*関連項目→〔生霊〕
『今昔物語集』巻27−25 夫が死んで三年たった秋の夜。笛の音とともに、夫の霊が生前のままの姿で、妻の部屋を訪れる。夫は「死出の山越えぬる人のわびしきは恋しき人にあはぬなりけり」と詠歌し、「私は日に三度、冥府で焦熱の苦を受けている」と告げて、消えた。妻は「これは夢か?」と思ったが、夢ではなかった。
『清経』(能) 西国落ちした平家の武将清経は、前途を悲観して豊前国柳が浦に投身する。彼の死の知らせが都の妻のもとにもたらされた夜、妻の夢枕に清経の亡霊が現れて、修羅道の苦しみと成仏の喜びを語る。
『篁物語』 小野篁が異母妹を妊娠させる。怒った母が異母妹を一室に閉じ込め、やがて異母妹は死ぬ。死んだ異母妹は幽霊になり、夜な夜な来て小野篁と語らう。死後三七日の間は、あざやかに姿が見えた。四七日になると、時々見えるようになった。三年を過ぎると、夢にさえはっきりとは見えなくなった。
『クリスマス・キャロル』(ディケンズ) 小さな事務所を持つ守銭奴スクルージの前に、ある年のクリスマス前夜、七年前のイヴに死んだ共同経営者マーレイの幽霊が現れる。マーレイは「私は生前の強欲の報いで、一年中でこのクリスマスの時期に、もっとも苦しむのだ」と語り、「スクルージよ、お前にはまだ救済の望みがある」と言う。マーレイは「これから三人の精霊がやって来る」と教えて去る→〔クリスマス〕1a。
『ジャン・クリストフ』(ロラン)第9巻「燃ゆる荊」 ジャン・クリストフと親友オリヴィエは、パリのメーデーの騒乱にまきこまれ、離れ離れになる。オリヴィエの安否が不明のまま、クリストフはスイスへ逃れ、宿の一室でオリヴィエが来るのを待つ。夜、背後で扉の開く音が聞こえ、一つの手がクリストフの肩に置かれる。クリストフは振り向き、オリヴィエが微笑んで立っているのを見る。クリストフが「とうとう来たね」と言うと、オリヴィエの姿は消える。クリストフはオリヴィエの死を知る。
『敦盛』(能) 熊谷直実は一の谷の合戦で平敦盛を討った後に出家し、名を「蓮生」とあらためる。蓮生が敦盛の菩提を弔うべく一の谷を訪れると、敦盛の幽霊が草刈り男の姿で現れる。その夜、念仏する蓮生に、甲冑姿の敦盛の幽霊が、討死のさまを再現して見せる。
『忠度』(能) 旅僧が須磨の浦を訪れると老人が現れ、一本の桜の木をさして、「平忠度は戦死してこの下に埋められた」と教える。老人は忠度の幽霊であり、その夜花の下で眠る僧の夢に、甲冑姿で現れる。
『頼政』(能) 諸国一見の旅僧が宇治の里を訪れる。老翁が旅僧に声をかけ、平等院へ案内する。老翁は、院内の扇形の芝を示して「昔、源頼政が平家との合戦に敗れ、この芝の上に扇を敷いて切腹した。今日がその祥月命日だ」と教える。老翁は頼政の幽霊であり、その夜の旅僧の夢に甲冑姿で現れて、宇治川の合戦のありさまを語り、舞う。
『源氏物語』「若菜」下〜「柏木」 光源氏は六条御息所の死後、その旧宅と隣接する敷地とを合わせて広大な六条院を造営した。しかし御息所の霊は成仏せず、光源氏への恨みを抱いたまま、六条院とその周辺をさまよっていた。御息所の死後二十年近くを経た頃、光源氏の最愛の人・紫の上は重病になり、幼妻・女三の宮は出家した。御息所の死霊は憑坐(よりまし)の口を借りて、「すべて私がしたことだ」と光源氏に告げた。
『古本説話集』上−27 左大臣源融の造営した広大な河原院は、彼の死後、宇多院の所有になった。ある夜、塗籠(ぬりごめ)から源融の幽霊が出て、「ここは我が住む家である」と恨み言を述べた。しかし宇多院に叱りつけられ、幽霊は退散した〔*→〔閨〕1の『江談抄』第3−32に類話〕。
『幽霊と未亡人』(マンキーウィッツ) グレッグ船長は、自ら設計したお気に入りの屋敷に住んでいたが、就寝中にガスヒーターを蹴り倒し、ガス漏れのために死んでしまった。船長は死後も屋敷に愛着を持ち、幽霊となって住み続ける。屋敷を借りた未亡人ルーシーを脅して追い払おうとするが、ルーシーも屋敷が気に入ったので、出て行こうとはせず、幽霊と未亡人の共同生活が始まる→〔冥婚〕5。
★2c.居城が解体され移築されると、幽霊もいっしょに移築先へついて行く。
『幽霊西へ行く』(クレール) 十八世紀スコットランドの豪族グローリーの息子マードックは、死後、幽霊となっても昇天できず、居城に住み続ける。二十世紀になってアメリカの実業家が城を買い、フロリダに移築する。マードックの幽霊も城と一緒に船に乗り、大西洋を渡る。城の移築完成披露パーティに、二百年前にグローリーを侮辱したマクラガン(*→〔天国(極楽)〕8)の子孫が、やって来た。マードックの幽霊は、マクラガンの子孫を脅して、先祖の無礼を謝罪させる。
『外套』(ゴーゴリ) 五十歳過ぎの万年九等官アカーキイは、なけなしの金をはたいて新調した外套を、追剥に奪われる。外套なしのアカーキイは、ペテルブルグの寒風に扁桃腺を冒されて、急死する。アカーキイは死後すぐ幽霊となり、夜ごとに往来の人々を襲って彼らの外套を奪う。しかし、かつて彼を叱りとばした長官の外套を剥ぎ取った後は、その外套がアカーキイの身体にぴったり合ったのであろう、幽霊は姿を現さなくなった。
『へっつい幽霊』(落語) 佐官屋が、博打で得た三百両をへっついに塗りこめておくが、河豚に当たって死んでしまう。佐官屋は三百両に思いが残り、へっついを買い取った男の所へ、幽霊となって出る〔*『耳袋』巻之5の類話「怪竈の事」では、五両を竈に隠して死んだ法師が幽霊となる〕。
*幽霊が、生前にもらった恋文を気にかける→〔恋文〕4の『葬られた秘密』(小泉八雲『怪談』)。
*死者が転生後も、現世に残した物に執着する→〔転生〕4。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ68 死んだ女房が幽霊となって、昼も夜も井戸端にたたずむ。夫が「何に執着しているのだろう」と思い、井戸底を浚(さら)うと、こんにゃくが見つかった。女房が死ぬ少し前に、誤って井戸に落としたのだ。以来、幽霊は出ない。人というものは、こんにゃく一枚で彼岸へ渡れぬものらしい。
『宇治拾遺物語』巻4−5 川の辺を歩く女が石橋を踏み返して通り過ぎる。石の下でとぐろを巻いていた蛇が、這い出して来て彼女の後を追う。たまたま女の後ろを歩いていた別の女の目にだけ、蛇の姿が見える。蛇は死者の生まれ変わりで、石の下の苦から逃れ得た礼を言うために、女の後を追ったのだった。
『大鏡』「師輔伝」 九条師輔が百鬼夜行に会ったので、車の轅をおろし簾を下げて、尊勝陀羅尼を誦しつつうつ伏していた。従者たちには百鬼夜行が見えず、皆師輔のふるまいを訝った。
『今昔物語集』巻27−21 紀遠助が勢田の橋で怪しい女に呼びとめられる。彼は馬から降りて女と言葉を交わし、小箱を託される。遠助の従者たちには女の姿が見えず、「我が主は下馬して意味もなく立っている」と不思議に思う。
『実盛』(能) 他阿弥上人が篠原の里で連日説法をする。一人の翁が毎日聴聞に来るが、その姿は上人以外の人には見えず、上人が翁と言葉を交わすのを、人々は独り言だと思う。翁は二百余年以前に戦死した斎藤別当実盛の幽霊だった。
『三国志演義』第29回 呉の孫策は、于吉仙人を妖術使いであるとして、兵に命じて首を討たせる。その直後から孫策は于吉の霊に悩まされるが、于吉の姿は孫策にしか見えない。孫策が于吉の霊に剣を投げつけると、剣は于吉の首を討った兵に当たり、兵は死ぬ。やがて孫策も病み衰えて死ぬ。
『雑談集』(無住)巻9−4「冥衆ノ仏法ヲ崇ル事」 重病の僧が、梵網経の読誦を聴聞していると、浄衣姿の老翁が後方で聴聞しているのに気づく。老翁は冥衆で、その姿は病僧一人にしか見えなかった。
『ハムレット』(シェイクスピア)第3幕 母ガートルードを詰問するハムレットの前に、父王の亡霊が現れる。ガートルードには亡霊の姿も見えず声も聞こえない。父の霊と語りあう息子を、気が狂ったのかと彼女は思う。
*→〔宴席〕3aの『マクベス』(シェイクスピア)第3幕。
『怪談牡丹灯籠』(三遊亭円朝)10・12・14 死霊となったお露が萩原新三郎の家を訪れるが、四方八方にお札が貼ってあるので中に入れない。女中お米の死霊が隣家の伴蔵に百両を与え、「裏窓のお札をはがしてくれ」と請う。伴蔵はお札をはがし、翌朝新三郎の死体を見いだす。
『今物語』第38話 ある人の夢に、影のようなものが現れ「紫式部である」と名乗った。紫式部は、生前に虚偽の話(=『源氏物語』)を書いたために地獄で苦を受けており、「『源氏物語』の巻名を読み込み、『南無阿弥陀仏』と唱える歌を詠んで、供養してほしい」と請うた。
『イリアス』第23歌 アキレウスと部下の兵たちが、戦死したパトロクロスの遺体を囲み、彼の死を悼む。その夜、パトロクロスの霊がアキレウスの枕元に立ち「亡霊たちに妨げられ先へ進めぬので、私が冥府の門をくぐれるよう、早く葬ってほしい。火葬にしてくれたならば、再び冥土から戻ることはあるまいから」と請う。
『日本霊異記』下−16 寂林法師が夢を見る。生前、邪淫ゆえ幼い子を捨てて顧みなかった女が、罰を受けて苦しむ。女は「我が子成人(なりひと)が、我が罪を許してくれるだろう」と寂林に訴える。寂林は、里を巡って成人を捜し出す。成人は造仏・写経をして、母の罪を償う。
『オカルト』(ウィルソン)第2部「魔術の歴史」・6「十九世紀の魔術とロマンティシズム」 一八四八年、ニューヨークのフォックス家で戸や板を叩く音が続き、二人の娘が、物音をたてる霊と交信した。霊はノック音で質問に答え、「自分は金のために殺され、地下の貯蔵庫に埋められている」と告げた。貯蔵庫を掘り起こすと、朽ち果てた人骨が出てきた〔*すべて娘たちのいかさまだ、とする見解もある〕。
『南総里見八犬伝』第6輯巻之5下冊第60回 夜の庚申山を越える犬飼現八が、岩窟で赤岩一角の亡霊に出会う。亡霊は「十七年前、私はこの山の妖猫に殺された。妖猫は私に化けて里に下りた。息子角太郎(後の犬村大角)は化け猫を父と思って仕えている」と現八に語る→〔猫〕7。
『英草紙』第8篇「白水翁が売卜直言奇を示す話」 投身自殺したはずの茅渟官平の幽霊が、下女の前に現れて血の涙を流し、さらに領主の夢枕に立って「可開火下水」の句を示した。それは、「自分は妻の情夫に絞殺されたのであり、竃(=火)の下の井戸(=水)に死体が沈んでいる」と訴えているのだった。領主は、情夫と妻に罪を白状させ、死罪にした。
『ハムレット』(シェイクスピア)第1幕 深夜、デンマーク王の亡霊がエルシノア城の胸壁に現れる。亡霊は「私は昼寝中に毒蛇に噛まれて死んだ、と言われているが、そうではない。弟クローディアスが、毒液を耳にたらし入れて私を殺したのだ」と息子ハムレットに語り、「父の恨みを晴らせ」と命ずる。ハムレットは復讐を誓う。
★6c.死者が、骨と化し・鳥となって、「自分は殺されたのだ」と訴える。
『踊る骸骨』(昔話) 七べえが、友人だった六べえの骸骨を踊らせ(*→〔橋〕9)、方々の村で見せて金を儲ける。七べえは、今度は自分の村で儲けようと思い、村へ帰る。すると骸骨が、集まった村人たちに「おれは六べえだ。七べえに殺されたのだ」と言い、村人たちに七べえの悪事を訴える。村人たちは怒って七べえを殺す(新潟県長岡市前島町)。
『びゃくしんの話』(グリム)KHM47 継母に殺された男児が、鳥となって「お母さんがぼくを殺した(*→〔継子〕3)、お父さんがぼくを食べた(*→〔人肉食〕4a)」と鳴く。細工職人も靴屋も粉引きも、「唄の上手な鳥だ」と言って聞きほれる。継母だけが、鳥の唄声を恐れて耳をふさぐ。鳥は、石臼を継母の頭に落として、継母を殺す。
*→〔骨〕2の『唄をうたう骨』(グリム)KHM28。
★7a.生きた人間だと思っていたら実は幽霊だったことが、後にわかる。
『雨月物語』巻之1「菊花の約(ちぎり)」 播磨国の丈部左門は、赤穴宗右衛門と義兄弟の契りを結ぶ。夏、丈部は出雲へ旅立つに際し、「九月九日に帰る」と約束する。当日、丈部は早朝から赤穴を待ち、夜更けになってようやく赤穴がやって来る。丈部は喜んで赤穴を家に招き入れるが、赤穴は無言で、料理にも手をつけず、やがて「自分は現世の人間ではない」と語り出す→〔魂〕9a。
★7b.生きた人間だと思っていたら幽霊で、幽霊だと思っていたら生きた人間だったことが、後にわかる。生者と死者の逆転。
『切符』(三島由紀夫) 洋服屋の松山仙一郎は時計屋の谷を見て、「妻が自殺したのはこの男のせいだ」と思う。仙一郎と谷を含む四人がお化け屋敷を見に行くが、仙一郎は異様な恐怖を感じ、さらに出口で妻の姿を見て驚愕する。我にかえった仙一郎は、「どうして、『妻が自殺した』などと錯覚していたのだろう」と、不思議に思う。その時、妻が「谷さんは私にふられて自殺したのよ」と言う。
『南総里見八犬伝』第5輯巻之2第43回〜巻之5第49回 漁夫ヤス平(姥雪世四郎)と息子の力二郎・尺八郎が、犬塚信乃ら四犬士を助けて敵と戦う。力二郎・尺八郎は行方知れずになり、ヤス平は河に沈む。それから五日後の夜、ヤス平と力二郎・尺八郎が、彼らの妻たちのもとへやって来る。妻たちは「ヤス平は幽霊で、力二郎・尺八郎は生者だ」と思う。ところがヤス平が手持ちの包みを開けると、力二郎・尺八郎の首が出てくる。ヤス平は水練の名手で死なず、力二郎・尺八郎は敵に銃撃されて死んだのだった。
『エプタメロン』(ナヴァール)第4日第9話 グリュノー侯が二年ぶりに家に帰ると、「幽霊が出るから」といって奥方が近在の領地に移っている。侯は、夜幽霊を待ちうけてこれを捕らえる。幽霊のふりをしていたのは小間使いで、主人夫婦を脅して追い出し、恋仲の下僕とともに家を乗っ取ろうとしたのだった。
『品川心中』(落語) 金に困った品川の女郎お染が、貸本屋の金蔵を道連れに心中する。金蔵が海に飛びこんだ直後に、「金ができた」との知らせがあったので、お染は心中を取りやめて帰る。海から這い上がった金蔵は、幽霊のふりをしてお染をこわがらせ仕返しする。
『武悪』(狂言) 主が太郎冠者に命じて、職務怠慢の召使・武悪を成敗させる。しかし太郎冠者は武悪を逃がし、主には「武悪を討ちました」と報告する。武悪は、命が助かったお礼参りに清水の観音へ詣でる。思いがけずそこで主と出くわしたので、武悪は幽霊のふりをする。武悪は「いっしょに冥途へ連れて行く」と言って主を脅し、主は「許いてくれい」と悲鳴を上げて逃げる。
『幽霊』(江戸川乱歩) 辻堂老人は自らの葬式をして、死んだかのごとく見せかけ、その後に、恨み重なる会社重役平田氏の前に姿を現す。平田氏は「幽霊にとりつかれた」と思って、恐れる。明智小五郎が、幽霊の出現場所が屋外に限られ、平田氏の屋敷内には現れないことに気づき、「生きている辻堂老人が平田氏を脅かしているのだ」と察知する。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)3編下「浜松」 弥次郎兵衛・喜多八は、「宿の女将の幽霊が毎晩出る」と聞いて恐れ、厠へも行けない。雨戸を開けて用を足そうとすると、庭に白いものが浮かぶので、幽霊と思い悲鳴をあげる。それは襦袢が干してあるのだった。
『開いた窓』(サキ) フラムトンは神経衰弱の療養のため、田舎の親戚の屋敷を訪れる。姪が「三年前の今日、伯父とその二人の義弟があの開いた窓から猟に出かけ、沼に呑み込まれた」と作り話をする。夕方、伯父たちの帰って来るのが窓の向こうに見える。フラムトンは、「幽霊だ」と思いこんで逃げ去る。
『殉職』(星新一『悪魔のいる天国』) 幽霊が一人の男の前に出現するが、男は「何だ、またか。アルコールが切れると朝から幻覚と幻聴だ」と、平然としている。幽霊が「おれは本物だ」と教えても、男は「アル中が進行したらしい。これを消すには、もう少し飲まねばならん」と言う。
★9c.目前の幽霊が実在するのか、ただ幻覚を見ているだけなのか、わからない。
『ねじの回転』(ジェイムズ) 独身女性の「わたし」は、住み込み家庭教師となり、孤児兄妹(十歳たらずのマイルズと八歳のフローラ)の世話をする。屋敷内で「わたし」は、前任の女家庭教師と下男の幽霊をしばしば見る。ところがマイルズもフローラも、幽霊などいないかのごとくふるまうので、「わたし」は、「子供たちは幽霊と何らかの関わりがあって、わざと見えないふりをしているのだ」と、思う〔*しかし「わたし」一人が、幻覚を見ているだけかもしれない〕。
『捜神記』巻16−3(通巻378話) 阮瞻は、「幽霊は実在しない」とつねづね主張していた。ある時訪れた客と議論になり、阮瞻は客を論破した。言い負かされた客は怒り、「なぜ貴方は幽霊の存在を認めないのか。この私が幽霊なのですぞ」と言って消えた。
『捜神記』巻16−4(通巻379話) 尋陽の司令官宅に寄宿する居候は、「幽霊は実在しない」という論を唱えていた。ある時訪れた客と議論をし、居候は客を言い負かした。客は「貴方は弁が立つが道理に欠けている。私こそ幽霊ですぞ」と言い、「貴方を冥府へ連れて行くために来た」と告げた。
『閲微草堂筆記』「ラン陽消夏録」7「幽霊はいないと言う幽霊」 夜、二人の男が藪の茂る荒地を歩き、「墓場には幽霊が多い」と話し合う。老人がやって来て、「幽霊など存在しない」と言い、理路整然と陰陽の原理を説く。二人が感心すると、老人は「冥界の私は、話し相手を求めて、仮に『幽霊はない』という議論をしてみたのだ」と言って消える。
『狗張子』(釈了意)巻1−6「北条甚五郎出家、附冥途物語のこと」 長尾謙信の家老北条丹後守の弟甚五郎が二十余歳で病死するが、まだ寿命があるというので現世に戻される。その途中、戦死した傍輩長七から「父母に我が供養を請うてくれ」と頼まれ、「私と会った証拠に」と簪を託される。長七の父母は、「これは息子の棺に納めた簪だ」と言って泣く。
『善知鳥』(能) 陸奥の外の浜まで行脚する僧が、途中、立山地獄(*→〔山〕7aの『今昔物語集』巻14−7)に立ち寄る。前年死んだ外の浜の猟師の霊が現れ、「我が妻子のもとを尋ねてほしい」と請い、「自分と会った証拠に」と、着ている麻衣の片袖を引きちぎって僧に手渡す。僧は片袖を猟師の遺族に届け、それは猟師の形見の衣とぴったり合わさった。
『片袖』(落語) 富家の娘の墓を悪人があばき、簪や衣装を盗み取る。悪人は六部姿となって、娘の百ヵ日法要の場を訪れ、「立山地獄で娘の幽霊から『供養のため高野山へ祠堂金五十両を納めてほしい』と頼まれた。これが証拠だ」と言って片袖を示す。紛れもなく娘の棺に納めた衣装の片袖なので、父親はすっかり信用し、祠堂金五十両と路用の五十両、計百両を六部に与える。
*→〔装身具〕3の『長恨伝』(陳鴻)。
*霊が人間に取りつく→〔憑依〕。
*病者に取りつく霊→〔もののけ〕。
*死んで霊になると年をとらない→〔老婆〕1b。
*人形の幽霊→〔人形〕5bの『ペトルーシュカ』(ストラヴィンスキー)。
『切腹』(小林正樹) 浪人・津雲半四郎が井伊家の侍三人と決闘し、髷を切り落として辱める。さらに、井伊家の藩邸に乗り込んで四人を斬り殺し、立ち腹を切った後に射殺される。しかし井伊藩の記録には、「精神錯乱の浪人が切腹し、藩士四人が病死した」と書かれる。髷を切られた侍たちは切腹するが、彼らも病死扱いになる。
『一九八四年』(オーウェル) 一九八四年、世界は三つの超大国に分割されていた。その一つ、全体主義国家オセアニアの真理省に勤務するウィンストンは、過去の新聞・雑誌等の記事を政府の方針に従って次々に書き改める、歴史の訂正作業に従事していた。
*→〔時間旅行〕4。
『今鏡』「序」 嘉応二年(1170)三月十日過ぎ、大和国を旅歩きする人たちが、春日野に住む百五十歳余の老尼に出会った。老尼は大宅世継の孫娘で、第六十八代・後一条天皇の万寿二年(1025)から、第八十代・高倉天皇の嘉応二年まで、百四十三年(*正しくは百四十六年)間の歴史を語った。
『大鏡』「序」 万寿二年(1025)五月、雲林院の菩提講に詣でた人々は、百九十歳の大宅世継と百八十歳の夏山繁樹が対話するのを聞いた。二人は、第五十五代・文徳天皇即位の嘉祥三年(850)から、第六十八代・後一条天皇在位の万寿二年まで、百七十六年間の歴史を語り合った。
『増鏡』「序」 ある年の二月十五日、嵯峨の清涼寺に詣でた人が、百歳過ぎの老尼に出会った。老尼は、第八十二代・後鳥羽院誕生の治承四年(1180)から、第九十六代・後醍醐天皇還京の元弘三年(1333)夏まで、百五十年余の歴史を語った。
『水鏡』上巻「序」 ある年の九月十日頃の深夜、葛城山で誦経する三十代前半の修行者が、神代から生きている老仙人に出会った。老仙人は誦経聴聞の礼に、神武天皇即位の年から、大宅世継の昔語りの始発点である嘉祥三年(850)まで、千五百二十二年間の歴史を語り聞かせた〔*修行者は翌々年の二月、この体験を七十三歳の老尼に語った〕。
*現実世界の歴史と仮想世界の歴史→〔仮想世界〕2の『高い城の男』(ディック)。
『心理試験』(江戸川乱歩) 殺人事件の容疑者・蕗屋清一郎は、ある語を聞いてどのようなものを連想するか、判事によって試験されることを知り、「殺す」「血」など犯罪に関わる語に対し、素早く無難な語で応答できるように練習しておく。しかし、かえってその不自然さを明智小五郎に見抜かれる。
『鬼瓦』(狂言) 長らく在京していた大名が、国もとへ帰る名残りに、太郎冠者を連れて因幡堂に参詣する。御堂を拝する大名は、屋根の鬼瓦を見て突然泣き出す。鬼瓦が、国にいる妻の顔によく似ていたのであった。
『熊の皮』(落語) 赤飯をもらった礼を述べに、夫が横丁の医者の家へ行く。夫は口上を述べつつ、座敷の熊皮の敷物を無意識に手まさぐりし、その感触で妻を思い出して、「あっ。女房がよろしくと申しておりました」と言う。
*傘を見て、巨大な男根を連想する→〔器物霊〕1の『西鶴諸国ばなし』(井原西鶴)巻1−4「傘(からかさ)の御託宣」。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第20巻46ページ 夏の夜、サザエがカツオとワカメを外に呼んで、美しい上弦の月を示す。しかしカツオとワカメは、半月形から冷蔵庫の中のスイカの一切れを思い出し、家へ駆け戻る。
『子連れ狼』(小島剛夕)其之8「鳥に翼 獣に牙」 ならず者の一団が山奥の湯治場に入り込み、病身の侍や僧など湯治客たちを皆殺しにしようとする。侍は「切腹するから介錯を頼む」と請い、僧は合掌して念仏を唱える。ならず者たちの頭目は、「介錯」という言葉を聞き、「拝む」僧を見て、湯治客の一人でどこか見覚えのある浪人が、もと公儀介錯人・拝一刀であることに気づく。拝一刀は、ならず者たちをすべて斬り殺す。
『モルグ街の殺人』(ポオ) ある晩、「ぼく」はデュパンと散歩していて、果物屋に突き飛ばされ、歩道の敷石に足をすべらせた。「ぼく」はその敷石をきっかけに、次々と心に浮かぶ思いを追っていったが、デュパンは、「ぼく」の心の中で展開している連想の連鎖をすべて見抜き、「ぼく」を驚かせた。
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