公園でボートに乗ると(日本の現代伝説『幸福のEメール』)。
『大鏡』「師輔伝」 村上帝の皇后安子が、壁に穴を開けて隣の局の女御芳子をのぞき見る。「この美貌ゆえに帝寵が厚いのか」と嫉妬した安子は、壁穴を通るくらいの小さな土器の破片を、女房に命じて投げつけさせた。
『古事記』下巻 仁徳帝の后石之日賣は非常に嫉妬深かった。帝は吉備の黒日売を召し寄せたが、黒日賣は后の嫉妬を恐れて本国へ逃げ帰った。また、后が紀伊国に出かけている時に、帝は八田若郎女を愛した。これを知った后は難波の宮に戻らず、山城へ行ってしまった。
『黄金のろば』(アプレイウス)第4〜6巻 王女プシュケは、姿を見せぬ夫エロス(クピード)と立派な宮殿で幸せに暮らす。彼女の姉二人が嫉妬し、「お前の夫の正体は恐ろしい大蛇だ」と言って脅す→〔夫〕3・4。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第2日第9話 貧しい三人姉妹の末子ルチエッラが、立派な宮殿で謎の夫と裕福に暮らす。姉二人が妹の幸福に嫉妬し、夜、明かりをつけて夫の姿を見るようにそそのかす。夫は美しい若者だったが、自分の姿を見られたことを怒り、ルチエッラにボロを着せて追い出す。
*関連項目→〔火〕
★1.ともし火は命の火でもある。ともし火が消えると人も死ぬ。
『三国志演義』第103回 重病の諸葛孔明が、幕中に祭壇を築き北斗を祭る。中央の主燈が七日間消えなければ、十二年の命を得ることができる。祈祷を続けると主燈は明るさを増すが、六日目の夜、魏延が敵襲を知らせに駆けこみ、主燈を踏み消す。孔明は天命の尽きたことを知る。
『性に眼覚める頃』(室生犀星) 十七歳の「私」は、七十歳近い養父と一緒に寺院で暮らしていた。夏の終わり頃、「私」と同年の、文学上の友・表棹影(おもてとうえい)が肺病で寝ついたので、「私」は養父にお経をあげてくれるよう頼む。養父は本堂で一時間ほど誦経したが、「お経中に灯明が消えてしまった。その方は難しいようだね」と言った。秋の半ば過ぎに、友は死んだ。
*ろうそくが燃え尽きると、命も尽きる→〔ろうそく〕2。
*ともし火に浮かぶ愛人の姿→〔口〕6aの『今鏡』「打聞」第10「敷島の打聞」。
*→〔魂〕1aに関連記事。
『大智度論』巻11 バラモンの大論議師提舎が頭に火を載せ、「真っ暗闇だ」と言って、王舎城に来る。人々が「日が出て明るく照らしているのに」と不思議がると、提舎は「闇に二種類ある。日が照らさぬことと、愚かさの闇がおおっていることだ。今、日の明るさはあるが、愚かさの闇はいっそう暗い」と答える。
『法句譬喩経』巻1「多聞品」第3・第2話 自らを「無比の賢者だ」とうぬぼれた梵志が、昼間に炬火を持って城市を行く。人々の問いに、梵志は「世人が皆愚冥だから、炬火で照らすのだ」と答える。仏が、「盲人が燈火を持つごとく、汝自身が暗い」と説き、梵志は慙愧する。
『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第6巻第2章「ディオゲネス」 ディオゲネスは、白昼、ランプに火をともして、「僕は人間を探しているのだ」と言った〔*「あちこち歩き廻っていた」、と記すテキストもある〕。
『悦ばしき知識』(ニーチェ)第3書125 狂人が白昼に提灯をつけ、市場へ駆けてきて「おれは神を探している」と叫ぶ。人々が「神様は迷子になったのか? 隠れん坊をしたのか?」と嘲笑すると、狂人は「おれたちが神を殺したのだ。白昼に提灯をつけねばならぬほど、深い夜が来るのだ」と言い、提灯を地面に投げつける。灯が消える。
★3a.白昼に火をともすのとは逆に、闇夜に灯を消して真っ暗にする。それで悟りを開いた人がいる。
『無門関』(慧開)28「久嚮龍潭」 徳山(とくさん)が、龍潭和尚の寺を訪れて教えを請う。夜が更けて徳山は帰り支度をするが、外は真っ暗なので引き返して来る。龍潭和尚は、提灯に火を入れて徳山に渡す。徳山が提灯を受け取ろうとした時、龍潭和尚はフッと火を吹き消す。そのとたん、徳山は悟りを開いた。
『ユング自伝』3「学生時代」 「私(ユング)」は夜の靄の中を、強風に抗して進んで行く夢を見た。「私」は今にも消えそうな小さなあかりを、手で囲んでいた。背後から、黒い大きな人影が追いかけて来る。どんな危険を冒しても、この小さな光だけは風の中で一晩中守らねばならないことを、「私」は知っていた。背後の人影は「私」自身の影、小さなあかりは「私」の意識を意味していた。
『国性爺合戦』(近松門左衛門)2段目「千里が竹」 大明国の千里が竹に迷い入った和藤内は、猛虎と出会い格闘する。力は互角であったが、付き添う母の教えで伊勢大神宮の御祓を突きつけると、ようやく虎はおとなしくなる。そこへ唐人たちが押し寄せるが、猛虎が和藤内母子に味方するので唐人たちは降参し、和藤内の家来になる。
『水滸伝』百二十回本第23回 景陽岡に人喰い虎が出るゆえ、通行の旅商人らは昼間に限り、大勢で隊を組んで通るべし、との告示が出される。酔った武松が夕暮れ時に一人で景陽岡の峠を登り、襲いかかる虎を押さえつけて拳骨で滅多打ちし、殴り殺す。
『水滸伝』百二十回本第43回 李逵は、盲目の老母を梁山泊に迎えて安楽に暮らさせたいと考え、夜、老母を背負い沂嶺の山越えをする。ところが、李逵が水を汲みに行っている間に、老母は虎に食い殺される。李逵は怒り、老母の腿をしゃぶる二匹の子虎と、その親の二頭の大虎を、朴刀をふるって殺す。
『傾城反魂香』(近松門左衛門)「土佐将監閑居の場」 大虎が現れて村々を荒らす。土佐将監光信が、「これは名手の描いた虎の絵に魂が入って、抜け出たものだ」と見抜き、「その証拠に足跡がないはず」と言う。百姓たちが地面を見回すと、確かに足跡がない。将監の弟子修理之助が、「絵ならば筆先で描き消そう」と言って、虎を消してしまう。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之27第143回〜巻之30第148回 巨勢金岡が掛け軸に描いた虎が、絵から抜け出て人を襲う。犬江親兵衛が虎の両眼を矢で射て、殴り殺す。管領細河政元が死骸を検分に行き、家来らが、虎の矢を抜き四足を合わせて縛ろうとすると、忽然として虎は姿を消す。掛け軸を開くと、虎はその中に戻っていた。
*絵の虎を縛れとの難題→〔難題問答〕1aの『一休と虎』(昔話)。
『淮南子』「俶真訓」第2 昔、公牛哀は変化の病にかかり、七日目に虎になった。兄が戸口から様子をのぞきに入ると、とびかかって殺してしまった。
『山月記』(中島敦) 李徴は詩人を志すが文名上がらず、やむなく地方官吏となる。鬱屈した思いを抱く彼は、ある夜旅宿で発狂し、闇の中へ駆け出して人喰い虎と化す。翌年、李徴は虎の身のまま旧友に再会し、過去を述懐する。
『太平広記』巻430所引『野人閑話』 不孝不義の男がおり、帰りの遅い彼を母親が市門に出迎えたが、男はかえって母親を罵った。男はその後市門を出て路上に坐し、一声叫んで着物を脱ぎ、赤虎に変わった。王が臣下に命じてこれを射殺させた。
『太平広記』巻432所引『原化記』 南陽山に住む男が熱病にかかり、「お前は虎になる」と告げられる。翌日、病気が治って外出すると、歩いているうちに虎に化す。不思議な老人が現れ、「王評事という人を食えば人間に戻れる」と教えるので、男は王評事を襲って食い、人間に戻る。前後数日間の出来事と思われたが、家に帰ると、すでに七〜八ヵ月が経過していた→〔過去〕2。
『捜神後記』巻4−7(通巻47話) 魏の時代、尋陽県の北の山中に住む蛮族は、人を虎に化す術を持っていた。ある男がこの術を習い、虎の絵と呪文を記した紙を髻(もとどり)におさめ、虎に変じて、妻と妹に見せた。男の主人がこれを知り、男を酔わせてその秘法を聞き出した。
『高岳親王航海記』(澁澤龍彦) 貞観七年(865)一月。六十七歳の高岳親王は、広州から船で天竺へ向かう。途中、親王は真珠を呑み込んだために、喉が痛み声がかすれて、自らの死が間近に迫ったことを悟る。親王は、身体を羅越国の虎に食わせることによって天竺へ到達しよう、と考える。虎は親王を腹中にして、天竺までひた走る。親王の死は、貞観七年の末と推定されている。
*→〔犠牲〕4bの『三宝絵詞』上−11。
*虎に見えた石→〔石〕9cの『捜神記』巻11−1(通巻263話)。
*人間に化けていた虎が正体をあらわす→〔片腕〕1aの『太平広記』巻432所引『広異記』。
*虎の教え→〔針〕4の『日本書紀』巻24皇極天皇4年4月。
*虎の威を借る狐→〔狐〕9の『戦国策』第14「楚(1)」172。
『古事談』巻6−2 李部王(重明親王)は、その邸宅東三条殿の南面に金鳳が来て舞う夢を見、帝位につく兆と思ったが、叶わなかった。後、藤原兼家がその邸宅を伝領し、一条院が鳳輦に乗って西廊の切間より出御された。
『捜神記』巻9−4(通巻240話) 婦人張氏が一人で部屋にいた時、鳩が外から飛びこみ、懐に入った。張氏が懐を探ると、鳩の代わりに金の帯留めがあった。以来、張氏の家は金持ちになって、財産は一万倍に達する。ある時、商人に帯留めを盗まれてしまい、張家の家運は傾いた。しかし盗んだ商人も、たびたび災難に遭うようになったので、彼は帯留めを張家に返す。以後、張家は再び繁栄した。
『捜神記』巻9−7(通巻243話) 賈誼(かぎ)の屋敷に、フク鳥(=みみずくの類。不吉な鳥といわれる)が飛びこみ、賈誼の傍らにしばらく止まって去った。賈誼が書物を調べ、占ってみると、「野鳥が部屋に飛びこめば、主はその家を去る」と出た。賈誼は不吉を感じるが、「禍福は意に介さず、生命は天にまかせよう」と考え直した〔*賈誼がその後どうなったかは記されていない〕。
『日本書紀』巻11仁徳天皇元年正月 仁徳天皇が生まれた日、木菟(つく)が産殿に飛びこんで来た。翌朝、父応神天皇が大臣武内宿禰に「どういう瑞兆か」と問うと、大臣は「吉兆です。また昨日、我が妻の産の折に、鷦鷯(さざき)が産屋に飛び入りました」と答えた。
*不吉なふくろう→〔凶兆〕2の『変身物語』(オヴィディウス)巻6。
*鷹が、家の裏山へ飛んで来る→〔鷹〕1cの『竹の声桃の花』(川端康成)。
『古今集註』(毘沙門堂本) 大和国の僧の弟子が死んで三年後、師僧の家の前に鶯が来て「初陽毎朝来・・・・」と鳴く。僧の夢に「我は汝の弟子なり。鳥に生まれ変わって此処に来たれり」との告げがある〔*『曽我物語』巻5「鶯・蛙の歌の事」などに類話〕。
『古事記』中巻 能褒野に病み倒れたヤマトタケルは、死後、八尋白智鳥となって天を翔け、浜に向かって飛び去った。后や御子たちが、泣きながらその後を追った〔*『日本書紀』巻7景行天皇40年是歳では、能褒野に葬られたヤマトタケルが白鳥となって陵より出て、倭国をさして飛び去った、とする〕。
『古事談』巻2−73 藤原実方は、蔵人頭に補せられなかったのを怨んで死んだ。そのため執心が残って雀となり、殿上の間の小台盤にいて食物をつついた〔*『十訓抄』第8−1に類話〕。
『今昔物語集』巻9−20 周の伊尹の子伯奇が継母のために家を追われ、河中に身を投ずる。死後、伯奇は鳥となって父のところへ飛んで来る。継母が「その怪鳥を射よ」と言うので父が矢を放つと、矢は鳥の方へは飛ばず継母の胸に当たる〔*継母に殺された子が小鳥となり、帰宅した父に継母の悪行を知らせるという昔話『継子と鳥』に類似する〕。
『曽我物語』巻5「鴛鴦の剣羽の事」 しそう王が、臣下かんはくを深い淵に沈め、その妻も夫のあとを追って同じ淵に投身する。後、かんはく夫婦の精は一つがいの鴛鴦となり、思羽(剣羽)で王の首をかき落として淵に飛び入り姿を消す。
寺つつき(鳥山石燕『今昔画図続百鬼』) 物部守屋は仏法を嫌い、厩戸皇子(=聖徳太子)によって滅ぼされた。守屋の霊は鳥となって、寺の堂塔伽藍を壊そうとした。この鳥を名づけて「寺つつき」という。
*→〔海〕4bの『山海経(せんがいきょう)』第3「北山経」。
『浦島太郎』(御伽草子) 龍宮城の女房からもらった玉手箱を開けたため、二十四〜五歳の浦島はたちまち老衰した。やがて浦島は鶴となって虚空に飛び上がった〔*浦島の化身の鶴は、蓬莱の山で遊んだ。龍宮城の女房の本体は亀であり、万年を経た。それゆえ鶴と亀は、めでたいことのたとえに引かれるのである〕。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第14章 プロクネ・ピロメラ姉妹は、幼児イテュスを殺し、料理して、その父テレウスに食べさせる。テレウスは怒り、姉妹を追う。逃げる姉妹はそのまま夜鴬と燕に化し、追うテレウスは、やつがしらになった〔*『変身物語』(オヴィディウス)巻6に類話〕。
*身投げした男が、鷹に変身する→〔鷹〕5の『変身物語』(オヴィディウス)巻11。
*全身に鳥の毛が生える→〔鷹〕6aの『古事談』巻4−13。
『春の鳥』(国木田独歩) 六〜七年前、地方(=大分県)で教師をしていた時、「私」は六蔵という白痴の少年を知った。彼は数も数えられず、満足に会話もできなかったが、鳥が好きで、どんな鳥を見ても「からす」と言った。三月の末に、六蔵は城址の高い石垣から落ちて死んだ。鳥のように空を翔け廻るつもりで身を躍(おど)らしたもの、と「私」には思われた。六蔵の母親と「私」が墓に詣った時、一羽のからすが森から現れて、浜の方へ飛んで行った。
『怪人二十面相』(江戸川乱歩)「伝書バト」〜「小林少年の勝利」 小林芳雄少年が怪人二十面相に捕らわれ、二十面相の隠れ家の地下室に監禁される。小林少年は、自分のいる場所を記した紙片を伝書鳩のピッポちゃんにつけて放し、助けを請う。まもなく警官隊が駆けつけ、二十面相を逮捕する〔*しかし、つかまったのは身代わりで、本物の二十面相は警官に変装して逃げてしまった〕。
*→〔鷹〕2の『百合若大臣』(幸若舞)。
『黄金伝説』143「聖フランキスクス(フランチェスコ)」 聖フランキスクスは、しばしば小鳥たちに説教した。小鳥たちは彼の言葉に耳をかたむけ、おとなしくなでてもらい、許しがあるまで飛び立たなかった。ある時、説教中に燕がやかましく鳴いたので、聖フランキスクスは注意した。燕はたちまち静かになった。
『鳥』(デュ・モーリア) 或る日突然、大小さまざまな鳥たちが鋭い嘴で人間を襲いはじめる。人々は家の中に逃げ込むが、鳥たちは窓や煙突から侵入し、いくら殺しても、あとからあとからやって来る。田舎の農場で働くナット一家は、いちはやく家の隙間を塞いで、当座の難を逃れる。しかし近隣の人々は皆死んだらしく、ロンドンからのラジオ放送も途絶える。ナット一家もいつまで持ちこたえられるかわからない。
*蟻の大群が、不特定多数の人々を襲う→〔蟻〕6の『アリの帝国』(H・G・ウェルズ)。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「大森の鶏」 女が茶店で休んでいると、茶店で飼っている鶏がいきなり女に襲いかかり、何ヵ所もの傷を負わせた。女は前年まで軍鶏(しゃも)屋を営んでおり、情夫と共謀して亭主を殺した後、軍鶏屋を廃業した。その折に売り払った鶏が、めぐりめぐって茶店で女と再会したのだった。女は「死んだ亭主の魂が鶏に乗り移ったのだろう」と言った。傷口から黴菌が入って、女は死んでしまった。
『青い鳥』(メーテルリンク) 木こり一家の子供チルチルとミチルが、青い鳥を探す旅に出る。「思い出の国」で、死んだ祖父と祖母から青い鳥をもらうが、それはすぐに黒くなってしまう。「夜の御殿」の花園では、たくさんの青い鳥をつかまえるが、花園から出ると鳥たちは死んでいた。「未来の国」で捕らえた青い鳥は、赤く変色した。結局青い鳥を得られずに、チルチルとミチルは家に帰る。すると、家で飼っていたキジバトが青い鳥になっていたので、二人は驚く〔*しかし青い鳥は、逃げ去ってしまう〕。
千駄塚の伝説 長者の家に鶏を描いた掛け軸があり、毎朝鳴いた。旅の商人が「絵の鶏が鳴くはずがない」と言って長者と賭けをし、千駄の荷をすべて失った。翌年、同じ商人が再び「絵の鶏が鳴くはずがない」と言って長者と賭けをし、今度は朝になっても鶏が鳴かなかったので、商人は前年取られた千駄の荷を取り戻した。あとで長者が見ると、鶏の喉に針が刺してあった(栃木県小山市旧間々田町)。
『抜け雀』(落語) 青年絵師が宿屋の衝立に描いた雀が、抜け出て飛び回る。絵師の父が、「これでは雀が休む所がない」と言って鳥籠を描き加える。青年絵師は「親を籠描き(駕籠舁き)にした」と不孝を詫びる。
*鳥の鳴き声が人間の言葉に聞こえる→〔動物音声〕2a。
*鶏が夜明け前に泣く→〔鶏〕2。
*餅が鳥に変わる→〔餅〕1aの『豊後国風土記』速見の郡田野、〔餅〕1bの餅が白鳥に化した伝説。
*鳥が餅に変わる→〔餅〕7の『豊後国風土記』総記。
*鳩を売る→〔売買〕10。
★1a.本来無関係の男女が、隣り合って並んでいるために、夫婦・恋人と見なされる。
『伊勢物語』第25段 男が、なかなか逢ってくれない女に「秋の野に笹分けし朝の袖よりも逢はで寝る夜ぞひちまさりける」と訴え、女は「みるめなき我が身を浦と知らねばや離れなであまの足たゆく来る」と応ずる。しかしこれは、『古今和歌集』巻13に連続して配列される在原業平の「秋の野に」の歌と小野小町の「みるめなき」の歌を取り合わせ、恋の贈答に仕立てたものである。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第7巻62〜63ページ 昭和二十年代のある日、マスオが勤務先の落成祝いのため、モーニング姿で徒歩で出かける。同じ道を、結婚式場へ向かう花嫁が文金高島田で介添えとともに歩く。踏み切りの所でマスオと花嫁は並んでしまい、周囲の人々は二人を新郎新婦と見なす。
『醜聞(スキャンダル)』(黒澤明) 新進画家青江一郎は、人気歌手西條美也子と同じ旅館に泊まり合わせた。二人は初対面だったが、バスに乗り遅れた美也子を、青江がオートバイに乗せて旅館まで連れて行った、ということがあったので、青江は美也子の部屋を訪れて世間話をし、窓辺に並んで外を見ていた。そこをスキャンダル雑誌の記者が写真に撮り、「恋はオートバイに乗って」という見出しで、青江と美也子が密会していた、との記事をでっち上げた〔*青江は怒って訴訟を起こす。青江の側の弁護士が雑誌社に買収されたりしたが、最後には青江は勝訴した〕。
*逆に、恋人が並んで映っている写真を切り離すと、印象が変わってくる→〔写真〕8の『写真』(川端康成)。
★1b.男女二人の死体が同じ所に並んでいれば、心中と見なされやすい。
『点と線』(松本清張)13の2〜3 三原警部補は、たまたま若い女性と同時に喫茶店に入ったため、店員が二人をカップルと誤認する。しかしこれがきっかけで、三原は九州・香椎の海岸での情死事件の真相を察知する。犯人が、まったく無関係な男女を別々の場所で毒殺し、死体を海岸に運んで並べて寝かせ、心中に見せかけたのだった〔*無関係な男女の死体を並べるのとは逆に、心中した男女の身体を引き離す物語も、松本清張は書いている→〔心中〕11の『二階』〕。
『南総里見八犬伝』第3輯巻之4第27〜巻之5弟29回 網乾左母二郎は浜路を恋慕してさらうが、彼女が意に従わないので斬り殺す。しかし左母二郎もまた、犬山道節に殺される。そこへやって来た額蔵(=犬川荘助)は、若い男女の死体が二つ並んでいれば心中と見なされるゆえ、傍らの木に「悪党左母二郎が浜路を殺し、その結果天罰を受けた」と記し、情死ではないことを明らかにした。
*男女二人を殺して、無理心中に見せかける→〔心中〕7bの『ロシアより愛をこめて』(ヤング)。
*自殺者二人が、初夜の床に並んで横たわる→〔心中〕8bの『盗賊』(三島由紀夫)。
*男女二人が行方不明になれば、駆け落ちと見なされやすい→〔隠蔽〕6の『大いなる眠り』(チャンドラー)。
★1c.A地点の住所と、それとは無関係なB地点の電話番号を、隣り合わせに並べて記す。
『虚無への供物』(中井英夫) 氷沼蒼司が作ったにせの名詞には、千代田区九段の事務所の住所と、豊島区目白の茶室の電話番号が並べて記されていた。目白の氷沼邸で殺人事件が起こった時、その知らせを茶室の電話で受けた蒼司は、目白から数キロ離れた九段の事務所にいたと見なされて、アリバイが成立した。
*ある人物の住所を書いた下に、芸者の電話番号をメモする→〔電話〕1の『プラトニック・ラヴ』(志賀直哉)。
『日本書紀』巻1・第8段一書第6 オホアナムチ(=大国主命)が出雲の五十狭狭(いささ)の小汀(おはま)にいた時、スクナビコナが舟に乗ってやって来た。オホアナムチが掌にスクナビコナを置き、もてあそぶと、スクナビコナは跳ねてオホアナムチの頬をつついた。オホアナムチとスクナビコナは、力を合わせ心を一つにして天下を造った〔*『古事記』上巻に類話〕。
『二十日鼠と人間』(スタインベック) 自分の農場を持つことを夢見る小男ジョージと、力は強いが知能の未発達な大男レニーは幼なじみで、組になって農場を渡り歩き、働く。新たに雇われた農場で、レニーは怪力ゆえに誤って若主人の妻の首の骨を折り、死なせてしまう。レニーが私刑されそうになるので、ジョージは彼に苦痛を与えぬよう、話しかけながら後頭部を銃撃し、即死させる。
『富嶽百景』(太宰治) バスの窓から富士山を見上げて、乗客たちは嘆声を発するが、「私」の隣席の老婆は、「おや、月見草」と言って路傍を指さす。三七七八メートルの富士山と立派に相対峙してみじんもゆるがず、月見草の花一つが、すっくと立っていた。富士には月見草がよく似合う。
『ルスランとリュドミラ』(グリンカ) 魔法使いチェルノモールは小男だったが、彼の兄は巨大な身体をしていた。チェルノモールは兄の頭を切り落とし、兄の頭は、彼ら兄弟の脅威となる剣を隠し守っていた。勇士ルスランがその剣を得て、チェルノモールを倒した。
『雁風呂』(落語) 旅の水戸黄門が、茶屋の屏風絵の「松」と「雁」を見て、「『松』に『鶴』、『月』に『雁』ならわかるが、『松』に『雁』とは、でたらめな取り合わせだ」と、立腹する。そこへ来合わせた大商人淀屋辰五郎が、「函館の一木松」と「雁」に深い関わりがあることを、水戸黄門に語り聞かせる→〔人数〕7。
『お染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』(鶴屋南北)序幕「柳島妙見境内の場」 強飯(こわめし)を腹いっぱい食べた丁稚久太は、番頭から金一分(いちぶ)を貰い、「これで、ふぐを食おう」と、出かける。番頭が「お前は今、強飯を食ったではないか」とたしなめると、久太は「ふぐと餅は、さし合い(=食べ合わせ)だが、ふぐと強飯なら心配あるまい」と言う。しかし久太は、ふぐの毒で死んでしまった〔*2幕目「瓦町油屋の場」で、久太は息を吹き返す〕→〔ゆすり〕1。
*本物と贋物の取り合わせ→〔二つの宝〕2の『新可笑記』(井原西鶴)巻1−2「ひとつの巻物両家有」。
*三つの題材を取り合わせて、物語を創作する→〔三題噺〕。
『雨やどり』(御伽草子) 按察大納言の姫君は、雨宿りが縁で中納言と契りを結び、男児が誕生する。折しも内裏では女御が鬼子を産んだので、姫君の産んだ男児と取り替える。男児は東宮になり、やがて帝位につく。
『源平盛衰記』巻43「宗盛取替子の事」 平清盛は、妻の二位殿(=時子)が懐妊した時、「弓矢取る身は男子こそ宝よ」と言って、男児誕生を強く望んだ。しかし生まれたのは女児だったので、二位殿は、唐傘売りの僧の所に生まれた男児と取り替えた。これが平宗盛である。だから、平家の総大将宗盛は、清盛の子でもなく二位殿の子でもない。二位殿は、壇の浦で入水する時、初めてこのことを語った。
『バーガヴァタ・プラーナ』 クリシュナは誕生するとすぐ、同日に生まれた牛飼いの娘と取り替えられた。
『本朝二十四孝』4段目「十種香」 武田勝頼は生まれた時に家老の子と取り替えられていた。足利将軍暗殺の犯人が詮議できぬため、責任を負ってにせ勝頼は切腹し、本物の勝頼は花造り蓑作として、家宝諏訪法性の兜を取り戻すべく、長尾(=上杉)家に入りこむ。
『魔術師』(江戸川乱歩) 宝石商玉村善太郎一家の皆殺しをたくらむ奥村源造は、玉村家に誕生した女児(=文代)と、同じ頃生まれた自分の娘(=妙子)を、病院で取り替える。玉村家で成長した妙子は、やがて実の父親源造から自分の出自を知らされ、父親と協力して、玉村一家殺害計画を実行にうつす。しかし明智小五郎が妙子の正体をあばき、文代こそが玉村家の娘であることが明らかになって、明智と文代は結婚する〔*後に書かれた『暗黒星』でも、同様の赤ん坊取り替えのトリックが使われる〕。
『歴史』(ヘロドトス)巻1−108〜113 アステュアゲス王は王位を奪われることを恐れ、生まれたばかりの孫(=キュロス)を殺すよう命ずる。同じ時に牛飼の妻が死産したので、牛飼は死産した赤子とキュロスを取り替えて育てる。
『今昔物語集』巻4−3 阿育王には八万四千人の后がいたが、王子がなかった。しかしようやく、寵愛する第二の后が王子を出産した。それを妬む第一の后は乳母を味方につけ、第二の后の産んだ子を猪の子とすりかえて、王子を殺した。阿育王は「猪を産んだ」と聞き、第二の后を他国に流した〔*数ヵ月後、阿育王は他行して第二の后と再会し、第一の后の悪事を知る。王は第二の后を王宮へ連れ帰り、再び后にする〕。
『長谷寺験記』上−7 美福門院が懐妊するが、博士が「姫宮だろう」と占う。女院は嘆いて長谷寺に参籠し、「滝蔵山の尼が産む男児と取り替えよう」との夢告を得る。その結果生まれたのが、後の近衛天皇である〔*『三国伝記』巻2−15に同話〕。
『春色辰巳園』4編巻之12 丹次郎はお長(蝶)を本妻に、米八と仇吉を妾にする。仇吉は身ごもるが、子のない米八に遠慮して姿を隠し、女児お米を産む。同じ頃、お長は男児八十八(やそはち)を産む。八十八が三歳の時、お長・米八たちは池上本門寺に参詣し、喧嘩騒ぎの雑踏の中で八十八とお米を取り違える。これが縁で仇吉母子は再び丹次郎の世話を受け、皆で仲良く暮らす。
『当世書生気質』(坪内逍遙) 上野が彰義隊と官軍の戦場になり、士族・守山友定の妻は三歳の娘お袖を抱いて逃げる途中、同じく三歳の娘お新を背負って逃げるお秀とぶつかり、互いの娘を取り違える。守山友定の妻は流れ弾に当たって死に、お秀は取り違えに気づいてお袖を捨てる。お新もお袖も、他人に養われて育ち、やがてお新は娼妓「顔鳥」、お袖は芸妓「田の次」となる〔*十数年後、お新は自ら「お袖」と名乗って守山友定の子になろうとするが、失敗する〕→〔出生〕1b。
『ひらかな盛衰記』3段目「大津の宿」 木曽義仲討死後、山吹御前と若君駒若丸は落ちのびて大津に一宿する。その夜、源氏の追手が襲い、闇の中で、宿に泊まり合わせた船頭権四郎の孫槌松が、駒若丸と間違えられて首を討たれる。権四郎は駒若丸を家へ連れ帰り、槌松として育てる。
『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』6段目「御殿」 仁木弾正の妹八汐は、伊達家の若君鶴喜代の毒殺をはかるが、乳人政岡の子千松が身代わりになって殺される。しかし、我が子千松の死を見ながら政岡が顔色一つ変えないので、「若君暗殺に備えて、若君と千松を取り替えておいたのか」と、八汐は思う→〔死因〕1。
『木幡の時雨』 故奈良兵部卿右衛門督の中の君は、式部卿宮(のち東宮)と契りを結び、双子の男児を産む。中の君の妹三の君は、中納言との間に双子の女児をもうける。やがて三の君は東宮(=式部卿宮)妃となり、中の君が産んだ双子の男児を自分の子として育てる。中の君は中納言と結婚し、三の君が産んだ双子の女児を自分の子として育てる。二組の双子は成長後、それぞれ皇位継承者とその配偶者となって結婚する。
★5.悪魔や魔法使いなどが人間の赤ん坊をさらい、代わりに自分の子を置いておく。
『ドイツ伝説集』(グリム)82「取り替えっ子」 悪魔はしばしば人間の子を揺籃からさらって、代わりに自分の子を入れておく〔*83「川の中の取り替えっ子」に類話〕→〔成長〕2b。
『夏の夜の夢』(シェイクスピア)第1幕 妖精王オベロンの妃タイターニアは、お産で死んだインド王妃の子を盗み出して、自分の小姓にした〔*この時も、代わりの子を揺籃に入れて置いたと考えられる〕。
『魔法を使う一寸法師』(グリム)KHM39「3番目の話」 魔法使いの一寸法師たちが、ある母親の揺籠から赤ん坊を盗み、代わりに、頭でっかちの鬼子を入れておく。鬼子はやたらに飲み食いをしたがるので、母親は困り、鬼子を追い払おうとする→〔笑い〕1c。
*悪魔が人間の赤ん坊を殺し、代わりに自分の子を育てさせる→〔同日・同月〕1cの『オーメン』(ドナー)。
★6.ジプシーが美しい女児をさらい、代わりに化け物のような醜い男児を置いておく。
『ノートル=ダム・ド・パリ』(ユゴー)第4編1・第6編3 パケットは娼婦をしていたが、二十歳の時、美しい女児(=エスメラルダ)を産んだ。しかしジプシーが女児をさらい、代わりに、化け物のような醜い男児(=カジモド)を置いておく。パケットは悲しみと怒りで狂乱状態になり、ジプシーを呪う。男児はノートル=ダム大聖堂の前に棄てられ、若い司祭フロロが養父となって男児を育てる。
『堤中納言物語』「はいずみ」 せっかちな男が、昼間に愛人の家を訪れる。あわてた女は、櫛箱の白粉をつけるつもりで、取り違えて掃墨(=眉墨)の入った畳紙を手にし、顔中に掃墨を塗りつける。真っ黒になった女の顔を見て、男は驚き、恐れて逃げ帰る。
『今昔物語集』巻28−12 殿上人の妻が、夫の留守に密夫の僧を引き入れる。侍女が、殿上人の装束をかけるべき棹に、僧の衣をかけ、そのため殿上人に狩衣を届ける時、間違えて僧の衣を使者に渡す。夫は妻の不貞を知り離別する。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)2編上「箱根」 大名の国元から江戸入りする女中数人が来るので、役者上がりの喜多八は、「白い手拭いをかぶると顔色が白くなって、いきな男に見える」と言い、さらしの手拭いで頬かぶりする。女たちは笑って通り過ぎるが、実は喜多八は間違えて越中ふんどしを頭にかぶっていたのだった。
『サザエさんうちあけ話』(長谷川町子) 翌日の朝刊に載せる「サザエさん」を描き終えたが、できあがった四コマを見ると、カツオの顔の表情が気に入らない。そこで新聞社の人に一時間ほど待ってもらい、あらためてもう一枚描き直した。ところが、「これで良し」と思って、気に入らない方を四つに引き裂いたつもりが、描き直した方を破ってしまった。さんざん待ってもらったあげく、不出来な方を渡したのだ。
『蝸牛』(狂言) 「長寿の薬である蝸牛を取って来い」と、主が太郎冠者に命ずる。蝸牛を知らぬ太郎冠者は「蝸牛とは土から生じて藪に住み、頭が黒くて腰に貝をつけ、折々は角を出し、年功を経たものは人ほどの大きさになる」と教えられて、藪中に寝ている山伏を蝸牛と思い、連れ帰ろうとする。
『恋におちて』(グロスバード) クリスマス・イヴ。建築技師のフランクは、妻や子供たちのためにたくさんのプレゼントを買った後、書店へ行った。イラストレーターのモリーも、夫や老父に贈るたくさんのプレゼントをかかえて、書店に寄った。二人とも手に持った荷物が多く、レジ付近が混雑していたこともあって、買った本の包みを互いに取り違えてしまう。二人は帰宅した後に、間違いに気づく。これがきっかけで、彼らはデートするようになった。
『堀の内』(落語) 男が粗忽な性格を治してもらおうと、堀の内のお祖師様に参詣する。弁当を風呂敷に包んで来たつもりが、枕を女房の腰巻きに包んであったので、帰って女房を叱ると、そこは隣の家だった。男は息子を湯屋に連れて行き、他人の子の着物を脱がせ、よその人の背中を流し、ついには湯屋の羽目板を息子の背中と間違えて洗う。
*荷物と赤ん坊を取り違え、荷物を捨てずに赤ん坊を捨てる→〔子捨て〕5の「燃える、逃げる」(松谷みよ子『現代民話考』)。
★.男が、女の居所近くにいたため、その愛人と間違えられる。
『浅茅が露』 中納言が一条大宮に荒れはてた屋敷を見出し、物語する女たちをかいま見していたところ、その家の中君の恋人と間違えられ、あやうく中へ引き入れられそうになる。
『狭衣物語』巻3 狭衣が故飛鳥井女君との間にもうけた遺児は、一品宮(=後一条帝の姉)の養女となった。狭衣は、遺児見たさに、夜更けに一品宮里邸の戸口に立つ。それを権大納言が見咎め、「狭衣が一品宮のもとに通っている」と人々に言いふらす。狭衣は、十歳ほども年上の一品宮と結婚せざるを得なくなる。
『増鏡』第9「草枕」 前斎宮(=ト子内親王)が、愛人である大納言実兼の訪れを待っていた。夕闇の頃、大臣師忠が忍び歩きの途中、前斎宮邸の近くで実兼の車に行き会う。師忠は実兼の車を避けるため、たまたま開いていた前斎宮邸の門内に入る。すると前斎宮邸では、師忠を実兼と間違えて屋内に招き入れた。門外の実兼は、「師忠も前斎宮と関係を持っていたのか」と思い、帰ってしまった。
『雪たたき』(幸田露伴) 夫が海外貿易で留守の間に、妻が密夫を引き入れる。雪の夜、下駄の歯につまった雪をたたき落とす音をいつもの合図と間違えて、侍女が通りかかりの男を屋敷内へ入れてしまう。
*闇の中で間違えて、夫とは別の男と関係を持つ→〔身代わり〕5の『大経師昔暦』「大経師内」・〔闇〕3aの『デカメロン』第9日第6話。
★.男が、目当ての女性とは別の人を誤って連れ出す。
『苔の衣』 大納言には東院の上・西院の上の二人の妻がいた。東院の上は子供にめぐまれず式部卿宮の姫君を養女とし、西院の上は若君二人・姫君一人をもうけて死去した。後、美貌の西院の姫君は関白家の中納言との結婚が決まり、これを不快に思う東院の上は、弟源中納言をそそのかして西院の姫君を盗ませようとする。しかし源中納言は誤って式部卿宮の姫君を連れ出す。
『十二人姫』(御伽草子) 関白が衛門督の十一番姫を盗み出したつもりが、それは実は衛門督北の方の姪だった。
『堤中納言物語』「花桜折る少将」 桜咲く邸でかいま見た姫君を、ある夜中将が盗み出す。しかし、車に乗せて来た女性を見ると、それは姫君を守るため添い寝をしていた祖母の尼だった。
『夜の寝覚』(中間欠巻部分) 寝覚の上を思慕する宮の宰相中将は、ある夜故関白邸にしのび入り、寝覚の上と誤って故関白の中君を盗み出す。
*闇の中で間違えて、目指す女とは別の人と関係を持つ→〔身代わり〕5の『大経師昔暦』「大経師内」・〔闇〕3aの『東海道中膝栗毛』3編上「日坂(にっさか)」。
★.手違いによって、夫婦交換をしてしまう。
『堤中納言物語』「思はぬ方にとまりする少将」 故大納言に二人の娘があり、姉は右大将家の少将を恋人とし、妹は右大臣家の権少将を恋人としていた。権少将も「少将」と呼ばれることから間違いがおこり、ある夜、権少将からの迎えの車に姉君が乗り、少将からの迎えの車に妹君が乗ってしまった。姉妹は驚き、ひたすら嘆いたが、一方、少将と権少将には、思いがけぬ手違いを喜ぶ気持ちもあった。
『覆面の舞踏者』(江戸川乱歩) 秘密クラブの会長が十七組の男女を仮面舞踏会に招き、番号札を割り当てて、それぞれ未知の相手と一夜を過ごす、という企画を立てる。実際は、各夫婦ごとがカップルになるように仕組んであり、仮面を取って、お互いが妻であり夫であることに驚く、という趣向だった。ところが、番号札の11番と17番の読み違いから、「私」は友人井上の妻春子と一夜を過ごし、「私」の妻は井上と関係を持ってしまった。
コーヒー発見の伝説 アラビアの回教徒シェーク・オマールが、山中で一羽の鳥が赤い木の実をついばみ、陽気にさえずるありさまを見た。オマールもその木の実を採り、煮出し汁を飲んだところ、心身に精気がよみがえった。医者でもあったオマールは、この実を用いて多くの病人を救った〔*エチオピアの山羊飼いカルディが、赤い実を食べ日夜動き回る山羊の群れを見て、コーヒーの効果を知ったという伝説もある〕。
*鳥のふるまいを見て酒を発見する→〔酒〕3の『ジャータカ』第512話・『曽我物語』巻2「酒の事」、→〔踊り〕3cの雀躍(高木敏雄『日本伝説集』第22)。
『古今著聞集』巻9「武勇」第12・通巻337話 後三年の役の時。一行(ひとつら)の鴈が田に降りようとして何かに驚き、列を乱して飛び帰った。これを見た八幡太郎源義家は、かつて大江匡房から「軍(いくさ)、野に伏す時は、飛鴈つらをやぶる」と教わったことを思い出し、野に敵兵が潜んでいると察知する。義家は敵を打ち破り、「江帥(がうそつ=大江匡房)の一言がなかったら、危ない所だった」と言った。
『平治物語』下「悪源太誅せらるる事」 悪源太義平が、平家の人々を討とうと都周辺に潜伏する。ある日彼は逢坂山で、前後不覚に眠ってしまう。鴈の列がその上を飛ぶ時、左右へパッと分かれる。通りかかった難波次郎経遠がこれを見る。経遠は「『敵(かたき)、野にふす時は、飛鴈行(つら)を乱る』と古書にある」と言って山中を探し、悪源太義平を捕らえた。
『保元物語』(古活字本)巻下「為朝鬼が島に渡る事」 大嶋に流された為朝が、沖へ飛ぶ白鷺青鷺二羽を見て「嶋があるのだろう」と思い、舟を出して鬼が嶋に到る。
『マハーバーラタ』第10巻「夜襲の巻」 アシュヴァッターマンは、父ドローナを謀殺したパーンドゥ軍への復讐の念を抱き、森で夜を過ごす。一羽の大フクロウが現れ、菩提樹に眠る何千もの烏を襲い次々と殺す。これを見てアシュヴァッターマンは夜襲を思いつき、パーンドゥ軍の陣に侵入して、眠る戦士たちのほとんどを殺す。
*→〔草葉〕2の雀の宮の伝説。
*→〔三度目〕1の『創世記』第8章。
*→〔食物〕7aの白米城の伝説。
*→〔動物教導〕3の『日本書紀』巻1・第4段一書第5。
『閑居の友』上−13 鳥籠に入れた二羽の山がらのうち、一羽は多く餌を食い肥えて活発だった。もう一羽は物も食わず痩せほそり、やがて籠の目からぬけ出て飛び去った。これを見た男は、「憂き世を出でんとする人もこの痩せ鳥のごとくあるべきだ」と悟り、剃髪した。
『今昔物語集』巻19−6 京の生侍が、産後の妻に食べさせるため、美々度呂池の雄鴨を射殺す。ところが雌鴨が夫鴨の後を慕い来て、棹に懸けた夫鴨の遺体に寄り添う。これに感じた生侍は、愛宕護山へ登り法師となる。
『日本霊異記』中−2 雌烏が、夫烏の留守の間に他の雄烏と姦通し、雛鳥を捨てて顧みなかった。これを見た泉郡の大領血沼県主倭麻呂は世をいとい、妻子と別れて出家した。
『太平記』巻9「高氏願書を篠村の八幡宮に籠めらるる事」 足利高氏が、丹波篠村の新八幡に北条幕府討伐を祈り、願書と矢を奉る。山鳩一つがいが飛来し、その後を追って行軍すると、山鳩は都の大内裏の旧跡に到り、神祇官の前の樗の木に止まった。
*烏に導かれる→〔烏(鴉)〕4。
『菅原伝授手習鑑』2段目「道明寺」 淵川へ沈んで行方のわからぬ死体がある時は、鶏を船に乗せて捜せば、死体のある所で鶏は鳴く。この習性を利用して、悪人土師兵衛・直禰太郎父子が箱の蓋に鶏を乗せ、死体を沈めた池に浮かべて、夜のうちに鶏を鳴かせる→〔鶏〕2。
*烏(鴉)が、死体のありかを教える→〔烏(鴉)〕3b。
『トプカピ』(ダッシン) 盗賊団が、イスタンブールのトプカピ(=トプカプ)宮殿にあるスルタンの宝剣を盗もうと計画する。どんな軽い物が床に触れても警報が鳴るので、彼らは天窓から侵入し、ロープで身体を吊り下げて宝剣を取り、にせものとすりかえておく。これで、国外に逃亡するまで、盗みは発覚しないはずだった。ところが、一羽の小鳥が天窓から入り込んだことに、盗賊団は気づかなかった。小鳥は床に降り、警報が鳴り響いた。
『絵本太閤記』 石川五右衛門は、関白秀次の家臣木村常陸介から、太閤秀吉暗殺を依頼される。五右衛門は伏見城の奥深くに忍び入り、高いびきで眠る太閤を討とうと、刀に手をかける。その時、太閤の枕元に置かれた千鳥の香炉が、数声鳴く。思いがけぬことに五右衛門がたじろぐ間に、太閤は起き上がって家来を呼ぶ。五右衛門は捕らえられて、釜茹でになる→〔処刑〕4の『本朝二十不孝』(井原西鶴)巻2−1「我と身を焦がす釜が淵」。
『瓜姫物語』(御伽草子) あまのさぐめが瓜姫をつかまえて木の上に縛りつけ、自分が瓜姫の代わりに守護代の嫁になろうとする。夜、嫁迎えの輿に乗せられて木の下道を通る時、鳥が「ふるちご(瓜姫)を迎へとるべき手車にあまのさく(さぐめ)こそ乗りて行きけれ」と囀る。人々は松明(たいまつ)を掲げ、木の上に瓜姫を見出す。あまのさぐめは輿から引き出され、罰せられる。
『灰かぶり』(グリム)KHM21 灰かぶり(シンデレラ)の異母姉二人は、足を切って靴に合わせ、王子と結婚しようとする。王子がにせ花嫁とともに馬に乗って行くと、二羽の鳩が「靴の中は血だらけ。本当の嫁はまだ家にいる」と教える。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第4日第9話 弟が兄のために花嫁を見つけ、鷹と馬とを土産に帰国する。途中、鳩の夫婦が「兄は鷹に目をくり抜かれ、馬に首を折られ、新婚初夜に龍に喰われる。このことを知らせる者は大理石に化す」と語るのを弟は聞く→〔石〕2。
『聴耳頭巾』(昔話) 氏神様から授かった赤い頭巾を爺がかぶると、烏たちの言葉が聞こえ、村の長者・町の長者の屋敷に病人がでた原因とその治療法がわかる。爺は病人を治して褒美の金をたくさんもらう(岩手県上閉伊郡土淵村)→〔立ち聞き(盗み聞き)〕6a。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章 メラムプスは、蛇の子供を養ったことがあった。蛇は成長後、眠るメラムプスの両耳を、舌で清めた。以来、メラムプスは頭上を飛ぶ鳥の言葉がわかるようになり、鳥から教わって人々に未来を予言した。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ジークフリート」 ジークフリートは大蛇を剣で殺し、指についた血をなめると、鳥の言葉が理解できるようになった。鳥はジークフリートに、指環と隠れ兜のありかを告げ、炎に包まれて眠るブリュンヒルデのことを教えた→〔眠り〕1a。
『泥棒成金』(ヒッチコック) ロビーは第二次大戦前は「猫」と呼ばれた宝石泥棒で、屋根の上を身軽に跳び回って盗みを重ねたが、戦後は堅気になった。ところが、何者かが「猫」の名をかたって宝石泥棒を繰り返し、ロビーは身に覚えがないのに警察に追われる。美女フランシーの母親の宝石が「猫」に盗まれ、フランシーはロビーを疑う。ロビーは真犯人が旧友ベルタニであることを明らかにして濡れ衣を晴らし、フランシーと結婚する。彼女の母親も、ロビーをたいへん気に入った。
『ピンクの豹』(エドワーズ) 怪盗ファントムが、ダーラ王女の持つ世界一のダイヤモンド「ピンクの豹」をねらっていた。クルーゾー警部が、怪盗ファントムの正体がチャールズ卿であることをつきとめ、彼とその甥を逮捕する。実はクルーゾー警部の妻はチャールズ卿の愛人であり、ダーラ王女もチャールズ卿に好意を抱いていたので、二人は相談して、「ピンクの豹」をクルーゾー警部のポケットに入れる。クルーゾー警部は、怪盗ファントムと見なされ逮捕される。ところが市民たちは皆、怪盗ファントムの大ファンであり、クルーゾー警部も悪い気はしなかった。
『黄金の七人』(ヴィカリオ) リーダーの「教授」以下七人の男と「教授」の情婦ジョルジア、合計八人が巧みに役割分担をして、スイス銀行の大金庫から七トンの金塊を盗み出し、イタリアへ運んだ。彼らは金塊の分配について話し合い、その間、金塊を積んだトラックを坂の上に停めておく。ブレーキがゆるんでトラックは坂を降下し、大通りの屋台店に突っ込む。散乱した金塊に、大人も子供も群がって奪い合う。七人の男と一人の女は、金塊を諦めて逃げ去った。
おばあちゃんの遺体が消えた(ブルンヴァン『消えるヒッチハイカー』) ワシントン州のある一家が休暇旅行中、メキシコの国境を越えたあたりで祖母が死んだ。一家は、祖母の遺体を寝袋に入れ、車の屋根に縛りつけて、最寄りの町の警察署へ届け出る。ところが、中で手続きをしている間に、一家の車は遺体ごと盗まれてしまった。遺体も車もいまだに行方不明のままである。
包みの中に死んだ猫(ブルンヴァン『消えるヒッチハイカー』) ある女性が、死んだ飼い猫を靴の箱に入れて埋めに行く途中、デパートに立ち寄った。買い物をする間、靴の箱をカウンターに載せておいたところ、それを盗まれてしまった。しばらく後に警備員が、トイレで気絶している女を発見した。女の膝の上には、蓋の開いた靴の箱があった。
『ギルガメシュ叙事詩』 不死を求めて旅をするギルガメシュは、山の地下を通る何十里もの長いトンネルを抜けて、宝石の実をつけた木々のある美しい楽園に到る。彼はそこからさらに遠くへ踏み込み、不死を得た唯ひとりの人間であるウトナピシュティムのもとに、たどり着く。
『今昔物語集』巻5−31 天竺の人が不思議な牛のあとを追って岩穴に入り、四〜五里ほど進むと広い野原があって、美しい花々が咲き果実が実っていた→〔石〕2。
『捜神後記』巻1−5(通巻5話) 漁夫が桃林の奥をきわめようとして、谷川をさかのぼる。林の尽きたところに峰があり、山腹に狭い洞穴があって、中はぼんやり光っている。漁夫は洞穴に入り、数十歩進むと突然視界が開け、村里があった→〔異郷訪問〕2。
『雪国』(川端康成) 無為徒食の島村の乗った汽車は、国境の長いトンネルを抜けて雪国に到る→〔異郷訪問〕9。
*異郷へ通ずる穴→〔穴〕2。
*異郷へ通ずる井戸→〔井戸〕7。
『かいま見た死後の世界』(ムーディ)2「死の体験」 瀕死の「私」に、医者が臨終を宣告する。耳障りな大きな音が聞こえはじめ、長くて暗いトンネルの中を高速度で通り抜けていく感じがする。突然、自分の物理的肉体から抜け出たのがわかる。すでに死去している親戚や友人の霊がそばにおり、「私」は光の生命に出会う。
『地獄穴訪問』(アイヌの昔話) 二人の老人が山へ狩りに行き、獲物を追って洞穴へ入る。洞穴を進むと、向こうにはコタン(=村里)があった。犬が吠えついてきたが、コタンの人々には、二人の姿が見えないようであった。二人が引き返そうとすると、いつのまにか、着物の裾に人がたくさんぶらさがっている。二人はそれらをむしり取り、洞穴から外へ出た。家へ帰ってから、一人は「いいコタンだった」と懐かしがり、まもなく死んだ。もう一人は「いやな村だった」と言って、長生きした。
『赤毛連盟』(ドイル) 著名な犯罪者ジョン・クレーは、スポールディングという偽名を使って、質屋の店員となる。彼は主人ウィルスンを、赤毛連盟事務所に毎日通わせ(*→〔髪〕8c)、主人が留守の間に仲間を引き入れて、質屋から銀行の地下金庫までトンネルを掘る。ねらいは、金庫の中のナポレオン金貨三万枚だった。ホームズはスポールディングに会った時、ズボンの膝に注目する。何日もの穴掘りの結果、膝頭は、すり切れ、しわだらけで、汚れていた。
『七賢人物語』「妃の語る第七の物語」 騎士が王妃に恋し、王妃の住む城のすぐ隣に家を建てる。騎士は石工に命じて城壁に秘密の穴を掘らせ、そこを通って王妃のもとへ行き、関係を結ぶ→〔瓜二つ〕5a・〔指輪〕2a。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ)16 イフの城の暗牢に入れられたファリァ神父は、ベッドの金具でのみを作り、壁を掘り抜いて脱獄をはかる。海に面した城壁に出るはずが計算を間違え、十五メートルも堀った穴は、エドモン・ダンテスのいる牢の方へ向いていた。
『ショーシャンクの空に』(ダラボン) 銀行の副頭取アンディは、妻と間男殺しという無実の罪で、終身刑になる。収監されたショーシャンク刑務所では、所長が不正蓄財に励んでいた。経理に詳しいアンディは所長のために、不正をごまかす書類を作成してやる。そのおかげで、アンディが独房の壁に映画女優の大きなポスターを貼っても、所長は咎めなかった。二十年近くたったある朝、アンディは独房内から忽然と消えた。ポスターをはがすと、壁にトンネルが掘られていた。
『恩讐の彼方に』(菊池寛) 主殺しの大罪を犯し、盗賊に成り下がった市九郎は、やがて半生を懺悔し、出家して名を「了海」と改め、諸国を行脚する。豊前国山国川の鎖渡しの難所で、毎年何人もの犠牲者の出ることを知り、了海は岩を掘り抜き人馬の通れる道を造ろうとする。村人から嘲られながらも、二十一年かけてついに洞門は貫通する。
『春雨物語』「捨石丸」 陸奥の長者の雇人・捨石丸は、主殺しの汚名を着せられて江戸へ逃げ、さらに豊前まで赴いて暮らすうち、疔を病んで腰が抜ける。腕力は人一倍あるので、捨石丸は罪滅ぼしに岩山に隧道を掘り抜き、在地の人の行路の難を除こうと志す。長者の子小伝次が仇討ちに来るが、彼も捨石丸に協力する。何年か後に隧道は完成し、まもなく捨石丸は病没して、捨石明神として祀られる。
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