『今昔物語集』巻13−11 熊野参詣に出かけた持経者一叡が、山中で終夜法華経読誦の声を聞く。夜が明けてから声の主を捜すと、苔むした白骨死体があり、舌だけが生きた人のごとく赤かった。その夜の夢に、「法華六万部読誦の願を満たすため」と、死者の霊が告げた〔*『古今著聞集』巻15「宿執」第23などに類話〕。
『猿の草子』(御伽草子) 比叡山根本中堂建立の折、地ならしをすると、紅蓮の如き舌が土の底にあって法華経を読誦していた。伝教大師が問うと、「生前六万部の法華経を読誦した」と舌が答えたので、中堂の心柱の礎をこの舌の上に築いた。
『撰集抄』巻2−6 奥州平泉に住む娘が、法華経を読みたくは思っても教えてくれる人がないことを、朝夕嘆いていた。天井から「経を前に置け。私が教えよう」との声があり、八日間で教授が完了した。娘が不思議に思い天井を見ると、苔むしたドクロに、舌のみ生きた人のごときものがあった。
『大智度論』巻9 阿弥陀仏経・般若波羅蜜経を読誦していた比丘が死に、弟子たちが遺骸を焼く。翌日になって、灰の中を見ると、舌が焼けずに残っていた。
『太平広記』巻109所収『旌異記』 南斉の武帝の世、土の中から両唇におおわれた鮮紅色の舌が掘り出された。生前に法華経を誦していた人の舌だというので、その舌を囲んで何人かの人々が法華経を唱えると、唇と舌とが動き出した。
『日本霊異記』下−1 山中に法華経を読む声が絶えず聞こえるので、永興禅師が見に行くと、かつて自分のもとを訪れた修行者の死骸があった。三年後、なおも経読誦の声がするので永興が再び行くと、ドクロの中に舌だけが朽ちずにあった〔*『今昔物語集』巻12−31に類話〕。
★2.獣や龍の舌を切り取って持ち、自分がその獣や龍を退治した証拠とする。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第13章 ペレウスが狩競争で倒した動物たちを、他の仲間が「これは自分の獲物だ」と言って、「ペレウスは何も取れなかったのだ」と笑う。しかしペレウスは、動物たちの舌を切り取って袋に入れておいたので、それがペレウスの獲物である証拠となった。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第13章・15章 龍と闘いこれを殺したトリスタンは、自らも龍の毒気のため意識を失う。その間に別の男が龍の首を切り取って奪い去り、自分が龍を退治したと主張する。しかしトリスタンが前もって龍の舌を切り取り所持していたので、それが証拠となり、真の英雄はトリスタンであることが明らかになる。
『二人兄弟』(グリム)KHM60 七首の龍を退治した主人公が、七枚の舌を切り取っておいてから、疲労のため眠りこむ。別の男が主人公を殺し(*後に薬草で生き返る)、手柄を横取りしようとする。しかし、舌の持ち主こそ龍を退治した本人である、と判定される。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第7話 チェンツォが七首の龍を切り殺す。百姓が龍の首を拾い集め、龍退治の功績を横取りして王女と結婚しようとする。しかしチェンツォは龍の舌を切り取って持っていたので、百姓の嘘がばれる→〔龍〕1a。
*日本には、虎や敵兵の耳を切り取って持ち、自分がその虎や敵兵を討った証拠とする物語がある→〔耳〕1c。
*犬の舌を切り取って、それを人間の舌だといつわる→〔にせもの〕5の『ドイツ伝説集』(グリム)538「ジークフリートとゲノフェーファ」・『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第18章。
『タイタス・アンドロニカス』(シェイクスピア)第2幕 悪人ディミートリアスとカイロンは、皇弟バシナーエスを殺し、その妻ラヴィニアを陵辱する。そして、誰から暴行を受けたかを語ることも書くこともできないように、ディミートリアスとカイロンは、ラヴィニアの舌を切り取り、両手を切り落とす〔*第4幕でラヴィニアは杖を口にくわえ、砂地に犯人の名前を書き記す〕。
『変身物語』(オヴィディウス)巻6 トラキア王テレウスはアテナイ王の娘プロクネを妻としたが、後、その妹ピロメラに恋情を抱き、彼女を羊小屋に閉じ込めて犯した。このことをピロメラが誰にも語らないようにと、テレウスは彼女の舌を切り取った〔*ピロメラは機を織り、白地に緋色の文字を織り込んでテレウスの罪を告発し、姉プロクネに示した〕。
*→〔交換〕3aの『人魚姫』(アンデルセン)。
『舌切り雀』(昔話) 爺と婆と雀が一緒に暮らしていた。爺は山へ柴刈りに行き、婆は雀に「糊を煮ておいてくれ」と頼んで、川へ洗濯に行く。ところが雀は、糊が美味だったので全部なめてしまう。婆は怒って、雀の舌をはさみで切る。雀は泣いて逃げ去り、山から帰った爺が、雀を捜しに出かける(兵庫県美方郡)。
『南総里見八犬伝』第8輯巻之8第90回 辻君(つじぎみ)となった船虫は、客の懐中に金があると知ると、媾合の折に唇を交え、舌を噛み切って殺した(*媾合の折、陰茎を噛み切るヴァギナ・デンタータの物語と通ずるところがある→〔性器〕1eの『耳袋』巻之1「金精神の事」)。
『黄金伝説』15「初代隠修士聖パウロス」 初期キリスト教徒は迫害され、さまざまな拷問を受けた。ある若者はベッドに縛りつけられ、恥知らずな娼婦が彼をもてあそんだ。若者は心ならずも肉欲の昂奮をおぼえたので、歯で自分の舌を噛み切って、娼婦の顔に吐きつけた。
『往生要集』(源信)巻上・大文第1「厭離穢土」 殺・盗・淫・飲酒・妄語の罪を犯した者は、死後、大叫喚地獄に堕ちる。その別処・受無辺苦(じゅむへんく)では、獄卒が熱鉄の金鋏で、罪人の舌を抜き取る。抜きおわると舌は再び生え、それをまた獄卒が抜き取る。
『戒言(蚕飼の草子)』(御伽草子) 天竺の金色姫は継母にいじめられ、うつほ舟で日本に渡るが、やがて病死する。棺におさめた姫の遺骸は、蚕に変わった。
『今昔物語集』巻16−29 長谷観音に参詣する男が、帰りの夜道、検非違使庁の放免たちから死人の処置をおしつけられ、死骸を家に持ち帰る。死骸の重さ堅さを不思議に思い、妻と二人で調べてみると、黄金であった。
*→〔宿〕2の『大歳の客』(昔話)。
『今昔物語集』巻2−12 天竺の燈指(*→〔指〕1)という男は、父母の死後、貧窮に苦しみ惑乱状態になって、墓場から死骸を引きずり出した。それを家に運び、嘆き悲しんでいると、死骸が黄金に変じた。これを聞いた阿闍世王が黄金を取り上げるが、黄金は死骸になってしまった。王が死骸を捨てると、それはまた黄金になった。
*三千両だと思って死体を掘り出す→〔井戸〕4bの『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「招く骸骨」。
『黄金餅』(落語) 物乞い坊主の西念が死ぬ間際に、貯めこんだ金を人に取られるのがいやで、多くの一分銀や二分金を餅の中に入れて、全部呑み込んでしまう。このありさまをのぞき見た長屋の金兵衛が、焼き場まで行き、「西念の骨を拾う」と称して、遺骸から金を取り出す。金兵衛はこの金を元手に目黒で餅屋を営み、繁盛した。
『不思議な手紙』(つげ義春) 火葬場の作業員沼田は、焼き窯にもぐって、遺体から金歯など金目のものを盗み取っていた。同僚たちは「バチがあたるぞ」と言って、沼田を批難した。ある時、沼田が窯の中にいるうちに、窯焚きが始まってしまう。同僚の東(あずま)はそれに気づきながら、かまわず石炭をくべて、沼田を遺体と一緒に焼いた。
『古事記』上巻 スサノヲがオホゲツヒメを殺した。オホゲツヒメの死体の、頭から蚕、二つの目から稲種、二つの耳から粟、鼻から小豆、陰部から麦、肛門から大豆が生じた。
『士師記』第14章 サムソンが裂き殺した獅子の体に蜂が群れ、そこに蜜ができた。サムソンは獅子の死体から蜜をかき集めて食べた。サムソンはペリシテ人の娘と結婚し、宴会を催して、客たちに「食べる者から食べ物が出た。強い者から甘い物が出た」という謎を出した。その謎は、誰も解けなかった。
『たばこの起こり』(昔話) 母が一人娘の死を悲しみ、墓前で毎日泣く。娘の腹から草が生え、大きな葉をたくさんつけたので、母が葉を竹に詰め、火をつけて吸ってみると、なんともいえぬ良い味で心が慰められた。たばこは、もとは一人娘が母を慰めるために生やしたものだ(鹿児島県大島郡)。
『日本書紀』巻1・第5段一書第11 ツクヨミが剣を抜いてウケモチノカミを殺した。ウケモチノカミの死体の、頭から牛馬、額から粟、眉から繭、眼から稗、腹から稲、陰部から麦・大豆・小豆が生じた。
猫と南瓜の伝説 商人が宿の旦那と食事をしていた時、猫が旦那の膳の上を跳び越える。商人が「それを食べるな」と禁じ、旦那の食事を飼い犬に与える。犬は倒れて死ぬ。旦那は怒って猫を殺し、藪に埋める。翌年、藪の中に大きな南瓜がなったのを商人が見つけ、旦那と二人で掘り返す。南瓜の根は、死んだ猫の口から生えており、うっかり食べれば死ぬところであった(宮城県伊具郡丸森町)。
*→〔寸断〕3のハイヌウェレの神話。
『漢武故事』16 漢の武帝に寵愛された拳夫人(鉤弋)の死後、その墓を開くと、棺の中は空で遺体がなく、着物と靴だけが残っていた。
『日本書紀』巻7景行天皇43年 能褒野に葬られたヤマトタケルは、白鳥となって墓から出て飛び去る。群臣が棺を開いてみると、屍衣だけあって遺体は消えていた。
『日本書紀』巻22推古天皇21年12月 飢えた人が倒れていたので、皇太子(ひつぎのみこ=聖徳太子)は自分の衣服を脱いで与えた。飢えた人はまもなく死んで、墓に葬られた。数日後、太子が使者を送って墓を開かせると、死体はなくなっており、与えた衣服が畳んで棺の上に置いてあった。太子はその衣服を以前のようにまた着用した〔*『日本霊異記』上−4・『今昔物語集』巻11−1などに類話〕。
『変身物語』(オヴィディウス)巻3 美少年ナルキッソスが、自らの姿に恋い焦がれて死ぬ。水の精や森の精たちが嘆き悲しみ、棺を用意し火葬の準備をする。ところがいつのまにかナルキッソスの死体が消えており、代わりに、黄色い水仙の花が見つかった。
『ヨハネによる福音書』第20章 イエスの死の翌々日、週の初めの日の朝早く、マグダラのマリアが墓に行くと、墓から石が取りのけてあった。イエスの遺体はなくなっており、遺体を包んだ亜麻布が、墓の中に置いてあった〔*『マタイ』第28章・『マルコ』第16章・『ルカ』第24章に類話〕。
『聊斎志異』巻5−186「西湖主」 陳弼教は、洞庭湖で矢傷を負った猪婆龍(鰐)を救ったことから、龍王の娘と結婚し裕福に暮らす。八十一歳で死んだが、棺を開くと空だった。
*→〔片足〕6の『今昔物語集』巻6−3。
*→〔鹿〕1の『述異記』(任ム)巻下−275。
*堂の中にあるはずの死体が消える→〔密室〕3の『今昔物語集』巻15−20。
『今昔物語集』巻7−25 唐代の僧・僧徹は永徽二年(651)、自らがまもなく死ぬことを弟子たちに告げ、縄床(じょうしょう)に端坐して死んだ。その時、天から花が降り、香ばしい匂いが満ちた。僧徹の死体は三年間、姿勢正しく坐していた。屍臭もなく腐乱することもなかった。ただ、目から涙が出ただけだった。
『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)第3部第7編 修道院のゾシマ長老が、六十五歳で病死する。以前に亡くなった長老については、埋葬されるまで死体がまったく腐敗せず、顔色は明るく、芳香さえ漂っていた、との言い伝えがあった。ところがゾシマ長老の死体からは、死後一日もたたぬうちに腐臭が発した。ゾシマ長老を深く信仰していたアリョーシャは、大きな衝撃を受けた。
★3d.死に近づいた人が姿を消す・行方知れずになるなどして、死体を残さない。
『最後の事件』(ドイル) シャーロック・ホームズがモリアティ教授の犯罪組織を壊滅させたため、モリアティ教授は復讐をくわだて、ホームズを殺そうとつけねらう。ホームズとモリアティは、スイスのライヘンバハ滝の断崖で一対一の決闘をする。格闘の末、二人とも滝壺に落ちたらしく、死体は見つからなかった。
『七王妃物語』(ニザーミー)第44章 バハラーム王は六十歳に達し、菫(=黒髪)にジャスミン(=白髪)が生えた。ある日、王は貴族たちと狩に出かける。皆は荒野で野生驢馬(グール)を求めたが、王は孤独の墓(グール)を捜した。王は野生驢馬を追って洞窟の中へ姿を消し、家臣たちが捜索したが、見つからなかった。
*バハラーム王の死の物語は、天智天皇の死の伝承を連想させる→〔靴(履・沓・鞋)〕2aの『水鏡』中巻。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之53上第180勝回下編大団円 六十歳をこした八犬士たちは、主君に暇を請うて富山にこもる。二十年後、彼らの息子たちが訪れると、八犬士は教訓の言葉を述べ「他山に移らん」と告げて、その場で忽然と姿を消す。あとには異香が薫るのみだった。
*→〔島〕2の『好色一代男』巻8「床の責道具」・〔寸断〕1cの『英雄伝』(プルタルコス)「ロムルス」。
*死体を残さない猫→〔猫〕8の『古今著聞集』巻20「魚虫禽獣」第30。
★3e.たとえ埋葬された遺体があっても、それが当人のものだという証拠はない。
『アーサーの死』(マロリー)第21巻第5〜6章 瀕死のアーサー王が、貴婦人たちの乗る小船でアヴァロンの島へ運ばれて行くのを、ベディヴィア卿が見送る(*→〔島〕3)。しかし翌朝、礼拝堂の隠者から「昨夜、貴婦人たちの依頼で、ある方の遺体を埋葬しました」と聞かされて、ベディヴィア卿は「それはアーサー王の遺体だろう」と思う。ただし、それが本当にアーサー王の遺体だったかどうかは、確認できなかった。
『宇治拾遺物語』巻3−15 棺に入れて鳥部野へ運んだはずの女の遺骸が、いつのまにか彼女の部屋の妻戸口に戻って横たわり、どうやっても動かせない。やむなく板敷を取りのけてそこに埋め、塚を作る。
『黄金伝説』56「聖ゲオルギウス」 聖ゲオルギウスの聖遺物を運ぶ男たちが、ある教会で一夜をあかす。翌朝、聖遺物を入れた容器を持ち上げようとしても重くて上がらない。やむなく聖遺物の一部をその教会に置いていく。
『黄金伝説』119「洗者聖ヨハネ刎首」 ヨハネの聖頭骨をコンスタンティノポリスへ運ぶ車が、カルケドンまで来ると突然進まなくなり、牛をいくら駆り立てても動かない。そのため、聖頭骨をカルケドンに葬ることになった。
『北野天神縁起』 延喜三年(903)二月二十五日に、菅原道真は太宰府で死去した。筑前国四堂のあたりを墓所にしようと葬列が進んだが、途中で車がとどまり、牛がいくら引いても動かなくなった。そこで、その地を墓所と定めて遺骸を埋葬した。それが今の安楽寺である。
『後漢書』列伝71「独行伝」 張劭が死に、葬列が墓穴の所まで来るが、棺を吊り降ろそうとしても動かない。母が棺を撫で「何か心残りがあるのか」と問い、そのまま待つ。やがて夢で親友の死を知った范式(=巨卿)が駆けつけ、彼が棺の引き綱を取ると、棺は動き出す。
『捜神後記』巻4−4(通巻44話) 病死した男の死体が真夜中に起き上がり、通夜をする妻の腕輪をもぎ取ろうとする。妻が腕輪を渡すと死体は倒れて死に、夜明けになって蘇生する。生き返った男は、「冥府の役人に腕輪を贈ったら、放免してくれた」と語った。
『聊斎志異』巻1−3「尸変」 宿に部屋がないため、女の死体を安置する建物に旅人たちが寝る。死体が起き上がり、眠る旅人たちを次々に殺して、生き残った一人の男を追いかける。木の陰の男をつかまえようとして死体は木に抱きつき、ようやく静かになる。
*→〔三人姉妹〕4の『叫びとささやき』(ベルイマン)。
*→〔扉〕4の『半開きの戸』(イギリス昔話)。
*死体が踊る→〔踊り〕4。
*狐がとりついて死体を動かす→〔憑依〕7cの『遠野物語』(柳田国男)101。
『黄金伝説』111「殉教者聖ラウレンティウス」 聖ラウレンティウスの墓所が偶然開かれた。この時、聖人の遺骨を見た納室係や修道士たちは、十日後に全員死んでしまった。
『閑居の友』上−19 比叡山でつかわれている一人の中間僧(ちゅうげんそう=雑用をする法師)が、毎日、夕暮れになると姿を消し、翌朝早くに戻って来る。主が人に命じてあとをつけさせると、中間僧は蓮台野(=火葬場と墓地があった)へ行き、腐乱した死人のそばで一晩中、不浄観をしていた。
『源氏物語』「御法」 紫上が臨終を迎える。夕霧は、かつて野分の折にかいま見た紫上の姿を、ふたたび拝する機会は今以外にはないと思い、人々の騒ぎにまぎれて几帳を引き上げ大殿油をかかげて、紫上の死顔に見入る。
『今昔物語集』巻19−10 蔵人宗正は、愛妻の死後十日余りして、恋しさから棺を開ける。変わり果てた妻の屍体を見て宗正は道心を起こし出家する。
『ドグラ・マグラ』(夢野久作) 一千年前、中国の画家が妻を殺し屍体の変相図を絵巻にした。彼の遠い子孫である呉一郎はその絵巻を見て、自分の妻を殺し屍体の変わり行くさまを見ようとする。
*→〔八人・八体〕2の『古事記』上巻(イザナミの死体)。
*自分の死体を見る→〔自己視〕2a・2b。
★7a.一つの死体を見た複数の人間が、それぞれ自分が殺したと思いこんで、死体の処理に苦慮する。
『千一夜物語』「せむしの男および仕立屋とキリスト教徒の仲買人と御用係とユダヤ人の医者との物語」マルドリュス版第24〜25夜・32夜 仕立屋夫婦の家で食事を御馳走になったせむし男が、魚の骨を喉にひっかけて死ぬ。仕立屋夫婦は死体を病人のごとくよそおって医者の所へ運び、階段の壁に立てかける。医者はつまづいて死体を倒し、自分が殺したと思う。同様にして、王の料理所の御用係と仲買人とが、それぞれ死体を殴り殺したと思いこむ。実は、せむし男は死んではおらず、やがて息を吹き返す。
『智恵あり殿』(昔話) 男が、村の旦那を「女房の所へ来た間男だ」と思って殴り殺す。智恵あり殿が死体の処理を引き受け、博奕場の雨戸に立てかける。「誰かがのぞきに来た」というので、若い衆が旦那の死体を棒で殴り倒す。智恵あり殿が処理を引き受け、死体を旦那の家の戸口へ運び「開けてくれ」と言う。旦那の妻が「夜遊びする夫は帰らんでもよい」と言うので、智恵あり殿は「身投げする」と言って死体を井戸に投げこむ。妻が泣くと、智恵あり殿は死体を蒸籠でむし、医者に見せる。熱病で死んだものと医者は診断し、ようやく旦那の葬式が出せる(新潟県南蒲原郡)。
『ハリーの災難』(ストーリイ) 中年男ハリーの死体が草原で発見される。初老の退職船長ワイルスは、「自分が誤って猟銃で撃ち殺した」と思う。ハリーの前妻ジェニファーは牛乳瓶で、老嬢グレイヴリーは靴で、それぞれハリーの頭部を殴り、二人とも「自分がハリーに致命傷を負わせた」と考える。彼らは死体の処理に苦慮するが、医者がハリーを見て「心臓発作で死んだのだ」と診断する。
『七賢人物語』「第六の賢人の語る第六の物語」 老騎士と若妻が一晩に三人の騎士を家に引き入れて殺し、金を奪う。若妻は、死体を一つだけ兄に見せて、処理を頼む。兄は死体を河に捨てて妹の家に帰るが、部屋にまた死体があるので、「蘇生して戻って来たか」と思い、再び河に捨てる。しかし家に帰るとまたしても死体があるので、兄は今度は森で死体を焼く。そこへ旅の騎士がやって来るので、兄は「また蘇生したか」と思って、旅の騎士を火の中へ投げ込む。
『無関係な死』(安部公房) Aがアパートの自室に帰ると、見知らぬ死体がある。Aは関わり合いになるのを恐れ、死体を他人の部屋に移そうと考える。床に血痕があるので、Aは長時間かけて床を洗う。しかしその行為自体が、かえってAへの疑いを招くことに、あとから気づく。
★7d.殺人犯が、自分が殺した人間以外の死体も処理せねばならなくなる。
『十字路』(江戸川乱歩) 伊勢省吾は妻を殺し、死体を自動車のトランクに入れて運ぶ。十字路で接触事故があり、伊勢がしばらく車から離れている間に、他所で頭を打ってフラフラになった男が伊勢の車をタクシーと思って乗り込み、そのまま死んでしまう。伊勢は死体が二つに増えたことに困惑しつつ、二死体をダム予定地の古井戸に放り込んで処理する。
*死体処理方法としての人肉食→〔人肉食〕3の『二壜のソース』(ダンセイニ)。
*死体をバラバラにして処理する→〔寸断〕1cの『英雄伝』(プルタルコス)「ロムルス」。
*死体を、他の死体の入っている棺桶に押し込む→〔棺〕3の『雁の寺』(水上勉)。
『或る阿呆の一生』(芥川龍之介)9「死体」 「彼」は、王朝時代に取材した短編(『羅生門』)を仕上げるのに必要だったので、医科大学の解剖室を訪れて死体を実見した。死体は皆、親指に針金のついた札をつけていた。
『死者の奢り』(大江健三郎) 「僕」と女子大生は、医学部の解剖用の死体三十体余りを、古い水槽から新しい水槽に移すアルバイトをする。しかし死体は新しい水槽へ移すのでなく、焼却場に運び火葬する手続きだったことがわかり、一日がかりの作業はまったく無駄であった。
『イリアス』第22〜24歌 アキレウスはヘクトルの喉を槍で刺して倒し、「野犬・野鳥がおぬしの身にたかって食いちぎるだろう」と言う。アキレウスはヘクトルの死体の踝(くるぶし)に穴をあけ、紐を通して戦車にしばりつける。そして戦車を走らせ、ヘクトルの死体をひきずりまわして傷つける。ヘクトルの父プリアモス王が莫大な金品を差し出して懇願し、ヘクトルの死体を引き取って火葬する。
★9b.放置された死体を供養・埋葬する。後に死体がその恩を返す。
『今昔物語集』巻10−14 費長房は、白骨化した死体が往来の人に踏まれるのを見て憐れみ、これを埋葬する。後、死者の霊が費長房の夢に現れて礼を述べ、報恩に仙術を伝授する。費長房は飛行自在の仙人となる。
『旅の道づれ』(アンデルセン) 旅の途中ヨハンネスは、乱暴者たちが死体を教会の外へ棄てようとするのをとめ、死体の借金を代わりに払い、棺の中に死体を安置して手を組み合わせてやる。死体は、ヨハンネスの旅の道連れとなり、彼を援助する→〔難題〕1b。
『今昔物語集』巻2−7 貧しい下女が、仏弟子伽旃延の教えにしたがって少量の水を伽旃延に布施する。下女はその夜死んで、ただちにトウ利天に生まれる。天人となった下女は五百の天子を率い、香を焚き花を散らして自分の死骸を供養する。
*天人が自らの前世の骸骨を供養する→〔前世〕3の『発心集』7−12。
『透明人間』第28章(H・G・ウェルズ) 町を支配しようとたくらみ、殺人さえ犯した透明人間を、人々が追い詰める。大勢が道路いっぱいに拡がり、透明人間を袋の鼠にして、殴り、蹴る。透明人間は倒れて息絶え、しばらくしてから徐々に、三十歳前後の男の傷だらけの死体が見えてくる。
『遠野物語』(柳田国男)100 漁夫が夜道を遠方から帰る途中、妻と出会う。妻が一人で夜中にこんな所へ来るはずがないので、これは化け物であろうと思い、漁夫は魚切包丁で妻を刺し殺す。死んだ妻は、しばらくは正体を現さなかったが、やがて一匹の狐となった→〔夢〕17a。
『耳袋』巻之2「猫の人に化けし事」 老母が妖猫の正体を顕したので、息子が切り殺すと死体は老母の姿になる。息子は「母を殺した」と思い切腹しようとするが、友人が「しばし待て」と止める。夜になって死体は次第に古猫の姿を顕す〔*同巻「猫人に付し事」では、猫に取りつかれた母を息子が殺すが、死体は母のままなので、息子は自殺する〕。
『耳袋』巻之7「古狸をしたがへし英勇の事」 夜、妖怪退治に出かけた男の所へ「汝の妻が産気づいたから帰れ」「汝の妻は難産で死んだから帰れ」と、次々に使いが来るが、男は退ける。妻の死骸が恨みを言いに来るので切り殺すと、しばらくは妻の姿のままだったが、朝になって大きな古狸となった。
*僧に化けた古狐が、死んで正体をあらわす→〔行方不明〕3の『半七捕物帳』(岡本綺堂)「狐と僧」。
*→〔虎〕2の『南総里見八犬伝』第9輯巻之27第143回〜巻之30第148回で、人喰い虎の死骸が消え、掛け軸の絵に変ずるのも、死体となってから正体を現す物語の一種。
『サテュリコン』(ペトロニウス)111〜112 貞淑な未亡人が、夫の遺骸とともに地下墓室に入り死のうとする。近くの処刑台の監視兵が未亡人を誘惑し、二人は墓室で関係を持つ。その間に、処刑台の罪人の死体を、家族が盗んで埋葬する。監視兵は死体盗難の責任を負って自殺しようとするが、未亡人が「代わりに、私の夫の遺骸を処刑台の十字架にかければよい」と教える(*エウモルポスの語る物語)。
『エミリーにバラを』(フォークナー) 三十代のミス・エミリーは、古い大きな屋敷に住んでいた。愛人ホーマーが去ろうとするので、エミリーは彼を砒素で殺す。エミリーはホーマーの死体を一室に寝かせ、彼を愛し続ける。長い年月が過ぎ、エミリーが七十四歳で病死して埋葬された後、町の人々は秘密の一室へ入る。腐乱し乾燥したホーマーの残骸がベッドにこびりついており、枕元にはエミリーの髪が落ちていた。
『サイコ』(ブロック) ノーマン・ベイツは母を殺したが、その罪の意識をやわらげるため、母をよみがえらせようと考えた。ノーマンは墓をあばいて母の死体を家に運び、剥製術をほどこし、ドレスを着せて、いっしょに暮らした。やがてノーマンの人格は、「母親」と「息子」に分裂した→〔一人二役〕2。
『白雪姫』(初版グリム童話) 毒りんごを食べて死んだ白雪姫を、小人たちがガラスの棺に納める。死体はいつまでも腐らず、白雪姫は美しいままだった。王子が小人たちから棺を買い取り、城へ運ぶ。王子は棺の傍にすわり、片時も目を離さない。出かける時も棺を持って行く。棺をかつぐ召使たちが、「死んだ娘のおかげでひどい目にあう」と怒り、棺を開けて白雪姫の背中を殴る。喉から毒りんごが飛び出し、白雪姫は生き返る。
『花妖記』(澁澤龍彦『うつろ舟』) 与次郎は、梅花の精のような絶世の美女と知り合い、交わりを重ねる。交わりの間、美女は声もあげず、身体も動かさない。彼女には官能の喜びを享受する素質が欠けており、ただ男を喜ばすことに、純粋な快を見出しているのだという。与次郎は「この女は天人の一類かもしれぬ」と疑う(*→〔性交〕11)。美女は天人ではなかった。与次郎は死体と交わっていたのだ。
*母親の死体から誕生する→〔土〕4に記事。
*死体を背負う・運ぶ→〔背中〕2。
*死体のありかを鳥が教える→〔鳥〕1d。
*死体から世界ができる→〔巨人〕4に記事。
*逆さまの死体→〔棺〕4bの『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)「発端」。
*逆立ちの死体→〔逆さまの世界〕4の『犬神家の一族』(横溝正史)。
『荒野の七人』(スタージェス) 山賊一味がメキシコの山村を略奪し、農民たちに雇われた七人の男が、銃撃戦の末に山賊を全滅させる。男たちも七人のうち四人が死ぬ。生き残った三人のうち一人は村娘と恋仲になって村に残り、二人は村を去る。
『七人の侍』(黒澤明) 野伏り(のぶせり)の略奪から村を守るべく、農民たちが浪人を雇う。七人の貧乏侍が農民たちのために闘って野伏りを撃滅するが、七人のうち四人までが野伏りの鉄砲に撃たれて死に、三人が生き残る。三人は「勝ったのは百姓たちだ」と言って、去る。
『白雪姫』(グリム)KHM53 森の一軒家に七人の小人が住み、金銀鉄鉱を掘る仕事をしている。継母(妃)のもとを逃れた白雪姫が、小人たちの家に迷い込む。白雪姫は小人たちのために炊事や洗濯をし、一緒に暮らすことになる〔*継母の手で白雪姫は殺されるが、某国の王子が森へ迷いこみ、小人たちの家に泊まって柩の中の白雪姫と出会う〕。
『西遊記』百回本第72〜73回 盤糸嶺の洞穴に棲む七匹の蜘蛛の精が、七人の美女の姿となり、臍の穴から糸縄を繰り出して三蔵法師を捕らえ、食おうとする。孫悟空も捕らえられるが、七十本の毛から七十人の小悟空を作り、さすまたで蜘蛛の糸を絡め取ってから、金箍棒(如意棒)で七匹の蜘蛛をたたきつぶす。
七人みさきの伝説 (1)日暮れに七人の黒衣の「みさき(僧)」が現れ、鐘を鳴らして徳山の町を歩く。「見た者は死ぬ」と言われ、「女子供はさらわれる」とも言われる。親指を掌で握りしめていれば、出会っても無事である(山口県徳山市の伝説)。 (2)通津の漁師たちが、漁場荒らしの二艘の船を見つけ、乗っていた七人を殺して岬に埋めた。ところがその日から魚が取れなくなり、祠を立てて七人の霊を弔うと、もとのように魚が取れるようになった(山口県岩国市の伝説)。
『ヨハネの黙示録』第16章 世界の終末の時、七人の天使が七つの鉢に盛られた神の怒りを、次々に地上に注ぐ。海と川は血となり、太陽は人間を焼き、病苦が世をおおうなど、さまざまな災いが起こる→〔地震〕1。
『サウンド・オブ・ミュージック』(ワイズ) トラップ大佐には、十六歳の長女を頭に七人の子供(男児二人・女児五人)がいた。子供たちの家庭教師として、修道女マリアが雇われる。「歌を知らない」と言う子供たちに、マリアは『ドレミの歌』をはじめ、さまざまな歌を教える。トラップ大佐は妻を亡くして以来、孤独な心を抱いて暮らしていたが、子供たちの楽しそうな歌声を聞き、歌うことの喜びを思い出す。大佐はマリアと結婚し、トラップ一家の合唱団は音楽祭で優勝する。
『六羽の白鳥』(グリム)KHM49 六人の兄と一人の妹がいた。継母が彼らを嫌い、魔術を使って六人の兄を白鳥に変える。末の妹が、六年間まったく口をきかず、えぞ菊の花を縫い合わせて六枚のじゅばんを作り、兄たちに着せてもとの人間にもどす〔*類話である『野の白鳥』(アンデルセン)では、十一人の兄と一人の妹〕。
*→〔円環構造〕1のギリシアの七賢人の伝説・〔人数〕1bの『七騎落』(能)・〔眠り〕4bの『黄金伝説』96「眠れる七聖人」・『ドイツ伝説集』(グリム)392「洞窟に眠る七人」・〔墓〕2の七人塚の伝説・〔末子〕2の『狼と七匹の子山羊』(グリム)KHM5。
【嫉妬】→〔妬婦〕
『自転車泥棒』(デ・シーカ) 失業者アントニオは、ポスター貼りの仕事を得た。彼は質屋から請け出した自転車に乗ってローマ市街を走り、ポスターを貼ってまわる。ところが作業中に、大事な自転車を盗まれてしまう。警察に訴えるが、「自分で捜せ」と言われる。アントニオと六歳の息子ブルーノは、終日歩き回って自転車を捜す。犯人らしい男を見つけたものの、証拠がなく、追い返される。いらだったアントニオは、とうとう街角の自転車を盗み、それに乗って逃げる。しかし大勢に追いかけられ、捕らえられる。
『美しき自転車乗り』(ドイル) 独身中年男カラザースの娘の家庭教師として、スミス嬢は雇われた。彼女は、駅からカラザース邸までの田舎道を、自転車で往復する。怪しい顎鬚の男が、自転車に乗って追いかけて来る。スミス嬢が止まれば男も止まり、一定の距離を置いてつけてくるのだ。彼女は気味悪く思い、ホームズに相談する〔*顎鬚の男は、変装したカラザースだった。カラザースはスミス嬢を恋し、彼女を誘拐者から守ろうと、監視していたのだ。しかしスミス嬢には、相思相愛の若い婚約者がいた〕。
『二十四の瞳』(壺井栄) 昭和三年四月、瀬戸内海べりの寒村の分教場に、女学校の師範科を卒業した大石久子先生が赴任する。大石先生の家から分教場までは片道八キロもあるので、大石先生は洋服を着て、自転車をこいで通う。自転車は五ヵ月の月賦で買い、母親の着物を黒く染めて洋服に仕立てたのだったが、村の人たちはそうとは知らず、「おてんばで自転車に乗り、ハイカラぶって洋服を着ている」と思った。
『自転車日記』(夏目漱石) 一九〇二年秋。「余」は神経衰弱にかかり、部屋に閉じこもっていたので、下宿の婆さんから「自転車乗りの稽古をして、神経病を退治しなさい」と勧められた。しかし自転車の操縦はたいへんな難事業で、「余」は幾度も転倒した。大落五度、小落その数を知らず、ある時は石垣にぶつかって向こう脛を擦りむき、ある時は立ち木に突き当たって生爪を剥がし、ついに物にならなかった。
『E.T.』(スピルバーグ) E.T.を宇宙へ還すために、エリオット少年が自転車にE.T.を乗せて走る。その後をNASAや警察が追う。E.T.の力で自転車は空を飛び、宇宙船が待つ森へ到る。
★1.現世の人間のもとを訪れ、冥府まで連れて行く。日本固有の死神の物語はなかなか確認できない。
『アルケスティス』(エウリピデス) 夫アドメトスの身代わりに妻アルケスティスが死ぬ。葬儀の最中に、旅の途次の旧友ヘラクレスがアドメトスの館を訪れ、事情を知って一人墓場へ行き、死神を待ち伏せして格闘する。ヘラクレスはアルケスティスを取り返し、アドメトスに引き渡す→〔身代わり〕3a。
『悲しいワルツ』(シベリウス) 重病の女が死の床についている。夢うつつにワルツの調べを聞き、怪しい客と一緒に女は踊り出す。女は客の顔を見ようとするが、客は女を避ける。やがて扉を叩く音がして、ワルツは止み、客は消える。「死」が敷居に立っている。
『死神のおつかいたち』(グリム)KHM177 死神が大男を連れて行こうとして格闘になり、負けて倒れる。若者が死神を介抱し、死神は返礼に「やがてお前を迎えに来る時は不意打ちをせず、前もって使いを何人か送ろう」と約束する。熱・目眩・痛風・耳鳴り・歯痛などが送られるが、若者はそれを使いとは気づかずに過ごし、死神に捕らえられる。
『死神の名づけ親』(グリム)KHM44 死神が貧乏人の息子の名付け親になる。死神は、成長したその子を医者にして薬草を与え、「病人の頭の方にわしが立っていたら、この薬草を飲ませれば必ず治る。病人の足の方にわしが立っていたら、病人は死ぬ定めだ」と教える→〔魂〕3b。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 死神ヤマがサティヤヴァットのもとを訪れ、その身体から親指ほどの魂を掴み出し、綱を巻きつけて運び去ろうとする。サティヤヴァットの妻サーヴィトリーがヤマに懇願し議論をして、サティヤヴァットの命を取り戻す。
*→〔死期〕2の『百年の孤独』(ガルシア=マルケス)。
★2.冥府の使いの鬼なども死神の一種であろうが、人間から饗応を受けたために、その人間を放免してしまうことが多い。
『広異記』17「冥土への身代わり」 県知事の楊チョウは、易者から「あと二日の命」と宣告される。楊チョウは何とかして助かろうと、易者の教えにしたがって、冥府からの使者を饗応する(*→〔火〕4b)。使者は返礼に、楊チョウの名前を一部分書きかえて、「楊錫」という別人を冥府に連れて行く。
『日本霊異記』中−24 楢磐嶋を冥府へ連れにやって来た三人の鬼たちは、空腹のため磐嶋から饗応を受ける。その返礼に鬼たちは磐嶋を放免し、同年齢の別人を身代わりに冥府へ連れて行く。おかげで磐嶋は、九十余歳まで生きることができた。
『日本霊異記』中−25 讃岐国山田郡の布敷臣衣女が病気になり、疫神に食物を供える。閻羅王の使いの鬼が衣女を召しに来るが、彼女を捜して走り回り疲れていたため、この食物を食べてしまう。鬼はその返礼として、鵜垂郡の同姓(かばね)の衣女を身代わりに冥府へ連れて行く。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ28 路傍の占者が、旗本中井半之丞に「今夜、子の刻に死ぬ」と告げる。その夜、三十年前に死んだ父が半之丞宅を訪れ、半之丞は亡父に水漬けを二杯ふるまう。亡父は半之丞を連れに来たのだったが、馳走の礼に半之丞の髪を髷ごと引き抜いただけで帰る。その後、半之丞は僧形のまま天寿を全うする。
*冥府の役人を買収して生き返る→〔死体〕5の『捜神後記』巻4−4(通巻44話)。
*嘘や色仕掛けで、黄泉の使いから逃れる→〔同名の人〕4の『二人小町』(芥川龍之介)。
『ボルヘス怪奇譚集』「死神の顔」 ある朝、ペルシアの若い庭師が死神に出会う。死神はまじまじと庭師を見る。庭師は皇子から馬を借り、遠方のイスパハンへ逃げる。午後、皇子が死神に「なぜ庭師を見つめたのか」と問う。死神は、「イスパハンから遠く離れた所で庭師に会ったから、驚いたのです。わしは今夜、イスパハンで庭師の命をもらうことになっているので」と説明する(ジャン・コクトー『グラン・テカール』)。
『アマデウス』(フォアマン) モーツァルトは父の死以来、酒浸りになった。素行の悪さから、仕事もなくなった。宮廷のお抱え作曲家サリエリはモーツァルトの才能に嫉妬し、彼を死の間際まで追いつめようとたくらむ。サリエリは黒装束に仮面をつけて訪れ、モーツァルトにレクイエムの作曲を依頼する。この謎の男は、モーツァルトには父の亡霊のように見え、死神のようにも思えた。作曲ははかどらず、謎の男の度々の催促にモーツァルトは心身をすりへらし、レクイエムを完成させることなく息絶える。
『黒いオルフェ』(カミュ) 髑髏の面に骸骨模様の服の男がしばしば姿を見せ、ユリディスはおびえる。リオのカーニバルの日。ユリディスがオルフェと踊っていると、オルフェの婚約者ミラが怒って、ユリディスにつかみかかる。逃げるユリディスを、ミラに代わって髑髏の面の男が追う。ユリディスは市電の車庫に逃げ込み、オルフェが彼女を捜そうと、電気のスイッチを入れる。ユリディスがつかまっていた電線に高圧電流が流れ、彼女は死ぬ。
『祖母の為に』(志賀直哉) かつて祖父が死んだ時、葬儀社に勤める六十歳ほどの「白っ児」の男が即座にやって来て、「私」を驚かせた。祖母が病身になり、それは「白っ児」が呪っているせいのように思われ、「私」は「白っ児」をどうにかせねばならぬ、と考えた。幸い祖母は全快し、ある朝「私」は祖母と外出して、葬儀社の前を通った。その時「私」は「白っ児」が死んだらしいことを察知し、嬉しくなった。
『夕なぎ』(ロージー) 孤島で召使たちに囲まれて暮らすゴーフォース夫人は、原因不明の難病に苦しんでいた。ある日、謎の男クリス・フランダースが、島へやって来る。彼は常に、死を間近にした人物のもとを訪れるので、『死の天使』と呼ばれていた。ゴーフォース夫人はクリスを恐れつつ、心ひかれる。病気が重くなったゴーフォース夫人はクリスを寝室へ誘うが、クリスは応じない。その夜のうちに、ゴーフォース夫人はクリスに看取られて死んでいった。
*「死神の化身」とあだ名されるドクター・キリコ→〔安楽死〕3の『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「ふたりの黒い医者」。
『金の輪』(小川未明) 長い間病気で寝ていた太郎が、ようやく外へ出られるようになる。見知らぬ少年が金の輪を二つ回して走って来て、太郎に微笑みかける。太郎は二日続けてその少年を見る。夜の夢で太郎は、少年から金の輪を一つ分けてもらい、二人で往来を走る。翌日から太郎は発熱し、二〜三日後に七歳で死ぬ。
『ナクソス島のアリアドネ』(R・シュトラウス) 夫テーゼウス(=テセウス)によって、ナクソス島に一人置き去りにされたアリアドネは、自らの運命を嘆き、死を望む。その時、島に船が着き、バッカス(=ディオニュソス)が上陸して来る。アリアドネはバッカスを死の神だと思い、進んで彼の腕に抱かれる。ところがバッカスは、酒の神であり愛の神であった。バッカスの接吻を受けてアリアドネは生きる喜びを取り戻し、二人は結ばれる。
*死を間近にした人の後ろに、死の天使が立つ→〔死期〕3の『人はなんで生きるか』(トルストイ)。
*死神とチェスの勝負をする→〔賭け事〕1bの『第七の封印』(ベルイマン)。
*死神とトランプのゲームをする→〔賭け事〕1cの『午後の出来事』(星新一)。
*半人前の死神→〔半死半生〕1の『半人前』(星新一)。
『胴乱幸助』(落語) 明治の初め。腰にいつも胴乱を下げて歩く幸助という男がおり、喧嘩の仲裁を趣味としていた。ある日幸助は、浄瑠璃の稽古場で「お半長右衛門(*→〔心中〕2の『桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)』)・帯屋の段」を立ち聞きする。彼はその話を現実のことと思い、帯屋のもめごとを解決してやろうと、大阪から三十石船で京都へ向かい、帯屋を捜す。人々が「お半長右衛門はとっくの昔に心中してます」と教えると、幸助は「遅かったか。汽車で来れば良かった」と悔やむ。
『ドン・キホーテ』(セルバンテス)後編第26章 騎士ドン・ガイフェロスが妻メリセンドラをモーロ人の手から救出する物語が、人形芝居で上演される。モーロの騎馬隊が騎士夫妻を追う場面になると、観客の一人であるドン・キホーテは、逃げる二人を助けるのが義務だと考え、剣を抜いて舞台まで跳んで行き、モーロ兵の人形や大道具・小道具を破壊し尽くす。
『パリアッチ(道化師)』(レオンカヴァルロ) 旅芝居の座長カニオは、妻である女優ネッダの浮気を知り、妻を責めていると、劇の開幕時間になる。カニオは道化師に扮し、妻役のネッダとともに舞台に立つ。劇の内容も妻の浮気をテーマとしたものであり、カニオは芝居と現実の区別がつかなくなって、舞台の上でネッダを刺し殺す。
『サンセット大通り』(ワイルダー) 往年の大女優・五十歳のノーマは、銀幕復帰をねらって、主演映画『サロメ』を作ろうと夢想する。ノーマは青年脚本家を雇い、大邸宅で同棲するが、脚本家が彼女を捨てて去ろうとしたので、ノーマは脚本家を射殺する。死体が発見され、警察・新聞記者・やじ馬がノーマの邸宅に集まり、ニュース映画の撮影班もやって来る。すでに正気を失ったノーマは、カメラやライトを見てスタジオでの本番と錯覚し、サロメを演じ始める。
『絞死刑』(大島渚) 在日朝鮮人の青年Rは、自分が行なった強姦殺人の記憶を失った(*→〔処刑〕2)。そこで数人の死刑執行官が、Rとその父・母・兄たち、および被害者である娘を演じ、彼の犯行を芝居の形で再現してRに見せる。Rの心の中に、彼が空想の世界で愛した「姉さん」が現われ、「Rの犯罪は、しいたげられた朝鮮人の、日本国家への抗議の現われだ」と教える。Rは「日本国家が自分を殺すのだ」と理解し、絞首刑されることに同意する。
『ハムレット』(シェイクスピア)第3幕 父王の亡霊が「自分は弟クローディアスに殺された」と、ハムレットに告げる。ハムレットはそれが事実かどうか確かめるために、役者たちを使って「ゴンザーゴ殺し」という芝居を上演し、クローディアスに見せる。芝居の内容は、暗殺者がゴンザーゴ王の耳に毒液をそそいで殺す、というものである。クローディアスは、自分が行なった悪事がそのまま再現されているのを見て蒼白になり、席を立つ。
★4.戯曲の筋書きを現実化し、その後に、戯曲を舞台で上演する。
『呪はれた戯曲』(谷崎潤一郎) 作家が、「妻を事故死に見せかけて殺す」という戯曲の原稿を書き、その筋書きどおりに、実際に妻を殺す(*→〔入れ子構造〕4)。それから半年後に作家は、舞台監督となってこの戯曲を演出し、劇場で上演して好評を博す。その二ヵ月後に、作家は自殺する。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「勘平の死」 商家の若旦那角太郎が、素人芝居で『仮名手本忠臣蔵』の早野勘平(*→〔誤解〕4)を演ずる。角太郎に恋の恨みを抱く番頭和吉が、芝居用の刀を本物の刀とすりかえる。そうとは知らぬ角太郎は、六段目で本当に腹を切って死んでしまう。
*仇討ちの茶番を利用して、人を殺す→〔共謀〕5bの『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「花見の仇討」。
『ロビンソン・クルーソー』(デフォー) 一六三二年生まれのロビンソン・クルーソーは、一六五九年、船の難破で一人孤島に漂着する。二十五年後、人食い人種に捕らわれた男を助け、フライデーと名づけて部下にする。一六八六年、イギリス船の船長を水夫らの反乱から救い、島を後にして故国へ帰る。
*孤島の兄妹→〔兄妹婚〕2bの『今昔物語集』巻26−10・『瓶詰の地獄』(夢野久作)。
『十五少年漂流記』(ヴェルヌ) 一八六〇年二月、八歳から十四歳までの少年十五人がニュージーランド一周の船旅に出、あらしにあって孤島に漂着する。彼らは一時二派に別れて対立するが、島に上陸した悪人たちと闘うために再び団結し、悪人たちをやっつけ、やがて汽船に救われる。
『蠅の王』(ゴールディング) 第二次(あるいは第三次)大戦のさなか、飛行機が南海の孤島に墜落して、少年たちだけが生き残る。少年たちは共同生活を始めるが、野豚狩りなどに興じて、しだいに野性に目覚め、秩序が保てなくなる。彼らは対立し、争い、二人が死ぬ。蛮族化したグループが、良識派の少年一人を追いつめようと、森に火をつける。その火を見た英国海軍が、少年たちを救助に来る。
『芽むしり 仔撃ち』(大江健三郎) 第二次大戦末期、感化院の少年十五人が僻村に疎開する。疫病が発生して村人は皆逃げ出し、村は陸の孤島と化す。取り残された少女・朝鮮人の少年・脱走兵とともに共同生活が始まるが、何人かが死に、村人も帰村して、少年たちの共同体は五日間で崩壊する。
『御曹子島渡』(御伽草子) 御曹子義経は蝦夷が島を目指して船出し、途中さまざまな島を過ぎて女護が島に到る。そこでは、南州国から吹く南風を女たちが呑みこんで、子を産む。産まれるのは女ばかりである。義経は女たちに捕らわれるが、「多くの男を連れて来る」と偽って、島を後にする。
『好色一代男』巻8「床の責道具」 世之介は世間の遊女町を残らず巡り、ついに六十歳に達した。彼は財産を整理し、仲の良い友人とともに総勢七人で、新造の船・好色丸(よしいろまる)に乗り組んだ。強精剤・春画・性具などを多量に積み込んで、天和二年(1682)神無月の末に、伊豆国から女護の島めざして船出し、行方知れずになった。
『今昔物語集』巻5−1 天竺の人・僧伽羅と五百人の商人たちが南海へ船出し、逆風に吹かれて大きな島に漂着する。そこは男がおらず、美女ばかりの住む島だったので、僧伽羅たちは皆、美女を妻として楽しく暮らす。しかし美女たちの正体は羅刹鬼であり、それを知った僧伽羅たちは、あわてて逃げ出す→〔馬〕6。
『仙境異聞』(平田篤胤)上−2 天狗界で修行した寅吉少年は、日本の東方海上約四百里にある女嶋を訪れ、十日ほど隠れて様子を見たことがあった。女ばかりの国なので、男が漂着すると、皆で食ってしまう。懐妊するには、束ねた笹葉を各々手に持って西方を拝み、女どうし互いに夫婦のごとく抱き合って、はらむのである。
『風流志道軒伝』(平賀源内)巻之5 浅之進(志道軒)と百余人の乗った船が女護が島に漂着する。島の女たちは日本の方に向かって帯を解き、風を受ければ懐胎して女子を産むので、男がいない。そのため浅之進たちは女郎ならぬ男郎にされる→〔身代わり〕4b。
*→〔誘惑〕2aの『アルゴナウティカ』(アポロニオス)第1歌。
*女たちばかりの国・西梁女人国→〔妊娠〕4の『西遊記』第53回。
『アーサーの死』(マロリー)第21巻第5章 戦場で致命傷を負ったアーサー王は、ベディヴィア卿に背負われて水辺まで行き、迎えに来ていた小船に乗る。船には、黒い頭巾の貴婦人たちが乗っており、皆泣き叫んでいた。船が岸を離れる時、アーサー王は「傷を治すため、アヴァロンの島に行くのだ」とベディヴィア卿に言い残した。
『かげろふ日記』上巻・康保元年7月 道綱母の老母が病死し、親族が山寺にこもった。ある時、僧たちが念仏の合間に、「死者の姿が明らかに見える所がある。しかし近く寄ればその姿は消え失せ、遠くからのみ見えるらしい」「それはどこの国か?」「『みみらくの島』というそうだ」と語り合っていた〔*長崎県・五島列島の三井楽町を、古代は「美弥良久」と呼んだ〕。
『長恨伝』(陳鴻) 玄宗皇帝の命令で、方士が楊貴妃の亡魂をこの世へ招こうとしたが、亡魂は現れなかった。そこで方士は、自分の魂を体外へ飛ばした。魂は天界へ昇り冥府にもぐって、楊貴妃を捜す。天地の上下四方を巡り、ついに東海の彼方、蓬壺(=蓬莱)の島に到った。仙山がそびえ、宮殿が並んでいる。「玉妃太真院」と書かれた門があり、そこで方士(の魂)は、楊貴妃(の亡魂)と会うことができた。
*川の向こうに死者の姿が見える→〔川〕8bの『ムーンライト・シャドウ』(吉本ばなな)。
『ガリヴァー旅行記』(スウィフト)第3篇第3章 「私(ガリヴァー)」が小人国・巨人国の次に訪れた空飛ぶ島ラピュータは、直径四マイル半・広さ一万エーカー・厚さ三百ヤードで、巨大な天然磁石を動かすことによって、上昇・下降・移動を行なった。住民は数学と音楽を偏愛し、抽象的な思考に沈潜していて、いろいろと妙な研究が行なわれていた。
『パノラマ島奇談』(江戸川乱歩) 貧書生の人見広介は、大富豪菰田源三郎になり代わり、巨費を投じて、M県I湾の直径二里たらずの小島に、深い森・巨大な花園・湯の池・歌い踊る裸女の群れを配する人工楽園を、造り上げる〔*人見は菰田の妻千代子を殺したため、探偵北見小五郎に追及される。人見は自らの身体を花火とともに打ち上げ、粉微塵になって死ぬ〕。
『ユートピア』(モア) 南半球に新月(三日月)形のユートピア島がある。住民は一日に六時間働き、八時間眠る。自由時間には学問を楽しむ者が多い。物資は豊富で、公正に分配されるので、貧乏人も乞食も存在し得ない。全島が単一家族同様で、プライヴァシーはないに等しい。十年ごとにくじ引きで家を交換したりもする。
『列子』「湯問」第5 渤海の東方洋上に五つの島がある。黄金と宝玉の高殿があり、不老不死の果実がなる。住民は皆聖仙で、空を飛ぶ。始め浮島だったが、後には巨亀が下で支えた。
『キングコング』(クーパー他) スマトラ島西の海域に、海図に載っていない島がある。そこにはコングという怪物がおり、島の住民たちは恐れていた。住民の娘一人をコングの花嫁として捧げる儀式の最中に、アメリカの映画撮影隊が上陸して来る。住民たちは金髪の白人女優アンを見て、彼女を捕らえ、コングの花嫁として差し出してしまう。
『ラーマーナヤ』 魔王ラーヴァナは十の頭と二十本の腕を持つ怪物で、ランカー島(=スリランカ)の宮殿に、一族を従えて住んでいた。ラーヴァナが、コーサラ国(=ガンジス川中流域に位置する)王子ラーマの妃シータをさらったので、ラーマは猿の大軍を率いてランカー島に攻め入る。ラーマは矢でラーヴァナの頭を射落とすが、瞬時に新たな頭が生え出、百の頭を射落としても、なおラーヴァナは死ななかった。ラーマは、ブラフマー神から授かった特製の矢を、ラーヴァナの心臓に射込んで殺した。
*鬼たちが住む島を攻める→〔鬼〕4bの『桃太郎』(昔話)。
『ジュラシック・パーク』(スピルバーグ) ハモンド氏の財団が、コスタリカ沖の島に新しいテーマ・パークを計画する。遺伝子工学を用いてジュラ紀の恐竜をよみがえらせ、広大なフェンスの中に放し飼いするのである。ところが、恐竜の胚を島外へ盗み出そうとする男がいて、フェンスの高圧電流を切ってしまう。恐竜たちはフェンスを破り、園内視察中の科学者や弁護士一行に襲いかかかる。科学者の一人が「これでは開園は承認できない」と告げ、ハモンド氏は「当然だ」と言って、皆は島を脱出する。
『ドクター・ノオ』(ヤング) 国際犯罪組織スペクターの一員である中国人ノオ博士が、カリブ海に浮かぶ島に原子力施設を築く。施設から発信される電波は、アメリカのケープカナベラル基地の実験ミサイルやロケットの弾道を狂わせた。イギリス情報部のジェイムズ・ボンドが島に潜入し、いったんは捕らえられるが脱出して、ノオ博士と格闘の末、彼をプール型の原子炉に突き落とす。ボンドは島の施設を完全に破壊して、去る。
『モロー博士の島』(H・G・ウェルズ) 「私(プレンディック)」は、乗っていた船が太平洋上の赤道付近で沈没して、無名の島にたどり着いた。その島では、生物学者モロー博士が助手とともに、猿・牛・馬・豚・犬などさまざまな動物を人間に改造する実験を行なっていた。動物たちは、手術によって人間に近い形態になったが、知能は低く、まもなく退化して獣性が戻り、モロー博士と助手を殺してしまった。「私」は、近くへ漂流してきた小舟をつかまえ、島を脱出した。
*島だと思って上陸したら、鯨だった→〔地震〕8の『千一夜物語』「船乗りシンドバードの冒険・第1の航海」マルドリュス版第292夜。
『古事記』上巻 コノハナノサクヤビメは美女だったが、その姉イハナガヒメは醜貌であった。姉妹はともにニニギノミコトの妻となるはずのところ、ニニギノミコトはコノハナノサクヤビメだけを娶(めと)り、イハナガヒメを実家に帰した。イハナガヒメは岩のような永遠の命を与え、コノハナノサクヤビメは花のような繁栄を与える存在だった。イハナガヒメを娶らなかったために、ニニギノミコトと彼の子孫の寿命は、短くなってしまった〔*『日本書紀』巻2にも同様の記事〕。
下田富士と駿河富士の伝説 下田富士と駿河富士は仲の良い姉妹山だった。姉の下田富士は妹の駿河富士をかわいがっていたが、年頃になると、姉の下田富士がひどく醜いのにひきかえ、妹の駿河富士はとても美しく育った(静岡県下田市本郷)→〔山〕5b。
『大般涅槃経』巻12 美女が、ある男の家を訪れ「私は功徳天です。金銀財宝を差し上げるためにやって来ました」と言う。男は喜んで美女を招き入れる。次に醜女が来て「私は黒闇天です。私の訪ねる家の財産はなくなってしまいます」と言う。男が怒って醜女を追い出そうとすると、醜女は「先ほどの美女は私の姉です。私たち姉妹はいつも一緒に旅をしています。私を追い返すなら、姉も一緒に出て行きます」と教える。男は姉妹の両方を追い払う〔*『沙石集』巻9−25などにも引かれる〕。
『悪徳の栄え』(サド) 「あたし(姉ジュリエット)」は莫大な富を得て、仲間たちとともに、おびただしい淫行と殺人の毎日を楽しむ。「あたし」は実の父と交わってから銃殺し、実の娘を拷問して火中に投げ込むことさえする。これに対して「あたし」の妹ジュスティーヌは、信仰心の厚い貞淑な乙女である。しかし妹は、悲惨な一生を送ったあげく、雷に撃たれて死んだ。
『祇園の姉妹』(溝口健二) 姉妹芸者の姉・梅吉は義理人情にあつく、妹・おもちゃは勘定高かった。姉は、破産した旦那古沢を家に置いてやり、面倒を見る。妹はそれが気に入らず、古沢を追い出す。妹は、呉服屋の木村をだまして怒りを買い、円タクから突き落とされて大怪我をする。姉は古沢の後を追い生活をともにするが、古沢は新たな職と地位を得るや、別れも告げずに姿を消す。姉妹はそれぞれに、芸者の身の上を嘆く。
『じゃじゃ馬ならし』(シェイクスピア) 姉娘キャサリンは、きかん気で怒りっぽく、妹娘ビアンカは、しとやかな性格だった。ビアンカには複数の求婚者があったが、父バプティスタは「妹を、姉より先に結婚させることはできない」と言っていた。しかしペトルーキオが強引にキャサリンの婿になったので、ビアンカも相愛のルーセンシオと結婚することができた〔*結婚後、キャサリンは性格が一変し、従順な妻になった〕。
『沈黙』(ベルイマン) 姉エステルはインテリの翻訳家で、妹アンナに対して優越感を持ち、何かと妹を批判する。妹は姉に反発し、嫌っている。姉と妹と、妹の十歳ほどの息子が、列車に乗って旅に出る。姉が病気になり、三人は途中下車してホテルに泊まる。姉は一人で自慰をし、妹は町の男と性交する。妹の行為を知った姉は、屈辱と嫉妬を感じる。やがて姉は病気が重くなり、妹と息子は姉をホテルに残して、列車に乗る。
*冥界の女王エレシュキガルと、天上界に住む豊穣の女神イナンナとは、姉妹である→〔冥界行〕1aの『イナンナの冥界下り』。
『伊勢物語』初段 初冠(=元服)した男が、奈良の京・春日の里に狩りに出かけた。そこで男は思いがけず美しい姉妹をかいま見て、心乱れた。男は、乱れ模様の狩衣の裾を切り、「春日野の若紫のすりごろもしのぶの乱れ限り知られず」の歌を書いて、贈った。
『風につれなき』 帝(後に吉野の院)は、内裏の中宮のもとを訪れたその妹姫をかいま見て心ひかれ、近づこうとする。妹姫は驚き恐れ、病気を口実に退出する。中宮は若宮を生んで死去し、帝は中宮を追慕する一方、妹姫への恋心を募らせる。しかし妹姫はそれに応ぜず、姉中宮の忘れ形見の若宮を養育する。
『史記』「五帝本紀」第1 堯は自分の二人の娘を舜の妻にし、舜の徳が彼女たちをどのように感化するかを観察した。舜は義理に則って二人の心を正し、二人は婦道をつくした〔*『列女伝』巻1−1「有虞二妃」の類話では、姉の名を娥皇、妹の名を女英と記す〕。
『史記』「晋世家」第9 献公は驪戎を討ち、驪姫とその妹を得て二人とも寵愛した。
『砂の上の植物群』(吉行淳之介) 中年の妻帯者伊木一郎は、高校生の処女津上明子と関係を持つ。明子は、「何人もの男関係がある異父姉京子を誘惑して、ひどい目にあわせてほしい」と伊木に依頼する。京子は被虐嗜好だったので、伊木は京子の裸体を紐で縛ってころがし、そこへ明子を連れて来て姉妹を対面させる→〔兄妹婚〕5。
『創世記』第29章 ラバンに二人の娘があり、姉をレア妹をラケルといった。ヤコブはラバンに七年仕え、ラケルを妻として与えられるが、朝になって見るとそれはレアであった。ヤコブはレアを妻として、ラバンのもとでさらに七年働き、ようやくラケルをも得る。彼はレアよりもラケルをより愛した。
『日本書紀』巻13允恭天皇7年12月 允恭天皇は皇后の妹衣通郎姫に恋着し、皇后に無理じいして、宮中に入れようとする。衣通郎姫はこれを固辞する。烏賊津使主の計略により衣通郎姫は宮中に入るが、皇后出産の夜に帝が衣通郎姫のもとへ出かけようとするので皇后は怒り、産殿を焼いて死のうとする。
『松風』(能) 須磨を訪れた旅僧が短冊の掛かった一木の松を見、松風村雨という姉妹の海女の旧跡と教えられる。夜になって松風村雨の霊が現れ、かつてこの地に流された在原行平に二人とも召され愛された思い出を語り、舞う。
『夜の寝覚』(五巻本・巻1〜2) 中納言は太政大臣家の大君と婚約していたが、一方で、但馬守の娘と誤認して大君の妹中の君(寝覚の上)とも契りを結ぶ。やがて、中納言・大君・中の君それぞれに事情を知って驚き、苦悩する。
*→〔鶏〕2の『好色一代男』巻2「旅のでき心」。
*→〔舌〕3の『変身物語』(オヴィディウス)巻6。
『秋』(芥川龍之介) 作家志望の信子は、同じく作家志望の従兄俊吉と親しく交際していた。しかし、妹照子が俊吉を慕っていることを知り、信子は、妹の幸福のために自らを犠牲にしようと考える。信子は、文学に関心を持たぬ商事会社勤務の青年と結婚し、その後に妹照子は、作家としてデビューした俊吉と結婚する。ある秋の日、信子は、俊吉・照子夫婦の新居を訪れ、静かな諦めと寂しさを感じた。
『蘆刈』(谷崎潤一郎) 芹橋慎之助は未亡人お遊様を慕いつつ、その妹お静と結婚する。お静は、姉お遊様と夫慎之助が心を通わせ合っていることを悟り、初夜の床で夫に「貴方に身をまかせては姉に申し訳がたたない」と告げて、自分は処女妻のまま、姉と夫の仲を取り持とうとする〔*何年かしてお遊様は他家へ再縁し、その後に慎之助とお静は本当の夫婦になる〕。
『源氏物語』「橋姫」「椎本」「総角」 宇治を訪れた薫は、晩秋の月光のもと、大君・中の君姉妹をかいま見る。薫は大君に心ひかれ胸中を訴えるが、彼女は薫との結婚を拒否し、自分の代わりに中の君を薫に添わせようとする。しかし薫は、中の君と契ろうとはしない→〔性交〕3c。
『狭き門』(ジッド) ジェロームと従姉のアリサとは互いに恋心を抱くが、アリサは妹ジュリエットもジェロームを好きなのを知って、自分は身を引く。しかしジュリエットは他の男と結婚し、アリサは独身のまま病死する。
『エヴゲーニイ・オネーギン』(プーシキン)第2〜6章 オネーギンとレンスキイは親友だった。ラーリン家にタチヤーナとオリガの姉妹がいて、妹オリガはレンスキイを恋人とし、姉タチヤーナはオネーギンに思いを寄せる。しかし、ふさぎの虫にとりつかれたオネーギンは、「家庭の幸福など自分には無縁だ」と考え、タチヤーナの求愛を拒絶する〔*この後オネーギンは、オリガの気を引くそぶりをし、怒ったレンスキイと決闘して、彼を殺してしまう〕→〔決闘〕1a。
『木幡の時雨』 故奈良兵部卿右衛門督の中の君はある秋、時雨が縁で中納言と契る。二年後、彼女は再び時雨が縁で今度は式部卿宮(後に東宮)と契り、双子の男児を産む。中の君の妹三の君は、はじめ中納言と結婚して双子の女児を産み、次いで東宮(=式部卿宮)妃となる〔*中の君の産んだ双子の男児は東宮のもとで育ち、皇位継承者となってゆく〕。
『しぐれ』・『隅田川』(川端康成) 行平と友人の須山とは、双生児姉妹の娼婦を買いなじんでいた。双生児とはいえ、両方と交わりを重ねてみれば、どこかに微妙な違いがあったはずだ、と後に行平は思った。須山が死んだ時、双生児の一方が涙を落としたが、それは須山がよけいに遊んだ方の女かも知れなかった。
*→〔取り違え夫婦〕の『堤中納言物語』「思はぬ方にとまりする少将」。
*姉妹が三人のばあいは→〔三人姉妹〕。
『出雲国風土記』出雲の郡宇賀の里 脳(ナヅキ)の磯の西方に岩戸があり、岩屋の内に穴がある。夢の中でこの磯の岩屋近くまで行った者は、必ず死ぬ。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第49章 バルドルが、自分の命にかかわる不吉な夢を見た。バルドルがその夢をアース神たちに告げると、神々はあらゆるものに、バルドルに危害を加えないことを誓わせた。しかしバルドルは死んだ→〔契約〕1。
『ギルガメシュ叙事詩』 エンキドゥは、ギルガメシュと協力して怪物フンババを殺す。その後まもなくエンキドゥは、神々の会議で死を宣告される夢・冥界の女王イルカルラ(=エレシュキガル)の家へ連れて行かれる夢を見る。エンキドゥは恐れと悲嘆のうちに病気になり、十二日目に死ぬ。
『苔の衣』 大納言と西院の上との間には男児二人があったが、女児がないのを残念に思い、夫妻は石山寺に参籠する。西院の上の夢に気高い女房が現れ、子は授かるがその成長を見届けることはできぬ、との意味の歌を詠んで花の枝を与える。翌年姫君が生まれ、姫君七歳の時西院の上は病死する。
『三国史記』巻10「新羅本紀」第10神武王元年 神武王が病み、背中に矢を射られる夢を見た。目覚めると腫れ物が背中にできており、王はまもなく薨去した。
*→〔棺〕2a・2b。
『ラーマーヤナ』第5巻「美の巻」 ラーマが、魔王ラーヴァナのランカー島に攻め入る前、羅刹女トリジャターが夢を見た。それはラーヴァナが頭を剃り、油を飲みつつロバに乗って南(=死の領域)へ進み、また、ラーヴァナの弟クンバカルナ・息子インドラジットその他の勇士たちも、頭を剃り油をあおる、という内容だった。これらはすべて死と滅亡の予兆だった。
*→〔運命〕1a。
*→〔凶兆〕3aの『小栗(をぐり)』(説経)。
『今鏡』「すべらぎの中」第2「手向」 後三条院崩御の折、ある人が、「院は外国の乱れを正すため、この国をお去りになる」との夢を見た。また、嵯峨に籠居する人が、「音楽が空に聞こえ、紫雲がたなびき、『院が仏の御国にお生まれになる』とお告げがあった」との夢を見た。
『発心集』巻2−9 前滝口武士助重が、矢を受け「南無阿弥陀仏」と叫んで死ぬ。その夜、知己の入道寂因及び廻国の修行僧某が、助重の死を知らせる夢を見た。
『聊斎志異』巻3−116「夢別」 男が、ある夜、親友の夢を見た。親友はうちしおれた様子で、「遠くへ行くのでお別れに来た」と告げ、岩壁の裂け目に入った。男は目覚めて、親友の死を確信し、喪服を着て出かけると、親友の家には忌中の旛がかかっていた。
★4.死後またこの世に転生する運命の人が、転生後の人生で体験することを、前もって夢に見る。
『豊饒の海』(三島由紀夫) 大正二年夏、松枝清顕は「白衣を着、猟銃で空の鳥を撃ち落す」との夢を見た(『春の雪』34)。それは彼の生まれ変わりである飯沼勲が、昭和七年の秋に経験する出来事であった(『奔馬』23)。昭和八年初め、飯沼勲は「毒蛇に噛まれる夢」「女に変身する夢」を見た(『奔馬』33)。飯沼の生まれ変わりはタイの王女ジン・ジャンで、彼女は昭和二十九年春に、コブラに噛まれて死んだ(『暁の寺』45)〔*ジン・ジャンが見た夢については記述がない。また、彼女の生まれ変わりと思われたが結局そうではなかったらしい安永透は、「僕は夢を見たことがなかった」と言う(『天人五衰』28)〕。
『吸血鬼ドラキュラ』(ストーカー) 吸血鬼は、十字架・聖餅・ニンニク(*→〔首〕7)・太陽光線が苦手である。ドラキュラ伯爵が現れた時、彼と闘うジョナサン・ハーカーたちは、手に手に十字架と聖餅をかかげて身を守り、ドラキュラを追い払った。ドラキュラ伯爵は最後には、身を隠している木箱を開けられ、夕日に照らされたため、粉々の塵となり、サラサラとくずれて消え去った。
『スーパーマン』(ドナー) 万能のスーパーマンも、鉛だけは透視できないし、生まれ故郷クリプトン星の隕石から出る放射能には弱い。悪人ルーサーのたくらみで、スーパーマンは鉛の箱の中身が隕石であると知らずに開け、力を奪われ捕らわれてしまう。しかしルーサーの部下の女がスーパーマンに同情し、解放してくれる。
『たのきゅう』(昔話) 爺に化けたうわばみが、山道で「たのきゅう」という名の旅役者に出会う。うわばみは「たのきゅう」を「狸」と聞き違えて気を許し、「自分は煙草のやにと柿の渋が大嫌いで、それを体につけられたら動けなくなる」と語る。「たのきゅう」は村人たちにそれを教え、村人たちはうわばみを退治しようと、煙草のやにや柿の渋を集める。うわばみは山から逃げて行く。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「○□恐怖症」 ジャイアンは蛇もお化けもこわがらないので、ドラえもんが恐怖症スタンプに「○」を書いて、ジャイアンの背中に押す。とたんにジャイアンは丸いものすべてが恐ろしくなり、ボールを見ても風船を見ても悲鳴をあげる。ドラえもんのしわざと知ってジャイアンは怒るが、ドラえもんの丸顔を見ると、こわくなって逃げて行く。
*宿り木だけが恐ろしい→〔契約〕1の『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第49章。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第13章・摘要第5章 母女神テティスが、嬰児アキレウスを火にさらして全身を不死にしようとしたが、夫ペレウスに見つかったため、テティスは目的をはたせなかった。後、アキレウスは唯一の弱点である踵を、アレクサンドロス(パリス)とアポロンに射られて死んだ。
『還城楽物語』(御伽草子) 龍国の龍王は、生まれて以来毎日黄金を食したため全身黄金であるが、乳母が黄金を少し盗んだので、左わきの下四寸の穴が人間の膚であった。
弁慶の伝説 弁慶は、母がつわりの時に鉄を好んで食べたため、総身鉄であったが、四寸四方の肌だけが人間の膚だった(谷川健一『鍛冶屋の母』による)。
*身体にあるただ一ヵ所の弱点を、身体の外のどこか安全な場所に移しておくことができるならば、もはや身体には弱点がないのだから、どこを攻撃されても無事である。これが→〔魂〕1aの、体外の魂の物語である。
★3.身体の一ヵ所にある、触れてはならない部分(これも、ただ一ヵ所の弱点・急所の一種であろう)。
『韓非子』「説難」第12 龍はおとなしい動物ではあるが、喉の下に一枚だけ、逆さに生えた径一尺ほどの鱗(逆鱗)がある。人がそれに触れようものなら、怒った龍にたちどころに殺されるという。
『油地獄』(斎藤緑雨) 二十一歳の法学生・目賀田貞之進は、柳橋の芸妓小歌に一目惚れして通いつめるが、小歌は別の客にあっさり身請けされてしまう。貞之進は小歌を怨み、深夜、鉄鍋に油を煮えたぎらせて小歌の写真を投げこむ。写真は焦げただれ、やがて灰になるまで、貞之進は見つめていた〔*→〔藁人形〕1aの『藁人形』(落語)の変形〕。
『恨みの写真』(落語) 若い男が、女に裏切られたため、女を殺して自分も死のうと思いつめる。叔父が男に説教し、「晋の予譲の故事(*→〔身代わり〕9b)にならって、その女の写真を刺せ」と言う。男が恨みを込めてナイフで写真を刺し通すと、血がタラタラと流れる。叔父は「おお。一念通じて写真から血が出たか」と感嘆する。男は「いえ、指を切りました」。
『飢餓海峡』(水上勉) 青森の貧しい娼婦八重は、ただ一度だけ訪れた客の男から大金をもらい、それで借金を返し、東京へ出て働くことができた。八重はその客を恩人と思った。十年後、八重は新聞で、舞鶴の会社社長樽見京一郎の慈善事業の記事と顔写真を見た。それはあの客の顔だったので、八重は恩人に礼を言おうと舞鶴へ出かけた。しかし彼女は殺された→〔再会〕10。
『砂の器』(松本清張) 島根県亀嵩地方で巡査をしていた三木謙一は、退職後岡山県に住み、ある時、長年の夢だった関西旅行に出かけた。三木は伊勢の映画館で、館内に掲げられている音楽家和賀英良の写真を目にした。それは二十年以上前、三木が巡査時代に世話をした、癩病の乞食の息子本浦秀夫が成長した姿だった。三木は東京へ和賀英良(=本浦秀夫)に会いに行き、殺された。
*行方知れずの夫の新聞写真を、妻が見る→〔同一人物〕3の『心の旅路』(ルロイ)。
『池北偶談』(清・王士偵)「追写真」 没後長年月を経た人の生前の姿をありのままに写生する術があり、追写真という。ある人が、幼時に死別した母の肖像を術者に依頼した。術者は一室にこもり、夜半にいたって依頼者を呼び入れた。画紙は封じたままだったが、開くと、生けるがごとき母の風貌が描かれていた。「ただし死後六十年を過ぎては追写真も及ばない」と、術者は言った。
『悪魔のような女』(クルーゾー) クリスティーナは、夫の小学校長ミシェルを殺して(*→〔不倫〕5)、死体をプールに沈めるが、プールの水を抜くと死体はなくなっていた。学校で児童たちの集合写真をとると、背景の教室の窓の奥にミシェルの顔が見える。幽霊が写ったのか、それともミシェルは生きているのか、クリスティーナはおびえる〔*ミシェルは生きており、心臓の悪いクリスティーナを脅して死に追いやった〕。
★5a.瀕死の人の写真を撮影すると、生命力を与えることができる。
『夏目漱石』(小宮豊隆)「死」 夏目漱石の臨終が近づいた時、妻鏡子は「漱石の写真をとりたい」と言った。瀕死の病人の写真をとると、病人が持ち直すことがある、と一部で信じられていたからであった。写真師が呼ばれ、撮影が行なわれたが、その甲斐もなく漱石は死去した。
三人で写すと死ぬ(現代民話) 「三人で写真をとると、真ん中の人が早死にする」というのは、明治の初期から続く迷信である。昭和の初めまで、写真館には京人形やキューピッド人形が用意してあった。三人で写真をとる時には人形を中に入れ、「これで四人になったから良い」と言って、撮影した(福岡県)。
『今戸心中』(広津柳浪) 吉原の花魁(おいらん)吉里は、客の平田を心底愛していたが、平田はやむを得ぬ事情で郷里へ帰ってしまう。それから一ヵ月余り後の十二月下旬、吉里は好きでもない客と一緒に、隅田川へ身投げする。朋輩に託した遺書の中に写真があった。平田の写真と吉里の写真を、表と表を合わせ、裏に「心」という字を大きく書いて、こよりで十文字に結んであった。
『野菊の墓』(伊藤左千夫) 民子は政夫との仲を裂かれ、嫁にやられる。しかし六ヵ月で流産し、その後の肥立ちが悪くて、息を引き取った。死んだ時民子は、左手に紅絹(もみ)の切れに包んだ小さなものを握っていた。家族が開けて見ると、それは政夫の写真と、政夫の手紙であった。
『死刑台のエレベーター』(マル) ジュリアンは、勤務する会社の社長夫人と、ひそかに愛人関係になっていた。彼は社長を射殺して自殺に見せかけ、完全犯罪は成功した。しかし不良青年がジュリアンの車を盗み、旅行者を殺したために、車に置いてあったジュリアンのカメラが警察に押収される。フィルムを現像すると、抱き合うジュリアンと社長夫人の写真が何枚も現れ、二人が共謀して社長を殺したことを、警察は知る。
『柔らかい肌』(トリュフォー) 中年の文芸評論家ピエールは講演旅行に出かける時、愛人のスチュワーデス、ニコルを同伴した。彼は手持ちのカメラでニコルの写真をとり、二人の愛の記念とした。ピエールの妻は彼の不倫を疑っていたが、カメラ店へ行き、現像された何枚もの写真、さまざまなポーズを取るニコルの写真や、ニコルとピエールが一緒に写っている写真を手にして、不倫の決定的証拠を得た。
*密会の証拠写真をでっち上げる→〔取り合わせ〕1aの『醜聞(スキャンダル)』(黒澤明)。
★8.恋人と並んで映っている写真を二つに切って、恋人の写真と自分の写真を別々にする。
『写真』(川端康成) 醜い詩人の「僕」は、新聞社から写真を求められ、かつて恋人と一緒に撮った写真を半分に切って渡した。ところが手元に残った恋人一人だけの写真を見ると、ずいぶんつまらない娘に見えた。恋人も、新聞で「僕」の写真を見れば、「こんな男に恋した自分が口惜しい」と思うだろう。しかし、もし二人並んだ写真が新聞に出たならば、恋人は「僕」の所に飛んで帰って来るのではないだろうか。
『二十四の瞳』(壺井栄) 昭和二十一年五月。大石久子先生を囲む会を、教え子たちが開く。十八年前、皆が小学一年生だった時、村の一本松で記念写真を撮ったことがあった。教え子の一人磯吉は戦争で両眼を失っていたが、「目玉がなくてもこの写真は見える」と言う。「真ん中のこれが先生。その前に、うらと竹一と仁太が並んどる。先生の右がマアちゃん・・・・」。磯吉は確信を持って、人差し指でおさえて見せる。しかしその指は、少しずつズレた所をさしていた。「そう、そう、そうだわ」と答える大石先生の頬を涙が伝わった。
『疑惑の影』(ヒッチコック) 「米国標準家庭の生活実態調査」と称して、刑事二人が記者とカメラマンに扮し、殺人容疑者チャーリーの滞在する家を訪れる。カメラマンがチャーリーを撮影したので、チャーリーは「写真は嫌いだ」と言って、フィルムを取り上げ焼却する。しかし刑事たちが渡したのは別のフィルムだった。チャーリーの写ったフィルムは現像され、それを見た警察は、彼が殺人犯であることを確認した。
*写真を撮ってもらえない子→〔兄弟〕2bの『にんじん』(ルナール)「にんじんのアルバム」1。
*人に見られては困る写真を用いて、金をゆすり取る→〔唇〕2bの『悪魔の百唇譜』(横溝正史)。
『野良犬』(黒澤明) 村上刑事は、バスの中で実弾七発入りのピストルをすられた。そのピストルを使って、傷害事件一件、殺人事件一件が起こった。あと五発、弾丸が残っている。ベテラン佐藤刑事が、若い村上刑事を助けて、犯人を追う。犯人・遊佐は、佐藤刑事に向けて二発撃ち、重傷を負わせた。村上刑事が、遊佐を追いつめる。遊佐の発射した弾丸は、一発が村上刑事の左腕に当たり、残り二発は外れた。これで弾丸はなくなった。村上刑事は遊佐と格闘し、逮捕した。
『ウィンチェスター銃'73』(マン) リン・マカダムは、ある町で仇敵ダッチと偶然出会った。町の射撃大会に二人は参加し、リンが優勝して、一八七三年製の名銃ウィンチェスターを得る。しかしダッチが、銃を横取りして逃げる。銃はその後、商人、インディアン、町の青年、ギャングなどの手を転々とする。やがてダッチが再び銃を手に入れ、銀行強盗をはたらく。リンは彼を岩山に追い詰めて射殺し、銃を取り戻す。実はリンとダッチは兄弟だった。ダッチは無法者で、父親を殺して逃げていたのである。
★3.警官隊や軍隊が、無数の銃弾を浴びせてアウトロー二人を殺す。
『明日に向かって撃て!』(ロイ・ヒル) 西部の強盗団の首領ブッチとサンダンスは、保安官たちに追われて南米ボリビアへ渡る。二人は、よくわからないスペイン語に苦労しつつ、ボリビアで銀行強盗を続け、そののち山賊になる。しかし警官隊に追い詰められ、二人は負傷して納屋に逃げ込む。「今度はオーストラリアへ行こう。あそこは英語が通じる」と二人は話し合う。軍隊が納屋を包囲し、一斉射撃して、無数の銃弾を二人に浴びせる。
『俺たちに明日はない』(ペン) ウェイトレスをしていたボニーと、刑務所帰りのクライドは、出会ってすぐ意気投合する。二人は車を盗み、拳銃をかまえてマーケットに押し入る。やがてC・Wという少年や、クライドの兄夫婦も仲間に加わり、皆で銀行強盗を繰り返して、警官を何人も殺す。しかしボニーとクライドは、州の警備隊の罠にかかり、彼らが待ち伏せている道で車を止める。警備隊は一斉射撃して、ボニーとクライドの身体を蜂の巣にする。
『狼の挽歌』(ソリーマ) 殺し屋ジェフは、自分を裏切った愛人ヴァネッサを、殺そうと決意する。ヴァネッサと仲間の男が、ガラス張りの展望エレベーターで高層ビルを昇って行く。ジェフは隣りのビルの屋上からライフルで狙撃し、男に数発の銃弾を浴びせる。ヴァネッサは逃れられぬと覚悟し、ジェフの方へ身体を向け、「苦しませないで殺して」と訴える。ジェフはヴァネッサの唇の動きから言葉を読み取り、彼女の頭部を撃って即死させる。
*狙撃の失敗→〔暗殺〕2b。
★5a.誤射。刑事や探偵が、ねらった相手とは別の人物を銃撃してしまう。
『追いつめる』(生島治郎) 暴力団浜内組傘下の青谷が殺人を犯し、車で逃走しようとするので、「私(志田司郎刑事)」は車をねらって威嚇射撃する。その時、同僚の乗松刑事が、青谷を逮捕しようと車に走り寄る。「私」の発射した銃弾は乗松刑事の脊椎を傷つけ、彼を不具者にしてしまう。「私」は責任を取って辞職し、以後は一匹狼の私人として、浜内組と対決する〔*実は、乗松刑事は浜内組と内通しており、彼は「私」の銃撃を妨げ、青谷を逃がそうとしたのだった〕。
*刑事が同僚を誤射し、不眠症になる→〔眠り〕11の『インソムニア』(ノーラン)。
『奇巌城』(ルブラン) ルパンは美女レイモンドの愛を得て結婚する。彼は盗賊稼業から引退し、これからはレイモンドとともに田舎の農家で実直に暮らそうと決心する。しかしシャーロック・ホームズが、ルパンを逮捕すべく追って来る。ホームズはルパンをねらってピストルを撃つ。その瞬間、レイモンドがルパンを救おうと、ホームズの前に身を投げ出す。レイモンドは、ホームズの銃弾を喉に受けて死ぬ。
*猪・鹿・魔性のものなどと間違えて、人間を撃つ→〔誤解〕4の『仮名手本忠臣蔵』5〜6段目「山崎街道」「与市兵衛内」、→〔見間違い〕3aの『寝園』(横光利一)・『南総里見八犬伝』第7輯巻之3第67回〜巻之4第68回・『眉かくしの霊』(泉鏡花)。
『7月4日に生まれて』(ストーン) ベトナム戦争。北ベトナムの部隊に追われ、米兵たちが退却する。分隊長だったロンは小銃を乱射しながら逃げ、誤って部下のウィルソンを射殺してしまう。その後、ロンも重傷を負い、下半身不随になって帰国する。彼はウィルソンの家へ謝罪に訪れる。ウィルソンの妻は「私はあなたを許せないけど、多分神は許すわ」と言う。
『駅/STATION』(降旗康男) 三上刑事はオリンピックの射撃選手だった。親しい上司が射殺された時も、オリンピック優先で、三上は犯人捜査に加わることを許されなかった。選手生活を終えた後は、三上は狙撃班の一員として、正確無比の銃撃で何人かの凶悪犯を射殺した。三上は居酒屋の女桐子と知り合い、男女の関係になる。しかし桐子の昔の恋人森岡は、かつて三上の上司を殺した犯人だった。桐子の目の前で三上は森岡と撃ち合い、射殺した。
『腰抜け二挺拳銃』(マクロード) 幌馬車隊の一行が、インディアンに襲われる。気弱な歯医者ピーターは樽に隠れ、でたらめに拳銃を撃つ。するとインディアンたちはバタバタ倒れ、あっというまに十人ほどの死体が転がった。ピーターは自分の拳銃の腕前に驚き、幌馬車隊の人々も感嘆する。実際はピーターの背後から、射撃の名手カラミティ・ジェーンがライフルでインディアンたちを撃ったのだった〔*後、ピーターとジェーンはインディアンに捕らわれ、処刑されそうになる〕→〔分身〕4c。
*→〔狐〕9の「虎の威を借る狐」に似た物語である。
『荒野の用心棒』(レオーネ) ニュー・メキシコのある町を二分し、ロホ兄弟一家とバクスター一家が争っていた。旅の男ジョーが両家の対立をあおり、ロホ兄弟一家はバクスター一家に殴りこみをかけて全滅させる。ジョーは、ロホ兄弟一家と対決する。ロホの弟ラモンがライフルで何度もジョーを撃つが、ジョーは撃たれても撃たれても起き上がる。ジョーは胸に鉄板の盾を入れていたのだ。ジョーは拳銃の早撃ちでロホ一家を皆殺しにして、町を去る。
『荒野の1ドル銀貨』(パジェット) ゲイリーとフィルは仲の良い兄弟だった。しかし悪人マッコーリー一味の悪だくみによって、フィルは兄ゲイリーを拳銃で撃ってしまう。さいわいゲイリーは、左の胸ポケットに一枚の1ドル銀貨を入れていたので、銃弾は銀貨に当たり、ゲイリーは命拾いした〔*フィルはマッコーリー一味に殺され、ゲイリーはマッコーリー一味に復讐する〕。
『一発』(つげ義春) 「バラ銭のサム」という六十歳近くの殺し屋がいた。彼は常に、相手に勝つことよりも、自分が負けぬ工夫をしてきた。かつてサムは、たった一枚の硬貨で命拾いしたことがあった。以来、彼はいつも、身体中のポケットにバラ銭を詰めていた。サムの話を聞いた中年の殺し屋鮫島は、同じように胸ポケットにバラ銭を詰め、彼をねらう若い殺し屋との決闘に勝った。
『博物館』(ボルヘス)「J・F・Kを悼みて」 ジョン・F・ケネディを撃った銃弾は、かつてリンカーンを殺した銃弾だった。それ以前にも銃弾は、他のさまざまなものであった。ピュタゴラス流の転生(*→〔前世〕4aの『変身物語』巻15)は、人間だけのことではない。それは救世主イエスを十字架に打ちつけた黒い釘であり、ソクラテスがあおった毒杯であった。この世の始まりにカインがアベルに投げた石であったそれは、この先、今のわれわれが想像もしない、多くの物になるにちがいない。
*銃の暴発→〔死因〕3aの『火縄銃』(江戸川乱歩)。
*銃による決闘→〔決闘〕1a。
*→〔ロシアン・ルーレット〕。
★.十五歳の娘が、死や恋に直面する。
『いばら姫』(グリムKHM50) 姫の誕生祝いに招かれなかった仙女が、「姫は十五歳になると紡錘(つむ)に刺されて死ぬ」と予言する。父王は、国中の紡錘を残らず焼き捨てる。十五歳の誕生日、姫は留守番をしていて城内を見てまわり、一つの部屋にいた老婆から紡錘を見せられ、それで指を刺して倒れる〔*『眠れる森の美女』(ペロー)では「十五歳」とはせず、予言から「十五〜六年の後」に姫は紡錘で手を刺して倒れた、と記す〕。
『人魚姫』(アンデルセン) 人魚の王様には六人の娘がいて、十五歳になると海上に浮かび上がることを許された。娘たちは長姉から毎年順番に海上に出、末娘(=人魚姫)が十五歳になって海面に上がった時には、大きな船で誕生パーティをする王子を見た。王子に恋した人魚姫は、嵐に遭って沈む船から王子を救い出し、砂浜に寝かせて、海底の城へ帰った。
*十五歳の少女が、自分は何者であるかを知ろうとする→〔作中人物〕1bの『ソフィーの世界』(ゴルデル)。
*十五歳で性に目覚めさせられる→〔男性遍歴〕の『ファニー・ヒル』(クレランド)。
*十五歳の処女を捜す→〔鏡〕4aの『千一夜物語』「処女の鏡の驚くべき物語」マリュドリュス版第720〜731夜。
*十五歳の少女スワは父親に犯され、魚に化す→〔父娘婚〕4の『魚服記』(太宰治)。
★1.十三歳の少女が、旅に出る・男と出会う・死に直面するなど、人生の転機をむかえる。
『一寸法師』(御伽草子) 宰相殿の十三歳の姫君に一寸法師が思いをよせ、はかりごとを用いて(*→〔濡れ衣〕1c)、父宰相殿から姫君の身柄を託される。姫君は一寸法師とともに舟に乗り、風に吹かれて、興がる島(きょうがるしま)へ着く→〔小人〕1a。
『更級日記』 東国に育った菅原孝標女は、世の中には「物語」というものがあることを知り、「早く上京して、多くの物語を読みたい」と、薬師如来の等身像に額(ぬか)づき祈る。念願かなって、彼女が十三歳の時、父上総介の任期が終わり、一家は京へ上ることになった。
『人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち』(安部公房) 人肉食に反対する一団が、人肉を食う階級の三人の紳士の所へ陳情に来る。代表の男は、「私の十三歳の娘がクジに当り、トサツ場へ出頭しました。甘いもの好きでよく油がのっています。娘はハムにされます。お助け下さい」と懇願する。しかし三人の紳士は男を追い返す→〔人肉食〕8。
『鉢かづき』(御伽草子) 河内国交野に住む備中守さねたかと北の方の間には、なかなか子が授からなかったが、やがて姫君が一人生まれ、父母は大切に育てた。ところが姫君が十三歳の時、母北の方が病死し、姫君は鉢をかぶった異様な姿で(*→〔面〕1a)、さすらい歩く身の上となった。
『夜長姫と耳男(みみお)』(坂口安吾) ヒダのタクミである「オレ(耳男)」は、長者の十三歳の一人娘・夜長ヒメの持仏とすべきミロクボサツを、三年かけて刻む。無邪気な笑顔のヒメの、残酷な心を知った「オレ」は、呪いをこめたモノノケ像を造るが、ヒメはそれを喜ぶ。疫病が村を襲った時、ヒメは、村人が皆死ぬように祈るので、「オレ」はヒメをキリで刺す。ヒメは「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ」と言って死ぬ。
*→〔男性遍歴〕の『好色一代女』。
*→〔天人降下〕3の『夜の寝覚』巻1。
*→〔双子〕4aの『半神』(萩尾望都)。
*十二歳の少女に悪霊がとりつく→〔憑依〕5の『エクソシスト』(ブラッティ)。
『ファウスト』(ゲーテ)第1部「街路」 ファウストは、街角で見かけた処女マルガレーテ(グレートヒェン)に魅せられ、悪魔メフィストフェレスに「あの娘を何とかしてくれ」と頼む。メフィストフェレスが「あんな無邪気な娘は私の手におえない」と断ると、ファウストは「でも十四歳は越えている」と言い、結局マルガレーテを手に入れる〔*十三歳以下の娘との性交・結婚は、当時、禁じられていた〕。
『雁の寺』(水上勉) 昭和八年(1933)秋、五十八歳の孤峯庵住職慈海は、三十二歳の桐原里子を内妻として迎え、日夜痴戯にふけった。その時、小僧の慈念は十三歳だった。翌年初秋、里子は、慈念が乞食女の捨て子だったことを知って激情にかられ、慈念を抱いた。これを機に、慈念の心の中に師僧慈海への殺意が生まれ、三ヵ月後、慈念は慈海を刺殺して失踪した。
『午後の曳航』(三島由紀夫) 首領および一号から五号までの六人の少年は、みな十三歳の優等生で、天才であると自覚していた。彼らは世界の空洞を充たすため、子猫を殺して解剖する。二等航海士塚崎竜二が、三号(=登)の父親になろうとするので、少年たちは竜二に睡眠薬入りの紅茶を飲ませ、子猫同様に処刑する。十四歳未満なら処罰されず、「今が殺人をする最後のチャンスだ」と、首領は説いた。
→TOP