『長屋紳士録』(小津安二郎) 町へ仕事に出かけた人相見の田代が、父親にはぐれた男児を見て可哀想に思い、長屋へ連れて来る。長屋の人々は、雑貨屋のおたねに男児の世話をおしつける。おたねはいやがるが、男児を家に泊めてやっているうちに、だんだん情が移ってくる。おたねは、男児を自分の子供にしようか、と思う。ところが一週間目に父親が尋ねて来て、男児を引き取り帰って行く。すっかり子供好きになったおたねは、「貰い子でもしようか」と考える。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版第44巻44ページ タラちゃんがワカメから、鯉のぼりの真鯉(まごい)と緋鯉(ひごい)を教えてもらう。タラちゃんが一人でいるところへ、お巡りさんが通りかかったので、タラちゃんは早速、真鯉を指さして「まごい」と言う。お巡りさんはタラちゃんを背負って交番まで連れて行き、「まだ『まいご』も言えないんだ」と同僚に説明する。
『大鏡』「兼家伝」 すぐれた巫女がおり、「賀茂の若宮が憑く」と称して、うつぶして託宣を述べた。世間の人は彼女を「うち伏しのみこ」と呼んだ。藤原兼家は衣冠束帯の正装で、自分の膝を巫女に枕として貸し、将来についてさまざまなことを聞いた。一つとして誤った予言はなかった〔*『今昔物語集』巻31−26に類話〕。
『古事記』中巻 垂仁天皇が后サホヒメの膝を枕にして眠る。「沙本の地方から降って来るにわか雨が顔をぬらし、錦色の小蛇が頸に巻きつく」との夢を見て、天皇は目覚める。その時サホヒメは、天皇の頸を刺そうと紐小刀をふりあげつつ決行できず、涙があふれて天皇の顔に落ちたのであった〔*『日本書紀』巻6垂仁天皇5年10月に同記事〕。
『神道集』巻8−46「釜神の事」 甲賀郡由良の里の百姓が、山中で野宿し、木の根を枕に寝る。光る物が飛来し、それにむかって木の根の下の何物かが問いかける声が、枕を通して聞こえる。「今夜、由良の里に男児と女児が生まれ、男児は貧運、女児は福運の持ち主だ」との情報を、百姓は得る。百姓が里へ帰ると、自分の家に男児が、東隣の家に女児が生まれていた→〔同日・同月〕1a。
『炭焼き長者』(昔話)「再婚型」 東(あがり)長者と西(いり)長者が、磯の寄木を枕に寝る。西長者は眠れずに、にら(龍宮)の神と寄木が話し合うのを聞く。「今夜、東長者の家に生まれた女児に塩一升の位(=福運)をつけ、西長者の家に生まれた男児に竹一本の位(=貧運)をつけた」というので、西長者は驚き、「自分の貧運の息子を、東長者の福運の娘と結婚させよう」と考える(鹿児島県大島郡)。→〔同日・同月〕1a。
『創世記』第28章 旅の途中、ヤコブは石を枕として眠り、夢を見る。天に達する梯子を神の使いたちが上り下りし、神がヤコブに「この地を汝と子孫に与えよう。汝の子孫は繁栄するだろう」と語る。ヤコブは目覚めてから枕の石を立てて柱とし、油をそそいだ。
『太平広記』巻283所引『幽明録』 楊林という男が焦湖廟に参拝し、廟巫から「良縁を望むか?」と聞かれて、「はい」と答える。廟巫は楊林を、廟内にある枕のところへ連れて行く。枕には裂け目があり、楊林がそこから中に入ると、趙大尉という人物の邸があった。楊林はそこの娘と結婚し、六人の子をもうけて、数十年の間、幸せに暮らす。ふと目覚めると、楊林はもとどおり枕の傍にいた。
『枕中記』(唐・沈既済) 青年盧生が邯鄲へ向かう途中、街道の茶店で道士呂翁に出会い、自らの平凡な生活を嘆き訴える。呂翁は青磁の枕を渡し、盧生は枕に頭を乗せる。枕の両端の穴が大きくなり、彼は穴の中の世界へ入って行く。盧生は結婚し財をふやし、官吏として出世する。五十年の栄華の後、臨終を迎えたところで、彼は目をさます。そこはもとの茶店の中だった〔*『邯鄲』(能)では、過去と未来を悟る不思議な枕で眠る。『金々先生栄花夢』(恋川春町)では、そばにたまたまあったふつうの枕で眠る〕。
★3.枕の場所を変える(*枕に乗っている頭部の位置も変わる)と、体外に出ていた魂が身体に戻れなくなる。
『大鏡』「伊尹伝」 少将義孝は、皰瘡(もがさ)をわずらい重態になった時、「私が死んでも、通常の死者を扱う作法をしないで下さい。必ずこの世に戻って来ますから」と、母に遺言する。しかし、母が茫然としている間に、誰かが北枕にするなど義孝の遺体を動かしたため、彼の魂は身体に戻れなくなった〔*類話である『今昔物語集』巻15−42では、義孝の兄挙賢が病死し、閻魔王から「まだ余命がある」と言われて現世へ帰ったが、枕の位置を変えられたので、魂の入る所がなくなっていた、と記す〕。
『源氏物語』「葵」 葵の上は、息子夕霧を出産した後に急死した。以前にも、もののけが葵の上を何度も意識不明の状態におとしいれたことがあったので、左大臣家の人々は、葵の上の枕を動かさないようにして蘇生を願った。しかし、二〜三日すると死相がはっきり現れてきたので、やむなく遺体を鳥部野へ運び、火葬した。
ざしきわらしの伝説 ザシキワラシは、夜中に寝ている人の枕を返す。小さい子供で、一本足・一つ目である。人に姿を見せずに、部屋の中を箒で掃除しているものだそうだ(岩手県江刺市稲瀬)。
枕返しの伝説 七人の杣(そま)が、山中で檜の大木を伐った。その後、七人は枕を並べて寝ている時に、枕返しにあって皆死んでしまった。伐られた檜の精のしわざだ、といわれた(和歌山県日高郡龍神村)〔*枕には、それを使っている者の魂がこもる、と考えられていた。枕を返すと、その枕で眠っていた者を死に追いやることになる〕。
『二人兄弟』(グリム)KHM60 串焼きにした黄金の鳥の心臓と肝臓が、鍋の中へ落ちる。腹をすかせた双子の兄弟がそれを食べると、翌朝から、彼らの枕の下に金貨が一枚ずつ見つかる〔*黄金の鳥は伯父が食べるつもりだったので、伯父は怒る。双子の兄弟は家を追われて、旅に出る〕→〔死〕1。
『日本永代蔵』(井原西鶴)巻4−1「祈る印の神の折敷」 染物屋が正直一途で長年勤勉に働き、正月には福運を願って枕の下に宝船の絵を敷いて寝るが、いっこうにその甲斐がない。あまりの貧乏のため染物屋は、「いっそ人の嫌う貧乏神を祀ろう」と考える→〔貧乏神〕1。
『太平広記』巻368所引『集異記』 劉玄という男のところに、黒衣の人物がやって来た。顔に七孔(目・耳・鼻・口)のない、のっぺらぼうだった。占い師が「古い器物が妖怪化したもので、あなたを殺そうとしている。まだ目がついていないうちに、退治せねばならない」と言うので、劉玄は妖怪を刀で斬った。すると妖怪は正体を現した。それは、祖父が使っていた古い枕だった。
*北枕に寝て臨終を迎える→〔糸〕6の『栄花物語』巻30「つるのはやし」。
*石の枕に寝て殺される→〔宿〕3dの石の枕の伝説。
*枕元に現れる霊→〔八月十五夜〕9の『源氏物語』「夕顔」。
『愛染かつら』(野村浩将) 高石かつ枝は五歳の娘敏子を姉夫婦に預け、東京の津村病院の看護婦として働く。院長の息子浩三が、かつ枝と恋仲になるが、家族は浩三を資産家の娘と結婚させるつもりである。浩三はかつ枝と京都へ駆け落ちしようと考え、夜、新橋駅で待ち合わせる。しかし娘敏子が発熱したため、かつ枝は娘のそばを離れることができない。娘の世話を姉に頼んで、かつ枝が駅に駆けつけた時、浩三の乗る列車はホームを出たところだった。
『カサブランカ』(カーチス) 第二次大戦下のヨーロッパ。パリ陥落の日、リックは恋人イルザとともにパリを脱出しようと、駅で待ち合わせる。しかしイルザは来ず、別れを告げる手紙だけが届けられる。降り注ぐ雨が、手紙の文字を消して行く。待ち合わせ時刻の直前、イルザは、死んだはずの夫ラズロが生存していることを知り(*→〔死〕4)、リックを愛しながらも別れたのだった。
『尾生の信』(芥川龍之介) 古代の中国。尾生が橋の下の川辺で、女を待っている。女は来ず、やがて潮が満ちて来て尾生の沓をぬらす。日が暮れ、さらに水位は上がるが、尾生は水の中に立ち続ける。夜半、川の水が、尾生の死骸を海の方へ運んだ〔*尾生の魂は幾千年かを経て「私」に宿った。だから「私」は昼も夜も、何か来たるべき不可思議なものを待って暮らしている〕。
『邂逅(めぐりあい)』(マッケリー) ヨーロッパからアメリカへ向かう客船で、マルネーと美女テリーは出会い、恋におちる。二人は、「六ヵ月後の七月一日午後五時に、エンパイアステートビル百二階の展望室で会おう」と約束する。しかし当日、約束時刻の数分前に、エンパイアステートビルの下でテリーは交通事故に遭う。マルネーは展望室で何時間も待つが、テリーは来ない〔*その年のクリスマスにマルネーは、脚の怪我がまだ治らないテリーを捜し当てる〕。
*数寄屋橋での半年後の再会を約束する→〔橋〕3の『君の名は』(菊田一夫)。
『また逢う日まで』(今井正) 太平洋戦争末期。召集令状を受け取った田島三郎は、入営前にもう一度だけ恋人小野蛍子に逢いたいと思い、駅で待ち合わせる。しかし兄嫁が流産する騒ぎで、三郎は外出できなくなる。その頃、駅は空襲を受けるが、蛍子は、来ない三郎を待ち続けたために退避が遅れ、爆死する。三郎はそれを知らぬまま出征し、戦死する。
『二十年後』(O・ヘンリー) 二十歳のジミーと十八歳のボッブが、「二十年後の今夜、このレストランで再会しよう」と約束して別れる。二十年後、ジミーは警察官になり、ボッブはお尋ね者の犯罪者となって、待ち合わせ場所へやって来る。ジミーは自分の手で旧友を逮捕するにしのびず、同僚の刑事にボッブ逮捕を依頼する。
『ゴドーを待ちながら』(ベケット) 夕方。田舎道で浮浪者エストラゴンとヴラジーミルが、ゴドーを待っている。首に綱を巻かれた男ラッキーと彼の主人ポッツォが通りかかり、実りの無い会話をする。やがて少年が来て「ゴドーさんは今日は来ない」と告げる。翌日の夕方。エストラゴンとヴラジーミルは今日もゴドーを待っている。ラッキー、ポッツォ、少年も来るが、ゴドーは現れない。エストラゴンとヴラジーミルは、「首をつろうか」「明日にしよう。ゴドーが来れば救われるのだが」と相談する。
★4b.誰を待っているのか、何を待っているのか、答えられないこともある。
『発想の種子』(安部公房) 「ぼく(安部公房)」の創作メモ。「アル中の浮浪者の『自殺したい』という訴えに、仲間の男が同情する。自殺志願の浮浪者が松の枝で首吊りするのを、男は親切に手伝う。自殺者が発見された時、男は石に腰を降ろして泣いていた。警官の尋問に対し、男は『待っていた』と答えた。『何を待っていたのか?』と聞かれても、答えることができなかった」。このメモがきっかけで、「ぼく」は『箱男』のテーマを発想した。
『死とコンパス』(ボルヘス) 十二月三日に市の北部で、一月三日に西部で、二月三日に東部で、殺人事件が起こった。三つの現場は互いに等距離で、巨大な正三角形の三頂点を成していた。刑事レンロットは「これは菱形の四頂点のうちの三つだ」と考え、「三月三日に、第四の頂点に当たる場所で、第四の殺人が起こるだろう」と推理して、単身その地点へ赴く。しかしこれは悪人シャルラッハがレンロットの推理を先読みし、彼をおびき寄せる罠だった。シャルラッハは第四の頂点で待ち伏せ、レンロットを射殺した。
『十三人の刺客』(工藤栄一) 明石五十万石の藩主松平斉韶(なりつぐ)は将軍家慶の弟であるが、好色かつ残忍な暴君だったので、老中の土井大炊頭が、斉韶暗殺を配下に命ずる。斉韶は参勤交代で、江戸から明石へ帰国の途につく。十三人の刺客が、美濃の落合宿をまるごと買い取って、通行不能の迷路に改造し、斉韶一行を待ち伏せする。激闘の末、刺客たちは斉韶暗殺に成功するが、彼らもそのほとんどが斬り死にする。幕府へは「斉韶公は旅中に発病、帰国と同時に死去」との届けが出される。
『忍ぶ川』(三浦哲郎) 「私」は、六人きょうだい(男三人・女三人)の末の男児として生まれ、現在、大学生である。「私」の六歳の春、よりによって誕生日に、二番目の姉が自殺した。同年夏に、上の姉も自殺した。秋には長兄が失踪した。死んだことは確実だ。三年前、次兄が方々から金を借りて逐電した。そして家に残っているもう一人の姉は、病弱で目が悪かった。「私」は、自分の誕生日を祝ったことがない。その日が、「私」たちきょうだいの衰運の日のような気がするからだ→〔初夜〕5の『初夜』。
『神統記』(ヘシオドス) ウラノス(=天)とガイア(=大地)の娘レイアは、弟クロノスとの間に、六体の神(女神三体・男神三体)を産んだ。炉の女神ヘスティア・農業の女神デメテル・大女神ヘラ・冥府の神ハデス・海神ポセイドン・大神ゼウスである。そして末子のゼウスが、姉ヘラを正妃として、死すべき人間と不死の神々の上に君臨した。
*→〔人魚〕2の『人魚姫』(アンデルセン)。
『狼と七匹の子山羊』(グリム)KHM5 狼が七匹の子山羊兄弟を襲うが、末子だけは壁時計の中に隠れ、喰われずにすむ。末子は母山羊に事件を訴え、母山羊は、満腹して眠る狼の腹をはさみで切り開いて六匹を救い出す。
*→〔小人〕1aの『親指小僧』(ペロー)。
『神道集』巻8−49「那波八郎大明神の事」 群馬の地頭満行には八人の息子がいたが、末子の八郎満胤が総領となった。兄七人がこれを憎み、八郎を殺して蛇食池に沈めた。八郎は大蛇となり、兄たちとその一族を皆殺しにし、さらにその後、毎年国人一人を生贄として取るようになった。
『七羽のからす』(グリム)KHM25 七人兄弟が、父親に呪われて烏になってしまい、飛び去る。末娘が兄たちを救うために世界の果てまで旅をし、明けの明星から「兄たちはガラス山にいる」と教えられる。末娘がガラス山に行って対面すると、七羽の烏は皆もとの人間の姿に戻る。
*→〔水浴〕1aの『近江国風土記』逸文。
*三十八人の兄弟・姉妹の末子→〔不死〕6の『さざれ石』(御伽草子)。
*三人兄弟・姉妹の末子→〔三人兄弟〕1・〔三人姉妹〕1に記事。
*四人兄弟の末子→〔四人兄弟〕2a・2bに記事。
*母親が末子につらく当たる→『にんじん』(ルナール)。
*関連項目→〔隣の爺〕
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)173「木樵とヘルメス」 正直な木こりが、ヘルメス神から金の斧と銀の斧をもらう。それを聞いた欲深い男が、わざと鉄の斧を川に投げ入れる。ヘルメス神が金の斧を見せると、男は「なくしたのはその斧だ」と嘘を言う。しかしヘルメス神はそれを与えず、鉄の斧も返してやらなかった〔*『パンタグリュエル物語』第四之書(ラブレー)「新序詞」の類話では、近隣の男たちが正直な木こりを真似して、皆「金の斧をなくした」と嘘を言うので、メルクリウス(=ヘルメス)が彼らの首を刎ねる〕。
『小クラウスと大クラウス』(アンデルセン) 小クラウスは、大クラウスによって、ただ一頭の持ち馬を殺され、老母を殺され、川に投げこまれそうになる。そのたびに彼は奇策を用いて金儲けをする。大クラウスは小クラウスの真似をして、四頭の持ち馬を殺し、老母を殺し、川に放りこまれて沈んでいく。
『荘子』「天運篇」第14 美女西施が病み、村里で眉をひそめる。その表情が魅力的だというので、醜女が真似をする。それを見た村人たちは、あるいは門を閉じ、あるいは逃げ出した。
『宝手拭い』(昔話) 女中が乞食坊主に餅を施す。女主人が怒って「取り戻して来い」と命ずる。乞食坊主は餅を返し、手拭いを一枚女中に与える。女中が毎日手拭いで顔をふくと、だんだん美しくなる。女主人が羨み、女中の留守にその手拭いで顔をふく。たちまち女主人は馬面になる。
『時そば』(落語) 男が九つ時(午前零時頃)に、屋台でそばを食う。代金十六文を一文銭で「一二三四五六七八」と数えて払い、「今何時だ?」「へい九つで」「十十一十二・・・・」とやって、一文ごまかす。これを真似する男が、翌晩四つ時(午後十時頃)に出かけ、「・・・・七八」「今何時だ?」「へい四つで」「五六七・・・・」と、余分に支払う。
*→〔指〕6の『無門関』(慧開)3「倶胝竪指」。
『千一夜物語』「アリババと四十人の盗賊の物語」マルドリュス版第854夜 カシムは弟アリババの真似をして、盗賊の洞窟に入りこむが、呪文を忘れてしまう。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第10話 姉老婆が妖精の魔法で若返り、王様と結婚する。妹老婆がうらやみ、「どうやって変身したか」と問う。姉老婆は「一皮むいてもらった」と答える。妹老婆は床屋に「剃刀で全身の皮をむいてくれ」と頼む。だが、途中で妹老婆は息絶える→〔若返り〕2。
『酉陽雑俎』続集巻1−873 貧しい兄が、穀物の穂をくわえて飛ぶ鳥を追って山へ行き、赤衣の小児たちが持つ金錐を手に入れる。欲しい物は金錐で打つと何でも得られ、兄は富豪になる。弟が真似をして穀物を植え、鳥を追って山へ行く。鬼たちが「金錐を盗んだ奴だ」と言って、弟の鼻を一丈ほどの長さにのばす。弟は死ぬ。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)371「トカゲと蛇」 あるトカゲが蛇と同じ長さになろうとした。トカゲは背中の真ん中で破裂した。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)396「鳶と白鳥」 昔、鳶は白鳥のように美しい声だった。ある時、鳶は馬のいななく声に感心して真似をしようとした。しかし馬のいななきは覚えられず、本来の声をも失ってしまった。
*人間が動物の真似をする→〔息〕6の『幽明録』6「墓の中の娘」。
*都会の歩き方を真似ようとして、もとの歩き方まで忘れてしまう→〔足〕1fの『荘子』「秋水篇」第17。
★4a.共鳴動作。Aの動作を、Bが無意識のうちに真似して、同じように動く。
『蜘蛛』(エーベルス) 医学生の「ぼく」が借りた部屋から、通りの向こうの建物の窓が見える。そこには黒服の若い女がいて、糸を紡いでいる。「ぼく」は挨拶をし、彼女も挨拶を返す。「ぼく」がいろいろな身振り手振りをすると、彼女もまったく同じ身振り手振りをする。何日か過ぎて、「ぼく」は自分が彼女の動作を真似していることに気づく。彼女は紐で輪を作り、窓の桟のかぎにひっかける。「ぼく」も紐で輪を作り、そこに首を入れてぶら下がる〔*女は黒蜘蛛の化身だった〕。
『目羅博士』(江戸川乱歩) ビルの五階にいる男とそっくり同じ服装をさせた蝋人形を、目羅博士が準備する。月夜に(*→〔月〕4a)、目羅博士は蝋人形を細引きでつるして、五階の男に見せる。五階の男は、蝋人形の真似をして自分も細引きで首をくくり、ぶら下がる。目羅博士はこの方法で、三人の男を首吊り自殺させた。後に、ある青年が、目羅博士そっくりの蝋人形をビルの五階から落とす。これを見た目羅博士は、同じように五階から飛び降りて死んだ。
『ダイ・ハード』(マクティアナン) 刑事ジョンは、十三人のテロリストたちと闘うが(*→〔人質〕4)、生き残った二人のテロリストに銃をつきつけられて、ついに降参する。ジョンが自分の負けを認めたので、テロリストの一人が勝ち誇って、つまらぬ冗談を言う。その冗談を聞いて、ジョンは大声で笑う。笑い続けるジョンにつられて、テロリストたちも笑い出す。テロリストたちの気のゆるみに乗じて、ジョンは隠し持った拳銃で彼らを撃つ。
*→〔扉〕1の『古事記』上巻で、神々が口を大きく開けて笑ったのに応じて、アマテラスが岩屋戸を少し開けるのも、共鳴動作の一種と見ることができるであろう。
*真似しなくてもよいことを真似して失敗する→〔見間違い〕5。
『うばかは』(御伽草子) 継母に憎まれ虐待された姫君は、尾張岩倉の甚目寺観音に参籠して姥皮をたまわり、これを着て火焚き姥となる。
『落窪物語』巻1〜2 継母が、姫君を寝殿の放出(はなちいで)の床が落ち窪んだ所に住まわせ、「落窪の君」と呼ぶ。継母は姫君に裁縫の仕事をさせてこき使い、また、何かと口実をもうけては、姫君所持の屏風や食器や鏡箱などを取り上げる。姫君は道頼少将(後に太政大臣)と結婚するが、これを知った継母は、六十歳ほどの典薬の助に姫君を犯すようそそのかす。しかし、危ういところで道頼少将は姫君を救い出し、自分の屋敷に迎え取る。
『住吉物語』 四位少将が、中納言の姫君に恋文を送る。しかし継母が四位少将をあざむき、姫君ではなく、自分の実子・三の君と結婚させてしまう。その後も継母は、七十歳余の主計頭(主計助とする伝本もある)に姫君を与えようとたくらんだりするので、晩秋の夜、姫君は屋敷を出て住吉に身を隠す。翌年秋、夢告によって四位少将(後に関白)は住吉へ行き、姫君と再会、結婚する。
『灰かぶり』(グリム)KHM21 「灰かぶり(シンデレラ)」は、継母とその連れ子の姉妹にいじめられ、水運びや洗濯などの仕事を一日中させられる。夜もベッドへ入れず、竃のそばの灰の中へ寝なければならない。しかし後に彼女は王子と結婚し、姉妹は鳩に目をつつき出されて盲目になった〔*『サンドリヨン』(ペロー)では、サンドリヨンは姉妹を許し、貴族と結婚させる〕。
『鉢かづき』(御伽草子) 鉢かづきが十三歳の時に母が病死し、以後彼女は継母にいじめられる。鉢かづきは、亡母の墓前で「早く母上のもとへ行きたい」と泣く。継母は、「鉢かづき姫が亡母の墓へ参り、殿や私達を呪っている」と讒言し、父備中守さねたかは、それを信じて鉢かづきを家から追い出す。
『花世の姫』(御伽草子) 花世の姫は、父の留守中、継母のために姥ガ峰の奥の谷に捨てられる。山姥が、姫に小袋と富士大菩薩の御前の花米と姥衣を与える。姫は姥衣を着て火焚き姥になる。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第6話 ゼゾッラは裁縫の女先生にそそのかされ、継母を殺す。ところが今度は、女先生が父の後妻つまり新たな継母となって、ゼゾッラを台所でこきつかう。妖精の援助で、ゼゾッラは美しい衣装でお祭りに出かけ、王様に見そめられる。帰り際に木履が片方脱げ、それが証拠となってゼゾッラは王様と結婚する。
『宝物集』(七巻本)巻3 長那梵士は摩那斯羅女との間に早離・速離の二人の子をもうけたが、摩那斯羅女が病没したので、新たな妻を迎えた。妻は継子の早離・速離を遠い島に捨て、二人は泣き悲しんで「一切衆生の苦を救おう」と誓って餓死した。早離・速離は観音・勢至の二菩薩になり、摩那斯羅女は阿弥陀仏となった。
『不如帰』(徳冨蘆花) 片岡浪子は八歳で母を失い、一年後に継母繁子が嫁いでくる。繁子は英国留学帰りの男まさりの性格で、浪子に辛くあたる。浪子は十八歳で川島武男と結婚し、ようやく幸福を得る。しかし今度は姑にいじめられる→〔嫁〕2a。
『酉陽雑俎』続集巻1−875 葉限(しょうげん)は継母にいじめられ、かわいがっていた魚も継母のために殺される。葉限は、殺された魚の骨に祈って衣装・宝玉などを得る。彼女は祭りに出かけ、金の履を片方落としたことがきっかけで、陀汗国王の妻となる。
*→〔井戸〕7の『ホレのおばさん』(グリム)KHM24。
*→〔死体〕1aの『戒言(蚕飼の草子)』(御伽草子)。
*→〔樽〕2の『ペンタメローネ』(バジーレ)第3日第10話。
*→〔手〕1の『手なし娘』(昔話)。
*→〔見立て〕1の『紅(べに)皿・欠(かけ)皿』(昔話)。
★2a.継子が男であるばあい、継母が継子を恋することが多い。
『あいごの若』(説経)3〜4段目 二条蔵人清平の後妻・雲居の前が、継子・愛護の若を恋慕して、繰り返し艶書を送る。愛護の若がこれを拒絶すると、雲居の前は怒り、「若が家宝を盗み出して売った」と讒言する。父清平は立腹し、愛護の若を縄で縛って、桜の古木に吊り下げる→〔母の霊〕1。
『黄金のろば』(アプレイウス)巻10 女が、継子にあたる若者に恋情を抱いて密会を迫るが、継子は口実をもうけて逃げる。女は怒り、医者から劇薬を手に入れて、継子を毒殺しようとたくらむ。ところが、女の実子である少年が誤ってその薬を飲み、死んでしまう。女は「継子が私の子を毒殺した」と訴え出る〔*実は、少年は仮死状態になっているだけであり(*→〔仮死〕1)、法廷に現れた医者が、女の悪だくみを暴いた〕。
『王書』(フェルドウスィー)第2部第5章「王子スィヤーウシュ」 カーウース王の妃スーダーベが、継子スィヤーウシュを恋慕する。スィヤーウシュが彼女の求愛を拒否すると、スーダーベは、「スィヤーウシュが私を抱こうとした」と王に訴える。王は二人の身体のにおいをかぐ。スーダーベの身体からは、酒・麝香・バラ水の香りがする。一方、スィヤーウシュの身体には、そのような香りはまったくなかった。王は、スーダーベの言葉が嘘であることを知る。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第1章 テセウスの後妻パイドラは、継子のヒッポリュトスを恋し情交を迫るが、ヒッポリュトスはこれをしりぞける。パイドラはこのことをテセウスに知られるのを恐れ、自ら衣を引き裂いてヒッポリュトスに暴行された、と訴える〔*『ヒッポリュトス』(エウリピデス)・『フェードル』(ラシーヌ)は、ともにこの伝説にもとづいた戯曲〕。
『今昔物語集』巻4−4 阿育王の后が継子のクナラ太子に愛欲の心をおこし、ひそかに太子を抱こうとする。太子が逃げ去ったため后は恨み、「太子が我に思いを寄せているゆえ、罰せよ」と王に訴える→〔涙〕1・〔盲目〕1。
『楡の木陰の欲望』(オニール) 七十五歳の農場主イフレイムが、三十五歳のアビーを後妻として連れ帰る。財産目当てで結婚したアビーは、イフレイムの三男、彼女にとっては継子に当たる二十五歳のエビンを誘惑して、身ごもる。老イフレイムは、生まれた子を自分の胤と信じて、農場の相続人にする。
『本朝二十不孝』巻4−3「木陰の袖口」 親不孝の万太郎が、継母から日頃の悪行を注意されたことを逆恨みし、継母に難くせをつけて追い出そうとたくらむ。万太郎は父親に、「継母から言い寄られた」と訴える。次いで継母に「背中に虫が入って痛いので、取って下さい」と頼み、継母が万太郎の袖口から手を入れて探るありさまを、離れた所にいる父親に見せる。父親は「万太郎の言うのは本当だった」と思う〔*→〔見間違い〕4aの『今昔物語集』巻9−20では逆に、継母が継子をおとしいれる〕。
*→〔宝〕3bの『うつほ物語』「忠こそ」。
*→〔物語〕5bの『七賢人物語』。
*継母が、継子にいつわりの恋をしかける→〔子殺し〕3の『摂州合邦辻』「合邦内」。
*継母が、継子への恋なしに迫害する物語もある→〔呪い〕3の『しんとく丸』(説経)。
*継母と継子の性関係→〔父と息子〕1の『源氏物語』・〔百足〕4の『夢の浮橋』(谷崎潤一郎)。
★2b.権力者の妻が、夫の部下など年少の男に恋する物語が、古代の文献にいくつか見られる。これらが、継母の邪恋の物語の古形であろう。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第3章 プロイトスの后ステネボイアがベレロポンテースに恋心を抱き、逢引しようともちかけて拒絶される。ステネボイアは「ベレロポンテースに誘惑された」と夫プロイトスに告げる〔*『イリアス』第6歌の類話では、プロイトスの后の名はアンテイア〕。
『創世記』第39章 ヨセフは、エジプト人ポティファル(ポテパル)の家に召し使われる。ポティファルの妻が「私と一緒に寝なさい」とヨセフを誘うが、彼は逃げる。妻はポティファルに「奴隷のヨセフが私にいたずらをしようとした」と訴え、ポティファルはヨセフを監獄に入れる。
『ドイツ伝説集』(グリム)479「無実の騎士」 オットー三世の帝妃が、ある騎士に懸想するが拒絶される。妃は「騎士に辱められそうになった」と帝に訴え、騎士は首を刎ねられる(同・480「寡婦と孤児の訴えを裁くオットー帝」も類話)。
*→〔兄嫁〕1aに記事。
『あしびき』(御伽草子)巻4 民部卿得業の後妻が、娘婿鬼駿河来鑒に命じて、継子の稚児を殺そうとする。しかし、稚児の思い人である侍従がこれを知って部下の法師らと迎え撃ち、逆に来鑒たちを討つ。
『岩屋の草子』(御伽草子) 継母が腹心の佐藤左衛門に、対の屋の姫君を海に沈めよと命ずる。左衛門は姫を殺すにしのびず、海中の大岩に姫を置きざりにして戻る。姫は海士夫婦に保護され、岩屋に住む→〔二人夫〕7a。
『今昔物語集』巻2−20 継母が少年ハクラを憎み、焼けた鍋の上に置いたり煮えた釜の中に入れたりするが、ハクラは無事だった。継母は怒ってハクラを河へ突き落し、ハクラは大魚に呑まれる→〔魚〕3a。
『今昔物語集』巻19−29 山陰中納言の子が、継母によって海に突き落とされる。しかし、かつて山陰が放生した大亀が現れ、子を甲羅に乗せて救う(『長谷寺験記』下−13に異伝)。
『今昔物語集』巻26−5 陸奥介の後妻が、夫の財産を自分の娘に相続させるために、継子の若君をなきものにしようと考える。継母の意を受けた郎等が、若君を野原に連れ出して生き埋めにする。
『神道集』巻2−7「二所権現の事」 継母が、常在御前を放れ島に捨てたり土牢に入れたりするが、彼女は亡母の霊や妹霊鷲御前に助けられる。継母は、常在御前を旦特山の麓に連れて行き、千本の剣を底に立てた深い穴に突き落す→〔母の霊〕2。
『びゃくしんの話』(グリム)KHM47 継母が継子(男児)に、「箱の中のりんごを出してお食べ」と言う。継子がりんごを取ろうと箱の中へ身をかがめた時、継母はいきおいよく箱の蓋をしめ、継子の首を切断して殺す→〔人肉食〕4a。
*→〔にせもの〕5・〔りんご〕2の『白雪姫』(グリム)KHM53。
*→〔亀〕2。
『今昔物語集』巻30−6 乳母が出入りの女に継子(女児)を渡し、どこかに捨てて犬に喰わせよ、と言う。しかし継子は、長谷観音に子宝を願う夫婦の手に渡り、養育される。
『舜子変』(敦煌変文) 舜は、継母のみならず実の父・瞽叟(こそう)からも命を狙われる。倉の中に入って修理をしている時には火をかけられ、井戸の中に入って泥浚えをしている時には大石を落とされるが、舜は脱出し、歴山にこもって耕作をする→〔開眼〕1。
『捜神記』巻11−16(通巻278話) 継母が真冬に「魚が食べたい」と言うので、王祥は着物を脱ぎ、川の氷を割って魚を探そうとした。すると突然氷が溶け、鯉二匹が飛び出したので、それを持って帰った。
『捜神記』巻11−17(通巻279話) 継母が真冬に鮮魚を要求し、王延を杖で打つ。王延は汾水まで探しに行き、氷を叩いて泣くと、長さ五尺の魚が一匹飛び出す。継母がそれを食べると何日たっても食べきれぬほどあり、以来継母は心を入れ替えて、王延を愛するようになる。
『捜神記』巻11−18(通巻280話) 継母の病気を治すのに鯉が必要だというので、楚僚は十二月に川の氷の上に寝る。すると不思議な子供の助けで氷が溶け、鯉二匹が飛び出す。それを食べた継母は、病気が治り百三十三歳まで生きた。
『松山鏡』(昔話) 越後国の松山には、鏡がなかった。父が都で鏡を買って来て、母に与える。何年か後、病いを得た母は、鏡を形見として娘に与え、「これを見れば私に逢える」と言い遺す。娘は自室で鏡を見て、そこに映る自分の顔を亡母と思って懐かしむ。継母が「娘が部屋にこもって私を呪っている」と誤解し、父に訴える。父は娘に「鏡に映ったのは汝自身の顔」と教え、継母は自分の邪推を詫びて、継母と娘は和解する。
*『松山鏡』には、夫婦喧嘩の笑い話もある→〔鏡〕1c。
『木幡の時雨』 故奈良兵部卿右衛門督の北の方は、夫との間にもうけた一男三女のうち、中の君の乳母が夫と関係があったために、中の君を嫌う。北の方は、中の君と恋人中納言との仲を裂き、彼女を石山へ追いやる。
『黒い雨』(井伏鱒二)10 広島に原爆が投下された時、閑間(しずま)重松の家では爆風が北から南へ抜けた。庭木も家も、室内の建具も、南または南西に傾いたが、御先祖様と神札を納めた布袋だけは、南から北北西へ向け、室内を約八メートル、室外を約五メートル飛んで泉水に入り、水面に浮いていた。
『三枚のお札』(昔話) 山へ行く小僧に、和尚が三枚のお札を持たせる。小僧は山姥に捕らえられるが、「雪隠へ入る」と言って抜け出す。山姥が「まだか」と問うと、お札が小僧の代わりに返事をする。やがて山姥は小僧が逃げたことを知り、追いかける。小僧は逃げながら、残る二枚のお札を後ろに投げ、山や川を作って山姥の進路を妨げる。
『ボク東綺譚』(永井荷風)1 ある夜、「わたくし」(老作家大江匡)が古本屋で雑誌を買っていると、六十歳余の男が入って来て、「バスと円タクが衝突したが、御守りが割れたおかげで無事だった」と語った。
『旅愁』(横光利一) 矢代耕一郎の父は、明治・大正期のトンネル建設の技術者だった。宇治川の水電工事に従事した時、土砂崩れで大勢が生埋めになったが、父の足もとまで来て崩れは止まり、その代わりに成田のお札が真二つに割れていた。
*銃弾が、胸ポケットの硬貨に当たったおかげで、命拾いした→〔銃〕7b・7c。
『雨月物語』巻之3「吉備津の釜」 妻磯良の死霊に襲われた正太郎に、陰陽師が「この霊は七日前に死んだものゆえ、あと四十二日、物忌みせよ」と教える。正太郎は、朱文字を記した護符を門や窓に貼り、一室にこもる。夜になると、磯良の死霊が来て家を巡り、屋根の上で怒り叫ぶが、中へは入れぬまま、四十二日が過ぎる→〔時間〕3。
『諸国百物語』第47話 墓所の土饅頭から、鍛冶屋の女房の幽霊が現れて、男に訴える。「私は隣家の女に毒を盛られて殺された。隣家の女は、我が夫の後妻になった。恨みを晴らしたいが、二月堂の牛王(ごおう)の札が門に貼ってあるので、家へ入れない。お札をはがしてもらいたい」。男は鍛冶屋の家へ行き、お札をはがす。女房の幽霊は鍛冶屋夫婦の首を取り、礼として小判十枚を男に与える。男はその金で、幽霊の供養をする。
*幽霊が人間に百両与え、お札はがしを依頼する→〔霊〕5の『怪談牡丹灯籠』(三遊亭円朝)。
『女神のお守り』(アイヌの昔話) 嫁入りが近づくと、神の娘もアイヌの娘も、貞操を守る紐ラウンクッを編む。このお守り紐は素肌に巻きつけ、夫以外の男に見せたりさわらせたりすると、その女は一生不幸になる。人目にふれない所で、色糸を用いずに編むならわしだったが、下の天を司る神の娘が、上の天を守る神の息子に嫁入る時、禁制を破って、七色の糸でラウンクッを編んだ→〔口〕6a。
『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』第5話 免罪符売りが村人たちに免罪符を頒布しようとすると、警吏が「その免罪符は偽物だ」と非難する。免罪符売りは「あの警吏に天罰を与え給え」と神に祈り、警吏は泡をふいて倒れる。実は、免罪符売りと警吏は仲間どうしであった。免罪符を頭の上に置かれて警吏は回復し、これを芝居とは知らぬ善男善女は、こぞって免罪符を買い求めた。
『黄金の腕』(プレミンジャー) フランキーはカード配りの名手で、「黄金の腕」と呼ばれている。彼は賭博生活から足を洗って、ジャズ・ドラマーになりたいと思う。しかし麻薬中毒のため、オーディションで手が震え、チャンスを失う。酒場女モリーがフランキーを立ち直らせようと、一緒にアパートの部屋にこもり、彼を麻薬から遠ざける。フランキーは禁断症状の苦しみに耐えぬき、ようやく麻薬から解放される。
『斜陽』(太宰治) 貴族の家に生まれた直治は、高等学校に入ってはじめて、自分と異なる階級に育った強くたくましい友人と付き合い、彼らに負けまいとして、麻薬に手をそめる。直治の麻薬中毒は、姉である「私(かず子)」の離婚の原因の一つになる。日本は米英との戦争に負けて、貴族の特権はすべて失われる。最後の本物の貴婦人だった母も、病死する。直治には、新しい時代に自らの生を切り拓く力はない。直治は「私」あてに遺書を残して自殺する。
『四つの署名』(ドイル) ホームズにとって人生の意義とは、考えることだった。それゆえ、頭を存分に働かせる難事件がない時には、彼はコカインの皮下注射をして精神を昂揚させた。日に三度ずつ注射をすることが数ヵ月も続いたので、医師であるワトソンは「健康を損なうから」と言って、ホームズの悪習をやめさせようと忠告する〔*そこへメアリ・モースタンが、事件の依頼に訪れる→〔結婚〕1c〕。
『阿片常用者の告白』(ド・クインシー) 「私」は十九歳の時、激しい頭痛がきっかけで、阿片を用いるようになった。苦痛は消え、「私」は圧倒的な幸福感に満たされた。しかしやがて中毒症状が現れ、阿片摂取量が増えて、「私」は幻覚を見るようになった。建物や風景が、肉眼では知覚できないほど巨大になった。一夜にして百年も生きたような気がし、一千年が過ぎ去ったようにも感じられた。このままでは死に至ると思った「私」は、強い意志をもって摂取量を減らして行き、阿片との十七年に渡る共同生活を終わらせた。
『アイズ ワイド シャット』(キューブリック) 高級娼婦マンディーは、ある夜のパーティで、ヘロインとコカインを過剰摂取して倒れる。居合わせた医師ビルが彼女を診察し、「こんなことを続けたら死ぬよ」と警告する。回復したマンディーは真夜中過ぎに、郊外の館で開かれる秘密の仮装パーティに出かける。彼女とは別に、ビルもその仮装パーティに行く。翌日、マンディーは薬物中毒死する。ビルが、彼女の死の原因になったかもしれなかった→〔宴席〕5。
『セーラー服と機関銃』(相米慎二) 女子高校生の星泉は、組員わずか四名のヤクザ「目高組」の四代目組長を襲名する。それと同時に目高組は、密輸ヘロインを巡るヤクザたちの争いに巻き込まれ、組員二人が殺される。ヘロインは十本ほどのローションの瓶に詰められ、最終的に、大親分である浜口物産社長の手に入る。泉は、生き残った組員二人を連れ、浜口物産の社長室に乗り込む。泉は機関銃を乱射してローションの瓶をすべて撃ち砕き、「か・い・か・ん」とつぶやく。
『フレンチ・コネクション』(フリードキン) 国際麻薬シンジケートのシャルニエは、タレントのアンリを利用し、彼のリンカーン車の中に大量のヘロインを隠す。アンリは何も知らず、マルセイユからニューヨークへ車を運ぶ。ニューヨーク市警のドイル刑事が車を押収し、解体してヘロインを見つける。警察は車をもとどおりにしてアンリに返し、アンリは車をシャルニエに渡す。密輸団が、倉庫に集まって取引をする。ヘロインと引き換えに、シャルニエは五十万ドルを得る。警官隊が周囲を包囲し、銃撃戦になる。シャルニエは逃亡する。
『暗くなるまで待って』(ヤング) 麻薬の包みを人形の中に縫いこみ、女がその人形を持って、飛行機でカナダからアメリカへ渡る。しかし空港で何者かにねらわれていることを察知し、女は、飛行機に乗り合わせた写真家サムに人形を預け、「後日取りに行くから」と言って別れる。サムは人形の中身が麻薬とは知らず、人形を自宅へ持ち帰って盲目の妻スージーに渡す→〔闇〕4。
麻薬ベビー(ブレードニヒ『ヨーロッパの現代伝説 ジャンボジェットのねずみ』) コロンビアからフランクフルトへ向かう飛行機の乗客中に、不思議な赤ん坊がいた。両親の間におとなしく座り、まったく泣かず、何も食べず、動かない。機内からの連絡で、着陸後に捜査官が調べると、赤ん坊は死んでいた。内蔵が取り去られ、代わりにコカインがぎっしり詰まっていた。
『狼の眉毛』(昔話) 狼はすべての人間を食うわけではない。眉毛を通して人間を見、本当の人間か、人間の形をした畜生かを区別し、後者だけを食うのである。狼から眉毛を一本もらった男が、ある家に宿を請う。ところがその家の婆に断られたので、男は狼の眉毛を眼に当てて見る。婆は牛に見えた(奈良県吉野郡大塔村)。〔*類話である『百物語』(杉浦日向子)其ノ61では、男が狼の眉毛をかざして見ると、往来の人々は化け物ばかりだった。鶏の化け物がやって来るが、それは男の妻だった〕。
『太平広記』巻460所引『逸史』 男が、鶴から「世間には本当の人間は稀だ。お前も人間ではない」と教えられ、睫毛を一本もらう。男がそれを眼にかざして自分を見ると、馬の頭をしていた。洛陽の人々も、みな犬や豚や驢馬などであった。
*人間が動物に見える→〔人間〕5の『モロー博士の島』(ウェルズ,H・G・)
★2.眉毛に唾をつけるのは、狐に化かされないためのまじないである。
『狐塚』(狂言) 主の命令で太郎冠者が、夜、田を荒らす鳥獣を追う。後から次郎冠者が、太郎冠者をねぎらうため酒を持って行く。しかし太郎冠者は、これを狐塚の狐が化けたものと思い、だまされないように自分の眉毛を唾で濡らす。彼は次郎冠者を縛り、さらに、様子を見に来た主までをも、狐と思って縛り上げる。
『名人』(川端康成) 第二十一世本因坊秀哉名人は、左の眉に特別長い眉毛が一本あった。名人は、なじみの床屋に「この長い眉毛は長命の相だから、切らんで下さいよ」と言い、床屋も「大事にいたしましょう」と答えた。しかし、それからわずか六日後の昭和十五年一月十八日に、名人は六十七歳で病死した。
『蒙求』569「馬良白眉」 蜀の馬氏に五人兄弟があり、皆才能豊かだったが、中でも馬良が優れていた。彼は眉に白毛があったので、「五人兄弟のうち、白眉最も良し」と言われた。劉備が皇帝になった時、馬良は侍中(=侍従)に任ぜられた。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第8章 神々は、海岸に巨人族の住む土地を与えつつ、巨人族の攻撃に備えて、大地の内部に砦を作った。砦には巨人ユミルの睫毛が使われ、ミズガルズと呼ばれた。
*スサノヲノミコトが眉の毛を抜いて散らすと、それらは樟になった→〔木〕1bの『日本書紀』巻1神代上・第8段一書第5。
『名人伝』(中島敦) 弓の名手・紀昌は妻と喧嘩をした時、威(おど)そうと思い、弓に矢をつがえて妻の目を射た。矢は妻の睫毛三本を射切って彼方へ飛び去った。妻は何も気づかず、まばたきもしないで紀昌を罵り続けた。
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