『クマルビ神話』(ヒッタイト)1「天上の覇権」 天上の覇権をめぐって、クマルビ神がアヌ神と戦う。クマルビ神はアヌ神の性器に咬みついて、アヌ神の精液を呑みこんでしまう。そのためクマルビ神の体内に、アヌ神の子供・天候神が宿る。天候神は、クマルビ神の口から生まれ出る。天候神はただちにクマルビ神との戦いを準備し、クマルビ神を打ち負かす。
『今昔物語集』巻26−2 東国へ旅する男が途中の某地で、蕪に穴をあけて淫欲を処理し、その蕪を捨てて去った。土地の娘が、精液のついた蕪を知らずに食べて妊娠し、子を産んだ。数年後、帰京する男がその地を再び通り、子が生まれたことを知らされ、その地にとどまって娘の婿となった。
『大智度論』巻17 仙人が、澡盤(=沐浴用の盥)の中へ小便をしようとした。その時、雌雄の鹿が交尾するのを見て、仙人は淫心を起こし、精液を流した。雌鹿がこれを飲んで身ごもり、人間の男児を産んだ。男児は頭に一本の角があり、足は鹿に似ていた。仙人は、男児が自分の子であることを知って養育した。男児は成長後、「一角仙人」と呼ばれた。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 聖仙ヴィバーンダカが湖で身体を洗っている時、天女ウルヴァシーを見て欲情を覚え、水中に射精した。牝鹿がその水を飲んで妊娠し、人間の男児を産んだ。男児の額には小さな角があったので、「リシュヤシュリンガ(=鹿の角を持つ者)」と呼ばれた〔*梵天ブラフマーの命令で天女ウルヴァシーが牝鹿になり、渇きを癒そうと水を飲んだ、とも言われる〕。
*魚が精液を飲んで妊娠し、子供を産む→〔誕生〕8aの『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」。
★1b.精液が大地・樹・岩にかかり、そこから子供が生まれる。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第14章 ヘパイストス神が女神アテナと交わろうとするが、女神は逃げ、ヘパイストスの精液は大地に落ちる。そこからエリクトニオスが生まれる→〔箱〕2。
『カター・サリット・サーガラ』「マダナ・マンチュカー姫の物語」6・挿話13 聖仙マンカナカが足を上にあげて苦行をしていた時、天女メーナカーが飛来した。聖仙の心は乱れ、カダリーガルヴァ樹に精液が滴った。たちまちそこから美しい娘が生まれ、聖仙は彼女をカダリーガルバーと名づけた。彼女は成長後、ドリダ・ヴァルマン王の妃になった→〔道しるべ〕1b。
『クマルビ神話』(ヒッタイト)2「ウルリクムミの歌」 クマルビ神は天候神に復讐するために、強大な神を生み出そうと考える。クマルビ神は泉のそばの大きな岩と寝て、岩に精液をそそぐ。そこから、母である岩と同様、全身岩でできた赤子ウルリクムミが、生まれる。ウルリクムミは成長して背丈が天上に達し、天候神と戦う。
*精液が海に放出され、そこからアフロディーテが誕生する→〔泡〕1の『神統記』(ヘシオドス)。
『今昔物語集』巻29−40 眠る僧の陰茎を蛇がくわえ、僧は性夢を見て射精する。蛇は口に精液を受けて死ぬ。
『金瓶梅』第79回 第五夫人潘金蓮が、夫・西門慶と交わろうとするが、西門慶は疲労していて思うようにならない。潘金蓮が媚薬を多量に飲ませると、西門慶は性交可能になったが、おびただしい精液を噴出させ、精液が尽きると血水が出て、なかなかとまらない。西門慶は病臥し、数日後に死んだ。
『趙飛燕外伝』 漢の成帝は趙飛燕を皇后とし、さらにその双子の妹・合徳をも寵愛した。成帝の精力が衰えたので、合徳は、一粒で一回性交が可能になる丸薬を成帝に飲ませた。ある時、合徳は酔ったいきおいで、一度に七粒も成帝に与える。成帝は一晩中、合徳を抱いていたが、翌朝になると、精液が多量に流れ出して止まらなくなった。成帝はまもなく死んでしまった。
『紅楼夢』第5〜6回 賈宝玉は子供の頃、昼寝をして夢で太虚幻境を訪れ、仙女から性の手ほどきを受けて夢精する。目覚めた賈宝玉の着替えを、彼より二歳年長の侍女・襲人が手伝い、賈宝玉の夢精を知って、そのわけを問う。賈宝玉は夢の中の交わりを語り、その場で彼は襲人と現実の性の初体験をする。
『創世記』第38章 ユダは長男エルに嫁タマルを迎えたが、エルは主(しゅ)の意に反したため、主によって殺された。ユダは次男オナンに「兄嫁タマルと結婚し、長男エルのために子孫を残せ」と命じた。オナンは、子孫が自分のものにならないと知り、兄嫁タマルの所へ行くたびに、子種(=精液)を地面に流した。これも主の意に反する行為だったので、オナンも主に殺された。
『他人の足』(大江健三郎) 「僕」たちは、脊椎カリエス療養所の未成年者病棟にいる。誰も歩くことができない。ここでは、シーツや下着を汚されたくないとの理由で、看護婦が手で「僕」たちを射精させる。大学生が入院してきて、看護婦の手を拒み、「僕」たちに、政治や社会に関心を持つべきことを説く。皆、反発しながらも感化されて、彼を見習う。しかし、まもなく彼は手術に成功し、歩いて退院してしまった。「僕」は再び看護婦の手を求める。
*→〔足〕1aの、生まれながらに脚が立たず、歩けない神(アメンや蛭子)の物語を連想させる。
*吉祥天女像に精液をそそぐ→〔神仏援助〕4b。
*精子の障害→〔妊娠〕7aの『トリストラム・シャンディ』(スターン)第1巻第1〜3章。
『古事記』上巻 アマテラスが天の岩屋戸に閉じこもり、高天原も葦原中国も闇夜になった。八百万の神々は、アマテラスを岩屋戸の外へ出す方法を相談する。アメノウズメが神がかりになり、乳房も性器も露出して舞い踊り、神々は大声で笑う。アマテラスは不思議に思い、岩戸を少し開ける〔*女神が裸になって太陽神を誘い出す『古事記』とは逆に、→〔太陽〕6の『イソップ寓話集』「北風と太陽」では、太陽が照りつけて男を裸にする〕。
『沙石集』巻10末−12 和泉式部は藤原保昌に捨てられ、貴布禰神社で夫婦和合の修法を行なう。老巫女が赤い幣を立て巡らせ、鼓を打ち性器を露出し、たたいて三度回る。「同じようにし給え」と言われた和泉式部は、顔を赤らめてこれを断り、「ちはやぶる神の見る目も恥づかしや身を思ふとて身をや捨つべき」と詠歌する。藤原保昌は彼女のふるまいに感心し、愛情が復活する。
★1b.女性器を露出して敵や魔物に対抗する、あるいは追い払う。
『史記』「周本紀」第4 周の氏iれい)王の代。神龍の吐いた沫(あわ。=龍の精気)を納めた匱が開かれ、沫が宮庭に流れ出た。王の命令で、全裸の女たちが沫にむかって大騒ぎすると、沫はトカゲと化して後宮に入りこみ、七歳ほどの少女と出会った。少女は十五歳頃になって、夫なしで身ごもり、女児を産んだ〔*沫は精液、トカゲは男性器を意味するのであろうか〕→〔子捨て〕1a。
『日本書紀』巻2・第9段一書第1 ニニギノミコトが高天原から葦原中国へ降臨しようとした時、その道すじに、一人の怪しい神が立ちふさがった。アメノウズメが、乳房と性器を露出してその神に向き合い、名を問うた→〔笑い〕1a。
*乳房を露出して敵を追い払う→〔乳房〕2の『赤毛のエイリークのサガ』。
*→〔傷あと〕7の『カター・サリット・サーガラ』・『パンタグリュエル物語』は、女性器を見せて魔物を追い払う物語が笑話化したもの。
*女性器をあらわして鬼を笑わせる→〔笑い〕1cの『鬼が笑う』(昔話)。
*女性器をあらわして女や女神を笑わせる→〔笑い〕3bの『デメテルへの讃歌』・『ペンタメローネ』(バジーレ)「序話」。
★1c.貞操を守る紐も、女性器同様に、化け物を退治する力を持つ。
『物知り老人』(アイヌの昔話) 檻の中のミントゥチ(=河童の化け物)が暴れ出し、その家の二人の女(*→〔口〕6a)を取り殺そうとする。物知り老人の教えで、二人の女はラウンクッ(=女の貞操を守る紐。夫以外の者は絶対に手を触れることができない)をほどき、二本の紐をつないで檻をしばる。物知り老人が呪文を唱えると、ミントゥチは、見えない紐で首をしめられるごとく苦しみ、死んでしまった。ラウンクッには化け物を殺す力が備わっているから、常に身につけているべきだ、と言われる。
『古事談』巻2−58 源頼光が四天王らを遣わして清監を打たせた時、清監の妹清少納言が同宿していた。男法師のように見えたので殺そうとしたところ、清少納言は、尼であることを示そうと、自ら性器をあらわした。
『耳袋』(根岸鎮衛)巻之1「金精神(こんせいじん)の事」 津軽での出来事。娘の陰部に鬼牙があって、交合の折に男根を傷つけたり喰い切ったりするので、何人もの婿が、逃げ帰ったり死んだりした。一人の男が黒銅製の男根を用いると、陰部の牙はことごとく砕けて抜け、以後は普通の女になった。その地方では、黒銅で男根の形をこしらえて「カナマラ大明神」と呼び、今でも神体として尊崇している。
『夢日記』(スウェーデンボルグ) 「私」は、あまりきれいでない女と寝ていた。「私」はその女を好いていたので、彼女に触れたが、その入口には歯が並んでいた(1744年4月13〜14日)。石炭の火が赤々と燃えている所で、「私」は女たちと一緒になった。女たちは、「私」が入って行きたいと思う箇所に歯をはやしていて、「私」が入ろうとするのを妨げた(同年10月9〜10日)。
*入れ子構造の女性器→〔入れ子構造〕1cの『女体消滅』(澁澤龍彦『唐草物語』)。
『聴耳草紙』(佐々木喜善)89番「狸の話(狸の女)」 大正七年冬。宮古の山中で、爺と二人の若者が小屋に泊まっていた。そこに若い女が来て、宿を請う。女は炉端に座るが、だんだん姿勢が崩れ、赤い腰巻や性器をチラチラ見せて、若者を誘惑する。そのうち囲炉裏の暖かさで、性器があくびをする。爺と若者たちは女を捕らえて叩く。それは二匹の狸が首乗りに重なって、一人の女に化けていたのだった。
*女性器と貝→〔蛸〕1bの『赤貝猫』(落語)。
『江談抄』第2−31 右大臣実資が上卿として陣の座にいて申し文を下す時、弾正弼顕定が紫宸殿の東軒下で陰茎を出した。蔵人範国はこらえきれず笑ったが、実資は事情を知らず、範国をきびしく咎めた〔*『今昔物語集』巻28−25に類話〕。
『詩語法』(スノリ)第3章 巨人族の娘スカジが、父を殺されたことの償いを要求して、アース神族のもとへのりこむ。ロキが山羊のひげと自分の性器とを紐で結び、紐の引き合いをしながら奇妙な踊りを見せると、怒り顔のスカジも笑い出し、神々とスカジは和解する。
『太陽の季節』(石原慎太郎) 竜哉の家へ英子が来た時、竜哉は庭に立てられた離れの部屋へ彼女を案内した。竜哉は風呂から上がり、離れに上がって、障子の外から「英子さん」と声をかける。英子がふり向いた気配に、竜哉は勃起した陰茎を、外から障子に突き立てた。障子は音を立てて破れ、英子は読んでいた本を、力一杯投げつけた。
『蛙(かわず)茶番』(落語) 町内の素人芝居で、おっちょこちょいの半次が舞台番(=舞台脇にすわって客席を静める係)を引き受ける。半次は「尻をまくって派手な緋縮緬のふんどしを見せ、客席の娘たちをわーっと言わせよう」と、張り切る。ところが、風呂へ入ってふんどしをするのを忘れたまま、半次は尻をまくる。客席がどよめくので、半次は「緋縮緬を見て感心しているな」と喜ぶ。
『人間失格』(太宰治)「第一の手記」 「自分(大庭葉蔵)」は幼い頃から道化を演じ、周囲を笑わせようと必死の努力をしていた。ある時「自分」は、下男や下女たちを洋室に集め、インデヤン踊りをして皆を大笑いさせた。兄がそれを撮影し、出来上がった写真を見ると、踊りの腰布の合わせ目から小さいおチンポが見えていたので、家中がまた大笑いした。「自分」にとって、これは意外な成功だった。
『古事記』上巻 アマテラスが忌服屋(いみはたや)にいて、神に奉る衣を織らせていた時、スサノヲが服屋(はたや)の屋根に穴をあけ、天の斑馬を逆剥ぎにして落とし入れた。天の機織女(はたおりめ)は驚き、梭で陰部を突いて死んだ〔*『日本書紀』巻1・第7段本文ではアマテラスが梭で身を傷つけた、一書第1ではアマテラスの子とも妹ともいわれる稚日女(ワカヒルメ)が梭で身を傷つけて死んだ、と記す〕。
『日本書紀』巻5祟神天皇10年9月 倭迹迹日百襲姫(やまとととびももそひめ)は夫(=大物主命)の真の姿を知ろうと櫛笥を開け、小蛇を見出して驚く。彼女はその場に座りこみ、箸が陰部に突きささって死ぬ〔*『今昔物語集』巻31−34の異伝では、男が怒って女の陰部に箸を突き立てる〕。
『播磨国風土記』揖保郡萩原の里 神功皇后の従者たちが、米をつく女たちの性器を交接して断ち切った。それゆえ陰絶田(ホトタチダ)と言う。
*→〔手〕2の『古事談』巻1−1。
*→〔火〕1aの『古事記』上巻。
『今昔物語集』巻20−10 信濃国の郡司の家に宿り、その妻に夜這いした九人の男たちは皆、幻術によって性器を失った〔*翌朝、性器は返してもらえた〕。
『トリストラム・シャンディ』(スターン)第5巻第17章 女中スザンナが五歳のトリストラムを椅子によじ登らせ、窓から小便をさせようとした時、窓枠が落ちる。血はほとんど流れなかったが、スザンナは「何も残っていないわ」と叫んで、逃げ出す。
『トリストラム・シャンディ』(スターン)第9巻 トリストラムの叔父トゥビーは、かつて戦争で鼠蹊部に重傷を負った。未亡人ウォドマンがトゥビーに思いを寄せるが、彼女は、トゥビーの鼠蹊部のどの部分に傷があるのかが大いに気がかりで、結局結婚話は立ち消えになった。
『パルチヴァール』(エッシェンバハ)第13巻 クリンショルは、ジチリエ王イーベルトの妃との密通の現場をおさえられ、王の手で去勢された。
『二人兄弟の物語』(古代エジプト) 兄嫁を犯そうとしたと疑われたバタは、兄アヌプの前で、自らの性器を葦のナイフで切り取り、河に投げる。ナマズがそれを呑みこみ、バタは力が萎え弱々しくなる。バタは兄と別れて杉の谷へ行く。
*→〔後ろ〕2の『神統記』(ヘシオドス)。
*→〔おじ・おば〕7の『パルチヴァール』(エッシェンバハ)第9巻。
*→〔寸断〕1bの『イシスとオシリスの伝説について』(プルタルコス)18。
*→〔蛇婿〕5の『聊斎志異』巻12−463「青城婦」。
『古今著聞集』巻16「興言利口」第25・通巻547話 嫉妬深い妻と別れようと考えた男が、亀を一匹買い、首を三〜四寸引き出して切り取っておく。妻と喧嘩になった時、男は「すべてはこれがあるため」と、男根を切るふりをして、亀の首を投げ出し、帰って行く。数ヵ月後に男が訪れると、妻は股のあたりに黒布を着けており、「故人(=男根)のための喪服です」と言った。
『デカメロン』(ボッカチオ)第3日第10話 若い聖者が勃起した性器を「これは悪魔だ」と言って、処女アリベックに見せる。聖者は「悪魔を、あなたの身体にある地獄の中に閉じ込めることが、神様への奉仕になる」と説いて、アリベックと交わる。何度も交わりを繰り返すうちに、アリベックは「神様への奉仕は、本当にこころよいものだ」と感じるようになった。
*男性器の身代わり→〔身代わり〕4bの『風流志道軒伝』巻之5。
*猿が性器を傷つける→〔猿〕5b・5c。
*性器を隠す→〔裸〕3。
*手で女性器の形状をあらわす→〔手〕6a・6b。
『青い麦』(コレット) 十六歳の少年フィリップと十五歳の少女ヴァンカは恋人どうしだった。八月末のある日、三十歳過ぎのマダム・ダルレーに誘惑されて、フィリップは初めての性体験をする。それを知ったヴァンカは怒り「あなたは、それを私に求めるべきだったのよ」と言う。その夜二人は結ばれる。
『明烏』(落語) 悪友二人が、堅物の若旦那をだまして吉原へ連れ込む。驚いた若旦那が帰ろうとすると、悪友二人は「三人連れの一人だけが帰ろうとしても、怪しまれて大門で止められる」と言って、逃がさない。若旦那は抵抗するが、美しい花魁にリードされて初めての体験をすると、すっかり満足してしまう。翌朝、悪友二人は女郎にふられて面白くないので、先に帰ろうとする。若旦那は二人にむかって、「大門で止められますよ」。
『古事記』上巻 高天原からオノゴロ島へ、イザナキ・イザナミ二神が降りて来る。イザナキがイザナミに「汝の身体はどのように出来上がったか?」と問う。イザナミは「私の身体には、出来上がらずに合わさっていない所があります」と答える。イザナキは「私の身体は出来過ぎて、余った所がある」と告げ、「私の身体の余った所を、汝の身体の合わさっていない所に刺し入れて、国土を産もう」と提案する。
*イザナキ・イザナミ二神が互いの身体の凹凸を合わせて合体するのは、切り離された球状人間が互いの半身を求め合う物語を連想させる→〔人間〕1bの『饗宴』(プラトン)。
『青年』(森鴎外) 創作家志望の小泉純一は、Y県の中学校を卒業した後、ある年の十月下旬に上京し、小説家を訪問したり文学青年たちの会合に出たりする。十一月二十七日、有楽座でのイブセン(=イプセン)劇の上演を見に行った折、彼は、法律学者の未亡人・坂井れい子に声をかけられる。誘われるままに、彼は十一月三十日に坂井夫人宅を訪ね、そこで初めての性体験をする。
『聊斎志異』巻11−415「書癡」 玉桂は本ばかり読んでいたため、三十歳になっても独身で、性知識も皆無だった。本の中から現れた美女が玉桂と結婚し(*→〔本〕8)、彼に性の手ほどきをする。玉桂はその体験をたいへん喜んで、「私は、夫婦の営みが口では言えない楽しいものであることを知った」と言った。そして、会う人ごとにそのことを話したので、皆は笑った。
*性夢がきっかけで初体験をする→〔精液〕4の『紅楼夢』第5〜6回。
『善さんと悪さん』(古代ヒッタイト) 神々がアップに、「妻と寝れば子が出来る」と教える。アップは、着物を着たまま妻に背を向けて眠るが、子供はできない。太陽神が「妻を抱いて楽しめ」と教え、アップは妻と交わり子を得た。
『ダフニスとクロエー』(ロンゴス)巻3〜4 恋し合う少年ダフニスと少女クロエーは横になり抱き合うが、正しい性交のしかたを知らない。二人のありさまを見た人妻リュカイニオンが、ダフニスを誘い導いて性交を体験させる。後にダフニスとクロエーは結婚し、ダフニスは人妻リュカイニオンに教わったことを、初めて試みる。クロエーは、かつて抱き合ったのは子供の遊びにすぎなかったことを知る。
*動物の動きを見て、性交のしかたを知る→〔動物教導〕3の『日本書紀』巻1・第4段一書第5。
*無邪気な男女に、性交を促す酒→〔酒〕4の酒と生殖の起源の神話。
『女の平和』(アリストパネス) アテナイとスパルタの抗争が続き、男たちが家を留守にして戦争に明け暮れるので、妻たちは団結し、戦争が終わるまで夫との性交渉を拒否する。男たちは禁欲生活に耐えられず、アテナイとスパルタは和睦する。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第4章 アステリアーは、ティターン族のコイオスの娘だった。彼女はゼウスと交わることを厭(いと)い、鶉に変身して海へ身を投げた。
『日本書紀』巻7景行天皇4年2月 景行天皇は美濃国に行幸し、八坂入彦の女・弟媛が美人だと聞いて、妃にしようと召した。弟媛は、「私は交接の道を好まない性質ゆえ、召されても嬉しくない。代わりに姉を後宮に入れ給え」と請い、天皇は聞き入れて姉の八坂入媛を妃とした。
『反撥』(ポランスキー) キャロルは姉と二人でアパートに暮している。姉は恋人をアパートに泊め、情事の折の姉の声が隣室から聞こえて、キャロルは眠れない。彼女は男性全般に嫌悪感を抱く。夜、キャロルは見知らぬ男に犯される夢を見る。キャロルが一人でいる時に、男友達が訪れる。キャロルは彼を燭台で殴り殺し、死体を浴槽に沈める。家主が家賃を取りにやって来て、ネグリジェ姿のキャロルに抱きつく。キャロルは彼を剃刀で切り殺す。
『朝』(太宰治) 小説家の「私」は、銀行勤めの若い女性キクちゃんの部屋を、昼間だけ仕事場として借りる。ある夜、私は大酔してキクちゃんの部屋に泊まり、停電ゆえ、蝋燭をつけてもらう。「蝋燭が燃え尽きたらキクちゃんの身が危ない」と、「私」は覚悟しかけ、やがて蝋燭が消えるが、その時すでに夜明けだった。
『源氏物語』「総角」 宇治の大君に求愛し続ける薫は、ある夜彼女の部屋に忍び入るが、大君は身を隠し、あとに妹・中の君が残される。大君は妹を薫に与え、自らは妹の後見をしようと考えていた。薫は中の君に魅力を感じながらも、大君思慕の純粋さを示すため、中の君に触れぬまま朝を迎える〔*この時より五十年余り前、「空蝉」の巻にも、類似の状況が描かれる。光源氏は空蝉に逃げられ、あとに軒端の荻が残される。しかし源氏は薫と異なり、人違いと知りつつも軒端の荻と関係を持つ〕→〔人違い〕7。
『行人』(夏目漱石)「兄」37〜38 暴風雨のため、「自分(長野二郎)」は嫂の直(なお)と、和歌山の旅館の一室で一夜を過ごす。直が「これから和歌の浦へ行って、一所に飛びこんでお目にかけましょうか」と言うので、「自分」は「あなた今夜は昂奮している」となだめる。直は「たいていの男は意気地なしね。いざとなると」と床の中で答え、やがて「早くお休みなさいよ」と言う〔*→〔蚊帳〕1の『三四郎』も類似の状況〕→〔妻〕6a。
『武家義理物語』(井原西鶴)巻6−2「表むきは夫婦の中垣」 老武士が、身寄りを失った主家の姫君と一つ屋根の下に同居し、世話をする。雷雨の夜、姫君がおびえて老武士にしがみつき、老武士も心乱れるが、身を慎む。世人はこの二人を夫婦と見なすが、そのようなことはなく、後に姫君は、身分高い人から寵愛される身の上となった。
★3d.男が性交に及ぼうとするのではないか、と女が警戒するが、男は空腹で、食べ物が欲しいだけだった。
『寒い朝』(石坂洋次郎) 三輪重夫と岩淵とみ子は、大学受験を間近にひかえた高校三年生で、仲の良い友達どうしである。とみ子が「二〜三日家出する」と言い、重夫も家出につきあう。二人は旅館の一室で机に向かって受験勉強をし、部屋の両端に別れて眠る。夜中に重夫が蒲団から這い出して来るので、とみ子はハンガーで撃退しようと身構える。重夫は、机の上に残っていた夜食の握り飯を取り、自分の寝床へ戻って行った。
『心の旅路』(ルロイ) 大実業家チャールズは記憶喪失のため、現在の秘書マーガレットが、かつての妻ポーラであることに気づかない(*→〔同一人物〕3)。彼は議員に選出され、政治家の活動には妻が必要だ、との理由でマーガレットと結婚する。しかし性関係は持たない(*人々が「素敵なご夫婦だけど、お子様がいないのよ」とささやき合う場面が、夫婦に性関係のないことを暗示する)。後チャールズは、ポーラと暮らした家を訪れて記憶を回復し、マーガレット(=ポーラ)を抱きしめる〔*その夜から二人は本当の夫婦になったのであろう〕。
*処女妻→〔処女〕4a・4b・4c。
『押絵の奇蹟』(夢野久作) 歌舞伎役者・中村半太夫が博多へ興行に来た折に、土地の人妻と出会う。美男・美女である二人は、一目で互いに恋に落ちるが、何事もなく別れる。やがて人妻は、夫との間に女児をもうける。生れた女児の顔は、半太夫そっくりだった。同じ頃、半太夫の妻は、博多の人妻に生き写しの男児を産んだ。
『親和力』(ゲーテ) エドゥアルトと妻シャーロッテの屋敷に、エドゥアルトの親友オットー大尉とシャーロッテの姪オッティリエが同居する。四人で暮らすうち、エドゥアルトとオッティリエ、シャーロッテと大尉が、それぞれ相愛の仲になる。ある夜、エドゥアルトとシャーロッテは久しぶりに同衾するが、抱き合いながらも、エドゥアルトはオッティリエを、シャーロッテは大尉を思っていた。夫妻の間に生まれた男児は、大尉そっくりの顔だち・身体つきで、オッティリエそっくりの眼をしていた。
『南総里見八犬伝』第2輯巻之1第12回〜巻之2第13回 八房と伏姫は相交わることはなかったが、八房は心に伏姫を妻と思い、伏姫は、経を聴聞する八房を憐れむゆえに、物類相感の理によって懐妊する。懐胎六ヵ月の伏姫が自ら腹をかき切ると、傷口から白気が閃き出て、襟にかけた水晶の数珠を包んで虚空に昇る。
『怪談牡丹燈籠』(三遊亭円朝)8 お露の死霊が萩原新三郎と抱き合うさまを、隣家の伴蔵がのぞき見て、人相見の白翁堂に知らせる。白翁堂は「死者は陰気盛んで邪に穢れている。たとえ百歳の長寿を保つ命も、幽霊と契れば精血を減らし、必ず死ぬ」と説き、新三郎の相を見て「二十日以内の命」と告げる。新三郎は死霊退散の御札を貼るが、伴蔵がそれをはがしたため、新三郎はお露の死霊に取り殺される。
『西鶴諸国ばなし』(井原西鶴)巻3−4「紫女」 伊織の閑居を美女が訪れ、二人は夜な夜な契りを交わすが、二十日もせぬうち伊織は痩せ衰えていく。友人の医師が「このままでは命も長からず」と診断し、わけを聞いて「それは紫女という狐の化身だ」と教える。伊織は女を追い払い、供養をして危うい命を助かる。
*雄狐が、人間の姫君の命を損なわないよう遠慮して、性交を断念する→〔狐〕2aの『玉水物語』(御伽草子)。
『忠五郎のはなし』(小泉八雲『骨董』) 足軽の忠五郎は、異類の女と交わりを重ねて死病におかされる。医者が診察して「この人には血がない。血管の中は水ばかりだ」と驚く。女の正体は蝦蟇で、若い男の血を好み、これまでにも何人かが殺されていた→〔蛙〕2a。
『南総里見八犬伝』(滝沢馬琴)第6輯巻之5下冊第60回 庚申山の妖猫が、赤岩一角の妻・二十二歳の窓井が美貌ゆえ、これを犯そうと、一角を殺して彼に化ける。窓井は妖猫を夫と思って枕を重ね、男児を産むが、次第に精気が衰え、三十歳足らずで死ぬ。その後に偽一角が置いた妾たちも精気を吸い取られ、一年以内に死ぬ者が何人もあった。
*→〔性器〕1eの『耳袋』(根岸鎮衛)巻之1「金精神(こんせいじん)の事」・〔蛇婿〕5の『聊斎志異』巻12−463「青城婦」。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章 イオカステ(あるいはエピカステ)と結婚したライオス王に、神が「男子をもうけてはならない。生まれた男子は父殺しになるであろうから」と託宣する。しかしライオス王は酔って妻と交わり、オイディプスが生まれる。王は後年オイディプスに殺される。
『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」 パーンドゥ王が、森で交尾する鹿を弓で射る。しかしそれは聖仙キンダマが、鹿の姿となって妻の牝鹿と交わっていたのであった。キンダマは「お前も、愛する者と交わる時死ぬのだ」とパーンドゥ王を呪う。王は禁欲生活を送るが、ある春の日、森へ遊びに出かけ、情欲に負けて妃マードリーを抱き、妃の身体の上に乗ったまま死ぬ。
*仏罰を受けて、性交中に死ぬ→〔雨宿り〕1cの『日本霊異記』下−18。
*性の戯れのあげくの死→〔死因〕3b。
*性交中に殺される→〔物語〕9aの『氷の微笑』(ヴァーホーヴェン)。
『ヒョウ風』(谷崎潤一郎) 日本画家の直彦は二十四歳の暮れに初めて吉原へ行き、相方の女に溺れて衰弱する。彼は、しばらく女から遠ざかって心身の健康を回復させようと、六ヵ月の禁欲を自らに課して、東北地方を放浪する。直彦は禁欲を守り通し、半年ぶりに吉原の女のもとへ戻るが、性交の後、極度の興奮から脳卒中で死ぬ。
*媚薬を用いての性交が死をもたらす→〔精液〕3。
『短命』(落語) 伊勢屋の一人娘に婿を取っても、相次いで若死にし、三人目もまた死んでしまった。不思議がる八五郎に、隠居が「あの娘はとびきりの美女だから、房事過多で婿は衰弱死するんだ」と教える。納得して家に帰った八五郎は、女房の顔をつくづくと見て「ああ。おれは長命だ」。
『世説新語』「豪爽」第13 王処仲は高潔な人だったが、かつて女色に溺れ、荒淫の末に身体をこわしてしまったことがあった。左右の者に諌められた彼は非を悟り、奥の間の扉を開いて、小間使いや妾たち数十人を解放し、各自の行きたい所へ行かせた。
『静かなる決闘』(黒澤明) 軍医の藤崎は、手術の際に指先を傷つけたため、患者の梅毒菌に感染する。戦争中で十分な治療ができず、終戦後、内地に戻って来た頃には、根治までに相当の長年月を要する状態になっていた。藤崎は恋人美佐緒との婚約を、理由を言わずに破棄する。理由を告げれば、彼女は「五年でも十年でも待ちます」と言って、青春を犠牲にするに決まっているからである。美佐緒は藤崎を恨みつつ、他の男に嫁ぐ。
『満願』(太宰治) 小学校の先生が肺を悪くしたが、この頃ずんずん回復してきた。しかし医者は当分の間、妻との性交を禁ずる。夫の薬を取りに来る若妻に、医者は心を鬼にして「奥様、もう少しのご辛抱ですよ」と、繰り返し叱咤する。三年過ぎた夏の朝、とうとう医者から、お許しが出た。若妻は嬉しそうな表情で、足早に帰って行った。
★6a.性交によってAからBに病気をうつす。その結果Aの病気が治る。
『サン・ヌーヴェル・ヌーヴェル』第55話 ペストに罹患した娘が、男との交わりを経験せぬまま死ぬのを残念に思い、また、交わりが病気の薬になるような気がして、何も知らぬ四人の男と交わる。その結果、娘はすっかり快癒するが、男は四人のうち三人までがペストをうつされて死んだ。
『南京の基督』(芥川龍之介) 梅毒を病む少女売笑婦金花は、朋輩から「人にうつせば治る」と聞かされる。ある夜、訪れた外国人客をイエス・キリストの化身と思い、金花は彼に身をまかせる。翌朝、彼女は「神の力で病気が癒された」と感じる〔*しかし客はただの不良外人で、彼は梅毒に感染して発狂した〕。
*妻が情夫と性交することによって、夫にとりついた「死」を情夫に乗り移らせる、という嘘→〔密通〕5bの『パンチャタントラ』巻4−7。
『医者間男』(落語) 医者と間男している女が、「亭主の目の前でかわいがられてみたい」と言う。医者は亭主に「あんたの嫁はんのだいじな所に腫れ物ができた。私の一物に薬を塗って治療するしか方法がない」と告げ、亭主の前で女と交わる。女がしだいに取り乱すのを見て、亭主は「ええ、もう! 先生が医者やなかったら疑うとこや」と言う。
『列仙伝』(劉向)「女几(じょき)」 酒屋の女几は、仙人から酒代の代わりに房中術の書物を得た。彼女はその方法を、大勢の若者を相手に試みた。三十年これを続けたところ、すっかり若返り、二十歳の頃のような容貌になった。
『変身物語』(オヴィディウス)巻3 ユピテル(ゼウス)が「女の喜びは、男のそれよりも大きい」と言い、后ユノー(ヘラ)は「とんでもない」と否定する。男女両性の喜びを知るテイレシアス(*→〔性転換〕3)が、「ユピテルが正しい」と裁定したので、ユノーは怒ってテイレシアスを罰し、彼を盲目にする。ユピテルは代償に、テイレシアスに未来を予言する力を与える〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第6章では、テイレシアスは「男と女の快楽の比率は一対九」と言う〕。
★9.一人の男がある家を訪れ、一家全員(男も女も)と性関係を持つ。
『いいえ』(落語) 女形の役者が、女姿のまま旅に出て百姓家に宿を請う。その家は親父・女房・娘の三人家族だったが、夜のうちに役者は本性を現し、女房と娘を犯す。一方、親父は役者を「いい女だ」と思い、翌朝その辺まで送るついでに口説く。ところが、あべこべに役者が親父の尻を犯してしまう。役者が去った後、落ち着かぬ三人は、互いに「変わったことはなかったか?」「いいえ」と言い合う〔*『嵐民弥』『尾上多見江』など、登場する役者の名前をタイトルにする場合もある〕。
『テオレマ』(パゾリーニ) ブルジョアの工場主とその妻・息子・娘・女中が住む邸宅に、見知らぬ青年が客として訪れ滞在する。何日かの滞在中に青年は、女中・息子・妻・娘・工場主の順に、全員と性関係を持つ。青年が去った後、女中は瞑想生活に入り空中浮揚する。息子は狂気のごとく絵画制作に没頭する。妻は街の青年たちと性交する。娘は全身が硬直して病院に運ばれる。工場主は全裸で荒野をさすらう。
『エマニエル夫人』(ジャカン) 外交官夫人エマニエルは、夫の赴任先であるタイのバンコクへ旅立つ。バンコクには、有閑フランス人の社交グループがあった。オナニー好きの少女やレズビアンの女たちに、エマニエルは出会う。夫はエマニエルに、いろいろな性体験をするよう勧める。初老の男マリオがエマニエルの教育係になって、乱交の哲学を説く。マリオはエマニエルを何人もの男たちと交わらせる。それに応えて、エマニエルの心も身体も変わって行く。
『花妖記』(澁澤龍彦) 天人の交わりには五品ある。地上に住む地居天(ぢごてん)は人間のように相交わって情をとげるが、それより上の空中に住む夜摩天(やまてん)は相擁するだけで、兜率天(とそつてん)は手を執り合うだけで、化楽天(けらくてん)は笑みを交わすだけで、他化自在天(たけじざいてん)は見つめ合うだけで、情をとげるという。与次郎は、梅花の精のごとき美女と交わり、「この女は天人ではなかろうか」と疑った→〔死体〕13。
『光る海』(石坂洋次郎) 久美子たち高校三年生の男女が皆で話し合ったところによると、彼らの七十パーセントくらいは、子供の頃、パパとママが一緒に寝ているのを見たことがあった。それを見た時、「ママがこわい夢を見たのでパパの寝床に入って行った」とか、「パパがママをいじめている」などと思った者もいたが、「何かわからないが、口に出してはいけない行為をしている」と考えた早熟な者もいた。
『哀蚊(あわれが)』(太宰治) 姉様が婿養子をとった祝言の晩。幼かった「私」は、父様が離座敷(はなれ)の真っ暗な廊下で、背の高い芸者衆と相撲を取っているのを見た。父様は、弱い人をいじめるようなことは決してしなかったから、きっと芸者衆が何かひどくいけないことをしたので、父様はそれを懲らしめていたのだろう。
『雨の訪問者』(クレマン) メリーは小学生の時、帰宅して、母が裸で、知らない男とベッドに寝ているのを見た。父がメリーを厳しく問い詰め、メリーは耐え切れずに、母の行為を話してしまう。父は家を出て行く。メリーは大人になり、パイロットの夫と結婚する。ある日メリーは、暴漢に襲われ犯される。しかし彼女はそのことを警察に言わず、夫にも知られないようにした→〔暴行〕6。
*男の力を奪う性交→〔誘惑〕3a。
*男が性交によって、死んだ女を生き返らせる→〔蘇生〕3aの『聊斎志異』巻3−97「連瑣」、巻5−194「伍秋月」。
*夫が死んだので、夫の像を作って交わる→〔像〕1cの『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章。
*星々の性交→〔星〕11の『妖魔伝』(バルザック)。
『あしたのジョー』(高森朝雄/ちばてつや) 矢吹丈は、バンタム級世界チャンピオンのホセ・メンドーサと十五ラウンドを闘い、ホセに大きなダメージを与えるが、惜しくも判定負けとなる。丈は真っ白に燃え尽き、コーナーの椅子に座って静かに眼を閉じる〔*ちばてつやは、「丈があの場面で死んでしまったかどうかは読者が解釈してくれればよい」と述べている〕。
『暗夜行路』(志賀直哉) 時任謙作は重症の大腸加多児(カタル)にかかり、高熱を発して大山山麓の寺に臥す。京都から駆けつけた妻・直子は「この人はこのまま助からないのではないか」と思う。そして「助かるにしろ、助からぬにしろ、自分は何処までもこの人について行くのだ」と思い続ける→〔山〕1b。
『大菩薩峠』(中里介山)第38巻「農奴の巻」〜第41巻「椰子林の巻」 机龍之助とお雪ちゃんは琵琶湖上に舟を浮かべ、心中をはかるが二人とも蘇生する。しかし、その後京都周辺をさまよう龍之助は、田中親兵衛から「君も僕も、いい死にようはできなかった」と言われ、また、捕方の源松に「あなた様は幽霊のように姿があって影がない」と言われる。宇津木兵馬は長浜で龍之助の卒塔婆を見、龍之助は大原で、自分の肉を煮て食う老婆(*→〔人肉食〕7)に出会う。龍之助は生身の人間なのか、すでに遊魂となって現世と霊界を往還しているのか判然とせぬまま、物語は途切れる。
★2.重病で死を目前にした主人公が、あるいは持ち直すかもしれない、というところで物語が終わる。
『君の名は』(菊田一夫) 氏家真知子は再会を誓い合った後宮春樹と巡り会うことができず、浜口勝則との結婚を決める。しかし彼女の結婚生活は、幸福なものではなかった。真知子は流産し、春樹との不倫を疑われ、姑にいじめられる。ようやく離婚するものの、心身の疲労から真知子は病に倒れ、危篤に陥る。その時欧州にいた春樹が急を聞いて病床に駆けつけ、真知子が生きる気力を取り戻そうとするところで、物語は終わる。
★3.物語の最後で生死不明だった主人公が、その続編で、健在であることが示される。
『ハレンチ学園』(永井豪)第1部「ああハレンチ学園の巻」〜第2部「運命のめぐりあいの巻」 大日本教育センターの大軍がハレンチ学園を攻撃し、学園の先生・生徒たちが次々に戦死する。山岸と十兵衛は死を覚悟して敵陣に突撃する。ヒゲゴジラは重傷を負い、血を流しつつ「死なないわ」とうめいて這う。こうしてハレンチ学園は地上から消滅する〔*しかし山岸も十兵衛もヒゲゴジラも奇跡的に生き残り、三年後に再会する〕。
『氷点』『続氷点』(三浦綾子) 十七歳の辻口陽子は、自分がもらい子であることは知っていたが、実は辻口家の娘を殺した犯人の子だ、と聞かされて睡眠薬自殺をはかる。手当てをしても陽子は昏睡から覚めず、父辻口啓造は「今夜が峠か」と思いつつも、「助かるかもしれない」と希望をつなぐ〔*命をとりとめた陽子は、殺人犯の子ではなく、母の不義の子であることを知り、そのことでまた悩む〕。
★4.今の自分が、生きているのか死んでいるのか、判断できない。
『ある会話についての会話』(ボルヘス) 「わたし」は作家のマセドニオ・フェルナンデスと、不死について熱心に議論し、夜になっても灯をつけることを忘れていた。近所から、耳障りな「ラ・クンパルシータ」が聞こえていた。「わたし」はマセドニオに「いっそ自殺でもするか。議論に邪魔が入らなくていい」と持ちかけた。しかし、あの晩、実際に自殺したのかどうか、「わたし」は覚えていないのだ。
『部屋』(星新一『つねならぬ話』) ある小屋の部屋の中で、二人の囚人が語り合う。「ここに入れられて何年になるかな」「かなりになるな。忘れるぐらい古いことさ」「たまに思うんだが、もしかしたら、おれたちの死刑、ずっと前にすんでしまっているんじゃないかな」「そうかもしれない。誰かがのぞいても、おれたちを見ることはないのかも」「あるいは、この小屋そのものもね」。
*死者が、自分の死に気づかない→〔死〕6の『聊斎志異』巻1−31「葉生」。
*生者が、「自分は死んでいるかもしれない」と思う→〔死〕7aの『粗忽長屋』(落語)。
★5.殺したはずの男に似た人物が、追いかけて来る。男は生きていたのか、それとも良く似た別人なのか、わからない。
『生きている小平次』(鈴木泉三郎) 太九郎は、自分の女房を寝取った小平次を、船板で打ちすえて、あさかの沼へ沈める。しかし小平次は死ななかった。小平次は傷を負った身体で、江戸の太九郎の家へやって来る。太九郎は、今度は刀で小平次を突き殺し、女房を連れて旅に出る。すると小平次に似た男が、見え隠れについて来る。小平次は生きているのか、良く似た別人なのか、わからない。太九郎夫婦は、恐怖にふるえながら旅を続ける。
★1a.神の子、あるいは神的な性質を持つ子は、きわめて成長が速い。
『義経記』巻3「弁慶生まるる事」 弁慶は、誕生時すでに二〜三歳児のごとく髪は長く歯は生え揃い、鬼若と名づけられる。五歳の頃には普通の子の十二〜三歳ほどに見えた。
『竹取物語』 かぐや姫は、竹中から見出された時には、身長が三寸ばかりだった。彼女は、翁・嫗に養われてすくすくと育ち、三ヵ月ほどで一人前の背丈に成長した。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之7第104回 文明十年(1478)七月、四歳の犬江親兵衛は神隠しに遭い、以後、富山の洞窟で伏姫神霊に育てられた。伏姫神霊から毎日与えられた仙漿奇果のゆえか、成長が速く、五年後の文明十五年(1483)二月に里見義実の前に姿を現した時には、親兵衛は九歳で身長三尺四〜五寸だったが、筋骨たくましく、十六〜七歳の者も及ばぬ武勇を発揮した。
ハイヌウェレの神話 アメタが土に埋めた椰子の実は、三日後には高い木となり、さらに三日後には花が咲いた。そこから生まれ出た女児ハイヌウェレは、三日後にはもう一人前の女性に成長した(インドネシア・ウェマーレ族の神話)→〔誕生〕1。
『封神演義』第12回 母の胎内に三年六ヵ月いて誕生したナタ(ナタク)は、七歳になった時には、すでに身の丈六尺を超えていた。五月の蒸し暑い日、ナタは川遊びに出かけ、龍王の第三太子及び臣下巡海夜叉と争って殺してしまった。
『百喩経』「王女に薬を与えてにわかに成長させた医師の喩」 国王が、「誕生した王女に薬を与えて速く成長させよ」と医師に依頼する。医師は、「薬を捜して来るまで王女に会うな」と国王に告げ、十二年後に遠国から薬を持ち帰り、王女に飲ませて国王に会わせる。国王は「よくぞ急成長させてくれた」と医師を誉め、宝物を与える。
『常陸国風土記』那賀の郡茨城の里哺時臥(くれふし)山 ヌカビメの産んだ小蛇は、杯に入れて祭壇に置くと、一晩のうちに杯の中いっぱいに成長した。瓶に入れなおすと、また瓶いっぱいに大きくなる。瓶を大きくすること三〜四度に及び、ついに容器がまにあわなくなった。ヌカビメは小蛇に、「お前は神の子だから、父のもとへ行け」と告げた→〔蛇息子〕1。
『酉陽雑俎』続集巻1−875 継母にいじめられる娘葉限(しょうげん)が、川で、赤い鰭・金の目を持つ二寸余りの魚を得た。魚の成長は早く、器を何度か取り替えても入らないほどになったので、池に放した。やがて魚は継母に殺されるが、その時には一丈余りの大きさになっていた→〔靴(履・沓・鞋)〕3a。
★2a.成長が遅い子。後に立派な仕事をなしとげるばあいがある。
『出雲国風土記』仁多の郡三沢の郷 大穴持の神の子アヂスキタカヒコノミコトは、髭が長く生えるようになるまで昼夜泣いて、言葉をしゃべらなかった。親神が御子を船に乗せて心を楽しませたが、それでも泣きやまなかった。
『古事記』上巻 スサノヲは、父イザナキから海原を治めるように命ぜられたがそれに従わず、成長して八束髭が胸先に垂れるほどになっても、「亡き母のいる根の堅州国へ行きたい」と泣きわめいていた。父イザナキは怒ってスサノヲを追放した〔*『日本書紀』巻1に類話〕。
『古事記』中巻 垂仁天皇の子ホムツワケは、八束髭が胸先にいたるほどになっても、言葉をしゃべらなかった〔*『日本書紀』巻6垂仁天皇23年9月では生年すでに三十歳、長い髭が伸びるまでになったにもかかわらず、なお赤子のように泣いており、声を出してものを言わなかった、とする〕。
『南総里見八犬伝』肇輯巻之4第8回 伏姫の美しさは襁褓(むつき)のうちから類なく、かぐや姫のごとくだった。しかし、かぐや姫が三ヵ月で一人前に成長した(*→〔成長〕1aの『竹取物語』)のとは異なり、伏姫は三歳になっても物を言うことができず、笑みもせず、ただ泣くだけであった。
『力(りき)ばか』(小泉八雲『怪談』) 「わたし」の近所、牛込の某所に住んでいた「りき」という名の若者は、十六歳ほどだったが、知能は二歳ぐらいの幼い子供のままだったので、「力ばか」と呼ばれた。ある年の秋、彼は脳の病で死に、翌年、麹町のお屋敷の子に転生した。
*→〔小人〕1aの『一寸法師』(御伽草子)。
*バカボンのパパは成長が遅かった→〔赤ん坊〕2の『天才バカボン』(赤塚不二夫)。
*→〔夜泣き〕1に関連記事。
『ドイツ伝説集』(グリム)82「取り替えっ子」 生まれた子が、一向に背丈も目方も伸びず増えず、昼も夜も大声で泣いて食物を要求する。「これはお前の子ではない。悪魔だから川へ捨ててしまえ」と教えられた母親が、泣きながら子を投げ捨てると、橋の下から獣の咆哮のような声が聞こえる→〔取り替え子〕5。
『日本霊異記』中−30 行基大徳の説法を聴く人々の中に、子を連れた一人の女がいた。その子は十余歳になるまで歩くことができず、たえまなく泣きわめいては乳を飲み物を食い、母親に説法を聞かせなかった。行基は「その子を淵に捨てよ」と命じた→〔誕生〕7。
『大鏡』「時平伝」 筑紫で死去した菅原道真は、一夜のうちに北野の地に多くの松を生やし、筑紫から移り住んだ。これが今の北野天満宮である。
『ジャックと豆の木(豆のつる)』(イギリスの昔話) ジャックが牝牛と交換して得た豆を、母親が庭に捨てると、一夜のうちに大きな豆のつるになり、どんどん成長して天まで届く。ジャックはつるを攀じ登って天へ行き、人食い鬼夫婦の家を訪れる。
『播磨国風土記』揖保の郡萩原の里 息長帯日売命(神功皇后)の船が村に宿った時、一夜のうちに萩が生じ、根の高さ一丈ばかりであった。
『播磨国風土記』讃容の郡 玉津日女命が、鹿の腹を割きその血に稲をひたして蒔くと、一夜の間に苗が生じた。
『二人兄弟の物語』(古代エジプト) バタの生まれ変わりの牡牛をファラオが殺す。切られた牡牛の喉から二滴の血が飛び出て王宮の大門の両側に落ちる。一夜のうちにそこから二本の大きなペルセア樹が生じる。
『ほら男爵の冒険』(ビュルガー)「ミュンヒハウゼン男爵自身の話」 ミュンヒハウゼン男爵がまいた紅い花のトルコ豆は成長が早く、芽がみるみる高く伸びて月に届いた。
『ブリキの太鼓』(グラス)第1部「ガラス、ガラス、小さなガラス」・第2部「消毒剤」 オスカルは大人になることを拒否し、自発的に成長を止める。彼は成長しない理由を大人たちに納得させるため、三歳の誕生日に地下倉庫への階段をころがり落ちて、頭部に重傷を負う。オスカルは二十一歳まで身長九十四センチのままだったが、父が兵隊に射殺され、その遺体を埋葬中に、成長の再開を意志する。その時オスカルの義弟(実は彼の息子)四歳半のクルトが小石をオスカルの後頭部に投げつけ、以後オスカルの身長は伸び始める。
『赤い風車』(ヒューストン) ロートレックは子供の頃に自邸の階段を転げ落ちて両脚を骨折し、下半身の成長が止まった。異様な姿となった彼は、キャバレー「ムーラン・ルージュ」で多くの時間を過ごす。彼は画才を発揮し、踊り子や客たちを描いて、高い評価を得た。彼を愛する知性豊かな美女もあったが、その恋は実らなかった。ロートレックは過度の飲酒で健康を損ね、三十代半ば過ぎに下宿の階段から転落して、死の床についた。
『鉄腕アトム』(手塚治虫) 天馬博士は、一人息子飛雄を交通事故で亡くしたため、飛雄そっくりのロボット(アトム)を作る。しかしロボットは人間と違って成長せず、いつまでも子供のままだった。天馬博士は腹を立て、ロボットをサーカスに売りとばす。お茶の水博士がロボットを引き取り、親代わりになる。
*関連項目→〔両性具有〕
『オーランドー』(ウルフ) 十六世紀、エリザベス一世の寵愛を受ける美少年オーランドーは、サーシャ姫との恋愛経験などを経て、三十歳の時七日間の昏睡に陥り、目覚めると女になっていた。その後オーランドーは、ほとんど年をとらぬまま二十世紀まで生き、文学者となり、子供を産んで、一九二八年には三十六歳になっていた。
『捜神記』巻6−44(通巻145話) 哀帝の建平年間、江西省で男が女に変わり、嫁入りして一子をもうけた。
『捜神記』巻6−66(通巻167話) 献帝の建安七年、四川省で男が女に変わった。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第1章 カイネウスは以前は女だった。ポセイドンが彼女と交わった時、彼女は不死身の男となることを願った。男となったカイネウスは、ケンタウロスたちと闘って奮戦したが、取り囲まれ樅の木で打たれて地中に埋められた。
『捜神記』巻6−14(通巻115話) 魏の襄王十三年、女が男に変わって、妻との間に一子をもうけた。
『捜神記』巻7−18(通巻196話) 恵帝の元康年間、河南省のある娘が八歳頃から男に変わり始め、十七〜八歳頃には性格はすっかり男性化したが、肉体は男になりきらず、妻を娶ったものの子供はできなかった。
『変身物語』(オヴィディウス)巻9 夫リグドスは男子誕生を願い、「女子なら育てない」と、妻に言う。しかし妻は女児を産み、「男子が生まれた」と嘘を言って養育する。リグドスが子供につけた名前「イピス」は、幸い、男女のいずれにも用いられるものだった。イピスは男装で成長し、近隣の美貌の娘と婚約する。結婚式の前日、女神イシスが、イピスを男に変える。
『法華経』「提婆達多品」第12 海中に住む龍王の娘は八歳であったが、たいそう利発で、『法華経』を聞いてたちまち悟りを開いた。彼女は霊鷲山上に現れ、釈尊の弟子たちが見る中で男子に変じて菩薩となり、南方無垢世界に赴いて法を説いた。
『聊斎志異』巻8−308「化男」 康熙四十六年(1707)丁亥の年、星が落ちて某家の娘の頭に当り、娘は倒れた。両親が介抱すると娘は蘇生し、「今、男になった」と言った。調べてみると本当だった。
*十八歳で女から男に変わった人→〔ウロボロス〕6の『輪廻の蛇』(ハインライン)。
『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ)第15話 青年マナハスヴァーミンと、花を摘む王女シャシプラバーが、互いに一目で恋に落ちる。青年は魔法の丸薬を口に含んで少女に変身し、王女の後宮に入りこむ。そして夜は丸薬を口から出して男にもどり、王女と愛を交わし、昼は丸薬を含んで女になって暮らす。
『変身物語』(オヴィディウス)巻3 交尾する二匹の蛇をテイレシアスが杖で打つと、男であったテイレシアスは女に変わった。テイレシアスは七年間、女として過ごし、八年目に同じ蛇に出会って再び杖で打ち、男にもどる。それゆえ彼は男女両性の喜びを経験し、「女の方が喜びが大きい」と断言する。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)243「ハイエナ」 ハイエナは年ごとに性転換し、雄になったり雌になったりする、と言われる。ある時、雄のハイエナが雌を強引に犯そうとした。雌は「どうぞおやりなさい。まもなく、あなたが同じことをされる立場になるでしょう」と言った。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第42章 ロキは巨人族の息子であるが、アースガルズの城壁を造る牡馬の仕事を妨害するために、性転換して牝馬に変身し牡馬を誘惑する。そのためにロキは八本足の馬スレイプニルを産む。
『日本書紀』巻29天武天皇5年4月 倭国の飽波郡から「雌鶏が雄に化した」との報告があった。
★5.母親の胎内にいるうちに性転換し、女子を男子に変えて誕生させる。
『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』 帝の寵妃が懐妊したが、陰陽師安部清行が「胎内の子は女子である」と占った。帝の命令で、鳴神上人が「変生男子」の法を行ない、女子を男子に祈り替えた。こうして誕生したのが、陽成天皇である。
*母親の胎内にいるうちに他人の胎児と取り替え、女子を男子にして誕生させる→〔取り替え子〕2の『長谷寺験記』上−7。
*生まれてから他人の子と取り替え、女子誕生を男子誕生といつわる→〔取り替え子〕1aの『源平盛衰記』巻43「宗盛取替子の事」。
『いじわるばあさん』(長谷川町子)朝日文庫版第2巻22ページ いじわるばあさんの友達の老婦人を、横丁のご隠居が「後添いに欲しい」と望む。それを知ったいじわるばあさんは、ご隠居の家へ駆けつけ、「女性の方が絶対長生きできる。ちゃんと統計に出てます」と説く。ご隠居は性転換手術を受けて女になってしまい、結婚話は立ち消えになる。
『大変だァ』(遠藤周作) 水爆実験の放射能に含まれたプラターズ線によって、マッカラン島の動物たちが性転換を起こした。雌から雄に変わった鶏が研究のために日本へ運ばれ、塙剛太と娘巴(ともえ)は、知らずにその鶏を食べてしまう。たちまち剛太は女性化、巴は男性化するが、幸いホルモン治療でもとの性に戻った。しかし水爆の放射能は、気流に乗って日本へ流れて来る。男のような女、女のような男がふえたのは、そのせいなのだ。
*男から女へ、あるいは女から男へ、性転換して生まれ変わる人々→〔転生〕5a・5b・5c。
『堺事件』(森鴎外) 明治元年二月十五日、フランス水兵が官許なく堺へ上陸したので、土佐藩兵が銃撃し、十三人が死ぬ。フランス公使が藩兵二十人の死刑を要求し、二十三日、妙国寺で彼らは一人ずつ切腹する。立ち合ったフランス公使はその凄惨さに堪えられず、十一人目が切腹したところで退席し、残る九人は死罪を免ぜられる。
『憂国』(三島由紀夫) 二・二六事件に決起した青年将校たちは、新婚半年足らずの武山信二中尉の身をいたわり、彼を誘わなかった。翌日になれば親友たちを叛乱軍として討たねばならぬ武山中尉は、夜、自宅の二階で妻麗子を前にして切腹する。麗子は夫の死を見届けてから、喉を突く。
*大名の切腹→〔遺言〕1の『仮名手本忠臣蔵』4段目「判官切腹」。
『長町女腹切』(近松門左衛門) 刀屋の半七は、大名の若殿に献上する刀の細工を、大阪長町の叔母から依頼される。半七はその刀を売って安物の刀と買い換え、差額の二十両を得る。彼は二十両を愛人の女郎お花のために使ってしまい、大名屋敷へは安物の刀を届ける。それを知った叔母は、罪を我が身に引き受け、大名屋敷から戻された刀で腹を切る。
『南総里見八犬伝』第6輯巻之5下冊第61回〜第7輯巻之2第65回 犬村角太郎(=大角)の妻・雛衣は、腹痛を治そうと、角太郎の持つ「礼」の珠を浸した水を飲む。その時、誤って珠も呑みこんだため、彼女は懐胎したかのごとく腹がふくれる。角太郎の父・赤岩一角(=実は庚申山の妖猫)が雛衣に、「汝の腹中の胎児は、我が眼瘡治療の妙薬となるゆえ、与えよ」と命ずる。雛衣が短刀で腹を掻き切ると、中から珠が飛び出して一角を撃ち倒す。
『播磨国風土記』賀毛の郡川合の里腹辟の沼 花浪の神の妻である淡海の神が、夫を追って沼まで来て、恨み怒って自ら刀で腹を辟(さ)き、身を投げて死んだ。それゆえ腹辟の沼と言う。この沼の鮒は今もはらわたがない。
*→〔性交〕4の『南総里見八犬伝』第2輯巻之1第12回〜巻之2第13回。
『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』(河竹黙阿弥)5幕目大詰「極楽寺山門の場」 弁天小僧菊之助は、大盗賊日本駄右衛門の手下となって悪事をはたらく。しかし捕手に囲まれて、極楽寺山門の屋根の上で立ち回りの末、立ったまま切腹する。
『切腹』(小林正樹) 浪人・津雲半四郎は、娘婿が井伊藩の侍たちによって竹光で切腹させられた(*→〔にせもの〕4)ことに憤り、藩屋敷に乗り込んで、彼らのとなえる武士道を罵倒する。半四郎は井伊藩士たちと斬り合い、鉄砲隊に追い詰められる。半四郎は障子によりかかり、立ったまま腹を切る。
『鎌腹』(狂言) 遊び歩いて家に寄りつかぬ太郎が、妻にきつく叱られ、山へ木こりにやられる。太郎は将来を悲観して、鎌で腹を切ろうとするが、恐ろしくてためらう。妻が来てとめるので、太郎は「それなら汝が代わりに鎌で腹を切れ」と言って、いよいよ妻の怒りをかう。
『豊饒の海』(三島由紀夫)・第2巻『奔馬』 昭和七年。十九歳の学生・飯沼勲は、堀中尉から「お前のもっとも望むことは何か」と問われ、「断崖の上で、昇る日輪を拝しながら自刃することです」と答えた(11)。昭和八年十二月二十九日深夜。勲は、財界の大物・蔵原武介を熱海の別荘に襲い、刺殺した。勲は海の方へ逃げ、断崖で正座する。日の出を待つ余裕はない。彼が刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った(40)。
『一のもり』「切腹」 年末、浪人が大家を訪れ、「店賃(たなちん)が払えぬゆえ、ここで腹を切る」と言う。着物を脱ぐと、腹に十文字に墨打ちしてある。大家は驚き、「春まで待ちましょう」と言う。浪人は礼を述べ、墨の縦すじを消す。大家「まだ横すじが残っています」。浪人「これは米屋で消す」。
*誤解による切腹→〔誤解〕4の『仮名手本忠臣蔵』5〜6段目。
*子供の切腹→〔首〕1の『近江源氏先陣館』8段目「盛綱陣屋」。
*切腹の前兆の夢→〔夢解き〕3の『遠野物語拾遺』150。
*腹を切り裂き、体内に貴重な品を入れて守る→〔腹〕2cの『茶の本』(岡倉天心)第5章「芸術鑑賞」。
『黄金伝説』160「司教聖マルティヌス」 聖マルティヌスが癩病の人に接吻して祝福を与えると、たちまちその人の病気は治った。
『パルジファル』(ワーグナー)第2幕 パルジファルは自分の名前さえ知らぬ愚かな若者だった。彼は聖杯城でアンフォルタス王に会っても、何事も理解できず、城から追い払われる。しかし魔女クンドリの接吻を受けて、パルジファルは、アンフォルタス王の脇腹の傷の苦痛と、王を救済する方法を、一瞬のうちに悟る。パルジファルが聖槍をアンフォルタス王の脇腹にあてると、傷は治癒する。
『ほんとうのおよめさん』(グリム)KHM186 王子が娘との結婚の許可を得るため父王の所へ出かける。別れ際に娘は王子の左頬に接吻する。ところが王子は娘のことを忘れてしまい、娘は王子を捜す旅に出る。娘は王子と対面し、彼の左頬に接吻して自分を思い出させる→〔忘却〕2g。
『雪の女王』(アンデルセン) 雪の女王が少年カイを連れ去り額に接吻すると、カイは寒さの感覚を失う。二度目に接吻すると、カイは仲良しの少女ゲルダを忘れ、家族も忘れる。「今度接吻するとお前は死ぬから、もう接吻しない」と雪の女王は言う。後、ゲルダがカイを捜し、冷たくなったカイに三度接吻すると、カイは元気を回復する。
*男の接吻によって、眠る女が目覚める→〔眠り〕1aの『いばら姫』(グリム)KHM50・『白雪姫』(ディズニー)・『ニーベルングの指環』(ワーグナー)・〔像〕1aの『変身物語』(オヴィディウス)巻10。
*魔女の接吻で、額に危難よけの目印がつく→〔額〕2aの『オズの魔法使い』(ボーム)。
『戦場のメリークリスマス』(大島渚) 第二次大戦下、ジャワ山中の日本軍捕虜収容所。ヨノイ大尉は、イギリス兵捕虜長ヒックスリが命令に従わないので、日本刀で処刑しようとする。その時、捕虜の一人セリアズ少佐が歩み寄り、ヨノイ大尉の両頬に接吻する。ヨノイ大尉は動揺し、セリアズを斬ろうと刀を振り上げるが、そのまま失神して倒れる。ヒックスリの命を救ったセリアズは、首から下を生き埋めにされて、死ぬ。
『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)第2部第5編 十六世紀セヴィリアの街に、キリストが現れる。異端審問官がキリストを投獄し、「お前は自由を得るためにパンを退けたが、大多数の凡庸な人間には自由よりもパンこそが必要なのだ」と非難し詰問して、「お前を火刑に処す」と宣告する。キリストは無言のまま審問官の唇に接吻する。審問官は「出て行け」と言ってキリストを釈放する〔*イワンが語る「大審問官」の物語〕。
『マタイによる福音書』第26章 イエスが弟子たちとともにいるところへ、イスカリオテのユダが、剣と棒を持つ群衆を連れて来る。ユダは、あらかじめ群衆に「私が接吻する者がイエスだから捕らえよ」と合図をしておき、「先生、いかがですか」と言ってイエスに接吻する〔*『マルコ』第14章に類話。『ルカ』第22章に小異ある記事〕。
『罪と罰』(ドストエフスキー)第4〜6部 金貸し老婆を殺したラスコーリニコフは、家族を養うため娼婦になったソーニャと知り合う。殺人者と売春婦、ともに人の道を踏み外した二人は、いっしょに『聖書』を読む。ソーニャはラスコーリニコフに、「あなたの汚した大地に接吻し、『私は人殺しです』と大声で皆に言いなさい」と勧める。ラスコーリニコフは広場の地面にひざまづいて接吻し、罪を告白する〔*ラスコーリニコフは流刑地に送られ、ソーニャは彼に付き添う〕。
母なる大地の伝説 古代のローマ。ユニウス・ブルートゥスをはじめとする三人の候補者のうち、誰が執政官(コンスル)になるか、デルポイに神託が請われた。神託は「自分の母親に最初に接吻する者がなる」と告げた。ユニウスはただちに地面に身を投げ出し、「このように私はあなたに接吻する。母なる大地に」と叫んだ。こうしてユニウスは執政官に選ばれた。
*→〔母なるもの〕1の『変身物語』(オヴィディウス)巻1も、神託の「母」を「大地」と解釈する物語。
『また逢う日まで』(今井正) 太平洋戦争末期、いつ召集令状が来るかも知れぬ状況下で、大学生田島三郎は、女性画家小野蛍子と知り合う。或る雪の日。蛍子はアトリエで三郎の肖像を描く。夕方、帰って行く三郎を蛍子は窓辺で見送る。三郎はふりかえり、戻って来て窓際にたたずむ。二人は見つめ合い、窓ガラス越しに接吻を交わす〔*まもなく三郎は召集されて戦死し、蛍子は空襲で爆死する〕。
『ニュー・シネマ・パラダイス』(トルナトーレ) シチリア島の小さな村の映画館パラダイス座。神父の事前検閲によって、キス・シーンはすべてカットされていた。観客が「おれは、もう二十年もキス・シーンを見てないぞ」と叫ぶようなこともあった。映写技師アルフレードは、カットされたフィルムを棄てることなく、数々の名画のキスシーンをつなぎ合わせて、一巻のフィルムにまとめた。何十年もの後、死を目前にしたアルフレードは、このフィルムを自分の形見として、かつての映画好きの少年トト(=今では一流の映画監督となったサルヴァトーレ)に贈った。
『第二の接吻』(菊池寛) 村川は夜の闇の中で、恋人倭文子(しずこ)と間違えて、京子に接吻する。プライドの高い京子は、人違いされたことを怒り、村川と倭文子の仲を裂こうと画策する。村川と倭文子は湖で心中をはかるが、倭文子だけが死んで、村川は生き残る。意識の朦朧とした村川は、駆けつけた京子を倭文子だと思い込んで、またしても接吻してしまう。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ24 番味孫右衛門という侍が、ある日、自宅の座敷でうたた寝していると、一人の美しい天女が舞い降りて、彼の口を吸った。孫右衛門の口中には芳香が残り、一生消えなかった。
『悪魔』(レールモントフ) 孤独な悪魔が乙女タマーラを恋し、タマーラも悪魔の愛を受け入れる。しかし接吻の瞬間、悪魔の持つ毒のために、タマーラは死んでしまった。
『バス停留所』(ローガン) 田舎の牧場で育ったカウボーイのボウは、ロデオ大会出場のために町へ出かけ、酒場の歌手チェリーに一目惚れをする。ボウは二十一歳で生まれて初めてのキスを経験し、「結婚しよう」と言ってチェリーを追い回す。ボウは「俺はまったく女を知らない。お前は多くの男とつき合って来た。二人を足して二で割れば、ちょうどいい。俺はお前の過去を含めて、お前を愛している」と言って、チェリーを口説き落とす。
*接吻の邪魔になる鼻→〔鼻〕4。
★1a.男が背負った子供や僧が、次第にあるいは急に、重くなる。
『黄金伝説』95「聖クリストポルス」 川守りのクリストポルスに、子供が「川を渡して下さい」と頼む。クリストポルスが子供を肩に乗せ、杖をとって川に入ると、水嵩が増し、子供は鉛のように重くなる。ようやく川を渡りきったクリストポルスは「世界をまるごと肩に乗せても、こうまで重くはなかったろう」と言う。子供は 「あなたは、世界はもとより、この世界を創造した者をも肩に乗せたのです。私はキリストです」と告げる。
『きりしとほろ上人伝』(芥川龍之介) 嵐の夜、渡し守「きりしとほろ」が、白衣の「わらんべ」を肩に乗せて流沙河を渡る。「わらんべ」はしだいに重くなり、「きりしとほろ」は圧(お)し伏されそうになりながらも、柳の太杖をついて対岸へたどり着く。「きりしとほろ」は言う。「おぬしというわらんべの重さは、海山量(はか)り知れまじいぞ」。「わらんべ」が答える。「おぬしは、世界の苦しみを身に荷(にの)うた『えす・きりしと』を負いないたのじゃ」。
*「世界の苦しみ」=「わらんべの重さ」と類似の発想で、「出産の苦しみ」=「赤ん坊の重さ」という物語もある→〔赤ん坊〕4aの『梅津忠兵衛のはなし』(小泉八雲『日本雑録』)。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之20第128回 丶大法師の法莚に来会した法師十人を、徳用配下の悪僧十人が捕らえ、肩に負って寺まで運び閉じこめようとする。途中、法師の身体が急に重くなり、悪僧たちはおし伏せられる。里人らが見ると、悪僧たちはそれぞれ石地蔵を背中に乗せて道に倒れていた。
『夢十夜』(夏目漱石)第3夜 六つになる自分の子を背負って雨の夜道を歩く。子供は目がつぶれており、自分に様々なことを話しかける。「お前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね」と言われ、百年前の闇の晩に一人の盲目を殺したことを自覚したとたん、背中の子が石地蔵のように重くなった。
*重い赤ん坊→〔赤ん坊〕4a・4b。
『今昔物語集』巻23−19 ある夜更け、実因僧都は男から「背負ってさしあげよう」と言葉をかけられる。男は追剥(おいはぎ)で、僧都の衣を奪うつもりであった。強力(ごうりき)の実因は、背負われたまま追剥の腰をはさみつけ、一夜中諸方を歩かせてこらしめた。
『千一夜物語』「船乗りシンドバードの冒険・第5の航海」マルドリュス版第307夜 難破してある島に泳ぎついたシンドバードは、出会った老人(「海の老人」と呼ばれる怪物)から「わしを肩に背負って流れを渡してくれ」と頼まれる。シンドバードが老人を肩車すると、老人は両脚でシンドバードを締めつけて思いのままに操る。
『伊勢物語』第6段注記 二条の后・高子が入内前、まだたいそう若かった頃、従姉の女御(染殿の后)のもとに宮仕えするような形で寄寓していた。非常に美しい容姿であったので、男が彼女を盗み出し、背負って逃げた。しかし、高子の兄たちがつかまえて、取り返した。
『古事記』上巻 オホナムヂ(=大国主命)は根の堅州国を訪れ、スサノヲからさまざまな試練を課せられる。オホナムヂは試練を乗り越え、スサノヲが眠る隙に生大刀・生弓矢・天詔琴(*→〔三つの宝〕2)を奪い取り、スサノヲの娘スセリビメを背負って逃げる。黄泉比良坂を越え、出雲の地に到ったオホナムヂは、スセリビメを嫡妻として、国造りを始める。
*男が帝の娘を背負って、京から武蔵国まで連れて行く→〔駆け落ち〕1の『更級日記』。
*背負った女が鬼に変ずる→〔鬼〕5の『太平記』巻23「大森彦七が事」、→〔桜〕5の『桜の森の満開の下』(坂口安吾)。
『大和物語』第156段 信濃の国更級に住む男が、年老いたおば(伯母あるいは祖母)を「寺の法要に」と言ってだまし、背負って山奥へ行き、捨てて帰って来る。しかし山上に照る月を見て男は悲しくなり、おばを迎えに行く〔*『今昔物語集』巻30−9をはじめ、類話が多い〕。
*男が山姫を背負って、山を下る→〔盲目〕3bの巻機山の伝説。
『ラーマーヤナ』第5巻「美の巻」 ラーマの妻シータを魔王ラーヴァナが誘拐し、ランカー島に幽閉する。猿のハヌーマンが空を飛んでランカー島に到り、シータを背負ってラーマのもとへ戻ろうとする。しかしシータは、夫ラーマへの貞節ゆえハヌーマンの背に触れることを拒み、「ラーマ自身がランカー島へ来て救出するのが義務である」と言う。
『今昔物語集』巻16−29 長谷の観音に三年の間月詣でをして日暮れの道を帰る男が、放免たちにつかまり、「死体を川原に捨てて来い」と命ぜられる。しかし重くて川原までは持っていけないので、家へ運ぶ。家で妻とともに死人をよく見ると、それは黄金のかたまりであった。
『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ) トリヴィクラマセーナ王が、樹にかかる男の死骸を下ろして背負う。死骸には屍鬼がとりついており、背中でいろいろな物語を王に聞かせ、問いをかける。
『ツァラトゥストラはこう言った』(ニーチェ)第1部「序説」 山から下界へ下りたツァラトゥストラは、町の広場で綱渡りをする芸人に託して、超人思想を民衆に語る。綱渡り師が道化師に妨害され、綱から落ちて死んだので、ツァラトゥストラはその死体を背負って町を出、深い森の中の木の空洞に死体を安置する。
*→〔踊り〕4の『らくだ』(落語)。
*→〔肝だめし〕1の『今昔物語集』巻27−44。
『今昔物語集』巻24−20 女が夫を恨んで死に、悪霊となる。たたりを恐れる夫は、陰陽師の教えにしたがって、女の死体の背中にまたがり、その髪をつかむ。夜になると死体は動き出し、夫を捜して走りまわる。夫が髪を放さずにいると、死体はまたもとの所に戻って来て、臥す。やがて朝になり、死体は動かなくなって、夫はたたりから逃れることができた。
★3b.生きた人間が、死体に乗って(背中に乗ったか、あるいは腹部に乗ったか、不明である)蘇生させる。
『日本書紀』巻11仁徳天皇即位前紀 ウヂノワキイラツコは、異母兄オホサザキノミコト(後の仁徳天皇)に皇位を譲って、自殺した。オホサザキノミコトは胸を打って泣き叫び、自らの髪を解いてウヂノワキイラツコの遺骸にまたがり、彼の名前を三度呼んだ。するとウヂノワキイラツコは蘇生し、起き上がった。彼はこれが天命であることをオホサザキノミコトに告げ、また棺に伏して死んだ。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)266「振分け袋」 プロメテウスが人間の首に二つの袋をぶら下げた。一つは他人の欠点の入った袋で前におき、もう一つは自分の悪の入った袋で背中に懸けた。それゆえ人間は、他人の欠点はすぐ目につくのに、自分の悪は身近にあっても見えない。
『古事記』上巻 オホナムヂ(=大国主命)は、兄弟の八十神たちが因幡のヤガミヒメに求婚しに出かけた時、背中に袋を負い、従者としてついて行った。ヤガミヒメは八十神たちを退け、オホナムヂと結婚した。
『神曲』(ダンテ)「煉獄篇」第10〜11歌 生前傲慢だった者たちは、死後は償いのため、煉獄の山道を重い石を背負って歩き続けなければならない。
*→〔額〕2aの『天路歴程』(バニヤン)第1部。
『今昔物語集』巻6−5 昼は鳩摩羅焔が釈迦牟尼仏像を背負い、夜は釈迦牟尼仏像が鳩摩羅焔を背負って、天竺から震旦へ仏像は伝わった。
『熊野の御本地のそうし』(御伽草子) 摩訶陀(まかだ)国の善財王には千人の后がいた。しかし一人も王子が生まれなかった。実は善財王は、千人の后のうち九百九十九人の后の所へは行幸したが、残りの一人、五衰殿のせんかう女御のことを忘れていた。そこで善財王はせんかう女御と契りを交わし、まもなく女御は王子を身ごもった。
『古事記』上巻 イザナキは、妻イザナミを黄泉国に閉じこめ、離別を宣告して地上に帰った。イザナミは怒り、「汝の国の人間を、一日に千人絞り殺してやる」と言った。イザナキは、「それなら一日に千五百人誕生させよう」と言い返した。これが、一日に千人の人間が死に、千五百人の人間が生まれるようになった起源である。
『今昔物語集』巻1−16 鴦堀魔羅は、千人の指を切って天神に祭り、王位を得ようとした。彼が剣を持って出かけると、最初に会ったのは太子時代の釈迦だった。太子は鴦堀魔羅に要求されるまま、自分の指を与えたので、鴦堀魔羅はにわかに慈悲心を起こし、仏道を奉ずるようになった〔*→〔九百九十九〕1の『賢愚経』では指を九百九十九本とったところで仏に教化される〕。
『平治物語』下「常葉六波羅に参る事」 九条女院立后の儀式の時、京中の美女千人をそろえ、その中から百人を選び、さらに百人の中から十人を選んだ。その十人の中でも、「常葉(常盤)御前が第一の美女」との評判だった。平清盛は、美しい常葉御前を見て愛欲の心を起こし、殺すはずだった彼女の三人の子供(今若・乙若・牛若)を、助命してしまった。
『まつら長者』(説経)5段目 さよ姫は大蛇の千人目の生贄になるが、姫の読経で大蛇は改心して成仏する→〔経〕3a。
『水鏡』下巻 鑑真が、恵美押勝大臣の娘を見て「この人には千人の男に逢い給う相がある」と述べた。後に、大臣が討たれた日、千人の兵士が悉くこの娘を犯した。
*一度に千人を殺す→〔骨〕3の『士師記』第15章。
*千人のはずが千一人いる→〔人数〕2の『三宝絵詞』下−30。
『神道集』巻10−50「諏訪縁起の事」 地底の維縵国から日本へ帰る甲賀三郎は、国王好美翁の教えどおり、千頭の鹿の生き肝を集めた千枚の餅を一日に一つずつ食べ、千日の旅をする。九百九十九枚まで餅を食べて、最後の一つを半分食べ、五重の岩段を登って残りを食べ終わると、信濃国の浅間の嶽へ出た〔*『諏訪の本地』(御伽草子)では、一千一百日の旅〕。
『長谷寺験記』下−13 童子が「千日の間見るな」と山蔭中納言に告げ、方丈の室にこもって千手観音像を造る。千日に満ずる暁、仏所を蹴破って童子(実は長谷観音)は去り、中納言が見ると三尺の千手観音像があった。
*千日眠る酒→〔酒〕6。
『捜神記』巻18−9(通巻421話) 千年を経た狐が若い書生に化け、司空の張華を訪れて議論を挑む。張華は書生を狐と悟るが、犬をけしかけても書生は平然としている。そこで張華は、千年を経た古木を切り、それに火をつけて書生を照らすと、ようやく古狐の正体を表した。
『黒衣の僧』(チェーホフ) 今から千年前。シリアかアラビアの砂漠を、黒衣の僧が歩いていた。ところが、数マイル離れた湖の上を、もう一人の黒衣の僧が渡って行く。それは蜃気楼だった。蜃気楼からまた一つの蜃気楼が生まれ、黒衣の僧の姿はアフリカでも、スペインでも、インドでも、北極圏でも見られた。ついに蜃気楼は大気圏を出て、今では宇宙空間をさまよっている。黒衣の僧が砂漠を歩いた時からちょうど千年後に、蜃気楼は再び大気圏に入って、人々の目にふれる。今日か明日にでも、われわれは黒衣の僧に出会うかもしれない〔*青年コヴリンの心をとらえた伝説〕。
『ヨハネの黙示録』第20章 神と悪魔との決戦が行なわれ、世界が破滅した後、天使が悪魔を深淵に封じ込める。神に殉じて死んだ人々が生き返り、以後千年の間、キリストとともに地上を統治する。千年が終わると悪魔は牢から解放され、再び神に挑むが敗れ、火と硫黄の池に投げ込まれる。
『大悲千禄本(だいひのせんろくほん)』(芝全交) 千手観音も不景気には勝てず、千本の手を切り離し、薩摩守忠度・茨木童子・女郎・無筆の人など大勢に、有料で貸し出す。坂上田村麻呂が、鈴鹿山の鬼神退治(*→〔鬼〕4aの『田村』)に必要な多くの手を借りに来たので、大勢に貸し出した手を返却してもらい、それを田村麻呂に貸してまた儲ける。しかし、女郎に貸した手は小指がなくなり、喧嘩した手は握りこぶしに傷を負って、返って来た。
『平家物語』巻2「卒塔婆流」 康頼入道は平家討伐を企てたため、丹波少将・俊寛僧都とともに鬼界が島へ流される。康頼は千本の卒塔婆に「ア」字の梵字・年月日・名前・歌を記し、海に浮かべる。千本のうちの一本が厳島明神の渚に打ち上げられ、平清盛もこれを見て哀れに思った〔*後、康頼と少将は赦免される〕。
『カター・サリット・サーガラ』「ウダヤナ王行状記」9・挿話15 天帝インドラが、ガウタマ仙の妻アハリヤーと姦通する。ガウタマ仙は怒って呪詛し、妻アハリヤーを岩石にする。ガウタマ仙はまたインドラに対して「汝の望んだ女陰が千個、身体につくだろう」と呪詛し、インドラは全身を女陰でおおわれる〔*後、インドラが天女ティロッタマーを見る時、それらは千の眼に変わる〕。
★7.千人針。千人の女性が一針ずつ、縫い玉を縫いつけた晒し布。出征兵士がこれを腹にまけば、弾丸よけになると言われた。
千人針など(松谷みよ子『現代民話考』) 太平洋戦争中の千人針は、はじめは女なら誰でもよかった。しかし戦死者が多くなると、いろいろな条件がつくようになった。「処女に縫ってもらうのがよい」、「五黄の寅の女がよい(虎は千里行って千里帰るから)」、「千人目の針は、糸でなく髪の毛で結べ」、「処女の髪がよい」、「性毛がよい」、「五銭硬貨をくくりつけるのがよい(四銭=死線を越えるから)」など、さまざまなことが言われた(兵庫県神戸市)。
*→〔九百九十九〕に関連記事。
*関連項目→〔転生〕
『更級日記』 菅原孝標女が三十二歳の時、夢で清水寺の礼堂に座っていると、別当らしい人が、「汝の前世は当寺の僧で、仏師だった。仏像を多く造った功徳で、現世では良い家柄に生まれた。御堂の東の丈六の仏を造る途中で死んだのだ」と教えた。
『剪燈新話』巻4「緑衣人伝」 大臣・賈似道の旧邸近くに住む趙源は、しばしば門外で出会う緑衣の女と親しくなる。素性を明かさぬ女に趙源が繰り返し問うと、彼女は「私とあなたは前世で賈似道様に仕え、恋人どうしだったが、二人の関係が発覚し、ともに死を賜った。あなたはすでにこの世に生まれ変わっているが、私はまだ幽霊のままです」と教える→〔転生〕13。
『とはずがたり』(後深草院二条)巻4 ヤマトタケルが東夷を討つため下向途中、伊勢大神宮に参拝した。その折、アマテラスが「汝が前世でスサノヲノミコトであった時、ヤマタノヲロチの尾から取り出して我に献上した剣である」と神託を下し、草薙剣を授けた。また「危急の時に開けよ」と教えて錦の袋を与えた〔*二条が熱田神宮で聞いた草薙剣の縁起〕。
『法華経』「序品」第1 霊鷲山上の釈尊の説法の場で、弥勒菩薩は自分の前世を文殊菩薩から教えられる。弥勒は過去世では「求名」と呼ばれ、善根を積んだ功徳で、生まれ変わるたびに仏に会うことができたのだった。
『法華経』「化城喩品」第7 釈尊が、遠い昔の大通智勝仏の物語をする。大通智勝仏の息子の十六王子の一人が過去世の釈尊であり、お前たちは前世でその説法を聞いていたのだ、と弟子たちは教えられる。
*→〔経〕2、〔背中〕1aの『夢十夜』(夏目漱石)第3夜・〔転生〕1の『今鏡』「昔語」第9「真の道」・『太平記』巻5「時政榎島に参籠の事」・〔転生〕9aの『松浦宮物語』。
『今鏡』「昔語」第9「真の道」 大外記定俊は、越中守であった頃、ある夜の夢で次のように教えられた。「汝は前世で越中の国の、目くら聖の持経者だった。前々世では越中の国の牛だったが、法華経一部を背負って山寺に登った功徳で、持経者に生まれ変わり、現世では越中守になっているのだ」。
*自分の前世と前々世を思い出す→〔猫〕4bの『広異記』35「三生」・〔入れ子構造〕3の『木乃伊(ミイラ)』(中島敦)。
『カター・サリット・サーガラ』「ナラヴァーハナダッタ王子の誕生」3・挿話3 シンハ・パラークラマの妻は容姿も心も醜悪で、つねに夫と争っていた。シンハ・パラークラマは樹下から緑柱石製の大皿を得、それを覗いて、自身の前生が獅子であり、妻の前生が牝熊だと知る。前世以来の敵対関係が、夫婦間の憎悪のもとになっていることがわかったので、彼は皿に多くの娘を映し、前生が牝獅子だった娘を見つけて第二の妻とし、先妻には食物のみを与えた。
『鸚鵡七十話』第2話 商人ナンダナが王妃シャシプラバーに恋する。彼の母ヤショーダーが牝犬を連れて王妃に会い、「私と貴女と牝犬は、前世で三姉妹だった。私は多くの男に愛を与えたので、前世の記憶を維持する能力を得た。貴女は気に入った男だけを愛したので、前世の記憶を失った。もう一人は夫以外の男を愛さなかったので、牝犬に生まれ変わった」と告げる。王妃はこれを信じ、商人ナンダナに愛を与える。
★2a.特別の存在である天皇に対しては、その前世にも関心が寄せられる。前世は僧だった、とする話が多い。
『今鏡』「すべらぎの中」第2「八重の潮路」 崇徳院は八重の潮路を分けて遠い讃岐の国へおいでになり、その地で亡くなられて、白峯に葬られた。ある人が夢で、「昔『白峯の聖』という阿闍梨がいて、讃岐の国へ流された。その人の生まれ変わりが崇徳院だ」と知らされた。
『古事談』巻2−51 清和天皇は前世で僧だった。この僧は、伴善男に妨げられて、望みの地位を得られなかった。僧は怒って死に、法華経読誦の功で清和天皇に転生した。清和天皇は少年の頃から伴善男を憎み、天皇十七歳の時、応天門の変が起こって、伴善男は失脚した。
『日本霊異記』下−39 寂仙禅師は天平宝字二年(758)に没したが、臨終の日に、「自分は二十八年後に桓武天皇の皇子として再誕し、名を神野親王というであろう」と記した文書を、弟子に与えた。予告どおり二十八年後の延暦五年(786)、桓武天皇に皇子が生まれ、神野親王と名づけられた。神野親王は、やがて即位して嵯峨天皇となった。
『増鏡』第4「三神山」 四条天皇が幼少の頃、ある人が「前世はどのような人でいらっしゃいましたか?」と問うと、天皇は、泉湧寺の開山の聖「俊ジョウ」の名を仰せられた。四条天皇は数え年十二歳で崩御されたが、その後、ある人の夢に俊ジョウが現れ、「自分は早く成仏すべきところ、妄念を起こして、人間界に天皇として生まれたのだ」と告げた。
*→〔髑髏〕3a。
『日本霊異記』上−5 用明天皇の皇子・聖徳太子は、推古天皇の二十九年(621)に没した。それから四年後、大部屋栖野古(おほとものやすのこ)が死んで、冥界の聖徳太子と会った(*→〔蘇生〕7)。聖徳太子は「私はやがて宮へ還り、仏像を造り奉るであろう」と、大部屋栖野古に語った。これは、聖徳太子が聖武天皇として再誕し、東大寺や大仏を造ることを意味するのであった。
『平家物語』巻11「剣」 安徳天皇の前世は、ヤマタノヲロチである。かつてスサノヲがヤマタノヲロチの尾から見つけ出した草薙の剣は、アマテラスの子々孫々に伝えられ、ヤマトタケルが東征の折にこの剣で草を薙ぎ払い火攻めの難を逃れる、などのことがあった。草薙の剣は熱田社に納められ、後、内裏に置かれ、ついに壇の浦の合戦で安徳天皇とともに海に没した。これはヤマタノヲロチが、人王八十代、八歳の安徳天皇に生まれ変わり、この霊剣を取り返して海底に沈んだのである。
『えんの行者』 役の行者が大峯山の釈迦ヶ岳に分け入り、背丈九尺ほどの骸骨が木の枝に刺さっているのを見出した。骸骨は左手に鈴(れい)、右手に独鈷(とっこ)を握っていた。その夜、弥勒菩薩が「汝は前生七生、この山で修行した。これは汝の前生の骸骨だ」と、役の行者に夢告をした。
『古今著聞集』巻2「釈教」第2・通巻46話 浄蔵法師が金剛山の谷で、死者の骸骨を見た。石を枕にして臥し、手に独鈷(とっこ)を握っていた。「これは汝の前生の骸骨である。すみやかに加持して独鈷を得よ」との夢告があったので、陀羅尼を唱えて加持すると、骸骨は起き上がり、独鈷を浄蔵法師に与えた。
『発心集』巻7−12 餓鬼が、前生の自分の身体であった白い骸を槌で打ち、「前世で罪を作ったため餓鬼の身を受けた。この骸が恨めしく、常に打つ」と言った。また、天人が、前生の自分の骸に花を降らし、「この身に功徳を作り、天上に生まれることを得た。その報いのため供養する」と言った。
*前世のミイラを見る→〔入れ子構造〕3の『木乃伊(ミイラ)』(中島敦)。
*天人が前世の死骸を供養する→〔死体〕10の『今昔物語集』巻2−7。
*→〔髑髏〕3a・3b・3cに関連記事。
*前世の身体を埋めた墓→〔文字〕2cの『力(りき)ばか』(小泉八雲『怪談』)。
『勝五郎再生記聞』(平田篤胤) 文政五年(1822)十一月、多摩郡中野村の百姓の子・八歳の勝五郎は、田のほとりで遊びつつ、兄・姉に「前世では誰の子だったか」と聞いた。兄・姉が「そんなことは知らぬ」と答えると、勝五郎は、「自分は程窪村の九兵衛という人の子で、藤蔵という者だった」と語った。
『変身物語』(オヴィディウス)巻15 ピュタゴラスは、霊魂の不滅と転生を説いた。彼は言った。「今も記憶に残っているが、私は前世ではトロイア人エウポルボスだった。トロイア戦争の時には、私はメネラオスの重い槍を、真っ向から胸に受けたのだ」。
★4b.幼い頃は前世を覚えているが、成長すると忘れてしまう。
『豊饒の海』(三島由紀夫)・第3巻『暁の寺』 タイの王女ジン・ジャンは物心ついて以来、「自分は日本人の生まれ変わりで、自分の本当の故郷は日本だ」と主張し続けた(1)。本多繁邦は七歳のジン・ジャンに拝謁し、彼女の語ることがらから、「松枝清顕や飯沼勲の生まれ変わりの可能性がある」と思う(3)。しかしジン・ジャンは、十八歳になって本多と再会した時、「幼い頃のことは何も覚えていません」と言って、生まれ変わりとは別の解釈を示した(30)→〔心〕7c。
『閲微草堂筆記』「槐西雑志」192「幼少のころ」 「私」が友人の袁愚谷(1723〜1783)から直接聞いたところによれば、彼は三〜四歳の頃には、前世の記憶がはっきり残っていた。五〜六歳になると、おぼろげになった。今では、前世で科挙の合格者だったこと、家が長山の近くだったことしか覚えていない。姓名も事柄も全部忘れてしまったという。
『ジャン・クリストフ』(ロラン)第9巻「燃ゆる荊」 ジャン・クリストフと人妻アンナは、不思議な力で互いに引かれ合う。ある晴れた冬の日、二人は郊外へ遠出をする。アンナは「動物には魂がない、と牧師は言うが、私はあると思う。あなたはどう考えるか?」と、クリストフに問いかける。彼女は「私は前世で動物だったと思っている」と言う〔*二人はやがて関係を結ぶようになる〕→〔灰〕5b。
*自らの前世を、植物だと考える→〔墓〕6の『野菊の墓』(伊藤左千夫)。
『犬』(正岡子規) 犬(*→〔犬〕4e)が、姨捨山(うばすてやま)の姨を八十八人喰った後に懺悔し、四国の霊場八十八個所巡りを志す。しかし八十七個所巡ったところで死んでしまった。すると姨たちの怨霊が八十八羽の鴉となって、犬の腹ともいわず顔ともいわず、喰いに喰った。こんな犬が生まれ変わって、「僕(=正岡子規)」になったのではあるまいか。その証拠には、足がまったく立たんので、僅かに犬のように這い廻っているのである。
『カター・サリット・サーガラ』「マダナ・マンチュカー姫の物語」1・挿話1 ダルマダッタ王とナーガシュリー妃が、ある日突然前生を思い出す。突然に前生を思い出した者がそれを他人に話せば死ぬ、と言われていたが、王と妃は互いの前生を語り合う。妃は某婆羅門の婢女、王は某商人の召使で、二人は前世でも夫婦だった。語り終えた王と妃は、たちまち死んで天国へ赴いた。
『今昔物語集』巻2−30 三十二人の人が他人の牛一頭を盗み、一人の老女とともに、この牛を殺して食べる。彼らは皆転生し、牛は波斯匿王、老女は后毘舎離、三十二人は毘舎離の子となる。牛を殺した三十二人は、牛の後身である父王に殺される。
『ゲンセンカン主人』(つげ義春) 田舎町の古宿に男が泊まり、給仕する老婆と、前世について話をする。老婆は「前世は鏡です。前世がなかったら、私たちは生きていけません」と言う。男が「なぜ生きていけないのです?」と聞くと、老婆は「だって前世がなかったら、私たちはまるで、幽霊ではありませんか」と答える。
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