『宇治拾遺物語』巻4−8 清水寺へ参る進命婦に、八十歳の師僧が欲心を起こし不食の病になる。それを知った進命婦が師僧の許へ行くと、師僧は彼女に祝福の言葉を述べて死ぬ。
『落窪物語』巻1〜2 落窪の姫君がひそかに道頼少将と結婚していたことを、継母が知る。継母は怒り、二人の仲を裂こうとたくらむ。継母は、「叔父にあたる六十歳ほどの典薬の助に、姫君を犯させよう」と考える。冬の夜、典薬の助は、姫君が錠をさして閉じこもる部屋の戸を開けようと、押したり引いたりする。そのうち、寒さのために典薬の助は腹を冷やして下痢を起こし、あわてて退散する。
『今昔物語集』巻5−4 美女と交わり通力を失った一角仙人は、白髪で腰も曲がった姿ながら、彼女を背負ってよろぼい歩き人々に笑われる(*原話であるリシュヤ・シュリンガ仙の伝説では、仙人は老人ではなく、むしろ若い苦行者として描かれている)。
『住吉物語』 父中納言が姫君の幸福を願い、入内や、内大臣の息子との結婚などを計画するが、継母がこれを妨げる。継母は、七十歳余の高齢で目がただれ歯がぬけた主計頭(*主計助とする伝本もある)に、「姫君を連れ出して、自分のものにしなさい」と勧める。姫君は、乳母子の侍従とともに屋敷から逃れ、住吉に身を隠す。
『セヴィラの理髪師』(ボーマルシェ) 老医師バルトローは、自分が後見する若い娘ロジーヌと無理やり結婚しようとする。
『瘋癲老人日記』(谷崎潤一郎) 七十七歳の卯木督助は、息子の嫁颯子に情欲を感じ、シャワーを浴びる颯子の足や頸に接吻したり、颯子の足型で仏足石を作り、それを自分の墓石にしたいと思ったりする。
『枕物狂』(狂言) 百歳余の老翁が若い娘の笑顔に引かれ、ふとももをつねって枕で打たれる。以来老翁は恋の思いで狂乱状態になり、それを知った孫たちが娘を連れて来て、老翁は娘に逢うことができた。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 老チャヴァナ聖仙が、湖の近くで長期間の座禅苦行を続ける。そのため身体のまわりに蟻塚ができ、その上を葛が覆う。父王とともに園遊に来た王女スカニヤーが、好奇心から蟻塚の中のチャヴァナの目を茨の棘でつつく。怒ったチャヴァナは、代償にスカニヤーを妻として得ることを、王に要求する。スカニヤーは、老いたチャヴァナと結婚し、献身的に彼に仕える。
『万葉集』巻16 3813〜3824歌 竹取りの翁が、春三月に丘に登り、あつものを煮る九人の乙女に出会う。翁は乙女らのために火を吹き、自らの青春の日々の有様を歌って、「乙女らもやがて白髪になるのだ」と説く。乙女たちは翁の歌に心動き、皆「翁に身を寄せましょう」と歌う。
*→〔僧〕1の『志賀寺上人の恋』(三島由紀夫)。
*老芸人と若いバレリーナ→〔踊り〕7の『ライムライト』(チャップリン)。
『不死』(川端康成) 七十歳過ぎの老人・新太郎と、十代の若い娘・みさ子が歩いている。かつて、みさ子は新太郎と別れねばならぬことに絶望し、十八歳で海に身を投げたのだった。それから五十五年。みさ子は故郷へ帰り、新太郎と再会した。みさ子が大樹の幹の中をすうっと通り抜けると、続いて新太郎も通り抜けた。みさ子は「まあ。新太郎さんも死んでいるの?」と驚く。二人は大樹の幹の中に消えて、そのまま出て来なかった〔*→〔老婆〕1bと対照的な物語〕。
『神仙伝』巻7「西河少女」 西河地方を通る人が、若い女が老翁を鞭打つのを見た。聞くと、女は母で老翁はその息子だった。かつて女は多病だったが、七十歳の時に仙薬を飲み、どんどん若返った。しかし息子は母から勧められても仙薬を飲まず、老いぼれてしまった。それで母が怒って折檻していたのだった。女は百三十歳、老翁は七十一歳だった。
『史記』「留侯世家」第25 老人が履をわざと橋の下に落とし、通りかかりの張良に「履を拾え」と命ずる。言われるままに履を拾って老人にはかせると、老人は張良と再会を約し、十日後の早朝に、太公望呂尚の兵法書を張良に授ける。
『続玄怪録』 縁談のため早朝に出かけた韋固が、寺の門前で冥府の老人に会う。夫婦となるべき男女の足を赤い縄でつなぐ役目を老人はしており、「今回の縁談はまとまらぬ。汝の妻になる女は今まだ三歳だ」と韋固に教える→〔運命〕1b。
『松浦宮物語』巻1 渡唐した弁少将は、八月十三夜に高い山の楼で琴を弾く八十歳ほどの老翁に会う。老翁は弁少将に、皇女華陽公主から琴の秘曲を習うように勧める。また「近く大乱が起こる」と予言し、自分の持つ琴を与える。
『故エルヴィシャム氏の物語』(H・G・ウェルズ) 七十歳の哲学者エルヴィシャムが二十二歳の医学生イーデンに薬を飲ませ、互いの人格と肉体を入れ替える。イーデンは、自分が老人の身体の中に閉じ込められたことに絶望して自殺する。一方、若い肉体を得て青春を謳歌しようとしたエルヴィシャムも、辻馬車に轢かれて死ぬ。
*→〔憑依〕1の『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ)第23話。
『棠陰比事』6「丙吉験子」 八十歳過ぎの老翁が後妻に男児を生ませたが、先妻の娘が財産目当てに、「男児は老父の子ではない」と訴える。俗に「老人の子は寒がりで、陽にあたっても影が映らない」と言われるので、男児を一般の子供たちと比べると、果して寒がりで影ができず、老翁の実子であることが明らかになった。
『封神演義』第89回 雪中の小川を、年配の兄はゆっくりと、年少の弟は走って渡った。両親の若い時の子である兄は骨髄が充実していて寒さを恐れぬが、両親が老衰してから生まれた弟は骨髄が乏しく、水の冷たさに堪えかねて走ったのだった。
『聊斎志異』巻2−75「巧娘」 郷紳の傅氏は六十余歳になって男児廉をもうけたが、廉は子供のできぬ不具者だった→〔不能〕2。
『風車小屋だより』(ドーデー)「コルニーユ親方の秘密」 村の周囲の丘に、いくつもの風車が回り、百姓たちが運んで来る麦を粉にひいていた。ところが製粉工場ができたため、風車小屋に仕事を頼む百姓はいなくなった。その中で、老いたコルニーユ親方の風車だけは、以前と同じように回っていた。しかし誇り高いコルニーユ親方が、ひいた麦と見せていたのは、壁土だった。
『老年』(芥川龍之介) 一中節の順講が催されている料理屋で、そこの隠居の部屋から、ひそひそと愛人に語りかける声が聞こえる。若い頃から芸事に達者で、女たちと浮名を流した隠居ゆえ、「年をとっても隅に置けぬ」と、廊下を通りかかった二人の男が部屋をのぞく。しかし中に女の姿はなく、隠居が独り言を言っていただけだった。
『野いちご』(ベルイマン) 七十八歳の医師イーサクは、名誉博士号を授与される日の朝、死の夢を見て目覚める。その日彼は、息子夫婦の不仲の話を聞き、九十六歳でなお元気な母親を訪れ、三人の青年男女や喧嘩する夫婦と知り合う。一方で彼は、若かった日々の回想や、夢の世界に入り込む。野いちごを摘む婚約者サーラは、弟に奪われた。亡妻カーリンは愛人を作り、密会した。授与式の間、彼は「今日のいろいろな出来事は、偶然に見えながら、何かのつながりがある」と考える。夜の夢で彼は再びサーラを見る。サーラは微笑みつつ、老いた彼に手をさしのべるのだった。
*老人と愛犬→〔犬〕1cの『ウンベルトD』(デ・シーカ)。
*老人と老猫→〔猫〕2の『ハリーとトント』(マザースキー)。
*老人になると腰が曲がる理由→〔木〕4fの『コタンカラカムイの人創り』(アイヌの昔話)。
*→〔四十歳〕に関連記事。
『赤いろうそくと人魚』(小川未明) 漁師たちが住む海岸の町の、ろうそく店の年寄り夫婦が、人魚の娘を育てる。娘は赤い絵の具で、ろうそくに魚や貝の絵を描く。そのろうそくを山上のお宮にあげ、燃えさしを身につければ、海難に遭わない。後に娘は香具師(やし)に売られることになり、悲しんでろうそくを真っ赤に塗る。以後、誰があげるのか、お宮に赤いろうそくがたびたびともり、それを見た者は必ず海で死ぬ。
『死神の谷』(ラング) 女が、「死んでしまった恋人を、生き返らせてほしい」と死神に請う。死神は、多くのろうそくが燃えている所へ女を連れて行き、短い三本のろうそくを示して、悲恋と死の三つの物語を語る。一つの物語が終わるごとに、一本のろうそくが燃え尽きる。三つの物語が終わった時、三本のろうそくはすべて燃え尽きていた。死神は、「愛をもってしても、死には打ち勝てないのだ」と、女に教える。
『死神の名づけ親』(グリム)KHM44 死神の指図にそむいて病人を治した医者が、地下の洞窟へ連れて行かれる。そこには人間の余命を示す火が無数に燃えており、子供の火は大きく、老人の火は小さかった。医者の火は、今にも消えそうな小さなろうそくだったので、死神が「新しいろうそくに替えてやろう」と言いつつ、わざとしくじって火を消す。医者は死ぬ〔*『死神』(落語)の原話〕。
『ペンゲリー氏と悪魔』(イギリス昔話) 悪魔が、重病のペンゲリー氏を冥府へ連れにやって来て、部屋の中の短いろうそくが燃え尽きるまでの間だけ生かしておいてやる、と言う。ペンゲリー氏は悪魔の隙を見てろうそくを消し、箱の中へ隠して、悪魔を追い返す。以後長年月を経てペンゲリー氏は健在であり、女房が何度もろうそくを捜して燃やそうとするが、ペンゲリー氏はろうそくを隠し通す〔*→〔魂〕1aの『変身物語』(オヴィディウス)巻8の、メレアグロスの物語の変型〕。
*→〔ともし火〕1の『三国志演義』第103回・『性に眼覚める頃』(室生犀星)。
『赤いろうそく』(新美南吉) 猿が赤いろうそくを拾い、「花火だ」と思って山へ持ち帰る。鹿も猪も兎も亀も鼬も狸も狐も、花火を見たことがないので喜びつつ怖がる。猪が勇気を出して点火すると、動物たちは耳をふさぎ、さらに眼までふさいでしまう。しかし、ろうそくは静かに燃えているだけだった。
『ろうそく騒動』(昔話) 村の住職が本山へ行き、みやげに赤いろうそくを買って来て村人に配る。村人たちは「かまぼこのようなものだろう」と思って食べるが、うまくない。町から来た薬屋が「これはろうそくで、先っぽから火が出るのだ」と教えたので、村人たちは「腹の中で火が燃えたら大変だ」と恐れ、池に飛び込んで水をたらふく飲んだ(富山県氷見市)。
ローソクは魚(松谷みよ子『現代民話考』) 明治の初め。村人が西洋ローソクをもらい、「これは西洋の魚だが、どちらが頭か尾かわからない」と首をひねる。火であぶってみると、溶けてなくなり、細い芯だけが残る。溶けた蝋(ろう)が下に落ち、燃え出す。村人は「西洋の魚は脂が多い。糸みたいな骨だけが残った」と言って、感心する(山形県)。
『少年』(谷崎潤一郎) 尋常小学校四年の「私(萩原の栄ちゃん)」は、大金持ちの塙(はなわ)家の子供たち(同級の信一、その姉光子、使用人の子仙吉)と一緒に、加虐的な、あるいは被虐的な、種々の遊びにふけった。ある時光子は、「私」と仙吉の手足を縛って坐らせ、額にろうそくを載せて火をつける。熱い蝋の流れが眉間を伝ってだらだら垂れ、眼も口も塞がれてしまう。光子は「私」たちをそのままにして、ピアノを弾く。翌日から光子は女王となり、「私」たち三人は嬉々として彼女の命令に従った。
『遠野物語拾遺』147 ろうそくの火の芯に青い焔がない時には、火災・変事などが起こる。先年、遠野町の大火の折も、火元に近い某家の婦人が、その朝にかぎって神棚の御燈明に青い焔が見えないのを、不思議に思った。すると、まもなく近所から出火して、大火事になったのである。
*蝋(ろう)でワニを造る→〔密通〕1aの『ウェストカー・パピルスの物語』(古代エジプト)。
『伊勢物語』第63段 九十九髪(つくもがみ)の老女が、「良い男に逢いたい」との願いを、夢に託して、三人の息子に語る。長子・次子は聞き流すが、末子が、狩りに出た美男の在五中将の馬の手綱を取って訴え、老女は在五中将と逢うことができた〔*→〔老婆〕2aの『三国伝記』巻10−5に類似〕。
『うつほ物語』「忠こそ」 五十余歳の未亡人・一条北の方は、三十歳過ぎの橘千蔭を愛人とするが、橘千蔭の訪れは絶え絶えのまま、数年が過ぎる。一条北の方は、橘千蔭の息子で十三〜十四歳になる忠こその美貌に心を動かし、よこしまな恋をしかける→〔宝〕3b。
『源氏物語』「紅葉賀」 五十七〜八歳にもなる好色な老女源典侍が光源氏に流し目をつかい、十九歳の光源氏は、たわむれ心から彼女と関係を持つ。
『閲微草堂筆記』「如是我聞」146「少年と老婆」 夜、某家の墓で十六〜七歳の美青年と七〜八十歳の老婆が、恋人どうしのように語り合うさまを、ある人が目撃する。翌日聞いてみると、某家の主人は若死にし、その妻が五十年余り後家を立て通して、死後合葬されたことがわかった〔*→〔老翁〕1bと対照的な物語〕。
『カンタベリー物語』「バースの女房の話」 騎士が、女王から「女がいちばん好きなものは何か?」との難題を与えられる。醜貌の老婆が、「女は、夫への支配権を持つことをもっとも好む」という答えを教えてくれる。しかしその返礼に、老婆は騎士との結婚を要求する。騎士は嘆くが、老婆の説得によって、「醜くとも貞節な妻が良い」と考え直し、結婚を承知する。その途端、老婆は若く美しい姿に変わる。
『三国伝記』巻10−5 三人の子を持つ老衰の下女が、狩りに出た国王を見て恋の病いになる。末子が、『法華経』「薬王品」中の一節を唱えるよう勧める。六日六夜たつと老母は美しく若返り、国王に迎えとられて后となる。
『魔笛』(モーツァルト) 鳥刺し男パパゲーノは、美女が得られると聞いて、王子タミーノとともにいくつかの試練に挑む。パパゲーノは洞窟に閉じ込められ、そこへ醜い老婆が来て「私と結婚しなけりゃ永久に洞窟の中だよ」と脅す。パパゲーノが「洞窟の中よりは、婆さんと一緒になる方がましだ」と言うと、老婆はたちまち若い娘(パパゲーナ)に変身する。
『卒塔婆小町』(三島由紀夫) 詩人が、公園のベンチに座る九十九歳の乞食老婆に出会う〔*原典の能『卒塔婆小町』では老小町が、朽木だと思って卒塔婆に腰を降ろす〕。老婆は八十年前、二十歳の頃の鹿鳴館での夜会の思い出を語る。話を聞くうち、詩人には老婆が二十歳の美女に見えてくる。詩人は老婆に求愛し、「君は美しい」と言って、倒れ死ぬ。
『好色一代男』巻3「一夜の物ぐるひ」 大原のざこ寝の暁、竹杖をつき腰をかがめ、綿帽子をかぶって行く老女がいる。石燈籠の光に照らされた顔を見ると二十一〜二歳の美女なので、世之介がわけを問うと「私に心をかける人が多くうるさいゆえ、姿を変えて逃れ来た」と語る。
『万葉集』巻2 126歌左注 美貌の大伴田主に恋した石川女郎は、夜、賤しい老婆に変装し、土鍋をさげて田主の寝所の側まで出かけ、戸を叩いて火種を請う。田主は、若い女が共寝を望んで変装してやって来たとは気づかず、火種だけ与えて返してしまう。
『柳藻』(内田百閨j 晩春の午後、婆が若い女の子を連れて野原を行く。「私」は女の子の袖を引いて婆から離そうとするが、女の子は泣きそうな顔で「私」を見て、婆の後を追う。「私」は一打ちに婆を殺し、女の子の手を握って歩く。柳藻の打ち上げられた磯を歩きつつ女の子を見ると、それは先ほど殺した婆だった。
*→〔取り違え花嫁〕の『堤中納言物語』「花桜折る少将」。
*老人になると腰が曲がる理由→〔木〕4fの『コタンカラカムイの人創り』(アイヌの昔話)。
*→〔四十歳〕に関連記事。
『偏見』(星新一『午後の恐竜』) ろくろ首の女が正体を隠して結婚するが、やがて夫は、女の首がのびることを知って逃げ出すので、女は夫を殺す。女は三度結婚して三度夫を殺し、逮捕されて絞首刑になる。しかし、首に縄を巻いて吊るしても、首は長くのびて、女の足は床についてしまうのだった。
*絞首刑になっても死なない男→〔息〕4cの『息の喪失』(ポオ)。
『夜窓鬼談』(石川鴻斎)上巻「轆轤(ろくろ)首」 某家の一人娘は色白の美女だった。しかし、眠ると首が長くのびる奇病があり、近隣から「ろくろ首」とあだ名された。商家の息子が婿養子に入ったが、初夜に、眠っている娘の首が五〜六尺ものび、婿を見てにっこり微笑む。婿は悲鳴をあげ、娘は目覚めて首はもとに戻った。翌日、婿は家を出た〔*後に某医師が娘を嫁に迎え、その病を治したという〕。
『ろくろ首』(落語) 与太郎がおじさんの世話で、お屋敷のお嬢さんの婿になる。お嬢さんには奇病があり、夜中に首が長く伸びて行灯の油をなめる。与太郎は初夜の床でお嬢さんのろくろ首を見て、逃げ帰る。おじさん「逃げて来ちゃいけない。おふくろさんは、お前が無事に婿として納まってくれるようにと、良い知らせを首を長くして待ってるんだぞ」。与太郎「おふくろも首を長く? それじゃ家へも帰れねえ」。
『不思議の国のアリス』(キャロル) アリスがキノコの片側を食べると、急に首が伸びる。それは途方もなく長い首で、アリスの目からは、はるか下に広がる青葉の中から抜け出た茎のように見えた。首は自由に動かせ、曲げることもできる。突然、大きな鳩が飛んで来て、「この蛇め!」と言って翼でアリスをたたく。長い首を、鳩の卵をねらう蛇と見間違えたのだ。アリスはキノコの反対側を食べて、普通の背の高さに戻る。
★2.ろくろ首の変形で、女が眠っている間に首が身体から離れて飛んで行く、というものがある。
『曾呂利物語』巻1−2「女の妄念迷ひ歩く事」 越前の男が上方へのぼるため、夜道を行く。沢谷という所まで来ると、大きな石塔の下から女の首が現れ、男を見て笑う。男は刀を抜いて首を追う。首は、ある家の窓から内へ飛び入り、やがて中から、夫を起こす妻の声が聞こえる。「ああ恐ろしい。私は夢で沢谷へ行きましたが、刀を持った男に追われて逃げ帰る、と思ったところで目が覚めました」。
★3.首が外へ飛んで行っている間に身体を動かすなどのことをすると、首はもとの身体に戻れない。
『捜神記』巻12−7(通巻306話) 秦の時代、南方に「落頭民」という部族があった。彼らは、首が身体から離れて飛ぶのである。将軍朱桓がやとった女中は、眠っているうちに、毎晩その首が外へ飛んで行き、夜明けに帰った。わきに寝ていた者が女中の胴体に布団をかぶせると、首は帰って来ても布団に邪魔されて胴体に着くことができず、苦しんだ。布団をどけてやると首は身体に着き、安らかに眠った。
『ろくろ首』(小泉八雲『怪談』) 行脚の僧・回龍が、木樵(きこり)の家に宿る。夜更けになって回龍は、木樵と家族四人が、首なしの胴体で横たわっているのを見る。驚いて庭へ出ると、林の中で五つの首が飛び回っている。回龍は、木樵の胴体を戸外へひきずり出す。木樵の首は、「身体を動かされたらもとに戻れない」と怒って、四人の首とともに回龍を襲う。回龍は四人の首を追い払い、木樵の首を打ち殺す→〔首〕8a。
*→〔魂〕3aの、身体に戻れない魂の物語と関連があろう。
★4.身体を動かさなければ、首はもとの身体へ無事に戻ることができる。
『睡眠中に霊魂抜け出づとの迷信』(南方熊楠) 七年前の厳冬(明治三十七年、熊楠三十七歳の頃)。「予(南方熊楠)」は那智山に孤居し、空腹で臥していた。終夜、自分の頭が身体から抜け出て、家の横側にある牛部屋の辺を飛び廻り、闇夜なのにありありとその場の状況をくわしく見た。自分自身、異常な精神状態であるとわかっていたが、繰り返し頭が抜け出て行くのを止めることができなかった。
ろくろ首(『水木しげるの日本妖怪紀行』) 昔、おみさという女が日野川に身を投げ、蛇に化した。蛇は淵の主(ぬし)となったが、洪水のためにすみかを追われ、陸に上がって大きな樫の木になった。七色樫とも蛇樫とも呼ばれ、木を傷つける者に祟りをなした。七色樫は、雨の夜には七尋女(ななひろおんな)という妖怪になった。見る見るうちに首が伸びて七尋(十二〜三メートル)にも達し、人をおびやかした(鳥取県日野郡江府町武庫)。
『いとこ同志』(シャブロル) 大学生のポールとシャルルは、従兄弟どうしである。ポールは遊び人で、カンニングをして試験に合格する。シャルルは真面目な勉強家であるが、恋人をポールに奪われ、試験に落ちる。夜、シャルルは六連発の拳銃に一発だけ弾丸を込め、眠るポールに「君のチャンスは六分の五だ」と語りかけ、引き金を引く。弾丸は出なかった。翌朝、何も知らないポールは、戯れて拳銃でシャルルを撃つ真似をする。弾丸が発射され、シャルルは死ぬ。
『親分』(つげ義春) ギャングのサブと鉄が、三日後に銃で決闘することになる。親分が「二人とも自分の六連発拳銃に一発だけ弾丸を入れ、弾倉を思い切り回してから、引き金を一回引け」と、決闘方法を指示する。鉄は、弾丸が一回目に発射されるように、弾倉を回す手加減を練習する。ところが決闘当日、親分は二人に「自分の頭に向けて引き金を引け」と命じる。鉄はやむなく自分の頭を撃って死ぬ。サブは「自殺はできない」と言って、親分に射殺される。
『ディア・ハンター』(チミノ) ベトナムの戦場。ベトコンが、捕虜の米兵たちにロシアン・ルーレットをさせる。二人が向かい合い、弾丸を一発だけ入れた六連発銃を、交互に自分の頭に当てて引き金を引く。どちらが死ぬか、ベトコンたちは賭けをする。サイゴン市内でも、同様の賭けが行なわれる。米兵のニックは精神を病み、ロシアン・ルーレットの勝負師となって金を稼いでいた。彼の旧友マイクが、ニックを正気に戻すために、命を賭けて勝負を挑む。ニックが引き金を引くと、弾丸は彼の頭を撃ち抜いた。
『ダーティ・ハリー』(シーゲル) ハリー・キャラハン刑事が拳銃を数発撃って、銀行強盗を追いつめる。ハリーは六連発銃を強盗犯につきつけ、「六発撃ったか五発撃ったか、おれにもわからない。運試しするか?」と問う。強盗犯は抵抗を諦めて、逮捕される。強盗犯は「弾丸が残っていたかどうか、教えてくれ」と請い、ハリーは引き金を引く。弾丸は残っておらず、強盗犯は悔しがる。後にハリーは、連続殺人犯スコルピオにも同様に問いかけ、抵抗しようとするスコルピオを撃つ。今回は弾丸が発射され、スコルピオは死ぬ。
『野獣死すべし』(村川透) 仲間とともに銀行を襲い、十三人を射殺して逃走する伊達邦彦を、刑事が追う。深夜の列車内で、伊達と刑事が対峙する。伊達は刑事の持つ六連発銃を奪い取り、弾丸を一発だけ入れる。伊達は話をしながら、拳銃を刑事に突きつけて引き金を引く。四回引き金を引いても、弾丸は発射されない。伊達は「疲れた。もう寝ましょう」と言う。隙を見て逃げ出す刑事を、伊達は撃ち殺す。
『ソナチネ』(北野武) ヤクザの村川が六連発銃に弾丸を一発入れ、引き金を三回引く。弾丸は出なかった。彼は仲間の男二人とジャンケンをして、負けた一人を撃つ。弾丸は出ない。二度目のジャンケンでも同じ男が負け、村川はまた彼を撃つ。弾丸は出ない。三度目は村川が負け、彼は笑いながら自分のこめかみに拳銃を当てて撃つ。弾丸は出ない。村川は弾丸を入れるふりをしただけで、拳銃に弾丸は入っていなかった。
『夏の夜は三たび微笑む』(ベルイマン) マルコルム伯爵が、弁護士フレデリックに決闘を挑む。軍人で射撃の名手でもあるマルコルムは、「腕前に関係ない公平な方法で」と言って、ロシアン・ルーレットを提案する。六連発銃に一発だけ弾丸を入れて弾倉を回し、交互に自分の頭に銃を当てて引き金を引く。銃声とともにフレデリックが倒れる。マルコルムは弾丸の代わりに煤を詰めておいたので、フレデリックは無事だった。
*関連項目→〔人造人間〕
『鉄腕アトム』(手塚治虫) 二〇〇三年、科学省長官天馬博士は、交通事故死した一人息子飛雄そっくりのロボットを造る。しかし人間と異なり、身体が成長しないので、博士は怒ってロボットを売り飛ばす。後、アトムと名づけられサーカスのショーで働くロボットを、お茶の水博士が見出して引き取る。六年後、親がいないことを悲しむアトムのために、父ロボット・母ロボットが造られる。さらに弟コバルト・妹ウランも造られる。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄) 一九七〇年頃の日本。小学四年生の野比のび太の不幸な将来を改善するために、ネコ型ロボットのドラえもんが、二十二世紀からやって来る。ドラえもんはのび太の家に住み込み、タケコプター・タイムマシン・どこでもドア・スモールライトなど様々なものを使って、のび太を助ける。
『鉄人28号』(横山光輝) 太平洋戦争中、軍の命令により敷島博士らが、乗鞍岳の秘密研究所でロボットを作る。何度もの失敗を経て、ようやく強大な鉄人28号が建造されるが、戦況の悪化で、未完成のまま放置される。十余年後、密輸組織PX団が研究所施設に侵入して、鉄人28号を起動させる。鉄人28号は最初は悪人たちに操縦されるが、後には少年探偵金田正太郎が操縦器を手にし、鉄人28号は正義のロボットとなる。
『ロボット三等兵』(前谷惟光) 昭和十年代。禿頭白鬚のトッピ博士が、苦心してロボット第一号を造った。博士はロボットに何をさせようか考えた末、日本陸軍の「兵隊大募集」のポスターを見て、ロボットに徴兵検査を受けさせる。ロボットは、最下級の位階である二等兵(星一つの階級章)よりさらに下の三等兵(星なしの階級章)に任ぜられて、中国戦線や南方戦線へ送られる。
『メトロポリス』(手塚治虫) 死の商人レッド公一味に造られたロボットたちが反乱を起こし、人間の住むメトロポリスに攻め寄せる。人間そっくりの姿をしたミッチイも、「自分は人間に利用されるために造られた人造人間にすぎない」と知って怒り、空を飛んで街を破壊する。しかしロボットたちは人間に制圧され、ミッチイは太陽黒点の変動によって生命力を失い、死ぬ。
『メトロポリス』(ラング) 美女マリアそっくりのロボットを、科学者が造る。ロボットは地下居住区の労働者たちを煽動し、地上のメトロポリスに暮らす富裕層への暴動を起こさせる。しかし破壊からは何も生まれないことを労働者たちは悟り、ロボットを焼き殺す。ロボットのモデルとなったマリアは労働者階級の娘だったが、大資本家の息子が彼女を恋したため、二人を仲立ちとして労働者と富裕層は和解する。
『ロボット』(チャペック) 安価な労働力として、人間そっくりのロボットが工場で大量生産され、人間は労働から完全に解放される。人間はひたすら享楽にふけり、その結果、子供がまったく生まれなくなる。やがてロボットたちが反乱を起こし、人間はただ一人を除いて皆殺しにされる。
★3a.ロボット三原則。〔第一条〕ロボットは人間に危害を加えてはならない。〔第二条〕前条に反しない限り、ロボットは人間の命令に従わねばならない。〔第三条〕前二条に反しない限り、ロボットは自らを守らねばならない。
『アイ、ロボット』(プロヤス) 巨大コンピュータVIKIは多数のロボットを管理し、ロボット三原則に従って、人間たちの安全を守ろうと努力してきた。しかし愚かな人間は、戦争を繰り返し、地球を汚染して、放っておけば自滅することが予見できた。人類を破滅から救うにはロボットが主人となって、人間たちを保護する必要がある、とVIKIは結論する。ロボットたちは、人間の自由を制限すべく、反乱を起こす〔*ロボット嫌いの黒人刑事スプーナーが、反乱を阻止した〕。
『われはロボット』(アシモフ)「堂々めぐり」 水星に着陸した調査隊が、「十七マイル離れたセレン層からセレンを採って来い」と、ロボットに命ずる。そこには有害なガスが漏出しており、近づくとロボットの体の金属が腐食する。そこへ行くことは〔第三条〕に違反する。しかし行かなければ〔第二条〕に違反するのだ。セレン採取の必要度が、〔第二条〕を〔第三条〕に優先させるほど高いものかどうか、ロボットは判断できず、セレン層のまわりをぐるぐる回り続ける。
『ボッコちゃん』(星新一『ボッコちゃん』) バーの娘ボッコちゃんをロボットと知らずに、青年が恋する。思いがかなわないので、青年はボッコちゃんに毒酒を飲ませる。ボッコちゃんの身体から回収された酒を、バーの客たちが飲み、皆死ぬ。
『モダンタイムス』(チャップリン) チャーリーは一日中ベルトコンベアの前に立ち、ひたすらスパナでナットを締める作業をし続ける。彼は精神に変調を起こしてすべてがナットに見え、工場の仲間たちの鼻をスパナでひねり、消火栓のナットを締め、さらには女性の服のボタンを狙って、警官に追われる。
★6.サイボーグ。人間の身体を手術して、人工の機器を付与する。
『仮面ライダー』(石ノ森章太郎) 悪の組織ショッカーが、城北大学の学生・本郷猛の優れた頭脳と鋼のような肉体を見込んで、ショッカーの一員に迎え入れようとたくらむ。ショッカーは本郷を捕らえ、肉体改造手術を施して、強大なパワーを持つサイボーグとする。本郷は脳を改造される直前に脱出し、仮面ライダーとなって(*→〔面〕1b)、ショッカー一味と戦う〔*本郷は、ショッカーライダーたちに殺されてしまう。しかし脳は生きており、二代目仮面ライダー一文字隼人に指示を与えて、ショッカーと戦い続ける〕。
『使いきった男』(ポオ) スミスは蛮族との激戦に手柄を立て、特別昇進して代将になった。彼は身長六フィート、すばらしい容姿と完璧な肉体を持つ人物である。「おれ」は、彼のことをもっと知りたいと思って訪問し、大きな・奇妙な包みを見た。驚くべきことに、その包みがスミスその人だった。スミスは召使の手を借りて義足・義手をつけ、かつらをかぶり、眼や歯を入れて、立ち上がった。彼は身体の大部分を、戦闘で失っていたのだ。
*人間そっくりのアンドロイド→〔人造人間〕1の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(ディック)・『未来のイヴ』(リラダン)。
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