【離縁・離婚】

★1.離婚・離別で終わる物語。

『風と共に去りぬ』(ミッチェル)  スカーレット・オハラはアシュレを愛しつつも、結婚することは叶わず、チャールズ、次いでフランクと結婚し、二度とも夫と死別する。レット・バトラーが三番目の夫になるが、スカーレットの思いはあいかわらずアシュレの上にあり、それを知ったレットは、彼ら夫婦の間に生まれた娘ボニーに、もっぱら愛情を注ぐ。しかしボニーは四歳で事故死し、それを機に、レットはスカーレットに別離を告げる。

『人形の家』(イプセン)  新銀行頭取の夫とノラは結婚して八年になり、子供が三人いる。かつてノラは夫の転地療養費を得るため、借用証書に偽の署名をした。それを知った夫は、「これが公になれば破滅だ」と言ってノラを罵る。しかし、表沙汰にならずに済むことがわかると態度を一変させ、ノラを許す。社会的体面のみを考える夫にノラは見切りをつけ、一人家を出る。

『伸子』(宮本百合子)  ニューヨーク滞在中の十九歳の佐々伸子は、三十五歳の苦学生佃一郎に心ひかれ、周囲の反対を押し切って結婚する。しかし帰国してからの二人の生活は、芸術的雰囲気のうちに人間性を伸展させようとする伸子の理想と程遠く、小市民的な安住を求める佃に伸子は絶望し、ついに離別を宣言する。

★2.離縁・離婚を繰り返す。

『本朝二十不孝』(井原西鶴)巻1−3「跡の剥げたる嫁入長持」  加賀の絹問屋の美貌の娘小鶴はわがままで、十四歳で呉服屋に嫁いで以来、夫を嫌ったり店の仕事に難をつけたり、果ては癲癇の仮病までして離縁されるようにしむけ、二十五歳までに十八回、離婚を重ねた。やがて財産もなくし、もと下男を夫として、年老い窮死した。

『万の文反故』(井原西鶴)巻2−3「京にも思ふやうなる事なし」  仙台出身の九兵次は、悋気する妻を捨てて京へ上り、白粉屋の娘と結婚するが、無駄遣いが甚だしいので離縁する。次に、年上の妻をもらうと五十二〜三歳だったので、これも離縁する。その後も彼は結婚離婚を繰り返し、十七年間に二十三人の妻を持ち換えて、身代をつぶす。

★3.離婚を望む夫婦。

『蓼喰う虫』(谷崎潤一郎)  斯波要(かなめ)は美佐子と結婚して男児をもうけるが、まもなく美佐子を性的に愛さなくなる。要にとって美佐子は、仰ぎ見る対象でも玩弄物でもない中途半端な存在だった。要は美佐子に愛人を公認し、自身は外国人娼婦と馴染む。夫婦は、互いを傷つけず円満に離婚する方法を模索する。

★4a.妻が妊娠したため、離婚できなくなる。

『神経病時代』(広津和郎)  鈴本定吉は、新聞記者としての仕事に疑問を抱き、妻のヒステリーに悩んで、憂鬱な毎日を送る。定吉は田舎で静かにトルストイを読む生活を夢見て、妻に別れ話を切り出すつもりで帰宅する。ところが妻は「二人目の子を身ごもったらしい」と告げ、定吉は絶望する。

★4b.子供が生まれたため、離婚せずにすむ。

『この子』(樋口一葉)  「私(山口実子)」は、三年前、裁判官の夫に嫁いだ。勝気な「私」は、無口な夫に飽き足らず、夫に冷たい態度をとる。夫は外で遊ぶようになる。「私」は、夫が離婚を言い出してくれるのを待ち望む。しかし離婚寸前のところで、「私」は男児を産んだ。そうなると子供がかわいくてたまらず、「私」の心はすっかり変わった。夫も「私」に優しくなり、「私」たちは幸福な夫婦となった。

★4c.両親の離婚後の子供が、父とともに暮らすか、母とともに暮らすか。

『クレイマー、クレイマー』(ベントン)  ジョアンナ・クレイマーは、仕事人間の夫テッドに見切りをつけ、七歳の一人息子ビリーに心を残しつつ、家を出る。妻に去られたテッドは、慣れない家事と育児に悪戦苦闘し、苛立つ。テッドはビリーを叱り、ビリーはテッドに反抗するが、しだいに父と子は強い絆で結ばれてゆく。一年余の後、ジョアンナは「ビリーを引き取りたい」と望み、裁判を起こす。しかし「ビリーを、今まで育ったこの家から連れ出すことはできない」と悟って、涙ぐむ。

*子供が二人いれば、父と母で一人ずつ分けることができる→〔双子〕3bの『ふたりのロッテ』(ケストナー)。

★4d.両親の離婚後の子供が、父の家と母の家を行ったり来たりする。

『離婚の子』(川端康成)  「彼」も「彼女」も小説家だった。二人は結婚し、一人息子の健坊が六歳の時に離婚した。健坊は快活に、「彼」の家と「彼女」の家を何日かおきに往復する。健坊は、父も母も自分のものにしておきたいと、健気(けなげ)にふるまった。やがて「彼」は再婚する。新しい妻は、健坊が「彼女」の家へ行くのをいやがり、「私が健ちゃんを育てたい」と請う。「彼」は妻を殴り倒し、広い青空の街へ飛び出して行く。

★5a.離縁の回避。大切なものを持って家を出る妻。

『知恵のある百姓娘』(グリム)KHM94  王が百姓娘を妃にして何年か経た後に、「もとの百姓小屋へ帰れ」と離縁を宣告する。「離縁のしるしに、いちばん大切なものを持って行って良い」と王が許可するので、妃は王を薬で眠らせ、白い布で包んで自分の家へ運ぶ。目覚めた王は、妃を城へ連れ帰り、あらためて結婚式をする。

『引括』(狂言)  わわしい(=口うるさい)女房に閉口した夫が、離縁状を渡す。女房は怒り、「何か暇(いとま)のしるしをくれるならば出て行こう」と言う。夫が「何なりとやろう」と言うと、女房は袋を夫の首にかけて「これが欲しい」と言う。

★5b.父親の説得により、離婚を思いとどまる妻。

『十三夜』(樋口一葉)  下町娘お関は、奏任官原田勇に見そめられ、その妻になる。ところが、一子太郎を身ごもった頃から、原田は二人の身分差や、彼女の無教育を言い立て、何かと辛くあたるようになる。結婚後七年、お関はついに離婚を決意し、十三夜の晩に実家へ帰る。しかし父は「かわいい太郎のため、辛抱せよ」と説き、また、お関の弟亥之助も原田の世話になっていることもあって、彼女は離婚を思いとどまる。

★5c.旅先での経験により、離婚を思いとどまる妻。

『イタリア旅行』(ロッセリーニ)  イギリス人夫妻アレックスとカテリーヌは、離婚寸前だった。彼らは所用でイタリアを訪れ、ポンペイ遺跡を見に行く。二千年前の男女が、抱き合ったまま化石になって発掘されたので、カテリーヌは衝撃を受ける。帰り道、祭りの群集に巻き込まれ、アレックスとカテリーヌは離れ離れになる。カテリーヌは必死で夫の名を呼び、アレックスは群集の流れに逆らって妻のもとへたどり着く。カテリーヌは「あなたを失いたくない」と言う。

★6.神々の離婚。

『古事記』上巻  黄泉国から脱出しようとする夫イザナキを、妻イザナミが追う。イザナキは、黄泉国と地上との境界である黄泉比良坂(よもつひらさか)を、千引の石(ちびきのいわ)で塞ぎ、イザナミを黄泉国に封じこめる。石を中に置いてイザナキ・イザナミは向かい合い、夫婦別れの宣言をする〔*『日本書紀』巻1・第5段一書第6に類話〕。

★7.姑が嫁を離縁する。

『塩狩峠』(三浦綾子)  明治十年代。永野貞行の妻・菊は、クリスチャンであることを、姑トセに告白せずにいた。長男信夫が生まれた後、トセは菊がクリスチャンであると知って、離縁した。しかし貞行は離縁された菊のもとへひそかに通い、女児をもうけた。トセはそれを知った夜に、脳溢血で死んだ〔*長男信夫は成人後クリスチャンとなり、自らを犠牲にして大勢を救った〕→〔犠牲〕1

『心中宵庚申』(近松門左衛門)中之巻「上田村」〜下之巻「八百屋」  半兵衛は、二十二歳で大阪の八百屋伊右衛門の養子になり、働きづめで店を大きくし、妻千代を得て睦まじく暮らす。しかし姑が千代を嫌い、半兵衛が実父の十七回忌のため浜松へ出かけた留守に、姑は、妊娠四ヵ月の千代を離縁する。

*→〔嫁〕2aの『不如帰』(徳富蘆花)。

★8.「離婚せねば災難に遭う」と言って脅す。

『半七捕物帳』「お文の魂」  好色な悪僧が、旗本の若妻お道を自分のものにしたいと考え、「あなたは離婚しなければ、命にかかわる災難に遭う運命だ。幼いお嬢さまにも災いが及ぶ」と言って、巧妙に脅す。お道は「自分はともかく、娘お春を救わねばならぬ」と思いつめ、お春の夜泣き(*→〔夜泣き〕2)を利用して、「毎夜、幽霊が出るからこの屋敷にはいられない。離縁してほしい」と訴える〔*半七が悪僧のたくらみをあばき、お道を安心させる〕。

*「結婚すると災いが起こる」との占い→〔凶兆〕2

★9.離婚の町。

『荒馬と女』(ヒューストン)  ネバダ州のリノは、離婚の町として有名である。リノに六週間滞在すれば離婚の諸手続きが完了するので、離婚を望む夫婦たちが、全米からやって来る。都会の女ロズリンは、リノに来て離婚した後、カウボーイのゲイをはじめとする三人の独身男に出会う。男たちは原野で野生の馬を追い、投げ縄で引き倒す。ロズリンは「残酷だわ」と抗議し、「人でなし!」と泣き叫ぶ。ゲイは「生き方を変え、ロズリンとともに暮らそう」と考える。

★10.これといった理由もなく、男女が別れる。

『太陽はひとりぼっち』(アントニオーニ)  ビットリアは婚約者リカルドに別れ話を切り出す。理由を問うリカルドに、彼女は「わからない」としか答えられない。その後、ビットリアは株式市場で働く青年ピエロと知り合い、性関係を持つ。しかし結婚する気にはなれない。彼女は一人、物思いにふけりつつ、街を歩く。恋人のことを考えているのか、他のことを考えているのか、わからない。

*二十世紀には、→〔変身〕3a・3bの『変身』(カフカ)・『犀』(イヨネスコ)のような「理由のわからない変身」、→〔誓約(うけひ)〕2の『法王庁の抜穴』(ジッド)のような「動機のない犯罪」、などという物語が時々あらわれる。 

 

*六組の離縁→〔仕返し〕1の『懐硯』(井原西鶴)巻3−1「水浴は涙川」。

 

【理髪師】

★1a.床屋が、客の咽を剃刀でえぐる。

『剃刀』(志賀直哉)  芳三郎は腕の良い床屋である。彼は風邪をひいて熱があり、床についていたが、夜遅くなって客が来た。客はイキがった口をきき、これから女郎買いに行くらしい。芳三郎は不快な気分で、客のひげを剃る。手が震え、刃がひっかかって、客の咽から血が一すじ流れる。かつて客の顔を傷つけたことがなかった芳三郎は、荒々しい感情に襲われ、剃刀を逆手に持ちかえて、客の咽を深くえぐった。

★1b.悪人が床屋と入れ替わり、客の喉を剃刀でかき切る。

『ヴォードリーの失踪』(チェスタトン)  田舎では、床屋が煙草屋を兼ねることが多かった。ヴォードリー卿が床屋でひげを剃ってもらっていた時、一人の男が店先に来て、ウィンドウにある煙草を欲しいと言う。床屋が剃刀を置き、どの煙草か確かめに表へ出るのと入れ替わりに、男は奥へ入り、剃刀を取ってヴォードリー卿の喉をかき切る。男はすぐ店先へ戻り、煙草を買う。男が去った後、床屋はヴォードリー卿が死んでいるのを見て驚愕する。

*床屋の手伝いをして、血の味をおぼえる→〔血〕10の茨木童子の伝説。

★2.悪事をはたらく髪結い。

『梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)(河竹黙阿弥)  髪結いの新三(しんざ)が、材木商・白子屋の娘お熊を誘拐する。白子屋の依頼を受け、弥太五郎源七親分が、新三の住む裏長屋へやって来る。源七親分は十両と引き換えに、お熊を白子屋へ返すよう説くが、新三は「十両では不足だ」と言って、源七親分を追い返す。その後へ大家長兵衛が来て、新三が前科者であることを言い立て、おどしたりすかしたりして、十五両でお熊を返すことを承知させる→〔身投げ〕1a

『人情紙風船』(山中貞雄)  貧乏長屋に住む新三は、近頃は本業の髪結いの仕事をしていない。髪結いの道具箱を質商・白木屋に持ち込み、金を借りようとして断られたりもする。新三は白木屋の娘お駒を誘拐し、彼女を取り戻しに来た源七親分を罵って追い返す。長屋の大家が白木屋と交渉し、五十両と引き換えにお駒を白木屋に返す。面目をつぶされた源七親分は怒り、夜、新三を呼び出す。源七親分は刀、新三は短刀を手に、斬り合う〔*『梅雨小袖昔八丈』の映画化〕。

★3a.理髪師が、王の耳がろばの耳であることを知る。

『変身物語』(オヴィデイウス)巻11  アポロン神が、ミダス王の耳をろばの耳に変えた。ミダス王は、頭巾をかぶって耳を隠す。しかし理髪師が、これを見てしまった。理髪師は「ろばの耳のことを皆に言いたい」と思うが、口外する勇気がなく、かといって黙っているのにも我慢がならなかった。そこで彼は、ミダス王の秘密を穴の中へささやいた→〔穴〕5

★3b.理髪師が、王の白髪を見つける。

『ジャータカ』第9話  マカーデーヴァ王は、「我が頭に白髪を見つけたら知らせよ」と理髪師に命ずる。長年月の後、理髪師は王の黒髪の中に一本の白髪を見出し、王に告げる。王は出家する。 

★4.女性理髪師とその夫。

『髪結いの亭主』(ルコント)  アントワーヌは子供の頃から、床屋へ行くのが大好きで、「女の床屋さんと結婚する」と心に決めていた。大人になったアントワーヌは、美しい女性理髪師マチルドを見かけ、彼女を妻にする。アントワーヌは一日中、店に座りこんで、働くマチルドを見ていた。マチルドさえいれば、仕事も子供も彼には不要だった。幸福な十年の結婚生活の後、突如マチルドは川へ身を投げる。「あなたが死んだり、私に飽きたりする前に、死にます」という書置きがあった。

*髪結いの妻と、働かぬ夫→〔夫〕1aの『厩火事』(落語)。

 

【龍】

★1a.剣や槍などで龍を殺す。

『アーサーの死』(マロリー)第11巻第1章  旅の騎士ラーンスロットが、ある町を訪れ、人々の願いによって、エレーン姫を救い出し(*→〔熱湯〕1a)、礼拝堂の墓の下にいる龍と戦う。龍は口から火を吐き、ラーンスロットは苦戦の末に、剣をふるって龍の息の根を止める。

『黄金伝説』56「聖ゲオルギウス」  王の一人娘が、人喰い龍に人身御供として捧げられる。聖ゲオルギウスが騎馬で通りかかり、湖から出てきた龍を長槍で殺して娘を救う。ゲオルギウスはその地をキリスト教化して去る。

『黄金伝説』109「聖ドナトゥス」  聖ドナトゥスは、泉の毒龍を鞭で一撃して殺した。一説では龍の顎に唾を吐きかけた〔*類話に→〔唾〕1bの『黄金伝説』104「聖ペテロ鎖の記念」〕。

『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第13章  アイルランドの国を龍が荒らしまわり、王が、「龍を退治した騎士には娘を与える」と約束する。トリスタンが槍で龍の喉を貫き、剣を心臓に突き立てて殺す。彼は自分が龍を殺した証拠に、その舌を切り取って懐に入れる→〔舌〕2

『ベーオウルフ』  ベーオウルフが怪物グレンデルとその母の女怪を退治し、イェーアト族(=スウェーデン南部を支配)の王となって五十年が過ぎた。古塚に棲む龍が火を吐いて暴れ出し、国土を焼き払ったため、老王ベーオウルフは龍に戦いを挑み、従者ウィーイラーフの助けを得て、龍を斬り殺す。しかしベーオウルフも龍の牙で首をかまれ、死ぬ。

『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第7話  七首の龍が毎日キリスト教徒を一人ずつ食う。チェンツォが剣を振って七つの首を一度に切り落とし、その日龍に食われるはずだった王女を救い、結婚する。

*→〔血〕4の『ニーベルンゲンの歌』第3歌章。

★1b.言葉の力で龍を追い払う、服従させる。

『黄金伝説』12「聖シルウェステル」  洞窟の龍が、毒の息で多くの人を殺した。聖シルウェステルが、聖ペテロの教えによって龍に説教し、その口を紐で縛り、十字架のしるしを彫った印章で封印した。

『黄金伝説』62「使徒聖ピリポ」  毒の息で人々を苦しめる龍にむかい、聖ピリポが「人の害にならぬ荒野へ行け」と命ずると、龍は去った。

『酉陽雑俎』巻14−536  亀茲国の数百戸の家から金や宝が紛失し、北山に住む龍のしわざだというので、国王阿主児が退治に行く。阿主児は、眠る龍を起こして上に乗り、「降参せぬと頭を斬り落とすぞ」と言う。龍は「王の乗物になるから許してくれ」と請い、阿主児はいつも龍に乗って出かけるようになった。

★2.人間が龍に化す。

『王書』(フェルドウスィー)第1部第6章「フェリドゥーン王」  フェリドゥーン王は、三人の王子の勇気を試すため、龍に変身して王子たちの前に立ちふさがる。長男(サルム)は逃げる。次男(トゥール)は弓に矢をつがえ、闘おうとする。三男(イーラジ)は「龍よ、消え失せよ。われらはフェリドゥーン王の王子だ。お前に勝ち目はない」と宣言する。龍は三人の王子たちそれぞれの性格を知り、去って行く。

『愚管抄』巻7  百川宰相が、穴を掘って作った獄に井上内親王を押しこめた。内親王はそのまま龍となって、百川を蹴殺した〔*『水鏡』下巻も、井上の后が現身に龍になったと記すが、百川については龍に殺されたとはせず、俄に死去したと記すのみ〕。

『今昔物語集』巻3−7  羅漢と弟子僧が、大雪山(ヒマラヤ)の龍から供養を受ける。弟子僧は自分に出された食事が、師匠の食事に比べて粗末だったので怒り、その夜のうちに死んで悪龍と化し、暴れる。カニシカ王が塔を建て仏舎利を安置すると、悪龍は鎮まった。

『今昔物語集』巻3−8  天竺の牛飼いが、国王に献上すべき乳酪ができなかったため、責められる。牛飼いは怒り、身投げして死んで悪龍になる。悪龍は国を破り国王を殺そうとするが、仏に出会って悪心はおさまり、以後は仏法の守護者となった。

★3a.龍に乗って去る。

『史記』「孝武本紀」第12・「封禅書」第6  龍があごひげを垂れ、天下って黄帝を迎えに来る。黄帝は龍にまたがり、群臣や後宮の女七十余人が、従って龍に乗る。龍は天へ昇って去り、残余の臣下たちは乗ることができず、龍のひげに取りつく。龍のひげは抜け、はずみで黄帝の弓も地に落ちる。

『捜神記』巻1−12  鍛冶屋陶安公の使う火が天に舞い上がり、赤雀が来て「お前の鍛冶は天まで届いた。七月七日、お前を迎えに赤龍をよこす」と告げる。約束の日、陶安公は迎えに来た赤龍に乗り、東南へ去った。

『日本書紀』巻26斉明天皇元年5月  油を塗った青絹の雨具をつけた唐風の人が、龍に乗って空を駈けた。葛城山から生駒山へ飛び、住吉から西方へ去った。

★3b.龍の引く車に乗って去る。

『メデイア』(エウリピデス)  メデイアは、イアソンとの間に生まれた二人の子を殺した後(*→〔子殺し〕6)、龍の引く車(=彼女が、父のまた父である太陽神ヘリオスから得たもの)に乗って、コリントスの町の上空に現れる。彼女は地上のイアソンに向かって、自分の行為の正当性を主張した後に、アテナイへ向けて飛び去った。

★4.龍は水を得れば神通力を発揮する。

『秋夜長物語』(御伽草子)  三井寺の稚児梅若が天狗にさらわれ、吉野の大峯山・釈迦が嶽の石牢に、閉じこめられる。牢には大勢の男女が捕らわれており、その中の一人の翁は龍の化身だった。翁は梅若の涙をもとに大きな水の玉を作り、洪水を起こして牢を破り、皆を雲に乗せ神泉苑まで運んだ。

『今昔物語集』巻20−11  天狗のために洞穴に捕らわれた龍は、ともに捕らわれた僧の持つ水瓶の水を得て力を回復し、洞穴を蹴破って脱出する。

★5.龍の作り物。

『本朝二十不孝』(井原西鶴)巻3−3「心をのまるる蛇の形」  宇都宮の漆屋武太夫は、大隅川上流の水底に堆積した漆を見つけ出し、それを一人じめするため、誰も近づかないように龍の細工物を水中に沈める。ところがやがて龍に魂が入り、漆を取りに来た武太夫とその息子は命を落とす。

米良の上漆の伝説  兄が、弟に漆を取らせないために木で龍を造り、淵に浮かべる。弟は驚いて逃げ帰る。喜んだ兄が淵へ行くと、龍に魂が入って動きまわっており、兄も漆を取れなくなった(宮崎県米良)。

★6.龍の持つ玉。

『荘子』「列御寇篇」第32  貧家の子が淵にもぐって千金の価の珠を取って来る。父は「千金の珠は深い淵の底、黒龍の頷の下にあるものだ。たまたま黒龍が眠っている時だったので、珠を取れたのだ。黒龍が目覚めれば、お前は喰われてしまっただろう」と言い、石で珠を砕くよう命ずる。

『竹取物語』  かぐや姫は、求婚する大伴御行の大納言に対し、龍の頸にある五色に光る珠を取って来るように請う。大納言は難波から船出し、龍を捜して筑紫の海まで漕ぎ行くが、激しい風浪と雷に翻弄され、播磨の明石の浜まで吹き戻される。

★7.人とともにある龍。人を守護する龍。

『史記』「高祖本紀」第8  下級役人だった頃の劉邦(高祖)は、王媼・武負の両店で、つけで酒を飲んだ。劉邦が酔い臥すと、いつも身体の上に龍がいた。劉邦が酒を飲む時には、店の売り上げが数倍になり、龍が現れるので、王媼・武負の両店は、つけを棒引きにした。

『ジャータカ』「近い因縁話」  悟りを開いた世尊は菩提樹の近くで数週間を過ごし、その後ムチャリンダ樹のもとへ赴いた。そこではムチャリンダ龍王が七重にとぐろを巻き、寒さなどから世尊を守ったので、世尊は仏の居室にいるごとくにして、解脱の楽しみを享受しつつ七日間を過ごした。

★8.龍の姿を見る。

『今昔物語集』巻24−11  滝口の侍の従者が、神泉苑の西で雷雨に遭い、暗闇の中に金色の手がキラリと光るのを見て、意識を失う。医師丹波忠明が、「龍の姿を見て病みついた人を治療するには、灰の中に埋めるしかない」と教え、従者を蘇生させる。

*神の姿を見る→〔神〕4

★9.龍の苦しみ。

『今昔物語集』巻11−15  海中に棲む龍族には、三熱の苦がある(熱風・熱砂に焼かれる苦、暴風に吹かれる苦、金翅鳥に喰われる苦。九つの苦があるとも言う)。ある時、龍王が仏像の眉間の珠を得た(*→〔海〕7a)。そのおかげで龍族は苦しみから逃れることができた。後に、人々が龍族のために『金剛般若経』を書写供養し、その功徳で三熱の苦は消えた。龍王は、不要になった珠を人間世界へ返した。ただし珠の光は、龍王が取ったので失われてしまった。  

 

*雨をもたらす龍→〔誘惑〕3aの『今昔物語集』巻5−4。

*龍の昇天→〔絵〕1bの『水衡記』・〔言霊〕5aの『龍』(芥川龍之介)。

*龍の住みか→〔九十九〕4の九十九谷の伝説。 

 

【龍宮】

★1a.男が、海の彼方もしくは海の底の龍宮へ行く。

『浦島太郎』(御伽草子)  浦島太郎は、放生した亀の化身である美女に誘われて、船で沖へ漕ぎ出し、十日余りを経て美女の故里である龍宮城へ着く。そこは銀の築地を築き、金の甍を並べた理想郷で、浦島は美女と夫婦になって三年を過ごす〔*『日本書紀』巻14雄略天皇22年7月の浦島の記事では「蓬莱山」、『丹後国風土記』逸文では「天上仙家」「蓬山」、『万葉集』巻9 1744歌では「常世」とする〕。

『山城国風土記』逸文  男が、妊娠中の妻の願いで七色の海草を求め、海辺で笛を吹くと龍神が愛でて、男を婿に取ってしまう。しかし男は龍宮の火を忌み、常に龍宮の玉の輿に乗って海辺へ来て、食事をする。そのおかげで、後に男は妻のもとへ帰ることができた。

『龍宮の婿とり』(昔話)  妻子ある男が、道で会った美女から「嫁にしてくれ」と請われ、龍宮へ連れて行かれる。男は美女と結婚し、昼間は海の御殿で過ごし、夕方に陸地の妻子の所へ帰る。妻は夫を取り戻そうとするが、男は「自分は龍神の婿になったから、お前とは暮らせない。今後は私を神として祭れ」と言って、龍宮へ去る(沖縄県宮古郡伊良部村長浜)。

*龍宮から如意棒を得る→〔杖〕4の『西遊記』百回本第3回。

★1b.男が、湖の底の龍宮へ行く。

『俵藤太物語』(御伽草子)  俵藤太は、瀬田の橋の大蛇が化身した美女に依頼されて、三上山の大百足を退治する。美女は礼を述べ、俵藤太を伴って琵琶湖に入り、水輪際・金輪際・風輪際を過ぎて、龍宮に到る。そこは七宝の宮殿・黄金の楼門輝く荘厳世界で、俵藤太は龍王に対面してもてなしを受け、剣・鎧・釣鐘を得て帰る。

★1c.男が、池の底の龍宮へ行く。

『今昔物語集』巻3−11  龍女が釈迦族の男を見て、「夫にしたい」と願い近づく。男は祈りの力で龍女を人間に変身させる。龍女の父王が来て礼を述べ、男を池の中の龍宮へ導く。そこは七宝の宮殿のある浄土さながらの所だった。男は故郷へ帰って国王となり、龍女を后に迎えるが、彼女が寝る時には頭から九匹の蛇が首を差し出すのだった→〔頭〕4

★1d.男が滝壺の底の龍宮へ行く。

『平治物語』下「悪源太雷となる事」  難波三郎恒房が、箕面(みのお)の滝の滝壺に入る。はるか深くまで進むと、水のない所へ出た。美しい御所があり、恒房はその門口にたたずむ。龍宮の人が「はやく地上へ帰れ。ここは龍宮である」と言い、水晶の塔に佛舎利一粒を入れて、恒房に与える。それを懐に入れて龍宮の門を出たと思うと、恒房はもとの滝壺へ浮かび出ていた。

★2.龍宮の住人が人間世界を訪れ、やがてまた帰って行く。

『鮫人(さめびと)の恩返し』(小泉八雲『影』)  龍宮の鮫人が過ちを犯して追放され、琵琶湖畔の瀬田の唐橋にうずくまっているところを、俵屋藤太郎に救われて、藤太郎宅の庭の池に棲む。鮫人の涙は紅玉(ルビー)であり、そのおかげで藤太郎は美しい妻を得る。やがて龍宮に大赦があり、鮫人は別れを告げて去る。  

『鼻たれ小僧(龍宮童子)』(昔話)  貧しい花売りの男が、売れ残りの花を川へ投げ入れ、乙姫様に捧げていた。ある日、亀が迎えに来て、男は乙姫様の御殿へ行く。男は乙姫様にもてなされ、鼻をたらした「とほう」という名前の子供をもらって帰る。「とほう」は家や着物やお金を出してくれるので、男は大金持ちになる。しかし後に、男は「とほう」の汚さを嫌って、「もう帰れ」と言う。「とほう」が出て行くと、たちまち男はもとの貧乏にもどってしまった(新潟県南蒲原郡)。

★3.この世を去った人々が龍宮に住む。

『平家物語』灌頂巻「六道之沙汰」  壇の浦の合戦後、建礼門院徳子は源氏の兵に捕らわれて上京した。彼女は播磨国明石の浦でまどろんだ夢に、昔の内裏よりはるかにまさった所に、安徳天皇はじめ平家一門の公卿・殿上人が威儀を正して居並ぶのを見た。「ここは何処」と問うと、二位の尼(=徳子の亡母)が「龍宮城」と答えた。  

★4.龍宮城の東門。

『太平記』巻18「一宮御息所の事」  武士・松浦五郎が、一宮(=後醍醐天皇第一皇子・尊良親王)の御息所に横恋慕し、大物の浦から船に乗せ、九州へ連れ去ろうとする。鳴門海峡まで来ると、渦に巻き込まれて船が進まない。舵取りの男が、「鳴門は龍宮城の東門にあたるゆえ、龍神の望むものを海へ沈めよ」と言う。さらに、怨霊が海上に出現して船を招くので(*→〔入水〕4)、松浦五郎は御息所を小舟に乗せて海へ放つ。

*龍宮界の城門→〔経〕3cの『是楽(ぜらく)物語』(仮名草子)。

*龍宮のような門→〔門〕1eの『遠野物語拾遺』156。

*極楽の東門→〔門〕1bの『弱法師(よろぼし)』(能)。

*地獄の東門→〔門〕1cの『弱法師(よろぼし)』(三島由紀夫)。 

 

【両性具有】

 *関連項目→〔性転換〕

★1.男でも女でもある存在。

『セラフィタ』(バルザック)  スウェーデンボルグの従弟セラフィッツ男爵の妻が、天使霊セラフィタ(セラフィトゥス)を身ごもったのは、一七八三年のことだった。セラフィタは人間の肉体を持ち、ノルウェーで生まれ育ったが、美少年とも美少女とも見られる容姿だった。牧師の娘ミンナはセラフィタを男性と思い、野心家の青年ウィルフリッドはセラフィタを女性と思って愛した。しかしセラフィタは二人の愛をしりぞけ、十九世紀の最初の夏のある日、地上の肉体を捨てて昇天した。

『変身物語』(オヴィディウス)巻4  水の精である少女サルマキスが、美少年ヘルム=アプロディトスを恋する。彼女は、泉で泳ぐヘルム=アプロディトスに抱きついて、「神様、永遠に私を彼から引き離さないで」と願う。神は彼女の願いを聞き入れ、二人の身体は融合して一つになる。ヘルム=アプロディトスは泉に入る時は男だったが、出て来た時は「男女(おとこおんな)」になっていた。

『メトロポリス』(手塚治虫)  ロートン博士が人造細胞から創った人間は、世界一美しい顔の大理石像「ローマのエンゼル」を、モデルにしていた。ロートン博士は、性を持たぬ人造人間に、男とも女ともつかぬ「ミッチイ」という名前をつけた。ミッチイの喉の奥にはボタンがあり、これを押せばミッチイは少年から少女に、また少女から少年に変った。

『陽物神譚』(澁澤龍彦)  十九歳の青年皇帝が、アレクサンドリアの医方博士七人を招いて、秘密裡に、身体に女陰を穿つ手術を受け、両性具有者となった。百年に一度の世紀祭、三日間続く饗宴と殺戮の最後の夜、皇帝は女装してそぞろ歩きする。血に酔った親衛隊の将校がそれを見て、「高貴な上臈か、王宮出入りの娼婦だろう」と思い、短剣で刺す。皇帝は致命傷を負って倒れる。

*女装した将軍を、臣下がそれと知らず斬り殺す→〔女装〕8の『頼朝の死』(真山青果)。

★2.一人で受胎する女。

足指で孕んだ女  大昔のこと、ナミテという名前の女が海岸に現れた。彼女は自分の足の親指を使って自ら受胎し、二人の息子、カウケとカウケゲヴァラを産んだ。やがてナミテは年老い、「私を殺して、血を竹筒に受け止め、火に入れなさい」と息子たちに言う。息子たちは、たくさんの竹筒に血を詰め、栓をして火に入れる。血が煮えて竹筒が割れ、竹筒と同じ数の人間たちが発生した(東北ニューギニア、カイザー・ヴィルヘルムスラント、モヌムボ族の神話)。

★3a.両性具有と逆の、男性器も女性器も持たぬ無性人間。

『人間ども集まれ!』(手塚治虫)  人工授精によって、男でも女でもない第三の性、無性人間が大量生産される。無性人間は労働力となり、また、人間の代わりに兵士となって戦場へ行く。やがて無性人間たちは反乱を起こし、人間を捕らえて次々に去勢する。無性人間の一人が、反乱の犠牲者を弔うため、仏門に入って僧となる。僧は言う。「去勢された人間は怒らなくなる。万物すべて平和に、仏の世界に近づく。なぜ今まで人間は、このことに気づかなかったのでしょう」。 

★3b.男でも女でもない存在。

『網膜脈視症』(木々高太郎)  精神病学の教授・大心地(おおころち)先生の患者に、「自分は神だ」と考える男がいた。男は二十一歳の時に遊郭へ行ったが、正常のアクトができなかった。してみると自分は男じゃない。そんなら女かというに、形態は女じゃない。つまり、男でも女でもない。だから神だ、というのである。 

★3c.死とともに、性の区別も終わる。

『死面(デス・マスク)』(川端康成)  多くの男から愛された「彼女」が死んだ。以前の恋人だった美術家が、「彼女」の顔に石膏をかぶせて死面(デス・マスク)を作る。「彼女」の最後の恋人である「彼」の目には、その死面は女のようにも男のようにも見えた。美術家は、「一般に死面は、これは誰のだと知らずに見ると、性別はわからないものです」と説明した。「あれほど女らしかった『彼女』も、死には勝てませんでした。死とともに、性の区別も終わるんですよ」。 

★4.両性具有者と間違えられた男。

『ふたなり』(落語)  夜道を歩く猟師が、若い女と出会う。女は「不義の子を身ごもったので、死なねばなりません」と言う。猟師は同情しつつも、女が首を吊る手伝いをしてやるうち、誤って自分が縊死してしまう。女はそれを見て、死ぬのがこわくなり、持っていた書置きを猟師の懐に入れて、どこかへ行ってしまう。翌日、検死の役人が「不義の子を身ごもり」という書置きを見て仰天し、猟師の息子に問う。「世に『ふたなり』と申して男女両性の者があると聞くが、お前の父は男子か?女子か?」。息子「りょうしでございます」。

 

*原始時代の人間には、男・女・両性具有の三種の性があった→〔人間〕1bの『饗宴』(プラトン)。 

*男性とも女性とも性関係を持つ男。両刀使い→〔性交〕9

*男女両方の性質をあわせ持つ女神→〔男装〕1a

*女として生まれ育ったが、十八歳の時に両性具有者であることがわかり、それ以降は男として生きる→〔ウロボロス〕6の『輪廻の蛇』(ハインライン)。

 

【りんご】

★1.西欧の物語に頻出する果物。生命のりんご・黄金のりんご。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章  ヘラクレスが、ヘスペリスたち(ヘスペリデス)の所へ黄金のりんごを取りに行く。ヘラクレスは、巨人アトラスが背負っている天空を一時自分の肩に載せ、アトラスにりんごを取りに行かせる。アトラスは、りんご三つを取って来てヘラクレスに渡す。

『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章  争いの女神エリスは、ヘラ・アテナ・アフロディーテの三女神の中に、美の賞としてりんごを投じた→〔三者択一〕2

『詩語法』(スノリ)第2〜3章  オーディンたちアース神族は、女神イドゥンの持つりんごを食べて若さを保っている。ある時イドゥンが巨人にさらわれ、神々は見る間に白髪になり老衰したが、やがてイドゥンを連れ戻し、再び若返った。

『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ラインの黄金」  ヴォータンを初めとする神々は、女神フライアが栽培する黄金のりんごを毎日一つずつ食べて、永遠の若さを保つ。ある時、巨人ファゾルト・ファフナー兄弟がフライアを連れ去ったため、神々はたちまち灰色の髪となって老い衰える。神々は莫大な黄金を巨人の兄弟に与えてフライアを取り戻し、若さを回復する。

『怪鳥(ばけどり)グライフ』(グリム)KHM165  病弱な王女に、ある人が「りんごに似た果物を食べれば、丈夫になる」と予言する。父王は「王女を健康にする果物をもたらした男を婿にする」と、布告する。百姓の三人の息子たちが王女と結婚するために出かけるが、長男・次男は失敗し、三男ハンスが、黄金のりんごを王女にもたらす。王女は健康になり、ハンスは王女と結婚して王になる。

『火の鳥』(ストラヴィンスキー)  悪魔コスチェイの城の庭に黄金のりんごの木があり、火の鳥が枝から枝へ飛び移って遊ぶ。夜には、城に幽閉された姫君たちが庭に出、木を揺すって黄金のりんごを落とし、それを投げ合って遊ぶ。

*→〔競走〕2の『変身物語』(オヴィディウス)巻10。

*→〔弓〕1aの『ヴィルヘルム・テル』(シラー)第3幕第3場。

*アダムとイブが食べた禁断の木の実は、後世には「りんご」と解釈されるようになる→〔妻〕1の『創世記』第3章。

★2.命を奪うりんご。

『アーサーの死』(マロリー)第18巻第3〜8章  アーサー王妃グィネヴィアが、騎士たちを招いて晩餐会を催す。ピネル卿が以前からガーウェインを憎んでおり、果物好きのガーウェインを殺そうと、りんごに毒を塗る。ところが別の騎士がそのりんごを食べて死んでしまう。殺された騎士の縁者マドールは、宴の主催者グィネヴィアの責任を問い、告発する〔*魔法使い「湖の乙女」が宮廷へ来て、「真犯人はピネル卿」と教える〕。

『白雪姫』(グリム)KHM53  継母(妃)が百姓女に化け、白雪姫にりんごを勧める。毒など入っていないことを示すために、継母はりんごをまっぷたつに切り、皮が白っぽい半分を自分が食べて、皮が赤くておいしそうな半分を白雪姫に与える。このりんごは、赤い方だけに毒があるようにこしらえてあったので、白雪姫はたちまち死んでしまう(*→〔毒〕3cの、銚子の中に隔てを仕掛け、片側に普通の酒、片側に毒酒を入れる物語と、同様の手口である)。

『変身』(カフカ)  青年グレゴール・ザムザは毒虫に変身し、自室に閉じこもる。グレゴールの父親は毒虫の姿を嫌悪して、りんごを投げつける。りんごはグレゴールの背中にめりこみ、それが彼の致命傷となる→〔変身〕3a

*りんごを食べようとして殺される→〔継子〕3の『びゃくしんの話』(グリム)KHM47。

*→〔心〕10の『子どもたちが屠殺ごっこをした話』(グリム)は、りんごが子どもの命を救った、といってよいだろう。

★3.りんごを食べて、壊血病から回復する。

『林檎』(林房雄)  漁業人夫たちが、冬の北海で鮭を獲(と)る。一人あたり鮭三十五本の取り分をもらって、いよいよ帰航という時、野菜不足のため、人夫たちは壊血病になって苦しむ。船長が、隠しておいた林檎樽を持ち出し、「林檎と鮭を交換しろ」と言う。十銭の林檎一つを、二円五十銭の鮭三匹と取り替えるのだ。人夫たちは、陸へ戻った時は元の杢阿弥のすっからかん。林檎のおかげで、命だけ助かったのだ。

★4.りんごの木から生まれた子。

『太平広記』巻82所引『史遺』  王徳祖の家にある林檎樹に大きな瘤ができ、三年後、瘤が朽ち爛れて男児が生まれた。王徳祖が男児を養育すると、七歳になって言葉を発し、「誰が育ててくれたのか」と問うた。男児は成長後、姓を王、名を梵志とした。

 

 

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