*関連項目→〔洪水〕
イスの都の伝説 五世紀頃、ブルターニュにイスという都が栄えていた。イスは海面より低いので堤防で囲まれていた。ある夜、悪魔に誘惑された王女アーエスが堤防の水門を開け、満潮の海水が街に流れこんで、イスの都は海底に没した(中木康夫著・音楽之友社刊『騎士と妖精』による)。
『捜神記』巻13−8(通巻326話) 始皇帝の時代に、「城門に血がつくと城は沈んで湖になる」との童謡がはやる。老婆が心配して毎朝城門を見に行く。門番がわけを聞き、犬の血を城門に塗りつける。老婆は逃げ去り、町は湖になる〔*『述異記』(祖冲之)に、門番が城門の礎石の石亀の眼に血を塗り、町が水没する、との類話がある。『宇治拾遺物語』巻2−12の類話では、山の卒塔婆に血を塗って、山崩れが起こる〕。
『捜神記』巻20−7(通巻455話) 龍の化身の老人が、「町の東門にある亀の石像の眼が赤くなったら、町は陥没する」と老婆に教える。子供が老婆をだまそうと亀の眼に朱を塗り、老婆は逃げるが、青い着物の子が現れて「僕は龍の子だ」と告げ、老婆の手を引いて山に登る。町は陥没して湖になる。
『夜叉ケ池』(泉鏡花) 鐘楼守萩原晃は、毎日三度鐘をついて夜叉ケ池の龍神を鎮める。雨乞いのため、村人たちが萩原の妻百合を裸体にして黒牛に載せようとし、百合はこれを拒否して自害する。村人の身勝手に怒った萩原は鐘をつくのをやめる。たちまち夜叉ケ池から津波が起こり、村は水没する。
『呂氏春秋』巻14「孝行覧・本味」 ある女が、伊水のほとりにいた時に身ごもった。神が女に、「臼が水を噴き出したら東に向かって走れ。ふりかえってはならぬ」と夢告し、翌日、臼が水を噴き出した。女は東へ逃げ、十里走ってふりかえると、女の村は水没していた。女は空桑(=うつろのある桑の木か?)に化した〔*→〔禁忌〕4の『創世記』第19章、ロトの妻が塩の柱に化す物語と類似する〕。
*→〔旅〕2aの『変身物語』(オヴィディウス)巻8。
*→〔長者〕2aの湖山長者の伝説。
*→〔蛇〕3の『ドイツ伝説集』(グリム)132「ゼーブルク湖」。
*→〔蛇息子〕3の『捜神記』巻20−15(通巻463話)・『太平広記』巻458所収『広異記』。
『海底軍艦』(本多猪四郎) 一万二千年前、太平洋上にムウ大陸があり、強大なムウ帝国が世界を支配していた。しかし呪われた運命により、ムウ大陸は一夜にして海底に没した。ムウ帝国は滅びることなく、海底王国を築いた。二十世紀の半ばを過ぎた頃、彼らは再び世界を支配下に置こうと、地上への侵攻を開始する〔*旧日本海軍の神宮司大佐が建造した海底軍艦が、ムウ帝国の中枢を撃破して、世界を救った〕。
『コクーン』(ハワード) 一万年前、アンタレア星人が地球を訪れ、アトランティス大陸に基地を造った。しかしアトランティス大陸は突如水没したため、脱出できなかった宇宙人二十体ほどが、繭(まゆ)に入って海底に沈んだ〔*二十世紀になって、アンタレア星人は再び地球を訪れ、海底の繭を故郷の星へ運ぼうとする。ところが事故で二体が死んでしまい、アンタレア星人は繭を宇宙船に載せることの危険を悟って、また海底へ戻した〕→〔宇宙人〕2b。
*アトランティス大陸のアレリアン国→〔時間旅行〕3dの『王様のご用命』(シェクリイ)。
『日本沈没』(小松左京) 一九七×年。未曾有の地殻変動が二年以内に起こり、日本列島全体が水没する可能性が高くなった。政府は、一億一千万の日本国民を海外へ移住させるべく、船舶・航空機を手配し、諸外国へ移民受け入れを要請する。皇室はスイスへ移すこととなった。火山の噴火、巨大地震、大津波などの頻発で多数の犠牲者を出しつつも、七千万人近くが、沈み行く日本列島から、かろうじて脱出できた。祖国を失った日本人たちは、別れ別れになって他国へ移住し、過酷な未来を生きねばならない。
『ウォーターワールド』(レイノルズ) 未来の地球は、陸地がすべて水没し、海ばかりの世界になっていた。人々は海上に浮遊都市を作って居住し、真水と土は高値で取引きされた。海洋を旅する男マリナーが、浮遊都市の人々とともに気球に乗り、伝説の陸地「ドライランド」を発見する。そこは緑の山と清らかな水に恵まれ、馬の群れが駆ける豊かな土地であり、皆は歓喜する。しかしマリナーは陸地よりも海洋の暮らしを選び、海の彼方へ去って行った。
『水中都市』(安部公房) 「おれ」の父が魚に化した(*→〔魚〕4a)後、町が水中に沈み、「おれ」たちは空を飛ぶごとく水中を泳ぎまわる。残念ながらタバコが吸えないし、野良魚に首を噛み切られる危険もある。「おれ」は水中都市の風景を眺め、魚になるくらいなら消えてなくなる方がいい、と思う。
『近江国風土記』逸文 天女八人が白鳥となって降り、伊香の小江(=余呉湖)で水浴をする。伊香刀美(いかとみ)という男がこれを見、白い犬を遣わして末娘の羽衣を盗み取らせる。伊香刀美は彼女を妻とし、二人の間に男児二人・女児二人が生まれる。しかし後に、天女は羽衣を探し出し、夫と子を残して天に昇った。
『丹後国風土記』逸文「奈具社」 比治山の頂の真奈井に天女八人が降りて水浴をする。和奈左の老夫・老婦が一人の天女の衣を隠す。天に昇れなくなった乙女に、老夫婦は「われらの児となれ」と言い、家に連れ帰る→〔追放〕1c。
『天人女房』(昔話) 男が水浴する天女の羽衣を隠し、天女と結婚して子供もできる。ある時天女は羽衣を見つけ出し、子供をかかえて天へ帰る(香川県三豊郡)→〔九百九十九〕2。
『バーガヴァタ・プラーナ』 ゴーピー(牛飼いの娘)たちが河岸に衣服を脱ぎ捨てて、ヤムナー河で遊び戯れていた。彼女たちの憧れの的であったクリシュナは、河岸へ行って皆の衣服を奪い木の上に登る。彼は「ここまで着物を取りに来い」と言って娘たちをからかう。
『火の鳥』(手塚治虫)「羽衣編」 未来世界の女が十世紀の三保の松原へやって来て、浜の美しさ・清らかさに感動し、衣を松にかけ、泳ぎたわむれる。漁師ズクが衣を隠し、「三年間だけ夫婦になってくれ。三年たったら衣を返すから、天へ帰るがいい」と請う。ズクと女は夫婦になり、娘が一人生まれる→〔時間旅行〕2b。
*→〔飛行〕1cの『今昔物語集』巻11−24は、男が水浴する女と結婚する物語の変型。
*河で泳ぐ半裸の女たちを、計略を用いて見る→〔時計〕3bの『吾輩は猫である』(夏目漱石)11。
『西遊記』百回本第72回 女の妖精七人が三蔵法師を捕え、あとで蒸して食うつもりで洞の中に吊しておき、濯垢泉へ湯浴みに出かける。あとをつけた孫吾空は鷹に姿を変え、妖精たちの脱ぎ捨てた着物を一枚残らずさらって行く。
『サムエル記』下・第11章 ある日の夕暮れ時、ダビデ王は王宮の屋上から、人妻バト・シェバ(バテシバ)が水を浴びているのを見る。バト・シェバはたいそう美しかったので、ダビデ王は彼女を寝所に召し、彼女は子を宿す。ダビデ王は、バト・シェバの夫ウリアを戦場に送って戦死させる。
『ダニエル書への付加』(旧約聖書外典) 人妻スザンナが庭園で水浴する。裁判人である二人の長老が彼女に情欲を抱き、その姿をのぞき見て情交を迫る。スザンナが拒絶するので、二人の長老は「彼女が若者と姦淫した。我々はその男を取り押さえようとしたが、逃げ去った」と人々に言い、スザンナを死罪にしようとたくらむ。
『変身物語』(オヴィディウス)巻3 狩りに出たアクタイオンは、山の泉で水を浴びる処女神ディアナ(アルテミス)の裸身を見る。怒ったディアナが水をすくってかけるとアクタイオンは鹿に変わり、自分が飼っている猟犬たちに喰い殺される〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第4章に簡略な記事〕。
★4a.行水する女を見る。水浴する女とそれを見た男が性関係を結ぶ物語の変型。
『好色一代男』巻1「人には見せぬ所」 仲居女が、盥(たらい)で行水のついでに自慰をする。九歳の世之介が、屋根の上から遠眼鏡で、そのありさまをのぞき見る。世之介はその夜、仲居女の部屋へしのび入り、口説く。しかし九歳では色事はできず、仲居女は世之介を懐に抱いて、乳母のもとへ届ける。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)6 水島寒月が「俳劇(=俳句趣味の劇)」の脚本を創る。「舞台中央に柳の木を植え、枝へ烏を止まらせる。下に盥があり、美女が行水をしている。高浜虚子が通りかかり、この情景を見て、『行水の女に惚れる烏かな』と吟ずる。そこで拍子木を入れ、幕を引く」。苦沙弥先生や迷亭たちにこの脚本を披露するが、あまりに短くて劇の体をなしていないので、不評だった。
『捜神記』巻14−17(通巻356話) 宋士宗の母が、夏の日浴室で行水をした。長時間出てこないので家人がのぞき見ると、母はすっぽんに化していた〔*同・巻14−16(通巻355話)・巻14−18(通巻357話)は、ともに、行水する母が亀に変わる話〕。
『チャタレイ夫人の恋人』(ロレンス)第6章 コニー(コンスタンス)は、夫クリフォード卿からの命令を伝えに、雇い人である森番メラーズの家まで行く。メラーズはコニーの来訪に気づかず、裏庭で裸になって水を浴び、石鹸で身体を洗っていた。コニーは、思いがけぬものを見た驚きを子宮で受け止め、あわてて森の方へ逃げた〔*やがてコニーは、メラーズと関係を重ねるようになる〕。
『ユリシーズ』(ジョイス)第2部13「ナウシカア」 夏の夕暮れ時、三十八歳のレオポルド・ブルームは、海岸で遊ぶ三人の少女のうちの一人、十八歳ほどのガーティ・マクダウエルに目をとめる。ガーティはブルームの視線を感じ、好もしい男性だと思って、ブルームとの恋愛を夢想する。ブルームはガーティを見ながら、片手をズボンのポケットに入れ、自慰を始める。岩にすわっていたガーティは姿勢を変えて、下着をブルームに見せる。
*夕暮れ時、湖のほとりの美女を、王子が見る→〔夜〕1の『白鳥の湖』(チャイコフスキー)第2幕。
*→〔温泉〕4に関連記事。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)2編上〜下「三島」 三島の宿で、弥次郎兵衛が指をすっぽんに喰いつかれて騒いでいる間に、ごまのはえ十吉が胴巻の金を盗み、石ころを紙に包んだものとすりかえる。金をなくした弥次・喜多二人は、所持品を少し売って一時をしのぎ、静岡の知り合いを訪ねて金を用立ててもらう。
『椀久末松山』上 椀久が、為替の金五十両を石瓦とすりかえて父久右衛門に渡す。久右衛門は財布の上から手さぐりして金でないことを知るが、だまって受け取り、翌日椀久が豪遊している座敷に乗りこんで、人々の前でそのことを明かす。
『盗まれた手紙』(ポオ) 身分ある夫人が愛人からの手紙を読んでいる時、夫が入ってきたので、手紙を隠そうとテーブルに置く。大臣がそれを他の手紙とすりかえて持ち去り、夫人を脅迫する。探偵デュパンが、その手紙を、自分で作ったイミテーションの手紙とすりかえて取り戻し、夫人を救う。
『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』三幕目「古市油屋の場」 福岡貢(みつぎ)が名刀青江下坂(あおえしもさか)を持って油屋に登楼し、料理人喜助に下坂を預ける。悪人徳島岩次が、鞘はそのままに、自分の刀と下坂の刀身とをつけかえる。それを見た喜助は、岩次の刀(中身は下坂)を貢に渡して帰す。しかし貢は「刀を取り違えた」と思って油屋に戻り、刀に魂を奪われたかのような状態になって、遊女たちや岩次一味を次々に斬り殺す。
『成上り』(狂言) 太郎冠者が、主の太刀を持ったまま眠る。すっぱが太刀を盗み取り、代わりに杖竹を太郎冠者に持たせておく。
『南総里見八犬伝』第3輯巻之2第24回 大塚蟇六は浪人・網乾左母二郎に依頼して、犬塚信乃の所持する足利家の宝刀村雨を、別の刀とすりかえさせる。ところが左母二郎は村雨を自分のものとし、蟇六にはまた他の刀を渡す。蟇六はそれを本物の村雨と思って陣代・簸上宮六に献上し、斬殺される。
『平治物語』下「頼朝生捕らるる事付けたり夜叉御前の事」 清盛が源氏重代の名剣髭切を求めた時、奥波賀の長者大炊は別の剣を髭切と称して献上する。清盛が頼朝に「たしかに髭切か」と尋ね合わせると、頼朝も「髭切にて候」と欺く。
*→〔芝居〕5の『半七捕物帳』(岡本綺堂)「勘平の死」。
*→〔切腹〕2の『長町女腹切』(近松門左衛門)。
★4.平中説話には、香を排泄物にすりかえる話と、逆に、排泄物を香にすりかえる話の両方がある。どちらか一方の話がまずあって、それを変形させてもう一方の話が出来上がったのであろう。
『古本説話集』上−19 色好みの平中(=平定文)は、良い香りのする丁子(ちょうじ)を口に含んで、女を口説いていた。彼の妻がこれを憎み、畳紙の中の丁子を鼠の糞とすりかえた。女のもとから帰った平中は心地悪し気で、唾を吐き、臥した。
『今昔物語集』巻30−1 平中は、本院の大臣に仕える女房・侍従の君に懸想したが、彼女は平中になびかなかった。平中は、侍従の君の排泄物を見ることによって、彼女への恋情を断ち切ろうと考え、彼女の汚物の入った筥(はこ)を奪う。侍従の君は事前にそれを察知し、排泄物の代わりに香を入れておいた。平中は、筥の中身を口に入れ、それが丁子の煮汁と黒方であることを知る。やがて平中は病気になって死んだ〔*『好色』(芥川龍之介)の原話〕。
*平中が侍従の君の筥を開けて死ぬのは、浦島太郎が乙姫様からもらった玉手箱を開けて死ぬ物語と、どこかでつながるのかもしれない→〔箱〕1b。
『古本説話集』上−19 平中は水を入れた硯瓶を隠し持ち、水で眼をぬらしつつ方々の女を口説いていた。ある時平中の妻が水の代わりに墨を入れておいたので、平中の顔も袖も真っ黒になった。
『墨塗』(狂言) 在京の大名が故郷へ帰ることになり、愛人の女に別れを告げる。女は茶碗の水で目をぬらし、大名との別れを悲しむふりをする。それを見た太郎冠者が、茶碗の水を墨とすりかえたので、女の顔は真っ黒になる。女は怒り狂い、大名や太郎冠者の顔にも墨を塗りつける。
*→〔取り違え〕1の『堤中納言物語』「はいずみ」に関連記事。
『僧正殺人事件』(ヴァン・ダイン) 老教授ディラードは連続殺人の罪を養子のアーネッソンに着せ、しかも最後にアーネッソンが服毒自殺したように見せるため、彼のワイングラスに青酸を入れる。探偵ファイロ・ヴァンスが、アーネッソンのグラスとディラードのグラスをすりかえ、ディラードは自分が用意した青酸を飲んで死ぬ〔*→〔自縄自縛〕3の、自らの用意した殺人具にかかって死ぬ物語の一種〕。
『魔術師』(江戸川乱歩)「八対一」 殺人鬼・奥村源造は、明智小五郎に追いつめられ、「もはや、これまでだ。生き恥をさらしたくない」と考え、かねて用意の毒薬の瓶を飲みほす。しかし明智が中身をシャンパンと入れ替えておいたので、源造は死ぬことができない〔*やむなく源造は、舌を噛み切る〕。
『氷点』(三浦綾子)「答辞」 陽子が、中学校の卒業式で総代として答辞を読む。陽子を殺人犯の子と思う母夏枝は、陽子が奉書紙に清書した答辞を白紙とすりかえる。陽子は式場で白紙を見て驚くが、父兄や来賓に、答辞が白紙になっていたことを告げて詫び、自分の言葉で答辞を述べる。
『水鏡』下巻「光仁天皇」 称徳帝の没後、天武帝の孫宰相大市が位を継ぐことになった。ところが藤原百川達が宣命使を語らって、宰相大市即位の宣命を巻き隠し、ひそかに作っておいた天智帝の孫白壁王(光仁帝)を太子と定める由の宣命を、代わりに読ませた。
『怪談牡丹燈籠』(三遊亭円朝)12 萩原新三郎がお露の霊を退けるために身につけていた海音如来像を、隣家の伴蔵が瓦の不動尊像とすりかえる。そのため新三郎は命を失う。
『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』「奥殿草履打」 中老尾上が預かる蒔絵の箱の中の蘭奢待を、局岩藤が草履の片方とすりかえる。その草履には岩藤の焼き印があり、さらに、もう片方の岩藤の草履が尾上の部屋から発見されるので、尾上が岩藤の草履を盗んで蘭奢待と取り替えた、ということになり、岩藤は尾上を草履で打つ→〔仇討ち〕6。
『半七捕物帖』(岡本綺堂)「一つ目小僧」 鳥屋喜右衛門が十五両もする高価な鶉の注文を受け、夜、武家屋敷へ鶉を届ける。一室で待たされていると、一つ目小僧が現れたので喜右衛門は気絶する。一つ目小僧は、片目の按摩少年が変装したものであり、喜右衛門が気を失っている間に、悪人たちが十五両の鶉を安物の駄鶉とすりかえる→〔化け物屋敷〕。
『義経千本桜』3段目「木の実」 若葉内侍らが茶店で休んでいる時、いがみの権太が自分の風呂敷包みと若葉内侍らの包みをすりかえて持ち去り、すぐ戻って来て「包みを間違えた」と言う。権太は自分の包みを受け取って調べ「二十両がなくなっている」と言いがかりをつける。
*宝くじの当たり券とはずれ券をすりかえる→〔くじ〕6のくじ引き券(ブルンヴァン『メキシコから来たペット』)。
★1.慕い合う二人あるいは敵同士が、お互いを目前にしながら会えない。
『君の名は』(菊田一夫) 昭和二十年十一月二十四日の夜八時、後宮春樹は再会を約束した数寄屋橋で、氏家真知子を待つ。しかしその二日前、真知子は伯父に連れられて、東京を離れ、佐渡へ渡ってしまった。後、真知子は東京に戻り、春樹の勤める雑誌社を訪れるが、そのわずか十分前に、春樹は編集長と口論して辞職し、社を去ったところだった。その後も二人はすれ違いを繰り返し、なかなか逢うことができない〔*小説は昭和二十八年までのことを描くが、最後まで、春樹と真知子は肉体的には結ばれない〕。
『桜姫東文章』「三囲堤」 清玄と桜姫とは、お家騒動の争いの混乱の中で、離れ離れになる。清玄は、桜姫の産んだ赤子を抱いて姫を捜し歩く。桜姫は「我が児に逢いたい」と神仏に祈る。二人は三囲堤で偶然行き合うが、暗闇の中ゆえお互いをそれと気づかず、別れてしまう。
『ジャン・クリストフ』(ロラン)第4巻「反抗」〜第6巻「アントアネット」 ドイツの小さな町の劇場で、ジャン・クリストフとアントアネットは出会う。数日後、クリストフの乗る列車とアントアネットの乗る列車が、駅で偶然すれ違う。数分の停車時間に、二人は見つめ合う。後、パリに出たクリストフは、雑踏の向こうにアントアネットを見る。アントアネットもクリストフに気づく。しかし群集や馬車に妨げられて、互いを見失う。アントアネットはクリストフが優れた音楽家であることを知り、思慕するが、肺結核で死ぬ〔*アントアネットの弟オリヴィエがクリストフと親交を結ぶ。しかしオリヴィエも死ぬ〕→〔霊〕1b。
『大菩薩峠』(中里介山) 宇津木兵馬は兄の仇机龍之助を追って諸国を旅する。しかし、たまたま対面してもお互い気づかないとか、兵馬が龍之助の滞在地を訪れた時、一足先に龍之助は立ち去ったところだったなどで、ついに対決の機会を得ないまま、物語は途切れる。
『不如帰』(徳冨蘆花)下編8の2 陸軍中将子爵片岡毅の娘・浪子は、海軍少尉男爵川島武男と結婚して睦まじく暮らすが、結核に侵され、武男の母によって離縁される。浪子は保養のため関西に旅行し、その帰途、山科の駅でたまたますれ違った列車の窓に夫武男の姿を見て、ハンカチを投げかける。それが二人の最後の出会いで、まもなく浪子は死ぬ。
*夫が妻に和解の電話をかけるが、その直前に、妻は夫を殺すための猟銃を持って家を出たため、話し合えなかった→〔電話〕3の『柔らかい肌』(トリュフォー)。
★1a.殺した怪物の蘇生・復活を防ぐため、死体を寸断して、諸方に分葬する。
鬼八(きはち)と御毛沼命の伝説 高千穂地方の異族の首領に走建(はしりたける)という者がおり、後世、鬼八(きはち)と呼ばれた。神武天皇の兄・御毛沼命(みけぬのみこと)が征伐したが、寸断した鬼八の死体は一夜のうちに接合し、もとどおりになった。そこで、あらためて死体の断片を日向・肥後の各地に分葬した(宮崎県西臼杵郡高千穂町)。
*死体の首と胴体を離して、復活を防ぐ→〔首〕7。
*死体を焼いて灰にしてしまえば、生き返れない→〔灰〕2b。
★1b.以下の例も、復活を防ぐために死体を寸断した可能性がある。
『イシスとオシリスの伝説について』(プルタルコス)18 セト(=テュポン)は、兄オシリスを棺に入れて河に投げ込み、殺した。オシリスの妻イシスが嘆き悲しんで棺を息子ホルスのもとへ運び、それを見たセトは、オシリスの死体を十四に切り分けて、別々の場所に埋めた。イシスはパピルスの舟に乗って、オシリスの身体の各部分を捜し集めたが、生殖器だけは魚に食べられてしまったので、見つからなかった。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第7章 ペロプスは、アルカディア王ステュムパロスと戦った時、友情を装って彼を殺し、その身体を八つ裂きにしてまき散らした。そのためギリシアは不作におそわれた。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第13章 ペレウスはイオルコスを破壊した折に、アカストスの妻アステュダメイアを殺しその四肢を八つ裂きにして、彼女の身体を通って軍を市中に導いた。
『古事記』上巻 スサノヲはヤマタノヲロチを酒で眠らせ、十拳剣(とつかのつるぎ)をふるって、ずたずたに斬った(原文は「切散(きりはふる)」)〔*『日本書紀』巻1・第8段本文は「寸斬(つだつだにきる)」。一書では「寸」の字は使われない〕。
為朝の蛇退治の伝説 昔、八丈島がまだ名もない島だった頃、大蛇が島人を困らせていたので、源為朝がこれを退治した。その死骸を八つに切り刻んだところ、一切れが各一丈ずつあったため、それにちなんで島を八丈島と名づけた(東京都八丈島)。
『俵藤太物語』(御伽草子) 俵藤太は強弓で大百足を射殺(いころ)した。そして、「なおも仇をなすことがあるかもしれぬ」と用心し、大百足の死骸をずたずたに斬り捨てて、琵琶湖の水に流した。
『日本書紀』巻21崇峻天皇即位前紀 捕鳥部万(ととりべのよろづ。=物部守屋の従者)が、朝廷の衛士(いくさびと)と戦って大勢を殺した後に、小刀で自らの頸を刺して死んだ。朝廷は、「万(よろづ)の死体を八段に斬り、八つの国に分けて、串刺しにせよ」と命じた。
*→〔出産〕2の『遠野物語』(柳田国男)55・〔逃走〕1aの『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章。
『英雄伝』(プルタルコス)「ロムルス」 ロムルスはローマの王となってから三十八年目、五十四歳の時に、突然どこへともなく姿を消した。「神々の所へさらわれたのだ」と人々は考えた。しかし次のように推測する人もいた。すなわち、元老院議員たちが反乱を起こして神殿でロムルスを殺し、死体を刻んでその各片を皆が衣服のひだに隠して運び出したのではないか、というのである。
★2.返り血のついた衣服の処理法としての寸断。細かく切り刻んで捨てる。
『砂の器』(松本清張) 和賀英良が三木謙一を殺した時、返り血がスポーツシャツに着いた。和賀の愛人リエ子がそのシャツを細かく切り刻み、中央線の汽車の窓から、まき捨てた。乗客の一人がリエ子の振舞いに興趣を感じ、「紙吹雪の女」という随筆が雑誌に載った。それを読んだ今西刑事は、「紙ではなく布切れかもしれない」と思った。
ハイヌウェレの神話 アメタが、夢告によって、椰子の木から生まれ出た少女ハイヌウェレを育てる。成長したハイヌウェレは祭りの夜に村人たちに殺され、アメタは死体を多くの断片に切り刻んで、土に埋める。埋められた死体の各部分からはいろいろな種類のヤム芋が生じ、ウェマーレ族の主食になる(インドネシア・セラム島のウェマーレ族の神話)。
*→〔文字〕3の『南総里見八犬伝』第2輯巻之2第14回、伏姫が自害した時に八つの玉が八方に飛び去り、八犬士が生まれ出た、というのも、このタイプの物語と見ることができる。
死体に生えた稲とトウモロコシの神話 神が最初の人間を竹から発芽させた。男女一対で、子供が一人できた。その頃、食物は木の実だけで、彼らは飢えていた。神は「二種類の良い食物を与えよう。子供を殺し、死体を切り刻んで畑に播け」と、男に夢告した。男が言われたとおりにすると、畑から稲とトウモロコシが生じた(フローレス島、マンガライ族)。
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