『エプタメロン』(ナヴァール)第3日第10話 十四〜五歳の息子が、小間使いの部屋へ夜這いをする。母親が息子を懲らしめようと、小間使いと入れ替わってベッドで待っていたが、情欲に負けて息子と交わってしまう。息子は母親と交わったとは気づかぬまま、遠方へ旅立つ。母親は、ひそかに女児を産む。年月がたち、息子と、美しく成長したその女児とは、お互いの素性を知らずに結婚し、仲むつまじい夫婦になった。彼は、彼女の父であり兄であり夫である。彼女は、彼の娘であり妹であり妻である。
*夜這いする男を懲らしめようとして、その男と交わってしまうところは、→〔密通〕6の『好色五人女』巻3「中段に見る暦屋物語」と同様である。
★2a.奇妙な家族関係・複雑な系図が近親婚の結果であることを、賢者が察知する。
『塵塚物語』巻6 源義経が吉野地方を通った時、十歳余りの子が三〜四歳の子を負い、お互い「伯父」「伯父」と呼び合っているのを聞いた。義経はただちに彼らの関係を悟り、「不義の者どもよ」と言った。夫婦の間に男女二人の子があり、男子が母と、女子が父と交わってそれぞれ誕生した男児二人が、互いを「伯父」と呼んでいたのであった〔*類話が『本朝桜陰比事』巻1−3にある〕。
『日本書紀』巻15仁賢天皇6年是秋 飽田女は、高麗へ船出した夫アラキをしのび、「母にとっても兄弟、私にとっても兄弟、我が夫よ」と言って泣く。菱城邑の人鹿父(カソ)がそのわけを察知し、「アラキの母フナメは、ヤマキとの間にアラキを、ハタケとの間にナクメを産み、そのナクメがヤマキとの間に飽田女を産んだ。飽田女から見れば、夫アラキは母ナクメの異父兄弟であるとともに自分の異母兄弟でもある」と、友人に説明した。
『ペリクリーズ』(シェイクスピア)第1幕 アンティオケの王女に求婚する男たちには、「私が得た男は、父で息子で夫である。私は母で娘で妻である。いかにしてこの六人が二人であり得るか?」という謎が与えられた。多くの男たちが謎を解けずに命を失ったが、ツロの領主ペリクリーズは、ただちに王女と父王との近親相姦を察知し、求婚を取りやめて去った。
★2b.前世から現世にまたがる系図。前世の母子が現世で夫婦になる。
『日本霊異記』中−41 男(=夫)と女(=妻)が、墓に供養をしていた。墓に祀られているのは、男の亡父と亡母であった。この時、仏が墓の傍を通りかかって、女が亡母の生まれ変わりであることを悟り、弟子の阿難に説明した。「この女は前世で一人の男児を産み、深く愛した。三年後に女は病を得て死んだが、『生々世々、男児と夫婦でいたい』と願い、隣家の娘として再誕した。女は現世で男児の妻となり、今にいたっている」。
*前世では人間の夫婦、現世では犬の母子→〔一妻多夫〕1cの『沙石集』巻9−10。
★2c.息子が、「転生した父」の母と関係を持つ。これは、孫と祖母が夫婦関係を結んだ、と見ることができる。
『浜松中納言物語』巻1 中納言の父・式部卿宮は、死後、転生して唐帝の第三皇子に生まれた。中納言は渡唐し、第三皇子の母・河陽県の后と関係を持つ。中納言にとって河陽県の后は、「転生した父」の母だから、祖母となる。中納言は、祖母と夫婦関係を結んだことになる。河陽県の后から見れば、自分が産んだ皇子の「前世での息子」すなわち孫と、夫婦関係になったわけである。
*女が長期間冷凍睡眠し、孫にあたる男と夫婦になる→〔母子婚〕4の『火の鳥』(手塚治虫)「望郷編」。
『妙な夢』(志賀直哉) 「私(志賀直哉)」の家内が、夢の中では私の母になっていた。夢の中の母は、病臥していた。「母はかわいそうだ。父のために命をすり減らしている。父と別居するのが良さそうだ」と、「私」は考えているうちに、眼が覚めた。「夢の中の父」は、「夢の中の母」=「私の家内」の夫だから、「私」である。昨日の夕方、「私」は家内に対して意地の悪いことを考えた(*→〔転生〕7b)。そのため「私」は夢の中で、父=「私」自身を非難していたのだ。
『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ)第24話 貴族のチャンダシンハは王女ラーヴァニヤヴァティーと結婚し、チャンダシンハの息子シンハパラークラマはラーヴァニヤヴァティーの母チャンドラヴァティーと結婚する。その結果、娘が姑になり母が嫁になった。やがて、二組の夫婦の間に息子たちと娘たちが生まれた。「こうして生まれた子供たちの相互の関係はどうであるか」と、屍鬼がトリヴィクラマセーナ王に問う。しかし王には答えがわからなかった。
『新生』(島崎藤村)第1巻110 節子は叔父の岸本捨吉と関係を持ち、生まれた男児は養子に出した。産後、病気がちで家事のできぬ節子を、母親は「お婆さん」と呼んだ。さらに母親は、節子の幼い弟たちの前で「『お婆さん』ではかわいそうだ。『叔母さん』がいい。この人は姉さんじゃなくて、岸本の叔母さんだよ」とも言った。まさしく節子は、叔父の妻ゆえ、弟たちにとっては叔母になるのだった。
*父でもあり叔父でもある人→〔兄妹婚〕2fの『無常』(実相寺昭雄)。
★5.少年が自家の系図を見て、祖先の名をはずかしめぬよう発奮し、努力する。
『ああ玉杯に花うけて』(佐藤紅緑) 青木千三は貧しさゆえ中学校へ進学できず、豆腐屋になった。しかし彼は、黙々先生の夜間私塾で勉学を続ける。ある日、黙々先生が、千三の先祖の系図を書いて見せてくれた。遠祖は村上天皇の皇子・中務卿具平親王で、右大臣師房、北畠親房などを経て、やがて青木姓に改め、今の千三に至る、という系図だった。千三はこれを見て大いに発奮し、検定試験を経て第一高等学校に合格する。そして小学校以来の親友・柳光一と、「ああ玉杯に花うけて」の寮歌を歌うのだった。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第49章 神々がバルドルを危険から守るために、火・水・鉄およびあらゆる金属・石・大地・樹・病気・獣・鳥・毒・蛇に、バルドルに指一本触れぬことを誓わせた。しかし宿り木にだけは、若すぎるとの理由で誓いを要求しなかった。それを知ったロキが盲目のヘズをそそのかし、宿り木でバルドルを射させて殺した。
『黒衣聖母』(芥川龍之介) 七十歳過ぎの祖母が、お栄・茂作姉弟を育てる。茂作が八歳の時重病になり、家が絶えるのを恐れた祖母は、黒檀の麻利耶観音に、「せめて我が存命中は茂作を助けよ。そのうちには、お栄も婿取り可能な年頃になるから」と願い、観音は微笑する。ところが翌日、祖母は急死し、それから十分後に茂作も死ぬ。観音は約束どおり、祖母の存命中は茂作を殺さずにおいたのだった。
『バーガヴァタ・プラーナ』 魔王ヒラニヤカシプは梵天に祈願して、人間にも獣にも神々にも魔類にも殺されない身体となった。ヴイシュヌ神が、頭が獅子で身体が人間という、獣でも人でもない姿をとってヒラニヤカシプを殺した。
*→〔長寿〕2bの『変身物語』(オヴィディウス)巻14・〔転生〕9aの『ラーマーヤナ』第1巻「少年の巻」・〔難題〕8の『マハーバーラタ』第5巻「挙兵の巻」。
★2.金銀・財産などの獲得、あるいは賭けなどに関わる契約と、その盲点。
『ヴェニスの商人』(シェイクスピア)第4幕 ヴェニスの商人アントーニオは親友バッサーニオのために、ユダヤ人シャイロックから三千ダカットを借り、「期日までに返せなければ胸の肉一ポンドを切り取って与える」との契約をかわす。バッサーニオの婚約者ポーシャが法学博士に扮し、「契約書には肉一ポンドとだけ書いてあるので、血は一滴たりとも流してはならぬ」と宣告する。
『寓話』(ラ・フォンテーヌ)第1集「フリギアの人イソップの生涯」 哲学者クサントゥスが酔って「海を飲み干してみせる。家を賭けてもよい」と豪語する。酔いが醒めてクサントゥスは後悔するが、奴隷イソップの入れ知恵で「海に注ぐ川まで飲むとは言わなかった。川の流れを変えてくれたら、約束通り海を飲もう」と人々に言って、その場を切り抜ける。
★3.いったん契約どおりにした後、その契約を無化するようなことをする。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第12章 アポロンは、カサンドラに予言の術を教える約束をする。しかしカサンドラがアポロンの求愛を拒絶したため、アポロンは怒り、約束を取り消すことはできないので、かわりにカサンドラの予言が誰からも信じられないようにした。
『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「ホスピタル」 ピアニストの少年の腕が肉腫におかされ、王仁川病院長が腕の切断を宣告する。少年は腕を失うことを深く悲しむ。ブラック・ジャックが辰巳主治医を補佐し、「腕を切断せよ」との院長の命令には逆らえないので、いったん少年の腕を切り離し、患部を手術した後に、ふたたびもとどおりつなぐ。
『歴史』(ヘロドトス)巻4−154 エテアルコス王は、商人テミソンに「どんな頼みごとでも聞く」との誓いを立てさせてから、「私の娘を海へ沈めてくれ」と頼む。誓いを破ることはできないので、テミソンは娘を海に沈めるが、すぐまた引き上げる。
*結婚式は神の前で結ぶ契約であり、原則として取り消せない→〔結婚〕6。
★1a.死者の国を訪れた後には、水でけがれを洗い落とさねばならない。
『古事記』上巻 黄泉の国から帰って来たイザナキは、「まことに不快な汚い国であった」と言って、筑紫の日向(ひむか)の橘の小門(おど)の阿波岐原に行き、禊(みそぎ)をした。イザナキは水に入ってけがれを洗い落とし、その過程で多くの神々が生まれ出た〔*『日本書紀』巻1・第5段一書第6および第10に類話〕。
『神曲』(ダンテ)「煉獄篇」第1歌 「私(ダンテ)」は、詩人ヴェルギリウスの霊に導かれて地獄を巡った後、地上へ出て、煉獄の山への入口である島まで来た。夜明け頃だったのでヴェルギリウスは、岸辺の藺草の上におりた夜露で「私」の顔をぬぐい、地獄のけがれを洗い落としてくれた。
『唐物語』17 尭(ぎょう)という帝が許由(きょゆう)に位を譲ろうと思い、彼を三度召した。許由は「穢いことを聞いた」と言って、穎水(えいすい)という川で耳を洗った。巣父(そうほ)は牛を追いつつ穎水まで来たが、「穢いことを聞いて耳を洗った流れなどに、けがされてたまるものか」と言い、遠回りして穎水を避けた。
★1c.「罪」も、けがれと同様に、水で浄化されると考えられていた。
『祝詞』「六月の晦の大祓(みなづきのつごもりのおほはらへ)」 この世の人々が犯したさまざまな罪は、速川の瀬にいるセオリツヒメという神が大海原に運んで行く。それを、潮流の集まる所にいるハヤアキツヒメという神が呑み込み、気吹戸(いぶきど)にいるイブキドヌシという神が、根の国・底の国に吹き放つ。そして根の国・底の国にいるハヤサスラヒメという神が、罪を持ってさすらい、棄てて失(な)くしてしまうのである。
『海士(あま)』(能) 讃州志度の浦の海士(=海女)が、海底の龍宮に奪われた面向不背の玉を、取り戻して逃げる。龍たちが追って来るので、海士は剣で自らの乳房の下を切って玉を押し入れ、倒れ伏す。龍宮では死人を忌むゆえ、龍たちは近づくことができない。船上の夫・藤原淡海大臣が、瀕死の海士を綱で引き上げ、玉を得る。
*『南総里見八犬伝』の、伏姫が腹をかき切り、数珠玉が虚空に浮かぶ物語の原形か?→〔性交〕4。
*『茶の本』(岡倉天心)第5章「芸術鑑賞」には、武士が腹を切って体内に絵を押し込む物語がある→〔腹〕2c。
『今昔物語集』巻29−17 摂津国の小屋寺にやって来た老法師が、鐘撞き堂の下で死んだふりをして横たわる。僧たちが、死のけがれにふれることを恐れて遠ざかっていると、老法師の子と称する男たちがあらわれ、死骸を運び去り葬るように見せかけて、寺の鐘を盗んでいく〔*『十訓抄』第7−23に類話〕。
『十訓抄』第1−33 北山で花見をする人々が、ある御堂に入ろうとしたのを、源俊賢が止めて「けがれがあるかもしれぬ」と言い、下人に見に行かせた。すると中門の廊の前に車があり、死人が乗っていた。「御堂に入ったら、けがれにふれただろう」と俊賢は自讃した。
*死のけがれなど、まったく恐れぬならず者たち→〔葬儀〕4の『通夜』(つげ義春)・〔踊り〕4の『らくだ』(落語)。
『平家物語』巻12「大地震」 後白河法皇が東山の新熊野(いまぐまの)神社へ御幸された時、大地震が起こった。多くの人が死に、けがれに触れたため、法皇は身を慎み神事を遠慮して、六波羅殿(*史実では六条殿)へ還御なさった。
『続古事談』巻4−3 陪従(べいじゅう。=楽人)知定は、産のけがれに触れて二十余日後に岩清水八幡宮の神楽を勤めたが、無事にすんだ。それで続けて臨時祭に参上したところ、舞殿で鼻血が出たので、恐れて退出した。知定の十歳ほどの娘に神の使いが乗り移り、「産婦を抱いて寝たからだ。産後三十三日は慎まねばならぬ」と教えた。
『御堂関白記』(藤原道長) 長谷寺参詣のために、数日来、潔斎を続けていた。しかし邸内に、犬の出産によるけがれが発生したので、潔斎を中止し参詣も取りやめた(長保元年(999)八月二十七日)。犬の出産があって、邸内にけがれが発生したので、そのことを知らせる札を門前に立てた(長保二年(1000)正月十三日)。
『こころ』(夏目漱石) 日清戦争が終わった頃。大学生であった「先生」は、戦争未亡人の家に下宿する。その家の一人娘であるお嬢さんに、「先生」は恋心を抱く。「先生」は、親友Kが経済的に困窮しているのを見かね、自室の隣にKを住まわせる。ところが、Kもお嬢さんに恋をしてしまったので、「先生」はKを出し抜いて、いそいでお嬢さんと婚約する。Kは、「先生」とお嬢さんの婚約を知らされてから三日ほど後に自殺する。
『破戒』(島崎藤村) 瀬川丑松は蓮華寺に下宿していた。蓮華寺には、養女の志保という娘がいた。丑松と志保は互いを思慕するが、二人とも思いを相手に伝えることはなかった。しかし、丑松が自らの素性を告白して町を去らねばならなくなった時(*→〔出生〕1a)、志保は「丑松と将来をともにしたい」との意志を明らかにした。
『氷点』(三浦綾子)「ねむり」 太平洋戦争末期。北大理学部の学生・中川光夫は、下宿先の人妻・三井恵子と恋愛関係になる。終戦を迎え、恵子の夫(=三井弥吉)が復員する直前に、恵子は中川光夫の子を身ごもる。ところが出産の半月前に、中川光夫は心臓麻痺で急死してしまう。恵子は女児を産み、女児は医師辻口家の養女となって、「陽子」と名づけられる。
★1b.青年が、親類・縁者の家に寄宿し、その家の娘に恋をする。
『浮雲』(二葉亭四迷) 内海文三は叔父の家に寄宿し、苦学して下級官吏となる。二十三歳の文三は従妹のお勢と恋仲になり、叔母お政も二人を結婚させる心積もりである。しかし役所の人員整理で文三が免職されるやいなや、お政は態度を一変させて文三に辛く当たり、お勢は、文三の同僚で世渡り上手な本田昇に心を移す。
『金色夜叉』(尾崎紅葉) 間貫一は幼くして母を、十五歳にして父を失った。かつて貫一の父から恩を受けた鴫沢隆三が、貫一を引き取り、世話をして、十年が過ぎる。貫一は鴫沢家の一人娘お宮と許婚(いいなずけ)になるが、お宮は貫一を捨て、金満家・富山唯継と結婚する。
*大学生の勉は秋山家に寄宿するが、秋山の妻・道子と勉は、従姉弟どうしの関係であった→〔地名〕5の『武蔵野夫人』(大岡昇平)。
『悪魔』『続悪魔』(谷崎潤一郎) 大学生の佐伯は、叔母とその娘照子の住む家に寄宿する。神経衰弱気味の佐伯は、肉感的な照子の存在に心乱れる。一方、住み込みの書生・鈴木は、「自分が照子の許婚だ」と思っており、佐伯が照子に近づかぬよう、けん制する。しかし佐伯は照子に誘惑されて、関係を持ってしまう。鈴木は、「復讐する」との書き置きを残して姿を消す。翌晩、庭先に忍び込んだ鈴木によって、佐伯は刃物で喉をえぐられ、殺される。
★1d.寄宿・下宿先の娘と性関係を持った後に、棄ててしまう。
『灰燼』(森鴎外) 山口節蔵は、父と古い縁故のある谷田家に書生として寄宿する。節蔵は、谷田家の一人娘お種と性関係を持ち、妊娠させておいて、棄ててしまう。谷田家では、ただちにお種に婿養子を取る。月足らずで女児が生まれるが、それは節蔵の子である〔*『灰燼』は未完の小説である。冒頭部分、書生時代から八〜九年を経て、節蔵が谷田家の主人の葬儀に参列し、お種が怒りの目で節蔵を見た、とあることなどから、以上のような関係が想定できる〕。
『正直者』(国木田独歩) 「私(澤村)」は十九歳で小学校教師となり、下宿先の娘おしんに恋されて、関係を持った。「私」は結婚する気はなかったので、校長から知恵を借りて、おしんの母親に告げる。「下宿屋にいて下宿の娘と結婚するのは、外聞が悪い。いったん私は校長の家へ移り、一ヵ月後に、校長から結婚の申し込みをします」。約束の一ヵ月後、校長はおしんの母親を訪れ、「澤村は結婚するには、まだ若い。当分勉強させたい」と、言葉巧みに破談にした。
★2.近世の、商家に住みこみで働く男が主人の妹や娘と恋仲になる物語が、下宿の恋の原型であろう。
『おせつ徳三郎』(落語) 大店の一人娘おせつと奉公人徳三郎が、人目をしのぶ仲となる。主人がこれを知って、徳三郎に暇を出し、おせつに婿を取る。おせつと徳三郎は心中しようと、「南無妙法蓮華経」とお題目を唱え、深川の木場の橋から飛びこむ。しかし下は筏で二人は死なず、「お材木(お題目)で助かった」と言う〔*落ちは→〔三題噺〕1の『鰍沢』と同じ〕。
『好色五人女』巻1「姿姫路清十郎物語」 但馬屋の手代・清十郎は、主人の妹お夏と恋仲になり駆落ちする。しかし捕えられ、清十郎は小判紛失の濡れ衣を着せられて、処刑される。お夏は清十郎の刑死を知って乱心し、「向かい通るは清十郎じゃないか。笠がよく似た、すげ笠が」と歌ってけらけら笑い、さまよい歩いた。
『春琴抄』(谷崎潤一郎) 大阪道修町の薬種商・鵙屋の娘春琴は、天保八年(1837)、九歳の時に失明した。その年丁稚として奉公に上がった十三歳の佐助が、春琴の身の回りの世話をし、後には、春琴を師匠として琴・三味線を習得した。二人の間には子供もできたが、春琴は佐助との仲を否定し、子供は里子に出した。
『新版歌祭文』 油屋の一人娘お染は、丁稚・久松と関係を結ぶ。お染は久松の子を宿して、すでに五ヵ月になる。お染は山家屋へ嫁入りせねばならず、婚礼の日が迫って来るので、大晦日の夜にお染と久松は心中する。
*→〔妻殺し〕1の『お艶殺し』(谷崎潤一郎)。
『家族の肖像』(ヴィスコンティ) 初老の教授が広いアパルトマンに、家政婦を置いて住んでいる。実業家夫人ビアンカがアパルトマンの二階部分を借り、左翼の活動家青年コンラッド、夫人の娘リエッタ、その恋人ステーファノが、出入りする。彼らは勝手に二階を改装する。コンラッドは夫人の愛人でありながら、娘リエッタとも関係を持つ。教授は彼らを嫌いつつ、いつしか彼らに「家族」を感じる。しかし夫人とコンラッドは口論して別れ、皆、教授のもとを去る。何日か後、コンラッドは二階へ戻って来て爆死する。リエッタが「自殺じゃなくて殺されたのよ」と言う。以後、教授は病床に臥す。
『冬の宿』(阿部知二) 大学卒業間近の「私」は、郊外の素人下宿で一冬を過ごした。主人の霧島嘉門は欲望のままに行動する男で、酒を飲み、娼婦を買い、賭け事をし、暴力をふるって、勤務先を馘首される。彼の妻まつ子は敬虔なクリスチャンで、夫を憎みつつも別れようとはしない。「私」は嘉門と気が合い、一緒に酒を飲んだりするが、嘉門が、まつ子と「私」の間を疑ったことがきっかけで、「私」は下宿を出る。嘉門の浪費のために一家の生活は破綻する。彼らの子供二人は親戚に引き取られ、嘉門とまつ子は貧民窟へ引っ越す。
『下宿人』(ヒッチコック) 謎の殺人鬼による金髪美女連続殺人事件が、世間を騒がせている頃。老夫婦の営む下宿屋に、一人の青年が下宿する。青年は、下宿屋の一人娘デイジーと仲良くなるが、深夜の外出など不審な行動が多いので、殺人鬼と見なされ逮捕される。実は青年の妹も殺人鬼に殺されたのであり、青年は妹の仇を討つために、殺人鬼を追っていたのだった。真犯人がつかまって青年の疑いは晴れ、青年とデイジーは、めでたく結ばれる。
『金色夜叉』(尾崎紅葉)前編 鴫沢宮は明治音楽院に通っていた十七歳の時、ドイツ人教授から求愛され、院長からも「我が後妻に」と望まれる。それ以来宮は、「自分の美貌は、少なくとも奏任官以上の富貴な夫を持つに値する」と信ずるようになり、将来の学士たる間貫一を捨て、銀行の跡取りで三百円の金剛石の指輪をする富山唯継に嫁す。
『ボヴァリー夫人』(フロベール) シャルル・ボヴァリーの父は旧軍医補で、自らの美貌を利用して、六万フランの持参金つきの、メリヤス雑貨商の娘と結婚した。シャルル・ボヴァリー自身もまた、医者になり、千二百フランの年収がある四十五歳の未亡人と結婚した。しかし、不器量な年上女房の尻にしかれる生活に、シャルルはうんざりする。彼は往診先の農場主の娘エンマに恋し、妻が病死したのを幸いに、エンマと結婚する。
『女相続人』(ワイラー) 定職を持たぬ美貌の青年モリスが、財産家の医師の一人娘キャサリンに求婚する。それが財産目当てであることを父の医師は見抜き、結婚を許さない。キャサリンはモリスに夢中で、駆け落ちを決意するが、モリスは、それでは財産を得ることができないので、去って行く。やがて父が病死し、キャサリンは遺産を相続する。モリスが再び現れ、「君を無一文にしたくなかったので、駆け落ちしなかった」と釈明し、「今も愛している」と言う。しかしもはやキャサリンの心は、冷たく閉ざされていた〔*『ワシントン広場』(ヘンリー・ジェイムズ)の映画化〕。
『四つの署名』(ドイル) ホームズの所へ事件の依頼に訪れたメアリ・モースタンに、ワトソンは心ひかれるが、メアリは莫大なインドの財宝を受け継ぐ身であるゆえ、ワトソンは財産目当ての卑しい男と思われることを恐れて、求愛できない。しかし悪人スモールが財宝をすべてテームズ河に沈めたため、メアリとワトソンの間の障壁は取り除かれ、二人は結婚する。
*→〔未亡人〕7の『トレント最後の事件』(ベントリー)、『メリー・ウィドウ』(レハール)。
『百万長者と結婚する方法』(ネグレスコ) ニューヨークの美女三人が、大金持ちと結婚しようと策を練る。しかし一人は森林警備の青年を、一人は税金問題で逃亡中の男を、好きになって結婚する。残る一人は初老の富豪との結婚が決まるが、これは愛のない結婚であると気づき、結局彼女は、修理工のトムと結婚する。ところがトムは修理工ではなく、実は億万長者であり、それを知った三人の女は、その場で卒倒する。
★1e.相手が財産家だと思って結婚したら、そうではなかった。
『醜女(しこめ)の深情』(セネット) 億万長者が死に、姪にあたる肥って醜い田舎娘が、莫大な遺産を受け継ぐことになる。それを知った都会の悪党が、美しい情婦と手を切って、田舎娘に結婚を申し込む。ところが億万長者の死は誤報で、田舎娘は財産を得られなかった。すると悪党はあっさり田舎娘を足蹴にする。情婦は田舎娘を気の毒に思い、二人は「あの男は私たちの共通の敵なのよ」と言って抱き合う〔*二十代のチャップリンが、悪党を演じている〕。
★2a.結婚の障害。敵対する二つの家族(あるいは二つの集団)に属する男と女。
『ウエスト・サイド物語』(ワイズ) ニューヨークのウエスト・サイド地区では二つの不良グループ、ジェット団とシャーク団が対立していた。かつてジェット団にいたトニーは、ダンス大会でマリアと出会い、二人は恋に落ちる。しかしマリアは、敵対するシャーク団のリーダー、ベルナルドの妹だった。マリアを巡って両グループは決闘し、トニーもベルナルドも死ぬ。
『源氏物語』「花宴」 光源氏が二十歳の春。南殿での桜の宴の夜、「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさんで歩み来る女と、源氏は一夜の契りを交わす。源氏は相手の名も知らぬまま、互いの扇を交換して別れる。ところが彼女は、源氏に敵対する右大臣家の六の君だった。そのため、数年後、源氏は自らに大きな災いを招く。
『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア) ヴェローナの街の名門、モンタギュー家とキャピュレット家は、長年不和だった。モンタギュー家のロミオはキャピュレット家の舞踏会に仮面をつけて乗り込み、ジュリエットと出会うが、敵対する両家の一人息子と一人娘では、結婚は許されるはずもない。しかも、ジュリエットにはすでに求婚者がいた。ロミオとジュリエットは駆け落ちを試みるものの、手違いとロミオの早合点とによって、結局二人とも自死する。
『旅愁』(横光利一) 第二次大戦前夜。西洋文化実見のため渡欧した矢代耕一郎は、カソリック教徒・宇佐美千鶴子と知り合う。帰国後、矢代は千鶴子との結婚を考えるが、矢代の母は法華信者であり、また矢代家の先祖が、カソリック大名・大友宗麟に滅ぼされたという因縁もあって、思い悩む。矢代は、「一切の対立を認めず、他宗を排斥せぬ」という日本の古神道に拠り所を求めて、千鶴子と婚約する。
*永野トセは、息子の嫁がクリスチャンであることを知り、「日本古来の神仏があるのに、毛唐の神を拝む必要はない」と言って離縁する→〔離縁・離婚〕7の『塩狩峠』(三浦綾子)。
『招かれざる客』(クレイマー) 新聞社を経営するマットは白人であるが、黒人への差別撤廃運動を長年続けてきた。彼の感化で、愛娘ジョーイは人種的偏見を持たずに育ち、ある日、恋人である黒人男性ジョンを家に連れて来て、「結婚したい」と言う。マットはこれまでの自分の主張とはうらはらに、異人種間の結婚を認めることができない。しかし妻クリスチーナ、友人ライアン神父、ジョンの両親たちと話し合ううちに、マットは自らの青春時代の情熱を思い出し、若い二人の勇気をたたえ結婚を祝福する。
『黒い雨』(井伏鱒二) 広島の原爆投下から数年後。閑間(しずま)重松の姪・矢須子は、市内で被爆したと噂され、そのため縁談がまとまらない。実際は矢須子は爆心地から離れた郊外にいたので、重松は、矢須子が当時つけていた日記を清書して示し、矢須子が被爆者でないことを証明しようと考える。しかし、矢須子は直接被爆はしなかったものの、黒い雨にうたれていた。日記清書が終わりに近づいた頃、矢須子に原爆病の症状があらわれた〔*雑誌「新潮」連載開始時の題は『姪の結婚』。途中で『黒い雨』と改題された〕。
★3a.結婚の策略。自分が目当ての人と結婚するために、その妨げとなり得る人をまず結婚させてしまう。
『源氏物語』「総角」 薫が宇治の大君に求愛するが、大君に結婚の意志はなく、大君は「妹・中の君を薫にめあわせて、自分は独身のまま妹の後見をしよう」と考える。それを知った薫は、中の君のもとへ匂宮を導き二人を結婚させてしまい、大君のもくろみをくじいて、「この上は私と結婚なさい」と迫る。しかし大君はいよいよ心を閉ざし、やがて心労で死ぬ。
*→〔指輪〕1の『愛の指輪』(星新一)。
★3b.結婚の策略。娘を結婚させるために、寡夫の父親が、自分も再婚すると嘘をつく。
『晩春』(小津安二郎) 大学教授曾宮は早くに妻をなくし、娘紀子(のりこ)と二人暮しである。二十七歳の紀子は、「父の世話をする人がいなくなる」との理由で嫁に行こうとしない。曾宮はやむをえず、「自分も再婚するつもりだ」と嘘をつく。紀子は父を恨みつつも、父の勧める男と見合いし、結婚する。
『鍵』(谷崎潤一郎) 四十五歳の郁子は、二十歳年下の娘・敏子よりも、容貌の点でまさっていた。郁子は、娘・敏子の恋人・木村と関係を持ち、五十六歳の夫を死に追いやった。木村の計画では、やがて彼は敏子と結婚した形式を取って郁子の家に同居する。敏子は世間体を繕うべく、母・郁子のために犠牲になる覚悟らしい。
★3d.結婚の策略。両親が息子をあざむき、息子の望む花嫁とは別の女性と結婚させる。
『紅楼夢』第96〜98回 賈宝玉と林黛玉は前世からの因縁で(*→〔転生〕9b)、恋し合う間柄だった。しかし林黛玉は神経質で病弱な娘だったので、賈宝玉の両親は、おおらかで健康な薛宝釵を、息子の妻にしようと考える。賈宝玉が身につけていた玉を失い痴呆状態になった時期(*→〔玉(珠)〕1)に、結婚が準備され、式が行なわれる。賈宝玉は、林黛玉と結婚したものと思い込み、花嫁のかずきを取ると薛宝釵だったので驚く。病臥していた林黛玉は、結婚式当日、賈宝玉を恨んで息絶える。
★3e.結婚の妨害。娘が父と再婚相手の仲を裂くため、策略を用いて、父の心を別の女に向けさせる。
『悲しみよこんにちは』(サガン) プレイボーイの父レエモンと理知的な女性アンヌの再婚を、十七歳の娘セシルは、妨げようとする。アンヌがセシルの気ままな生き方を批判し、セシルと恋人シリルの仲を裂いたからだった。セシルは、父のもと愛人エルザとシリルを恋人同士のようにしたて、父の競争心と嫉妬心をあおり、父とエルザを再び結びつけようと計画する。計画は成功し、ある日、父はエルザを抱き接吻する。それを見たアンヌは一人で去って行く→〔死因〕6。
★4.A家の息子とB家の娘が結婚することによって、A・B二つの家系が一つに結び合わされる。
『嵐が丘』(E・ブロンテ) 嵐が丘のアーンショー家にはヒンドリーとキャサリンの兄妹があり、ヒースクリフは拾われた孤児だった。スラシュクロス屋敷のリントン家には、エドガーとイザベラの兄妹があった。キャサリンはヒースクリフを愛しながらも、エドガーと結婚し、娘キャサリン二世を産んで死ぬ。ヒースクリフはイザベラと結婚し、息子リントンをもうける。ヒースクリフは、リントンとキャサリン二世を結婚させるが、リントンはまもなく病死する。やがてヒースクリフも死ぬ。未亡人となったキャサリン二世は、ヒンドリーの息子ヘアトンと結婚し、アーンショーの家系とリントンの家系が一つに結び合わされる。
『失われた時を求めて』(プルースト) 「私」にとって、ブルジョアのスワン家と大貴族ゲルマント家とは、別々の方向にあるものだった(*→〔道〕1c)。「私」は青年期に、スワンの娘ジルベルトに思いを寄せ、失恋した。また「私」は、ゲルマント家のサン=ルー侯爵と親交を結んだ。後にジルベルトとサン=ルーは結婚し、二人の間に娘(サン=ルー嬢)が誕生する。初老に達した「私」はサン=ルー嬢と出会い、二つの方向が、すなわちスワンとゲルマントの家系が、彼女の中に合一したことを知った。
『麦秋』(小津安二郎) 二十八歳のOL紀子は、学者だった父・母・医師である兄・兄嫁・兄夫婦の二人の子供とともに、一家七人で鎌倉に暮らしている。会社の上司が紀子に縁談を勧めるが、たまたまその時、戦死した兄の友人で隣家に住む医師・矢部が、秋田の病院へ赴任することになる。紀子は、自分が矢部を好きだったことに気づき、「矢部と結婚して秋田へ行こう」と決心する。父母は紀子の結婚を機に、郷里の奈良へ移り住む。七人の大家族から三人がいなくなり、夫婦と子供二人の核家族ができる。
『トップ・ハット』(サンドリッチ) トップ・ハットをかぶって歌い踊るレビューのスター、ジェリーは、興行主ハードウィックのいるホテルを訪れて、美女デールと出会う。二人は互いに恋心を抱くが、ちょっとした行き違いから、ジェリーが既婚者だと思い込んだデールは、怒って他の男と結婚式を挙げてしまう。その直後にジェリーは、デールの誤解を解く。幸い、結婚式を行なった神父が、実はハードウィックの召使ベイツの変装だったので、式は無効であり、ジェリーとデールは天下晴れて結婚できることとなった。
『ノートル=ダム・ド・パリ』(ユゴー)第2編6「壺を割る」 詩人グランゴワールは、街のならず者たちに捕まって絞首刑を宣告される。しかし、美しいジプシー娘エスメラルダが「グランゴワールを亭主にする」と言うので、彼は釈放される。結婚期間を定めるために、グランゴワールが壺を地面に投げつけると、四つに割れる。彼はこれから四年間、エスメラルダの亭主になることが決まった。
*歩いた歩数=王朝の存続年数→〔釣り〕3の『封神演義』第27回。
*結婚に際しての凶兆→〔凶兆〕2。
*結婚の使者→〔仲介者〕3。
*婚礼の妨害→〔宴席〕3b。
月蝕と鬼の伝説 鬼が娑婆へ来て、人間たちを食おうとする。お月様が「代わりに私を食べて、娑婆の人間を生かしてやって下さい」と鬼に頼む。鬼は、人間を食べるのをやめて、お月様を食べる。昔の人たちはそのように考え、月蝕の時には、お月様に供え物をして拝んだ(鹿児島県大島郡住用村山間)。
『月の女神をほしがった巨人』(インドネシアの昔話) 月は、作物の女神デウィ・スリの化身である。満月の夜、巨人カララウが月を呑もうと襲いかかる。ウィスヌ神が立ちはだかり、弓でカララウの首を射る。カララウの頭は胴体から離れ、なおも月を追いかけて、パクリと呑みこむ。しかし月は、カララウの首ねっこから、ポロリと出てきてしまった。
*魔神ラーフが太陽と月を呑み込んで、日食・月食を起こす→〔日食〕2の『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」。
*悪魔が、太陽と月を飲みこもうとする→〔日食〕4の『日の神と烏と鼠』(アイヌの昔話)。
カニマン(金満)の世の始まりの伝説 八月の十五夜が、月食になることがある。それは、月と太陽の夫婦が交合をしているのだから、拝んではいけない。明るくなったら、餅を供えて拝む(沖縄県島尻郡伊是名村字内花)〔*日神は女神、月神は男神で、日食・月食は両神の交合である。正面から見てはならない。水に映して見ると、月神が日神の上に乗るありさまが見える、ともいう(沖縄県宜野湾市)〕。
*太陽と月を、山に閉じ込める→〔日食〕5aの『カレワラ』(リョンロット編)第47〜49章。
*太陽と月が、岩屋に隠れる→〔日食〕5bの巨人グミヤー(中国・プーラン族の神話)。
*太陽の精・月の精が、他国へ去る→〔日食〕6の『三国遺事』巻1「紀異」第1・延烏郎細烏女。
『悪霊』(ドストエフスキー)第2部第3章「決闘」 ガガーノフの父親をスタヴローギンが侮辱したため、ガガーノフはスタヴローギンに銃による決闘を挑む。ガガーノフの一発目はスタヴローギンの左手小指を傷つけるが、二発目・三発目は、し損じる。スタヴローギンはわざとねらいをはずし、一発目・二発目は空に向け、三発目は横手の藪に向けて撃つ。
『エヴゲーニイ・オネーギン』(プーシキン)第5〜6章 オネーギンは親友レンスキイに誘われて舞踏会に出るが、その雰囲気を不快に感じ、腹いせといたずら心から、レンスキイの恋人オリガと踊り興じる。レンスキイは怒ってオネーギンに銃での決闘を挑み、その結果レンスキイは死ぬ。
『現代の英雄』(レールモントフ)第2部「公爵令嬢メリー」 公爵令嬢メリーをめぐって、ペチョーリンとグルシニツキイが決闘する。グルシニツキイの仲間たちが、ペチョーリンの銃に弾丸を入れずに渡すが、ペチョーリンはそのたくらみを立ち聞きしており、決闘の現場で弾丸の装填を要求し、グルシニツキイを撃ち殺す。
『戦争と平和』(トルストイ)第2部第1篇 ピエールは、妻エレンとの仲を噂されるドーロホフに、銃による決闘を申しこむ。ピエールはドーロホフの左脇腹を撃ち、ドーロホフは傷を負いながらもピエールを狙う。ピエールは身体を隠さずドーロホフの前に立つが、弾丸ははずれる。
『父と子』(ツルゲーネフ)23〜24 医学生バザーロフは、友人の父ニコライの屋敷に滞在中、ニコライの若い内妻フェーニチカに接吻する。ニコライの兄パーヴェルがこれを見て、銃による決闘をバザーロフに申し込む。バザーロフは、パーヴェルの腿に傷を追わせる。
『魔の山』(マン)第7章「ヒステリー蔓延」 スイス高山のサナトリウムで療養生活を送る青年ハンス・カストルプは、進歩的啓蒙主義者セテムブリーニと、テロや独裁を容認するナフタとから、大きな思想的影響を受ける。セテムブリーニとナフタは口論のあげく決闘するが、セテムブリーニは空に向けて発砲し、ナフタは「卑怯者」と叫んで自らの頭に銃弾を撃ちこむ。
*ロシアン・ルーレットによる決闘→〔ロシアン・ルーレット〕2の『親分』(つげ義春)、〔ロシアン・ルーレット〕5の『夏の夜は三たび微笑む』(ベルイマン)。
『大菩薩峠』第1巻「甲源一刀流の巻」 御嶽神社で四年目ごとに行われる奉納試合で、机龍之助と宇津木文之丞が立ち合う。文之丞の内妻お浜が「勝ちを譲ってほしい」と請うが龍之助は拒否し、お浜を犯す。龍之助は木刀の一撃で文之丞の脳骨を砕いて殺し、お浜とともに江戸へ出奔する。
『椿三十郎』(黒澤明) 大目付(おおめつけ)菊井一派が城代家老を監禁して、藩政を私しようとたくらむ。旅の浪人・椿三十郎が、城代家老の甥をはじめとする若侍たちを助け、菊井一派の陰謀を阻止する。菊井の配下・室戸半兵衛が怒り、椿三十郎に決闘を挑む。勝負は一瞬で決まり、室戸はおびただしい血を噴き出させて倒れる。
『徒然草』第115段 世捨て人のぼろぼろ達が宿河原で念仏を唱えているところへ、「しら梵字」が訪れ、師の仇である「いろをし房」を尋ねる。「いろをし房」は仲間に手出しを禁じ、「しら梵字」と二人、河原へ出て存分に闘い、刺し違えてともに死ぬ。
『ドン・キホーテ』(セルバンテス)第64〜65章・第74章 ドン・キホーテの遍歴の旅をやめさせるため、得業士サンソン・カラスコが「銀月の騎士」と名乗って決闘を挑む。銀月の騎士は、体当たりしてドン・キホーテを落馬させ、槍をつきつけて、「帰郷して、一年間隠棲せよ」と命ずる。ドン・キホーテは村へ帰るが、まもなく病気になって死ぬ。
『宮本武蔵』(吉川英治)「円明の巻」(魚歌水心) 宮本武蔵と佐々木小次郎が、豊前・長門の海門、船島で決闘する。武蔵は約束の辰の刻より遅れて巳の下刻に島に着き、刀の鞘を浪間へ投げ捨てた小次郎に「汝の負けと見えた」と言い、櫂を削って作った木剣で小次郎の頭蓋を砕く。
『用心棒』(黒澤明) 清兵衛一家と丑寅一家が対立する宿場町へ、旅の浪人がやって来て、両一家を壊滅させる。丑寅一家の生き残り、拳銃使いの卯之助と戦うために、浪人は、出刃包丁を落ち葉に投げ当てる練習をする。浪人は一人で、卯之助と仲間たちに立ち向かう。卯之助が拳銃で浪人を撃つが、一瞬早く、浪人の投げた出刃包丁が卯之助の右腕に突き刺さる。浪人は、卯之助と仲間たちを次々に斬り倒す。
『吸血鬼』(江戸川乱歩) 未亡人倭文子(しずこ)を巡って、画家岡田と三谷青年が風変わりな決闘をする。岡田が二つのワイングラスの一方に前もって毒を入れておく。三谷が一方のグラスを選んで飲み、残ったグラスを岡田が飲む取り決めである。三谷がワインを飲んでも無事だったので、岡田のグラスを持つ手は震える。三谷は岡田のグラスを叩き落し、決闘を中止する。
『アーサーの死』(マロリー)第2巻第17〜18章 騎士ベイリンと弟ベイランが、甲冑姿ゆえ互いに相手が誰であるか知らずに、槍試合をする。二人は槍で盾を激しく突き合い、ともに馬から落ちる。その後は剣をふるって斬り合い、二人とも致命傷を負う。互いに名乗りあって、兄弟であることを知った二人は、「私たちは一人の母の胎内から出てきたのだから、同じ穴に埋めて下さい」と、立会いの人たちに頼んで死ぬ。
『イーヴェイン』(ハルトマン)第8章 親の遺産を争う姉妹からそれぞれ依頼されて、獅子を従えた騎士イーヴェインと彼の親友ガーヴェインとが、鎧姿のため相手を誰と知らぬまま、アルトゥース(アーサー)王の宮廷で決闘する。相手の力量を認め合った二人が言葉を交わし名乗り合って、はじめて互いの正体を知る。
『パルチヴァール』(エッシェンバハ)第15巻 パルチヴァールは、森の中で出会った騎士と一騎打ちをする。闘ううちにパルチヴァールの剣が折れ、相手の騎士は剣を持たぬ者と戦うのを欲せず、休戦を申し入れる。お互いに名乗り合うと、相手の騎士がパルチヴァールの異母兄フェイレフィースであったことがわかる。
*→〔父と息子〕8の『王書』(フェルドウスィー)第2部第4章「悲劇のソフラーブ」。
『義経記』巻3「弁慶洛中にて人の太刀を奪ひ取る事」「弁慶義経に君臣の契約申す事」 源義経と弁慶は、六月十七日の深夜から暁にかけて五条天神近くの堀川小路で、翌十八日の夜には清水坂及び清水寺の舞台上で、闘う。義経が弁慶を打ちすえ、以後弁慶は義経の従者となって生死をともにする。
『ギルガメシュ叙事詩』 ウルクの都城の王ギルガメシュは、身体の三分の二が神・三分の一が人間だった。ギルガメシュは暴君だったので、女神アルルが、粘土からエンキドゥという名の豪傑を造り、両者を戦わせる。ギルガメシュとエンキドゥは激しく格闘するが、互いの力を認め合い、友情を結ぶ。そして二人は力を合わせ、森の怪物フンババ(フワワ)を退治に出かける。
『三銃士』(デュマ) ガスコーニュからパリに出て来たダルタニャンは、近衛銃士とトラブルを起こし、アトスと正午に、ポルトスと午後一時に、アラミスと午後二時に決闘の約束をするが、まもなく彼らと無二の親友になる。
『南総里見八犬伝』第3輯巻之5第30回〜第4輯巻之1第32回 滸我の足利成氏のもとへ宝刀村雨丸を献上に赴いた犬塚信乃は、間諜と疑われ、芳流閣上に逃げ登る。成氏の命令で犬飼見八(現八)が捕縛に向かい、二人は屋根の上で格闘をして組み合ったまま、真下を流れる利根川の岸辺の小舟上に転落する。そこで彼らは、ともに霊玉を持ち、また身体に牡丹型の痣があることを知って、兄弟の義を結ぶ。
『イリアス』第6歌 トロイア方のグラウコスとアカイア軍のディオメデスとが戦場で一騎討ちしようとするが、名乗り合ううち、父祖の代に両家に交流のあったことがわかる。二人は槍を交えるのを避け、武具を交換して別れる。
『イリアス』第7歌 トロイア軍の代表ヘクトルと、アカイア軍の代表大アイアスとが一騎討ちをする。激しい闘いのうちに夜となり、二人は和解して、ヘクトルは剣と吊り革を、大アイアスは真紅の帯を相手に贈り、別れる。
『文山立』(狂言) 山賊二人が言い争いを始め、果たし合いになる。二人は、決闘をして死んでゆく健気さを妻子に知らせたいと思い、書き置きの文案を練る。そのうちに悲しくなり、「誰も見ていないことでもあるし、決闘は中止して仲直りしよう」と話し合う。
『夕陽のガンマン(続)』(レオーネ) ブロンディとトゥコとエンジェルアイが、二十万ドルの金貨を得ようと争う。金貨のありかを記した石を真ん中に置き、三人が正三角形を形作るように向き合って、拳銃で決闘する。誰が誰を撃つのかわからない。銃声が響き、倒れたのはエンジェルアイだった。ブロンディとエンジェルアイが撃ち合い、ブロンディが勝ったのである。トゥコの拳銃は、ブロンディが前もって弾を抜いておいた。ブロンディとトゥコは以前は相棒どうしだったので、ブロンディは金貨をトゥコと山分けした。
『OK牧場の決斗』(スタージェス) 牛泥棒のクラントン一家と、保安官ワイアット・アープの四兄弟が対立していた。クラントン一家は、夜回りするワイアットを襲おうとして、誤ってワイアットの末弟ジムを殺した。クラントン一家とワイアットたちは、OK牧場で決闘する。クラントン側は兄弟四人に、汚職保安官と殺し屋が加わって合計六人。ワイアット側は三兄弟に、肺病のドク・ホリディの応援を得て合計四人。銃撃戦の末、クラントン側は全員射殺された。
『荒野の決闘』(フォード) 牛泥棒のクラントン一家・父子四人が、OK牧場に立てこもって、ワイアット・アープに決闘を挑む。ワイアット側は彼と弟とドク・ホリディの合計三人。撃ち合いの末、クラントン一家は全滅し、ドク・ホリディも死ぬ。東部から来た娘クレメンタインに、ワイアットは恋心を抱くが、彼は「クレメンタインという名前がとても好きです」とだけ告げて、去って行く。
*「花が好き」という表現で、相手への思いを述べる→〔花〕8の『野菊の墓』(伊藤左千夫)。
『怪談乳房榎』(三遊亭円朝)6〜16 浪人磯貝浪江は、絵の師匠菱川重信の妻おきせに横恋慕する。菱川重信の留守中に、おきせのもとを訪れた磯貝浪江は、帰り際に持病の癪が起こって苦しむふりをする。おきせは気の毒に思い、磯貝浪江を家に泊める。その夜、磯貝浪江はおきせの部屋へ夜這いして関係を持つ〔*一ヵ月後、磯貝浪江は、蛍狩りに出た菱川重信を待ち伏せ、不意打ちして殺す〕。
『こころ』(夏目漱石)下「先生と遺書」44〜45 「先生」は、お嬢さんとKが留守の折をねらって、奥さんに話をしたいと考える。しかし片方が不在の時には片方がいる、ということが続き、奥さんと二人きりで話のできる機会がなかなか来ない。とうとう「先生」は仮病をつかい、お嬢さんもKも出かけてしまうまで、蒲団の中にいる。十時頃に「先生」が寝床から出たので、奥さんが給仕をしてくれる。「先生」は、「奥さん、お嬢さんを私に下さい」と言う。
『ヒルデブラントおじい』(グリム)KHM95 村の牧師が、「百姓ヒルデブラントの女房と、一日楽しく遊びたい」と思って、一計を案じる。ヒルデブラントの女房が病気のふりをして寝込み、牧師はヒルデブラントに「遠方のギョッケル山まで巡礼に行け。月桂樹の葉をもらってくれば、病人は治る」と説教する。ヒルデブラントが巡礼に出かけたあと、牧師が家にやって来て、女房と宴会を開く。ヒルデブラントは、途中で出会った名づけ親のおじさんから「お前はだまされたのだ」と聞き、家へ戻って牧師をたたき出す。
『あゝ結婚』(デ・シーカ) 中年男ドメニコが若い娘との結婚式の準備をしているところへ、愛人フィルメーナが重病で危篤だ、との知らせが入る。フィルメーナはもと娼婦で、ドメニコとは二十年以上も内縁関係を続けていた。ドメニコは臨終の床にあるフィルメーナと、神父立会いのもとで結婚式を挙げる。ところがフィルメーナの病気は、仮病だった。彼女は娼婦時代、客の男たちとの間に三人の男児を産み、ひそかに育ててきた(*→〔三者択一〕7b)。子供たちの将来のために、父親とその戸籍が必要だったのだ。
『瀕死の探偵』(ドイル) 素人医学者スミスが、甥ヴィクタを伝染病菌に感染させて殺す。ホームズがそれを察知したので、スミスは細菌の付着した小箱を、ホームズに送りつける。ホームズは発病し、瀕死の状態になって、スミスを呼ぶ。スミスは勝ち誇り、甥ヴィクタを細菌で殺したこと、同じ細菌をホームズにも送ったことを認める。ホームズは、自分の病気が仮病であることを明かし、待機していたモートン警部がスミスを逮捕する。
『妄想の原理』(木々高太郎) 小林青年は殺人を犯した時、癲癇発作による朦朧状態だったようによそおった。「病気ゆえ無罪」の判決を得よう、とたくらんだのである。精神病学の教授・大心地(おおころち)先生が小林青年を診察して「これは詐病だ」と見抜き、「この型の癲癇は、発作が一度起こると頻発する」と言って、小林青年の反応を見る。大心地先生の予想どおり、小林青年は癲癇発作の演技を繰り返すようになる。
『へんな薬』(星新一『ボッコちゃん』) 風邪そっくりの症状を起こす薬を、ケイ氏が開発した。飲めば熱と咳が出て、風邪をひいたような外見になる。当人は何の苦痛もなく、一時間で症状は治まる。ずる休みが可能になり、いやな仕事をせずにすむのだ。しかしケイ氏が腹痛を起こした時、友人は「これも仮病だろう」と思って医者を呼ばず、あやうく手遅れになるところだった。
*兵役を逃れるために、糖尿病をよそおう→〔尿〕6。
*酒を飲んだことを隠そうと、病気のふりをする→〔酒〕10。
『アーサーの死』(マロリー)第1巻第25章 アーサー王と魔法使いマーリンが馬に乗って広い湖まで来ると、湖の真ん中から、白い絹をまとった腕が出ており、腕は剣(=エクスカリバー)を握っていた。マーリンが「剣と鞘をお取りなさい」と言うので、アーサー王は小舟で腕の所まで行き、剣と鞘を引き抜く。すると腕は水中に消えた。マーリンは、「この鞘を身につけている間は傷を負いません」と、アーサー王に教える。
『曽我物語』巻8「箱根にて暇乞の事」 鞍馬寺の毘沙門天に籠められた父義朝の太刀を、牛若が「一目見せ給え」と祈念して、太刀を賜るとの夢想を得る。急いで毘沙門天に参じると、現実に戸が開き太刀があった。
『紅葉狩』(能) 紅葉狩りの美女(=実は鬼)の勧める酒に、平維茂は酔い臥す。八幡宮に仕える末社の武内の神が維茂に夢告をし、太刀を授ける。目覚めた維茂は、授かった太刀をふるって鬼を退治する。
『ルスランとリュドミラ』(グリンカ) リュドミラを捜すルスランは、古戦場で大男の巨大な頭に出会う。大男は、弟である魔法使いチェルノモールにだまされ、頭を切り落とされたのだった。ルスランは巨大な頭を槍で倒し、頭が守っていた、英雄にふさわしい剣を手に入れる。
*→〔熊〕1の『古事記』中巻(神武天皇)・〔前世〕1aの『とはずがたり』巻4・〔夢〕8aの『平家物語』巻3「大塔建立」。
*スサノヲは、ヲロチを退治して得た太刀を、自分で所持せず、姉アマテラスに献上する→〔尾〕8の『古事記』上巻。
★1b.一人の英雄だけが、石や木から剣を引き抜くことができる。
『アーサーの死』(マロリー)第1巻第5〜7章 クリスマスの朝。ロンドンの教会の境内に四角い大石が出現し、剣が切っ先を下にして刺さっていた。そして金文字で「この剣を引き抜く者は、イングランドの王となるべく生まれた者である」と、記されていた。大勢の騎士たちが試みるが、誰も剣を抜けない。少年アーサーだけが、やすやすと剣を引き抜いて、王位につく。
『アーサーの死』(マロリー)第13巻第2〜5章 アーサー王の城のそばを流れる川に、大きな石が浮かび、剣が刺さっていた。剣の柄頭には金文字で「われを石から引き抜く者は、この世で最も優れた騎士である」と記されていた。何人もが失敗した後に、ラーンスロット卿の息子ガラハッドが、剣を引き抜いた〔*この剣は、かつて騎士ベイリンが所持していたものだった→〔決闘〕2〕。
『ヴォルスンガ・サガ』3 ヴォルスング家の祝宴の夜、片目の老人(=実は大神オーディン)が入って来て、広間にある大木に剣を突き刺し、「引き抜いた者にこの剣を授ける」と言って去る。ヴォルスング王の子シグムンドが、幹から剣を引き抜く。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ワルキューレ」「ジークフリート」 かつて片目の大神ヴォータンが、とねりこの幹に剣を刺して去り、誰もそれを引き抜くことができなかった。ジークムントが幹から剣を引き抜いて「ノートゥング」と命名し、この剣を持って闘いに出た(*→〔剣〕3)。また、ジークムントの息子ジークフリートは、後に「ノートゥング」の破片から新たな剣を鍛え上げ、この剣で大蛇を退治した。
『英雄伝』(プルタルコス)「テセウス」 アイゲウス王はトロイゼンの地でアイトラと交わった後、岩の下に剣と靴を隠し、「もしも息子が生まれ成長したら、この品を持たせて私の所へよこせ」と告げて、アテネへ去った。やがてアイトラはテセウスを産み、青年となったテセウスは、剣と靴を持ってアテネへ行き、アイゲウス王の跡継ぎとなった。
『三国史記』巻13「高句麗本紀」第1 朱蒙は扶餘の地で礼氏の娘をめとった。彼は「もしも男児が生まれ、七稜の石の上・松の下にあるものを見つけたら、それこそ我が子だ」と告げて、南方へ行き、高句麗を建国した。やがて礼氏の娘は類利を産み、類利は家の柱(=松)の礎石(=七つのかどがあった)の所を探して断剣を得た。類利は断剣を持って父朱蒙を訪ね、跡を継いで高句麗の第二代・瑠璃明王となった。
『捜神記』巻11−4(通巻266話) 干将莫耶(かんしょうばくや)が、雌雄二剣のうち雄剣を隠し、雌剣だけを楚王に献上して、殺された。干将莫耶の息子・眉間尺は、亡父の残した言葉「松石上に生ひ、剣その背にあり」を母から聞いて、礎石上の松柱の後を打ち破り、雄剣を見出す。彼はこの剣で、父の仇・楚王を討とうと心に期す〔*『今昔物語集』巻9−44・『太平記』巻13「干将莫耶が事」などに異伝〕→〔仇討ち〕1a。
『アーサーの死』(マロリー)第21巻第5章 戦闘で致命傷を負ったアーサー王が、エクスカリバーを水の中へ投げ込むよう、ベディヴィア卿に命じる。ベディヴィア卿は剣を惜しんで、木の下に隠す。しかしアーサー王の「剣を投げた時、何を見たか?」との問いに、「波と風だけです」と答えたので、嘘がわかってしまう。二度これが繰り返された後、三度目にベディヴィア卿はエクスカリバーを水の中に投げる。水中から一本の腕が出て剣を受け止め、沈んで行く。
『ヴォルスンガ・サガ』11〜12 ヴァイキング達との戦闘の最中に、シグムンド王の前に灰色マントの片目男(オーディン)があらわれ、槍でシグムンドの剣を折る。シグムンドは倒れる。彼は、「折れた剣で新たな名剣が作られ、息子のシグルズがそれを帯びて偉業をなすであろう」と言い残して、死ぬ。
『古事記』中巻 ヤマトタケルは、尾張の国造の娘ミヤズヒメと結婚し、彼女のもとに草なぎの剣を置いたまま、伊吹山の神を撃ちに行く。しかし彼は大氷雨に打たれ、病み疲れて、「おとめの床の辺にわが置きしつるぎの大刀その大刀はや」と歌い、息絶える。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ワルキューレ」 ジークムントは、大神ヴォータンから得た剣「ノートゥング」を手に、フンディングとの決闘に臨む。しかしヴォータンはフンディングを勝利させることを決め、決闘の最中にジークムントの前に現れて、槍でジークムントの剣を砕く。剣を失ったジークムントは、フンディングの槍で突き殺される。
『平家物語』巻5「物怪之沙汰」 治承四年(1180)六月に福原に遷都して以来、平家の人々は夢見も悪く、怪異が続いた。平清盛は、かつて厳島大明神より賜った銀の蛭巻の小長刀(*→〔夢〕8aの巻3「大塔建立」)を枕元から離さなかったが、ある夜、その刀が消え失せてしまった〔*まもなく源頼朝が挙兵し、翌治承五年閏二月に清盛は死ぬ〕。
『曽我物語』巻8「箱根にて暇乞の事」 源頼光が名工に作らせた剣は、刃風で草紙三帖・紙数七十枚を切った。剣は頼信・頼義・義家・為義の手に伝えられ、剣を抜くと周囲の虫の羽が切れ落ちる、鞘から抜け出て大地一丈の底へ入り大蛇を切る、鬼女宇治の橋姫の左腕を切り落とす、長剣と切り合いその剣先六寸を切り落とす、などのことがあった。後、義朝・義経へと伝わり箱根権現へ奉納され、仇討ちに立つ曽我五郎がこの剣を得た。
『太平記』巻13「干将莫耶が事」 干将莫耶が鉄丸を打ち鍛えて雌雄の二剣を作った。眉間尺が、雌剣の鋒三寸を食い切って口中に含み、父の仇楚王に吐きかけた。この三寸の剣は燕の太子丹の所有となり、荊軻が秦始皇暗殺計画の折用いた匕首が、すなわちこれである。雌雄二剣は代々の天子の宝だったが、陳の代にいったん失せ、後また見出され、最後は延平津という沢中に落ち入り、雌雄二つの龍となって浪に沈んだ。
『太平記』巻23「大森彦七が事」 悪七兵衛景清が壇の浦で落とした刀を、江豚(いるか)が呑みこむ。江豚は讃岐の宇多津の沖で死に、刀は海底に沈んで百余年を経て後、漁師の網に引かれて大森彦七の手に入る。
『日本書紀』巻6垂仁天皇88年7月10日 天日槍が来朝した時持って来た数々の神宝を、曾孫清彦が垂仁天皇に献上し、神宝は神府に納められた。ところが、神府を開くと、出石と名づけられた刀子だけがなくなっていた。天皇が清彦に問うと、清彦は「昨夕、刀子が我が家へ来たが、今朝失せました」と答えた。後、刀子は自然に淡路島へ到り、島人は神だと思って刀子のために祠を立てた。
*草薙の剣→〔前世〕2cの『平家物語』巻11「剣」。
『アムレード』(北欧の古伝説) 王子アムレードが、釘を打ち込んで抜けなくした剣を用意して、父の敵フェンゲ王の寝込みを襲う。アムレードはフェンゲ王の剣を取り、フェンゲ王はそばに掛けてあったアムレードの剣をつかむが、抜くことができず、たちまち殺される〔*『ハムレット』(シェイクスピア)の原形〕。
『古事記』中巻 ヤマトタケルが真剣に似せた木刀を用意して、イヅモタケルとともに河で水浴する。ヤマトタケルが先に水から上がり、イヅモタケルの刀を身につけて、「太刀の交換をしよう」と言う。イヅモタケルがヤマトタケルの太刀を手にすると、ヤマトタケルは「いざ、太刀合わせをしよう」と挑む。イヅモタケルは太刀を抜こうとするが、木刀ゆえ抜くことができず、ヤマトタケルに斬り殺されてしまった。
『日本書紀』巻5崇神天皇60年7月 兄出雲振根(いづものふるね)の留守中に、弟飯入根(いひいりね)が、国の神宝を無断で朝廷に献上してしまった。兄は立腹し、真剣に似せた木刀を用意して、弟を水浴に誘う。兄が先に水から出て、弟の刀を身につける。弟は驚いて兄の木刀を取り、二人は刀で撃ち合う。弟は木刀ゆえ抜くことができず、兄に斬り殺された。
『ハムレット』(シェイクスピア)第5幕 ハムレットとレアティーズが剣の試合をする。レアティーズの剣先には毒が塗ってあり、彼はそれでハムレットに傷を負わせる。闘ううちに、二人は剣を取り落とし、それぞれ相手の剣を拾って試合を続ける。そのためレアティーズも毒剣で傷を負う。
*剣のすりかえ→〔すりかえ〕3。
『西鶴諸国ばなし』巻2−7「神鳴りの病中」 老父が鈍刀を家宝にしていた。彼は昔、田の水争いの時、隣里の男に切りつけたが、相手は薄皮もむけなかったので、事件にならずにすみ、危うい命が助かった。彼は、刀が切れなかったことを喜び、命の親であるとして、「自分一代の家の宝物」と言った。
『試し斬り』(落語) 田舎侍が安物の刀を買って、吾妻橋を渡る。非人がこもをかぶって寝ているので、一刀のもとに斬り捨てて旅宿へ帰り、「良く切れる刀だ」と朋輩に自慢する。翌晩、朋輩もその刀を借りて吾妻橋へ行き、寝ている非人を斬る。「良い切れ味だ」と満足して立ち去ろうとすると、非人が飛び起きて、「誰だ。毎晩おれを殴る奴は」〔*→〔身投げ〕6の『楽牽頭(がくたいこ)』「身投げ」と似た印象のオチである〕。
『広異記』10「破山の剣」 某士人が畑から掘り出した剣を、西域人が「百万で買おう」と約束する。士人は「そんな値打ちがあるものか」と笑い、剣先を何気なく庭石に向けると、石は真っ二つになる。これは「破山の剣」といって、ただ一度だけ使える剣であり、西域人はこの剣で宝の山を切り開くつもりだった。西域人は落胆しつつ、剣を十貫で買った。
『日本書紀』巻7景行天皇40年是歳 ヤマトタケルが駿河の野で狩りをした時、土地の賊が野に火をつけた。王(みこ=ヤマトタケル)は燧(ひうち)で火を起こし、迎え火をつけて難を逃れた。一説に、王が腰に差していた剣「叢雲(もらくも=天叢雲剣)」が、おのずから鞘を抜け出て、王の傍らの草を薙ぎ払った。それで、その剣を「草薙」と名づけた。
*剣と蛇→〔蛇〕1。
*男女をへだてる剣→〔閨〕4a。
*にせの剣→〔にせもの〕4。
『抒情歌』(川端康成) 「私(龍枝)」は親の許しなしに、「あなた」と暮らしていた。初夏の夕方、「私」は窓から、雑木林を歩く母の幻を見た。母は左手で咽をおさえ、ふっと消えた。同じ時刻に、母は病院で死んだ。舌癌だったから、咽をおさえて「私」に見せたのだろう〔*後、「あなた」は綾子を愛して「私」と別れ、そして死んだ。母の時とは異なり、「私」は「あなた」の死を、ずっと知らずにいた〕。
『遠野物語拾遺』161 土淵村役場に勤める菊池某が、先年の夏、友だちと二人で北上川の川端に腰をかけて涼んでいた。ふと見ると川の流れの上に、故郷の家の台所のありさまが現れ、姉が子供を抱いている後ろ姿が、ありありと映った。まもなくそのまぼろしは薄れて消えたが、あまりの不思議さに、家に「変事はなかったか」と手紙を出すと、行き違いに「姉の子が死んだ」との電報が届いた。
『ユングの生涯』(河合隼雄)11「晩年」 一九六一年六月六日。船旅をしていたローレンス・ヴァン・デル・ポストは、半睡の状態で幻像(ヴィジョン)を見た。彼は谷間におり、周囲は雪を頂く山であった。マッターホルンのような山の頂にユングが現れ、「そのうちにお目にかかりましょう」と言って、山陰に消えて行った。その後ヴァン・デル・ポストは眠りにおち、翌朝ボーイが運んで来たニュースによって、前日のユングの死を知った。
*ユングの臨終時の落雷→〔落雷〕6の『ヘルメティック・サークル』(セラノ)「ユングの帰宅」。
『私は霊界を見て来た』(スウェーデンボルグ) 一七××年のある日。アムステルダムの市場で、仲買人ギガルトが忙しく働いていた時、突然、視界から市場の光景が消え、代わりに、海に沈む難破船が見えてきた。何万人もの乗客の中に、ギガルトの七歳の息子がおり、彼の方へ悲しそうな顔を向けて、助けを求めていた。ギガルトがこの幻影を見たちょうど同じ時間に、彼の息子は海で溺れ死んでいた。
*死を告げる夢→〔死夢〕。
赤池の鯉右衛門の伝説 赤池には、「鯉右衛門」という大鯉が棲んでいる。ある男が、池の主(ぬし)の「鯉右衛門」を捕らえようと、水をかい出す。すると自分の村の方に煙が上がり、たちまち大火事になった。男は急いで家へ戻るが、火事の気配もなく村は静かである。男は赤池へ引き返し、また水をかい出す。再び村の大火事が見えるが、男は「狐か狸のしわざだろう」と思い、水かえを続ける。夕刻になって村へ帰ると、焼け野原だった(京都府熊野郡久美浜町)。
『仙境異聞』(平田篤胤)上−1 文化年間(1804〜18)。下谷七軒町に住む寅吉少年が、ある日、家の棟に上がって「広小路が火事だ」と叫んだ。火事など見えないので、皆がいぶかると、寅吉は「あれほど燃えるのが見えないのか。早く逃げよ」と言う。人々は「寅吉は物狂いになった」と思ったが、翌日の夜、下谷広小路は火事で焼けた。
*遠く離れた場所の火事を見る→〔千里眼〕2a・3。
★4.自分の網膜にある血管が見え、赤い炎を幻視する発作が起こる。
『網膜脈視症』(木々高太郎) 松村真一少年が三歳の時、目の前で父親が殺された。その時偶然、真一少年に、網膜の血管脈視症状が起こった。幼い真一少年は、父親殺害を認識できなかったが、あろうことか、その殺人犯が、真一少年の新しい父となった。以来、真一少年は、しばしば炎を幻視する発作を起こすようになった。精神病学の教授・大心地(おおころち)先生が真一少年を診察して、炎幻視の原因をつきとめ、殺人犯は逮捕された。
原爆の悲惨(松谷みよ子『現代民話考』) 広島に原爆が落ち、皆が避難する中、モンペ姿の老婆が、赤い帯のような物をしきりに懐におさめていた。それを見た人が「お婆さん、帯など捨てて早く逃げなさい」と声をかけると、老婆は「これは、わしのはらわたでがんす」と言った。老婆の腹は裂けて、腸が外へ出ていた(広島県)〔*昔の物語であれば、→〔見間違い〕1の『福富草子』(御伽草子)の、「赤い小袖」だと思ったら「血」だった、という程度で、それほど悲惨な話にはならない〕。
『夏の花』(原民喜) 昭和二十年八月の広島。妻の初盆(にいぼん)が近づいたので、「私」は墓参りに出かけ、花を供えた。その翌々日、原爆が落ちた。「私」は厠にいたため命拾いした。見渡すと、一面に崩壊した家屋があったが、爆弾らしい穴があいていないのは不思議だった。大勢の人が黒焦げになり、身体が腫れ上がり、うめき苦しんで倒れていた。甥の死体があった。家の女中は腕の火傷が化膿し、蛆がわいて、一ヵ月余りの後に死んだ。
『はだしのゲン』(中沢啓治) 広島に原爆が投下された時、中岡元(ゲン)は国民学校の二年生だった。父と姉と弟は家の下敷きになり、火に焼かれて死んだ。母はその時は助かったが、四年後に死んだ(*→〔骨〕6)。ゲンは被爆後数日して頭髪が抜け、二年間ハゲ頭だった。さいわいゲンは病気にもならず、中学校へ進学する。光子という恋人ができるが、彼女も被爆者で、白血病で急死する。ゲンは悲しみを乗り越え、絵の勉強をするために東京へ旅立つ〔*「元」は原爆の「ゲン」、光子の「光」は「ピカ」を意味するのであろう〕。
*原子雲→〔雲〕9bの『安芸のやぐも唄』(深沢七郎『庶民烈伝』)。
*原爆投下後に降った黒い雨→〔結婚〕2dの『黒い雨』(井伏鱒二)。
『八月の狂詩曲(ラプソディー)』(黒澤明) 戦後四十数年たったある年の夏休み。長崎県の山村に住む老女・鉦(かね)の家を、四人の孫たちが訪れていた。鉦は孫たちに原爆の話をする。鉦の夫は原爆で死んだ。鉦は、今ではもうアメリカを恨んではいないが、原爆の恐ろしさは忘れられない。夜、雷雨があり、鉦は「ピカじゃ!」と叫ぶ。翌日、空に黒雲が湧き起こるのを見た鉦は、キノコ雲を思い出し、豪雨の中、傘をさして走り出す。孫たちが泣きながら追いかける。
『ゴジラ』(香山滋) 海棲爬虫類から陸上獣類に進化する途上の古代生物であるゴジラたちが、二十世紀になっても、北太平洋の海底洞窟に生息していた。昭和二十年代、水爆実験によって彼らは安住の地を追い出され、一頭が東京方面へ向かう。国会議員は「ゴジラ出現の理由を『水爆実験のため』と発表すれば、国際問題になる」と心配する。都民は「また疎開か。嫌な時代になった」とため息をつく。
『空の大怪獣ラドン』(本多猪四郎) 原水爆実験は、空気や海水を汚染するばかりでなく、大地にも影響を与えた。阿蘇山中で二億年眠り続けた翼龍ラドンが、地殻変動によって卵から孵り、巨大な姿を現す。ラドンは超音速で飛び、その衝撃波が、九州・沖縄・フィリピン・中国などに大きな被害を与えた〔*ラドンは最初は一頭で、自衛隊の攻撃を受けて負傷する。負傷したラドンを助けるかのように、途中からもう一頭が現れる。二頭のラドンは雌雄と見なされている〕。
*アンギラスも、水爆実験によって長い眠りから目覚めた→〔怪物退治〕6の『ゴジラの逆襲』(小田基義)。
*水爆実験の放射能によって、液体人間が出現する→〔水〕5cの『美女と液体人間』(本多猪四郎)。
*水爆実験の放射能によって、動物や人間の性転換が起こる→〔性転換〕7の『大変だァ』(遠藤周作)。
『大怪獣ガメラ』(湯浅憲明) 北極圏を飛ぶ国籍不明機が、米軍によって撃墜された。不明機は原爆を搭載しており、キノコ雲が立ち昇る。そのあたりには、かつてアトランティス大陸があり、体長六十メートルの巨大な亀ガメラが生息していた。ガメラは数千年の間、氷山の中で冬眠していたが、原爆の衝撃で目覚めた。ガメラは日本列島へ向けて動き始め、北海道、次いで東京に上陸する。
『アトミック・エイジの守護神』(大江健三郎) ある中年男が、広島の原爆孤児十人を養子にして、共同生活を始める。彼は、孤児たちの何割かが将来白血病で死ぬことを見こして、高額の生命保険を掛ける。何年かの後、孤児たちは四人が死に、六人が生き残っていた。一方、中年男は顔色が悪くなり、食べ物を吐くようになる。孤児たちは「あの人は胃癌らしい」と考え、彼に保険を掛けた。
『モスクワわが愛』(吉田憲二他) 百合子はボリショイ・バレー団への入団を許可され、厳しいレッスンに明け暮れる。日本に残した恋人哲也に代わって、モスクワで知り合った彫刻家バロージャが、彼女の心の中で大きな存在になっていた。百合子は『ジゼル』の主役に抜擢されるが、公演間近に白血病で倒れる。母が広島で被爆しており、百合子は原爆二世だったのだ。百合子は嵐の海へ投身しようとして、バロージャに抱きとめられる。彼女は「生きよう」と思う。しかし、その思いは叶わなかった。
『夢千代日記』(浦山桐郎) 兵庫県・湯村温泉の芸者夢千代は広島で被爆し、白血病を発症して、神戸の病院で「余命半年」と診断される。夢千代は入院せず、湯村で死にたいと願う。旅役者の宗方勝と知り合うが、彼は十五年前に父親を殺して指名手配中であり、あとわずかで時効になる身の上だった。宗方は隠岐へ身を隠し、夢千代はその後を追って、二人は結ばれる。宗方は逮捕覚悟で、死の近い夢千代を湯村へ連れ帰る。芸者仲間たちに見守られて夢千代は息を引きとり、宗方は逮捕される。
『残虐記』(谷崎潤一郎) 昭和二十年、三十一歳の今里増吉は広島で被爆し、不能者になった。以来、彼は九歳年下の愛妻むら子との性交渉が、まったくできなくなった。昭和二十八年、増吉は、むら子の幸福を願って彼女を情夫に与え、自らは毒薬を飲んで死んでいった〔*未完の小説なので、情夫の登場から増吉の自殺にいたる経緯が不明確である〕。
*核戦争→〔戦争〕4・5a・5b・5c。
*核爆弾テロ→〔戦争〕6。
*核戦争後の世界→〔戦争〕7。
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