【封印】

★1.魔物や怪物を、地中あるいは深淵に封ずる。

『雨月物語』巻之4「蛇性の婬」  蛇の化身である女・真名子(まなご)が、美青年・豊雄に執着し、彼の新妻・富子に憑依する。道成寺の法海和尚の教えで、豊雄が富子の身体を袈裟で押しふせると、富子の身体の上に、三尺ほどの白蛇(=真名子の正体)があらわれる。法海和尚は白蛇を鉄鉢に入れ、袈裟で封じて、道成寺の御堂前に地中深く埋め、永劫の間、世に出ることを禁じた。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章  ヘラクレスは、エウリュステウスに命ぜられた十の仕事の第二番目として、レルネの沼沢地に住む九頭のヒュドラ(水蛇)を退治した。ヒュドラは九頭を有し、八つは殺すことができるが、一つは不死だったので、ヘラクレスは不死の頭を切り離し、地中に埋め、重い石をその上に置いた。

『水滸伝』百二十回本第1回  宋の仁宗皇帝の代。疫病退散祈願のため、勅使・洪大尉が竜虎山(=道教の大本山)の上清宮を訪れた。「伏魔之殿」と記された社殿があり、そこは、かつて大唐の洞玄国師が、百八の魔王を地中に封じこめた所だった。洪大尉が封印を取り除くと、深い穴の底から黒雲が噴き上がり、金色の光となって八方へ散った。解放された百八の魔王は、百八人の豪傑に生まれ変わった。

『ヨハネの黙示録』第20章  世界の終末の時、神と悪魔の決戦に神が勝利する。悪魔である龍を、天使が鎖で縛り、底なしの淵に投げ入れ、鍵をかけて、その上に封印を施す。千年後に龍は解放されるが、再び神に挑み、敗れて、火と硫黄の池に投げ込まれる。

*黄泉国に封じこめる→〔離縁・離婚〕6の『古事記』上巻。

★2.瓶など小さな容器に封ずる。

『黄金の壺』(ホフマン)  大学生アンゼルムスは、火の精リントホルストの依頼で書類の筆写をするが、火の精への疑念から、つい書類にインクのしみをつけてしまう。そのため彼の身体は縮まり、ガラス瓶の中に閉じこめられる。

『江談抄』第3−1  入唐して楼上に幽閉された吉備大臣は、賽に双六筒をかぶせて唐土の日月を封じこめた。二日も三日も月日が現れぬので唐の人々は恐れ、吉備大臣を解放した。

*→〔壺〕3の『千一夜物語』「漁師と鬼神との物語」マルドリュス版第3〜6夜。

*→〔誘惑〕3aの『今昔物語集』巻5−4。

*→〔瓶(びん)〕1

★3.封印を解く。

『ヨハネの黙示録』第5〜16章  天上の玉座に座す神の右手に巻物があり、七つの封印で封じられている。キリストの化身である小羊が次々に封印を解いていくと、内乱・戦争・飢饉・疫病を象徴する四騎士が現れる。太陽は暗く、月は血の色になり、空の星は落ち、地上に大災害が起こって、世界の終末の時が来る→〔地震〕1〔七人・七匹〕3

★4.効力のない封印。

『南総里見八犬伝』第9輯巻之10第110回〜巻之11第113回  娘浜路姫の病気を治すために、里見義成は犬江親兵衛の「仁」の霊玉を借りて香箱に納め、それを壺に入れて封印し、さらに瓶に納めて病床下の土中に埋める。浜路姫の回復後、義成が瓶を掘り出すと、壺の封印はそのままだが、香箱の中の玉は消えている。玉は親兵衛のもとへ飛び戻っていたのだった。

 

【笛】

★1.さまざまな笛の呪力・奇瑞。

『妹背山婦女庭訓』4段目「御殿」  爪黒鹿の血と疑着(嫉妬)相の女の血を混ぜ、笛にそそいで吹くと、逆臣蘇我入鹿は正気を失い倒れる→〔血〕1b

『江談抄』第3−50  浄蔵聖人が、深夜に笛を吹いて朱雀門を通ると、鬼が感嘆して名笛「葉二つ」を浄蔵に与えた。

『古今著聞集』巻6「管絃歌舞」第7・通巻268話  京極太政大臣宗輔が内裏から車で帰る時、良い月夜だったので、笛を取り出して「陵王の乱序」を吹く。近衛万里小路まで来ると、小さな人が陵王の装束をして、車の前で舞うのが見えた。それは、この地の社に祀られている神が、仮に姿を現したのだった。

ハメルンの笛吹き男の伝説  一二八四年、ハメルンの町に鼠が大発生した。笛吹き男がやって来て、いくらかの報酬を得る約束で、鼠を町から追い払う。しかし町は、男に報酬を支払わなかった。翌年、男は再び現れ、彼が笛を吹いて歩くと、町中の子供たちが皆、そのあとについて行った。男は子供たちを山の洞窟に導き入れ、子供たちは二度と帰らなかった。

『梵天国』(御伽草子)  玉若侍従が十三歳の春、父・高藤大臣が死去した。玉若は亡父の供養のために笛を吹き、その音は天界にまで到った。梵天国王が笛の音を聞き、玉若の親孝行の心に感動して、姫君を玉若の妻として与えた。

*→〔難題〕4の『魔笛』(モーツァルト)。

*→〔眠り〕5aの『変身物語』(オヴィディウス)巻1。

*→〔部屋〕4の『古事談』巻6−11。

★2a.神や霊を呼び寄せる笛。

『英霊の声』(三島由紀夫)  木村先生は、厳父天快翁が神界から授かったという石笛(いわぶえ)を吹いて、神霊を呼ばれた。霊媒をつとめるのは、二十三歳の盲目の青年・川崎重男君だった。ある夜の帰神(かむがかり)の会で、大勢の荒魂(あらみたま)が川崎君の身体に降り、それは一晩中続いた→〔神がかり〕2

『源氏物語』「横笛」  夕霧は、親友柏木の遺品の笛を、一条御息所(=柏木の妻の母)から贈られる。深夜、夕霧が笛を吹くと、夢に柏木の霊が現れる。「笛の音にひかれてやって来たのだな」と、夕霧は思う。柏木の霊は、「この笛は君ではなく、私の子(=薫)に伝えたい」と告げる。

*→〔天人降下〕2の『狭衣物語』巻1。

*笛の音とともに現れる霊→〔霊〕1aの『今昔物語集』巻27−25。

★2b.笛の音をほめる声。

『遠野物語』(柳田国男)9  菊池弥之助は笛の名人だった。ある薄月夜、大勢の仲間とともに馬を追い、笛を吹きすさみつつ大谷地(おほやち)の上を通った。すると谷底から、何者かが大きな声で「面白いぞー」と呼びかけた。馬追いの一同は皆真っ青になり、走って逃げた。

*歌声に応じて、「あな面白」という声がする→〔歌〕1cの『今昔物語集』巻27−45。   

★3.持ち主に祟る笛。

『笛塚』(岡本綺堂)  持ち主に祟る名笛があり、何人もの人が次々に非業の死を遂げた。天保九年(1838)、最後の持ち主である武士が職務の失策から切腹を命ぜられ、この世の名残に笛を吹く。突然、笛が二つに裂け、中を見ると「九百九十年終 浜主」の文字が刻まれていた。この笛は平安初期に尾張連(むらじ)浜主が作ったもので、九百九十年の命数が、今尽きたのだった。

★4.名笛と贋笛。

『十訓抄』第7−25  笛吹き成方が、名笛「大丸」をすばらしい音色で吹いていた。修理太夫俊綱がこの笛を欲しがり、成方を拷問にかけてでも取り上げようとする。成方は「こんな目にあうのも、この笛ゆえだ」と言って、俊綱の面前で笛を打ち摧いたので、俊綱もあきらめた。しかしそれは別の笛であり、成方は以後も「大丸」を吹き続けた。

『神道集』巻4−18「諏訪大明神の五月会の事」  ある夜、在原業平が百本ほどの笛を隠し持って、鬼王官那羅(かんなら)に会い、「青葉の笛」を借りて吹く。明け方近くに鬼王が「笛を返してほしい」と言うので、業平は「青葉の笛」とは違う別の笛を渡す。鬼王が「違う」と言うと、業平はまた別の笛を渡し、これを繰り返すうちに鶏が鳴く。鬼王は仰天し、笛を忘れて逃げ去る。 

★5.口笛。

『M』(ラング)  謎の殺人鬼が、小学生の少女たちを次々に連れ去って殺した。ある日、盲目の風船売りが雑踏の中で、聞き覚えのある口笛のメロディーを聞く。それは『ペール・ギュント』の一節で、以前、その口笛を吹きつつ少女に風船を買い与えた人物がいた。そして少女は惨殺体で発見されたのだ。今、口笛を吹いている男も、少女を連れている。風船売りは仲間の青年に「あれが殺人鬼だ」と教え、後を追わせる。

 

*骨で作った笛→〔骨〕2に記事。

 

【福の神】

★1.福の神が家から出て行く。

『捜神記』巻17−9(通巻408話)  臨川の陳臣は大金持ちだった。永初元年某日、邸内の群竹の中から大男が現れ「わしは長年この家に住んでいたが、お前と別れることになった」と告げた。男がいなくなってから、大火事が出たり下男下女が死んだりして、一年のうちに陳臣はすっかり貧乏になった。

★2.福の神たちの競争。

『福の神』(星新一『妖精配給会社』)  金運を祈るエル氏に福の神が乗り移り、「長寿と財産を授ける」と約束する。福の神は休みなくエル氏に働くことを命じ、財産は増える一方だが、使うことは一切許されない。福の神たちは、人間の一生の間にどれだけ財産ができるか競い合っており、エル氏の福の神は、世界新記録を目指しているのだった。

★3.富をもたらす化け物キジムナー。

キジムナーの伝説  「キジムナー金持ち」と呼ばれる家があった。家のウスク木の根もとの洞穴に、化け物キジムナーが住んでいて、主人と一緒に漁に出かける。すると、いつも船いっぱいに魚が取れた。これをねたむ人が、キジムナーの留守に洞穴を焼いてしまう。キジムナーは住む所がなくなったので、出て行く。以後その家は、一匹も魚が取れず、貧しくなった(沖縄県島尻郡南風原町神里)。

★4a.家の中で目撃される、ざしきぼっこ・ざしきわらし。

『ざしき童子(ぼっこ)のはなし』(宮沢賢治)  十人の子供たちが両手をつないで円くなり、座敷の中を回って遊んでいると、いつのまにか十一人になっている。皆、はじめからいた顔ばかりで、誰が増えた一人なのかわからない。それでも確かに一人増えている。その増えた一人が、ざしきぼっこなのだ。

『遠野物語』(柳田国男)17  旧家には、しばしばザシキワラシという神が住んでいる。多くは十二〜三歳の童児で、折々、人に姿を見せる。近頃、今淵勘十郎という人の家で、高等女学校にいる娘が休暇で帰って来ていたが、ある日、廊下でザシキワラシに出会い、大いに驚いた。これは男児のザシキワラシだった。この神の宿る家は、富貴自在であるという。

*一本足・一つ目のザシキワラシ→〔枕〕4のざしきわらしの伝説。

★4b.ざしきぼっこ・ざしきわらしが家から出て行く。 

『ざしき童子(ぼっこ)のはなし』(宮沢賢治)  旧暦八月十七日の晩、紋付袴姿で刀をさしたきれいな子供(=ざしきぼっこ)が、渡し船に乗った。子供は、「笹田の家に飽きたから、斎藤の家へ行く」と、渡し守に告げる。それから笹田家はおちぶれ、斎藤家では病人が治り息子が大学を出て、立派になった。

ざしきわらしの伝説  何百年か前。砂子沢(いさござわ)の東の方、朝日の出る所に、朝日長者の大きな屋敷があった。奥座敷には、人の目にはっきりとは見えないが、いつも座敷わらしが遊んでいた。ある時、どういうわけだか、座敷わらしは、砂子沢の西の方の貧乏な家へ行ってしまった。するとその家はだんだん金持ちになり、夕日長者と言われるようになった。座敷わらしのいなくなった朝日長者は、破産してしまった(岩手県遠野市附馬牛町)。

『遠野物語』(柳田国男)18  旧家である山口孫左衛門の家には童女の神が二人いる、と言い伝えていた。ある年、村の男が橋のほとりで、見馴れぬ娘二人に出会った。娘たちは「山口孫左衛門の所から来た。これから某村の何某の家へ行く」と言うので、男は「孫左衛門の世も末だな」と思う。それからまもなく、孫左衛門家の主従二十幾人が一日のうちに死んでしまった。

 

【袋】

★1.開けてはならぬ袋。

『オデュッセイア』第10巻  オデュッセウスたちの順調な航海のために、風の司アイオロスが、逆風を革袋に封じこんでくれる。オデュッセウスは革袋を船に縛りつけて航海を続けるが、部下たちが「革袋の中には金銀が入っているのだろう」と考え、開けてしまう。たちまち凄まじい疾風が起こって、船はアイオロスの所まで吹き戻される。

『捜神後記』巻1−3(通巻3話)  男が山中の異郷で女から袋をもらい、「これを開けないよう、気をつけなさい」と教えられ、故郷に帰って来る。ところが男の外出中に、家人が袋を開けてしまう。袋は五重になっており、中から青い小鳥が出て飛び去る。その後、男は田仕事中に、立ったまま脱け殻になった。

★2.いくらでも米や金が出てくる袋。

『今昔物語集』巻17−47  生江世経は吉祥天女に祈願して、米一斗の入った袋を得る。米を取り出して使うと、取るはしから自然にまた袋に米が満ち、いくら取っても尽きることがなかった〔*『古本説話集』下−61の類話では、毘沙門に祈って、米袋を得る〕。

*いくらでも米が出てくる俵→〔名付け〕7bの『俵藤太物語』(御伽草子)。

『遠野物語拾遺』137  遠野の町の某が、夜、墓地を通っていて、同じ町で先ごろ死んだ女に出会った。女は「これを持って行け」と言って、汚い小袋をくれた。中には多量の貨幣が入っており、いくら使ってもなくならなかった。これは「幽霊金」といって、昔からあることだ。一文でもいいから袋の中に残しておくと、一夜のうちにまた元のとおりに一杯になっているという。

*いくらでも金貨が出てくる袋→〔交換〕2の『影をなくした男』(シャミッソー)。

★3.さまざまなものを吸い込む袋。

『西遊記』百回本第65〜66回  弥勒仏祖に仕える黄眉童子が如来に化け、三蔵法師をだます。孫悟空と彼に味方する二十八宿の天兵・五万の掲諦が攻め寄せると、黄眉童子は、弥勒のもとから盗んだ人種袋を開いて、悟空らをすべて吸い込む。しかし後には弥勒が袋を取り戻し、その中に黄眉童子を収める。

★4.危急の時に開ける袋。

『古事記』中巻  ヤマトタケルは東国平定に出発するにあたり、伊勢大神宮を参拝した。姨(みをば)倭比売命がヤマトタケルに剣と袋を与え、「危急の折に用いよ」と教える。相武(さがむ)の国に到った時、国造(くにのみやつこ)がヤマトタケルを欺いて野へ入れ、火をつけて焼き殺そうとする。だまされたと知ったヤマトタケルが袋を開けると、火打石があった。ヤマトタケルは周囲の草を剣で薙(な)ぎ払い、迎え火をつけて、迫り来る炎を退けた。

『三国志演義』第54〜55回  劉備は呉の孫権の妹との婚礼のため江南へ赴く。諸葛孔明が三条の計略を記した紙を三つの錦の袋に入れて趙雲に与え、劉備の供を命ずる。「南徐州に着いたら第一の袋、歳末になったら第二の袋、危急の時には第三の袋を開けよ」という孔明の指示どおりにして、劉備は無事に帰国することができた。

★5.命の入った袋。

『異苑』巻5−14  ある男が幼少時、不思議な老人から袋をもらい、「これはお前の命だ。中身を壊したりなくしたりせぬように」と教えられた。袋を開けると、一本の炭が入っている。男は袋を大切に持ち続け、八十三歳になった。重病にかかったので、子供たちに袋を開けさせると、中の炭は粉々に砕けていた。男はまもなく死んだ。 

*魂の入った袋→〔袋〕1の『捜神後記』巻1−3(通巻3話)。

★6.多くの目玉の入った袋。

『述異記』(祖冲之)11「袋の中の目玉」  謎の男が黒皮の大きな袋を索万興の家に持ち込んで、去った。袋は転がって、索万興の膝まで上がって来た。皮が四方に開いたので中を見ると、目玉がいっぱい詰まっており、瞬(またた)きしていた。そのうち袋はまた転がりだし、どこかへ消えてしまった。索万興は非常な不愉快を感じ、病気になって死んでしまった。

多くの目玉の入った箱→〔箱〕3bの『今昔物語集』巻27−21。

★7.袋に生命が宿り、人間の形になる。

『太平広記』巻386所引『玄怪録』  漢の李陵将軍の食糧運搬に用いられた多くの皮袋が、倉庫に放置された。そこに水銀があったために皮袋は朽ちず、生命が宿って人間の形をとることができるようになった(*→〔入れ子構造〕1b)。北周の時代(6世紀)、居延部落の長・勃都骨低が水銀を得ようとして、袋をすべて焼き捨てた。袋は悲鳴をあげ、血が流れた。それから一年もせぬうちに、勃都骨低と家族は全員病気になって死んでしまった。

★8.大きな袋には、人間が入る。

『英雄伝』(プルタルコス)「カエサル」  エジプトへ侵攻したカエサルが、遠方にいる女王クレオパトラを王宮へ呼ぶ。クレオパトラは人目を避け、夜、小舟に乗って王宮へやって来る。彼女は寝具袋にもぐりこみ、部下がその袋を革紐でしばる。袋は、贈り物としてカエサルのもとへ運び込まれる。思いがけず、袋の中から現れた美女を見て、カエサルはすっかりクレオパトラのとりこになってしまった〔*映画『クレオパトラ』(マンキーウィッツ)では、彼女は絨毯に包まれて、シーザー(=カエサル)のもとへ届けられる〕。

*大きな袋に死体を入れる→〔女中〕4の『ハウス・バイ・ザ・リヴァー』(ラング)・〔盲点〕1bの『見えない男』(チェスタトン)。 

 

*蚊帳を、人間が入る袋だと見なす→〔蚊帳〕3の『飛びこみ袋』(昔話)。

 

【不死】

★1.不死者。

『吸血鬼ドラキュラ』(ストーカー)14「ドクター・セワードの日記・続」  吸血鬼は不死者である。彼らは人間の生き血を吸って生き続ける。若返ることもある。血を吸われた人間は、吸血鬼の仲間になる。不死者は、死ぬことができる者を呪い、不死の仲間をふやそうとする。通常の人間は、死ねばその魂は天の神のもとへ召される。しかし不死者は、永遠に神のもとへ行けないのである。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章  ゴルゴン三姉妹のうち、ステノとエウリュアレは不死で、メドゥサのみが不死でなかった。それゆえペルセウスは、メドゥサの首を取った。

『火の鳥』(手塚治虫)  火の鳥は、弓で射ようと槍で突こうと絶対に死なない。ある時期が来ると、火の鳥は炎の中に飛びこんで我が身を焼き、新しい体に生まれ変わる。火の鳥の血を飲んだ者も不死になる。

*不死の蛇頭→〔封印〕1の『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章。

★2a.不死ではあるが、老衰する。

『アプロディーテへの讃歌』  曙の女神エオスはトロイア王家のティトノスを愛し、ゼウスに請うて彼を不死にした。しかし不老を願うのを失念したため、しだいにティトノスは老衰し、身動きもできなくなった。女神はティトノスを部屋に入れ扉を固く閉じた。ただ彼の声だけは今も流れ出ている〔*後には、ティトノスは蝉に化したと言われる〕。

『ガリヴァー旅行記』(スウィフト)第3篇第10章  ラグナグ国には、不死の人間が稀に生まれる。彼らは不死といっても若いままではいられず、年とともに老衰し、髪も歯も抜け、記憶力もなくなり病気にもなる。それでも永久に死ねない。不死人間は、ラグナグの一般国民からは、軽蔑され憎まれている。この国を訪れた「私(ガリヴァー)」は、不死人間の実態を見て、長寿への願望が失せてしまった。

*長寿ではあるが老衰する→〔長寿〕2bの『変身物語』(オヴィディウス)巻14。

*不死ではあるが、眠り続ける→〔眠り〕4aの『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第7章。

*不死ではあるが、健康ではない→〔半死半生〕1の『半人前』(星新一)。

★2b.不老ではあるが、死んでしまった。

『淮南子』「人間訓」第18  隠士の単豹(ぜんぴょう)は、巌(いわや)に住んで谷の水を飲み、木綿や麻織を着ず、五穀を口にせず、七十歳になってもなお、童子の顔つきであった。しかしある時不意に、飢えた虎にあって食い殺された。

★3.不死を求める人。

『ギルガメシュ叙事詩』  親友エンキドゥが神々から死を宣告され、十二日間の病気の後に死ぬ。ギルガメシュは、「自分もやがては死の運命を免れないのだ」と知って恐れ、永遠の生命を求める旅に出る。彼は、地の果て・死の海の彼方に不死者ウトナピシュティムを訪れ、不死の秘密を聞き出そうとするが、眠りこんでしまう→〔眠り〕3

『史記』「秦始皇本紀」第6  方士徐市(じょふつ=徐福)らが「海中に三つの神山があり、仙人が住む」と秦の始皇帝に上申し、不死の神薬を求めて船出する。しかし数年を経ても神薬を得られず、徐市らは「大魚に妨げられて島まで行けない」と、嘘の報告をする。始皇帝は自ら大魚を射止めようと海沿いを旅し、途中で病死する。

『太平広記』巻4所引『仙伝拾遺』  秦の始皇帝は、東海にある島・祖洲に生えている不死の草を得たいと欲した。始皇帝の命令で、徐福が童男・童女それぞれ三千人を引き連れ、祖洲を目指して船出した。しかし彼らは帰って来なかった。それから一千年近く後、唐の開元年間に、重病の人が薬を求めて祖洲に渡り、徐福に会って病気を治してもらった。

『火の鳥』(手塚治虫)「乱世編」  平清盛は不死を求め、宋国から火焔鳥を取り寄せる。火焔鳥は千載を生き、その生き血を飲む者は不死になるという。しかし清盛が得たのは普通の孔雀にすぎなかった。治承五年(1181)閏二月、高熱で危篤に陥った清盛は孔雀の血を飲み、寵愛する吹子に「若返る感じがする。お前を抱きたい」と言って息絶える。

★4.不死性を他にゆずる。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章  ケンタウロス族のケイロンはヘラクレスの矢で膝を射られ、重い傷を負った。ケイロンは洞穴にこもって死にたいと願ったが、不死の身なのでそれができなかった。プロメテウスが、ケイロンの不死性を引き受けることをゼウスに申し出、ようやくケイロンは死ぬことができた。

★5.不死をもたらす河と死をもたらす河。

『不死の人』(ボルヘス)  ディオクレティアヌス帝時代(三〜四世紀)の軍人だった「わたし」は、不死の河を求めて旅をし、その水を飲んで不死となった。河の周りには不死の人々が住んでいたが、十世紀頃、不死の人々は「別の地方に、不死性を消してくれる別の河があるだろう」と考え、全世界に散らばった。「わたし」は一九二一年に、ある港町郊外の河の水を飲んで、可死の身となった。一九二九年に「わたし」は死んだ。

★6.不死の薬を得る。

『さざれ石』(御伽草子)  第十三代・成務天皇(在位131〜190)に男女三十八人の子があり、その末娘さざれ石の宮は、薬師如来を信仰していた。ある時、薬師如来の使者・金毘羅大将が来て、不老不死の薬を宮に与えた。そのため八百余年を経ても、宮は若い姿だった。後に薬師如来が、宮を肉身のまま浄瑠璃世界に迎えた。 

『竹取物語』  かぐや姫は月世界へ帰るに際して、不死の薬と手紙を帝に贈った。帝は「逢ふこともなみだに浮かぶわが身には死なぬ薬もなににかはせむ」と詠歌し、天にもっとも近い山(=富士山)の頂で、この二品に火をつけて燃やすよう、臣下に命じた→〔地名〕1

*不死の飲料アムリタ(甘露)を得る→〔海〕7cの『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」。

 

*不死を得そこなう→〔食物〕3の『アダパ物語』(古代アッカド)・〔天人女房〕1の『太平広記』巻63所引『玄怪録』(玉巵娘子)。

*年をとらぬ人々→〔作中人物〕1cの『サザエさん』(長谷川町子)第29巻118ページ。

*生類が不死であると、世界が生物であふれてしまう→〔死〕8の『マハーバーラタ』第12巻「寂静の巻」。

 

【豚】

★1.豚妻。

『太平広記』巻439所引『集異記』  中秋の晩、四明山に住む李汾のもとを美しい女が訪れ、二人は語らい合い一夜をすごす。鶏鳴とともに帰る女をひきとめようと、李汾は女の靴を片方取り上げ、衣類籠の中へ隠す。明るくなってから見ると、靴と見えたのは豚の蹄で、近所の豚小屋まで血がしたたっていた。

★2.転生して豚になる。

『西遊記』百回本第8回  猪八戒の前身は、天の川にいた天蓬元帥だったが、酔って嫦娥にたわむれたため、玉帝に罰せられ下界に落とされた。彼はこの世でまっとうな者に生まれ変わろうと、胎内に宿ったものの、間違えて雌豚の腹に入り、豚の姿で生まれてしまった。

★3.人間の魂が豚の中に入る。 

『聊斎志異』巻6−223「杜翁」  杜翁が町外れにいて、急に夢心地になった。彼は六〜七人の美しい娘を見て、あとについて行く。娘たちは酒売りの王氏の家に入ったので、杜翁も門内へ踏み込む。いつのまにか彼は、囲いの中で仔豚たちと一緒にいて、自分も仔豚になっていた。彼はあわてて頭を壁にぶつけ、気がつくと人間に戻っていた。あとで王氏に尋ねると、「頭をぶつけて死んだ仔豚がいる」と言った。 

★4.悪霊も豚の中に入る。 

『マタイによる福音書』第8章  悪霊にとりつかれ狂暴になった者二人が、墓場から出てイエスの所へ来る。遠くに豚の群れがいたので、悪霊どもはイエスに「我々を追い出すなら、あの豚の中にやってくれ」と願う。イエスが「行け」と言うと、悪霊は二人から出て豚にとりつく。豚の群れは皆崖を下り、湖に入って死ぬ〔*『マルコ』第5章・『ルカ』第8章では、悪霊にとりつかれたのは一人の男。悪霊の名は「多数」を意味する「レギオン」。また『マルコ』第5章では、豚の群れは二千匹〕。

★5.幾万匹もの豚。

『夢十夜』(夏目漱石)第10夜  庄太郎が、身分のありそうな女に連れられて山へ行き、絶壁の上に立たされる。豚が寄って来て庄太郎をなめようとするので、彼は洋杖(ステッキ)で豚の鼻づらを打つ。豚は崖下へ落ちて行く。するとまた一匹あらわれる。青草原の向こうから、幾万匹か数え切れぬ豚がやって来る。庄太郎は洋杖で一つ一つ豚を打って、崖下へ落とし続ける。七日六晩が過ぎ、とうとう庄太郎は豚になめられて倒れた。

★6.子豚の三兄弟。

『三匹の子豚の物語』(イギリスの昔話)  三匹の子豚兄弟がいた。一番目の子豚は藁の家、二番目の子豚はハリエニシダの家を作った。狼が来て、藁の家もハリエニシダの家も、フーのプーのブーで吹っ飛ばし、子豚たちを食べてしまった。三番目の子豚は煉瓦の家を作ったので、狼がフーのプーのブーをやっても吹き倒せない。狼は煙突からの侵入を試みるが、子豚は狼を大鍋の中に落とし入れ、茹で上げて夕御飯にした。

★7.豚たちが革命を起こす。

『動物農場』(オーウェル)  ジョーンズ氏の農場の動物(豚・牛・馬・羊・犬・鶏など)が革命を起こし、人間たちを追い払う。動物たちは、「二本脚で歩く者は敵だ」「動物は他の動物を殺さない」「すべての動物は平等だ」などの七戒を制定する。しかし実際は、豚が他の動物を支配し、豚たちの内部でも対立が起こる。ある豚は独裁者となり、ある豚は亡命し、ある豚は裏切り者として処刑された。やがて豚たちは酒を飲み、服を着て、二本足で歩くようになる。近隣の農場主たちが招待され、宴会が開かれるが、どちらが豚か人間か、もはや見分けがつかなかった。

 

*豚七匹を捕らえたら、空の北斗七星が消えた→〔星〕6aの『酉陽雑俎』巻1−34。

  

【双面(ふたおもて)】

★1.死霊Aが生者Bにとりつく。さらに死霊Aは、生者Bとそっくり同じ姿で出現して、AとBが同じ振りで舞う。

『二人静』(能)  吉野の勝手明神に仕える菜摘女に、静御前の霊が取りついて写経供養を請う。勝手明神の神職が「静御前ならば、生前は舞いの名手だったのだから、舞いをお見せ下さい」と言う。菜摘女は霊に取りつかれた状態のまま、宝蔵にある静御前の衣裳を着て、舞い始める。そこへ、菜摘女と同じ衣裳を着た静御前が現れる。二人は形影相伴うように、そっくり同じ振りで舞う。

★2.死霊Aと死霊Bが合わさって一体になる。死霊(A+B)は、生者Cとそっくり同じ姿で出現し、(A+B)とCが同じ振りで踊る。

『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)「隅田川渡しの場・双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)」  吉田家の嫡男松若と愛人お組の前に、お組そっくりの娘が現れる(*実は法界坊の霊と野分姫の霊が合体したもの→〔二人一役〕4)。どちらが本物か見分けがつかないので、吉田家に仕える女船頭お賤が、二人のお組に踊りを踊らせる。二人とも、そっくり同じ振りで踊る。「かくなるうえは」と、お賤は浅草観世音の尊像を突きつける。観世音の功力(くりき)によって、にせお組は退散する。

 

【双子】

★1a.瓜二つのため、間違えられる。

『古都』(川端康成)  中京(なかぎょう)の呉服問屋の娘千重子と北山杉の村の娘苗子は双子だった。西陣の織り手・秀男は千重子に思いをよせ、祇園祭りの夜、苗子を千重子と思い「帯を織らせてくれ」と頼む。後に秀男は人違いと知るが、千重子の形代(かたしろ)として苗子に結婚を申しこむ。

『十二夜』(シェイクスピア)第3〜4幕  双子の兄セヴァスチャンと妹ヴァイオラは、船の難破によって生き別れとなり、ヴァイオラは身を守るために男装する。オリヴィア姫がヴァイオラを男と思って求愛し、ヴァイオラは困惑する。そこへセヴァスチャンが現れたので、オリヴィア姫は彼をヴァイオラと間違えて、結婚式を挙げてしまう〔*最後に間違いが明らかになり、ヴァイオラは女に戻ってオーシーノウ公爵と結ばれる〕→〔仲介者〕3

『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第7話  メオは瓜二つの兄チェンツォと間違えられ、兄の妻と床をともにする。しかしメオはシーツを二つに分けて、兄の妻に触れないようにする。後にチェンツォは、妻とメオがいっしょに寝たと誤解して、メオの首を切り落とす→〔草葉〕1

★1b.名前まで同じの双子。

『隅田川』(川端康成)  行平と友人須山とが買いなじんでいた双生児姉妹の娼婦は、二人とも「たき子」という名前だった。「役所の戸籍係がよく受けつけたものだ」と須山が驚くと、彼女たちは「漢字と仮名、それとも、平仮名と片仮名にしたのかもしれないわ」と言った→〔姉妹〕3

『間違いの喜劇』(シェイクスピア)  双子の兄弟(*ともにアンティフォラスという名)と彼らの召使の兄弟(*これも双子で、ともにドローミオという名)は、赤ん坊の頃、船の難破のため別れ別れになる。二十数年後、兄アンティフォラスと兄ドローミオが住む町に、弟アンティフォラスと弟ドローミオがやって来たため、町の人々は彼らを何度も見間違う。

*瓜二つで名前も同じだが、双子ではない→〔同名の人〕1bの『ふたりのベロニカ』(キェシロフスキ)。

★1c.双子の一方が善良、他方が邪悪。

陸地と動植物などの起源譚(北アメリカ・ヒューロン族の神話)  女神が産んだ双子の一方は善良、他方は邪悪だった。邪悪な方は、人間の脅威となる蛇・狼・熊・蚊・ヒキガエルなどを、途方もなく巨大に造った。善良な方は、それら巨大な動物たちと戦って打ち負かし、それぞれの大きさを、人間の手に負える程度に小さくした。双子は、世界の主を決めるために果し合いをする。邪悪な方が負けて、世界の西の果てへ去る。この時から人間も、死ぬと西の果てへ行かねばならなくなった。

*一人の人間が、善半身と悪半身に分かれる→〔分身〕4bの『まっぷたつの子爵』(カルヴィーノ)。 

★2.男女の双子。

『アッシャー家の崩壊』(ポオ)  双子の兄ロデリックと妹マデラインが、沼の傍らの古い館に住む。妹マデラインが病死したので、遺骸を棺に納め地下室に安置する。しかし彼女はまだ生きており、一週間後の夜、屍衣姿で現れ、兄ロデリックに倒れかかって死ぬ。兄ロデリックも、恐怖で死ぬ。館は崩れて沼に沈む。

*→〔兄妹婚〕3

★3a.親が、双子の一人を残し一人を捨てたため、双子が互いを知ることなく別々に育つ。

『仮面の男(鉄仮面)』(デュマ)8〜9  ルイ十三世と妃アンヌとの間に双子の男児が誕生する。王位継承争いが起きることを恐れたルイ十三世は、後から生まれたフィリップを田舎の家に送る。フィリップは家から一歩も出ることなく育つが、十五歳の時、彼は自分が王子であることを知り、そのためバスティーユ監獄に入れられる。

『古都』(川端康成)  北山杉の村の家に生まれた双子の女児のうち、一人は京都の呉服問屋の店先に捨てられた。双子は嫌われることがあり、また、双子は育ちにくいといわれたからでもあった。捨てられた女児は、子供のない呉服問屋夫婦に拾われ、千重子と名づけられた。千重子は二十歳の時、北山杉の村で育った双子の姉妹・苗子と、偶然めぐり合った。

『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)(河竹黙阿弥)「割下水伝吉内」  夜鷹宿を営む伝吉の家に男女の双子、十三郎・おとせが生まれた。男女の双子は特に忌まわしいものと見なされたので、伝吉は世間体を恥じ、「娘は将来女郎にすれば金になる」と考えておとせを家に残し、十三郎を捨てた→〔兄妹婚〕3

★3b.両親が離婚する時、双子を分けたため、双子が互いを知ることなく別々に育つ。

『ふたりのロッテ』(ケストナー)  音楽家パルフィーとその妻の間には、幼い双子の女児ルイーゼとロッテがあった。彼らは離婚するに際し、パルフィーがルイーゼを、妻がロッテを育てることにした。そのためルイーゼもロッテも、自分は一人っ子だと思って育った。二人は、九歳の夏に子供たちの休暇村で偶然出会い、自分たちが双子であることを知った。

*子供が一人の場合は、父と母のどちらがその子を引き取るか、大きな問題になる→〔離縁・離婚〕4cの『クレイマー、クレイマー』(ベントン)。

★3c.親が双子の一方を捨てるが、後に取り戻す。

『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「迷子札」  旗本の奥方が双子を産んだ。世に言う畜生腹なので、そのうちの一人・鶴松を若君とし、もう一人・乙松を出入りの職人・伊之助に与えた。五年後、鶴松が毒殺されたので、旗本家ではひそかに乙松を取り戻し、鶴松に仕立て上げた。伊之助は旗本家を強請(ゆす)り、殺された。乙松失踪、伊之助斬殺という事件を捜査した銭形平次は、旗本屋敷に乗りこんで、真相を明らかにした。

★3d.双子の一方が、地下世界へ行ってしまう。

『地下ぐらの娘』(ソビエトの昔話)  子だくさんの家に双子の女児が生まれたので、母親が「一人だけでも、ポドポルニク(=地下ぐらの霊)が連れて行ってくれたらねぇ」と言う。すると女児の一人が消えてしまった。残った一人が十七歳の娘になった時、ペチカのそばの地下ぐらが開き、ポドポルニクの所で育った娘が現れて「私たちは双子だ」と教える。そして「私はよその地下ぐらへ嫁に行く」と告げ、それっきり二度と姿を見せなかった。

★4a.胴体部分が癒着した双子。シャム双生児。

『子易物語』(御伽草子)寛文刊本  天武天皇の代、佐伯長者が豊受明神に申し子して、背中合わせに癒着した男女の双子(玉松丸・玉若姫)を授かる。彼らは、日本を滅ぼす第六天の魔王の化身と間違われるが、神が二人を救い、背中も離れる。後、天皇の勅で結婚した二人は、人々の安産を願う子易地蔵を桜木で造り、昇天する〔*赤木文庫蔵写本は、七十歳過ぎの尼が、腋で癒着した男女を産むなど、大きく異なる〕。

『大智度論』巻3  摩伽陀国王の子は、頭が一つ・顔が二つ・腕が四本あった。国王はその子の身体と首を引き裂き、荒野に捨てた。すると女羅刹が来て、身体を接合し乳を与えて育てた。この子は成長後、強大な力を持ち、天下を治めた。

『日本書紀』巻11仁徳天皇65年  飛騨国の宿儺(すくな)という人は、身体は一つで二つの顔があった。顔はそむき合い、頭頂は一つだった。それぞれ手足があり、左右に剣を佩いて、四つの手で弓矢を使った。皇命に従わず民を略奪したので、難波根子武振熊がこれを殺した。

『半神』(萩尾望都)  「わたし(ユージー)」と妹ユーシーは、シャム双生児である。妹は「わたし」から養分を吸い取って生きており、天使のごとく美しい。「わたし」は、妹にはない知性を持っているが、醜くやせている。このまま放置すれば二人とも死ぬので、「わたし」たちは十三歳の時、手術で切り離される。妹はかつての私のようにやせて死に、「わたし」はかつての妹そっくりの美しい少女になる。

*→〔草葉〕1の『捜神記』巻14−1。

*原始時代の人間は、シャム双生児のごとき形態をしていた→〔人間〕1bの『饗宴』(プラトン)。

★4b.人工的にシャム双生児を造る。

『孤島の鬼』(江戸川乱歩)  佝僂(せむし)として生まれた諸戸丈五郎は、世を呪い人を呪ったあげく、貧しい人々から嬰児を買い集め、箱詰めにしたり皮をはいだりして不具者を作り、見世物小屋に売る。丈五郎は、かつて彼の求愛を拒絶した未亡人の孫娘・緑を手に入れ、これを別の男児と腰部で癒合させてシャム双生児とし、育て上げて高く売ろうとする。「私(蓑浦青年)」は、紀州の孤島にある丈五郎の屋敷へ乗り込んで緑を救い出し、彼女は手術で男児から切り離される。「私」は緑と結婚する。

★4c.胴体部分が癒着した三つ子。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章  ゲリュオネスは、三人の男の上半身が腹で一つになっていて、わき腹と太腿から下は、また三つに分かれる、という身体を持っていた。ヘラクレスが彼の牛を盗んだため、ゲリュオネスはヘラクレスを追い、射られて死んだ。

★5.双子の一方が畸形嚢腫。

『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「畸形嚢腫」  双子の一方が母胎内で畸形嚢腫となり、もう一方の身体の中に包みこまれ、一人の女性として生まれる。彼女は成長後、体内の嚢腫が肥大したので、ブラック・ジャックが手術する。しかし、嚢腫の「生きたい」という意志を知ったブラック・ジャックは、合成繊維で幼女の外形を造り、その中へ嚢腫内の臓器を移す。ブラック・ジャックは幼女を女性に示し、「あなたの双子の妹だ」と告げるが、女性は「こんな子、妹じゃない」と言って、去る〔*幼女はピノコと名づけられ、ピノコは自らをブラック・ジャックの妻と称する〕。

*双子の一方が生まれない→〔人面瘡(人面疽)〕2の『人面瘡』(横溝正史)。

★6.父親の異なる双子。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章  アルクメネの夫アムピトリュオンが出征中に、ゼウスがアムピトリュオンの姿をとって訪れ、アルクメネと交わる。その翌晩に、本物のアムピトリュオンが帰って来る。やがて彼女は双子を産む。一人は、ゼウスの胤で一夜だけ年上のヘラクレス、もう一人は、アムピトリュオンの子のイピクレスである。

『変身物語』(オヴィディウス)巻11  ある日、アポロンとメルクリウス(=ヘルメス)が同時に、美貌の娘キオネを見て恋情を抱いた。アポロンは夜まで待ったが、メルクリウスはすぐに魔法の杖でキオネを眠らせ、思いを遂げた。夜になってからアポロンが来て、キオネと交わった。やがてキオネは、双子の男児を産んだ。一人はメルクリウスの子で、ずる賢い性質であり、もう一人はアポロンの子で、歌と竪琴の名手になった。

★7.父親の異なる二組の双子(あるいは四つ子)。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第10章  ゼウスは白鳥の姿となって王女レダと交わり、また、同じ夜にテュンダレオスもレダと交わった。その結果、彼女は四人の子を産んだ。ゼウスからは男子ポリュデウケス(=ポルックス)と女子ヘレネが、テュンダレオスからは男子カストルと女子クリュタイムネストラが生まれたのである〔*ポリュデウケスとカストルは後に天に上げられ、双子座となった〕。 

★8.双子の起源。

『日本書紀』巻1・第4段本文  イザナキとイザナミが結婚し、本州・四国・九州をはじめとする八つの大きな洲(しま)を産んだ〔*それゆえ日本を大八洲国(おほやしまのくに)と言う〕。その中の億岐洲(=隠岐島)と佐度洲(=佐渡島)は、双子として産んだ。世の中の人が双子を産むことがあるのは、これにならったのである。

★9.双子が生まれた時の父親の言動。

『遠野物語拾遺』240  双児が生まれた時には、父親は屋根の上から近所に聞こえるだけの大声で、「俺あ嬶(かかあ)双児を産んだでぁ」と、三度喚(よ)ばわらなくてはならぬ。そうせぬと、続けざまにまた双児が生まれる、といわれている。

『日本書紀』巻7景行天皇2年3月  景行天皇は、播磨稲日大郎姫を皇后とした。皇后は双子を産んだので、天皇は不審に思い、碓(=臼)に向かって叫んだ〔*何を叫んだかは不明〕。それで双子の兄を大碓皇子、弟を小碓尊と名づけた。小碓尊は、後の日本武尊(ヤマトタケルノミコト)である〔*『古事記』中巻では、大碓・小碓を兄弟とするだけで、双子とは記さない〕。

★10.胎内にいる時から争う双子。

『創世記』第25章  双子のエサウとヤコブは、母リベカの胎内にいる時から、互いに押し合っていた。出産の時が来ると、赤くて全身が毛皮の衣のような兄エサウが、先に出て来た。その後で弟ヤコブが出て来たが、ヤコブの手はエサウのかかとをつかんでいた。 

 

【二つの宝】

 *関連項目→〔宝〕〔三つの宝〕

★1.二ふりの剣。

『捜神記』巻11−4(通巻266話)  干将莫邪(かんしょうばくや)が楚王のために、三年がかりで剣を鍛えた。剣の出来上がりが遅いので、楚王は怒った。干将莫邪は殺されることを覚悟して、雌雄の一対になっている剣のうち、雄剣を隠し、雌剣だけを献上した。楚王は干将莫邪を殺した。

『丹下左膳』(林不忘)  「乾雲(けんうん)」・「坤龍(こんりゅう)」は一対の剣で、離れ離れになると夜泣きをして呼び合う。二剣は、神変夢想流の小野塚鉄斎のもとにあったが、隻眼隻手の丹下左膳が「乾雲」を奪い去った。鉄斎の高弟・諏訪栄三郎は、「坤龍」を持って丹下左膳を追う。栄三郎と左膳は、剣に引かれて何度も出会い、互いに相手の剣を得ようと斬り合う。最後は船上での戦いとなり、かなわぬと見た左膳は二剣を海に投ずる。栄三郎が水にもぐって二剣を手にし、左膳は船板筏に乗って沖へ流れて行く。

★2.剣と折紙(=鑑定書)。

『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)  福岡貢(みつぎ)は旧主・今田万次郎のために、盗まれた名刀「青江下坂(あおえしもさか)」の行方を捜し、取り戻す。しかし折紙がなければ、本物の「青江下坂」と認められない。折紙を持つのは、悪人・徳島岩次である。そこで貢の恋人・油屋の遊女お紺が、岩次になびくふりをして折紙を手に入れる。貢とお紺の働きによって、今田万次郎は名刀と折紙を得ることができた。

『新可笑記』(井原西鶴)巻1−2「ひとつの巻物両家有」  「楠正成の後裔」と称する侍二人が、ともに正成所有の剣と正成筆の連歌懐紙を提示して、仕官を望む。鑑定家が調べると、一人は懐紙が本物で剣が模造、もう一人は剣が本物で懐紙は写しだった。これは悪商人が、本物の剣と懐紙をそれぞれ贋物とセットにして、売ったのだった。

『宿無団七時雨傘(やどなしだんしちしぐれのからかさ)  団七茂兵衛は湊川家旧臣で、紛失した「二字吉光」の九寸五分を捜している。茂兵衛に味方する治助が「二字吉光」を入手するが、折紙は悪侍・高市数右衛門が所持しており、この二品が揃わねば茂兵衛の帰参は叶わない。茂兵衛の愛人お富が茂兵衛に愛想づかしをし、数右衛門になびくふりをして折紙をだまし取る。しかし茂兵衛はお富の本心を知らず、怒って大勢を斬り殺す。

★3.槍と杯。

『パルジファル』(ワーグナー)  ある夜、天国の使者が現れ、イエス=キリストの処刑に用いられた聖槍と、流れ出る血を受けた聖杯を、二つの宝としてティトゥレル王に与えた。後、妖術師クリングゾルが聖槍を奪って、ティトゥレル王の息子アンフォルタス王の脇腹に深手を負わせる。アンフォルタス王は傷に苦しみつつ、聖杯を拝むことによって生きながらえる。若者パルジファルがクリングゾルから聖槍を取り戻し、アンフォルタス王の傷を治す→〔接吻〕1

★4.二つの指輪。

『愛の指輪』(星新一『おせっかいな神々』)  古道具屋が、恋に悩む青年に、小箱に入った二つの指輪を勧める。指輪には魔力があり、一つを男の指にはめ、もう一つを女の指にはめると、二人は引き合い、結婚する。古道具屋も、その指輪を用いて美貌の妻を得たのだった→〔指輪〕1

★5.二つの宝を手放すと死ぬ。

『新浦島』(幸田露伴)  浦島太郎の弟・次郎の家では、「玉手箱」と「譲り状」の二品を、代々持ち伝えていた。この二品を子供に譲り渡すと、親はすぐに死ぬ定めだった。九十九代目の浦島次郎夫妻は、爺(=夫)が七十一歳、婆(=妻)が六十四歳の時、「もう十分に生きた」と言って、「玉手箱」と「譲り状」を、二十五歳になる百代目の次郎に与える。祝いの宴果てて後、爺婆が寄り添って眠るうちに、彼らの魂は天へ昇って行った。

 

【二人夫】

★1a.二人の男が一人の女を愛し、女はどちらを選ぶこともできず自死する。

『草枕』(夏目漱石)2  昔、長者の娘長良の乙女は、ささだ男とささべ男に懸想され、どちらになびこうか思い煩ったあげく、「秋づけば尾花が上に置く露の消ぬべくも我は思ほゆるかも」と詠んで淵川へ身を投げた〔*茶店の婆さんが「余」にこの話をして、「長良の乙女と那美さんとは身の成り行きがよく似ている」と言う〕。

『万葉集』巻9 1813〜1815歌  茅渟壮士(ちぬをとこ)・菟原壮士(うなひをとこ)の二人が、葦屋(あしのや)の菟原娘子(うなひをとめ)に求婚して争った。菟原娘子は「いやしい私のために二人が争うのは堪えられない」と母に語り、自ら命を絶った。二人の男もそのあとを追った。

『万葉集』巻16 3808〜3809歌  二人の男が桜児に求婚して、激しく争った。桜児は、「一人の女の身で二人の男に連れそうことはできない。私が死んで、二人の争いをやめさせるしかない」と言い、林の中に入って縊死した。

*→〔入水〕1の『大和物語』第147段。

★1b.二人の男が一人の女を愛し、女はどちらを選ぶこともできず自死しようとするが、死にきれない。

『源氏物語』「浮舟」  薫は浮舟を宇治の山荘に住まわせ、隠し妻とする。匂宮がこれを知り、山荘に入り込んで浮舟と関係を持つ。薫も匂宮も、それぞれ浮舟を京へ移そうと準備をする。薫と匂宮の衝突が避けられない状況になり、浮舟は思い悩んで宇治川への入水を決意する。しかし彼女は死にきれず、横川の僧都に救われる。

★2.二人の男が一人の女を愛し、男が二人とも自殺する。

『こころ』(夏目漱石)  大学生の「先生」とその友人Kは、ともに下宿先のお嬢さんに恋をする。「先生」がKを出し抜いてお嬢さんと婚約し、Kは自殺する。「先生」はお嬢さんと結婚するが、二人の間に子供はできず、十余年後に「先生」も自殺する〔*Kは「先生」の隣の部屋で剃刀自殺し、血まみれの死体を「先生」に見せる。「先生」は妻(=お嬢さん)に血の色を見せぬよう、妻の知らない間にこっそりこの世からいなくなろう、と考える〕。

★3.二人の男が一人の女を愛し、女が一方の男を殺す。

『テス』(ハーディ)  田舎娘テスは、名家の道楽息子アレックに処女を奪われ私生児を産む。後、テスは牧師の息子エンジェルと結婚するが、彼女が過去を告白すると、潔癖なエンジェルは南米へ去る。テスはアレックと再会し、その愛人となる。そこへエンジェルが戻って来たので、ついにテスはアレックを殺す。

★4.二人の男が一人の女を愛し、一方の男が女を殺す。

『白痴』(ドストエフスキー)  癲癇の持病を持つムイシュキン公爵と商人の息子ロゴージンとが、美貌のナスターシャを愛する。彼女の心は二人の間を揺れ動いた末に、ムイシュキンとの結婚を意志する。ところが結婚式当日、ナスターシャはロゴージンに「私をどこかへ連れて行って」と請い、行方をくらます。翌日の夕刻、ロゴージンは自邸の寝室にムイシュキンを呼び、その日の未明に刺し殺したナスターシャの死体を示す。ロゴージンとムイシュキンは死体のそばで夜を明かす。

★5.二人の男が一人の女を愛し、一方の男が他方の男を殺す。

『源氏物語』「浮舟」  浮舟の乳母子(めのとご)右近の姉は、常陸国で男を二人持っていた。姉が新しい男の方に心を寄せたので、もとからの男が妬み、新しい男を殺した。男は常陸国から追放され、姉も国守の館を追われた。

★6.二人の男が一人の女を愛し、一方の男が女への恋をあきらめて身を引く。

『カサブランカ』(カーチス)  反ナチ抵抗運動の指導者ラズロと妻イルザは、ゲシュタポに追われるヨーロッパを逃れてアメリカへ渡ろうと、中継地点・北アフリカのカサブランカへやって来る。街の酒場兼賭博場を経営するリックは、一時期イルザと恋人同士だったことがあり、二人は思いがけぬ再会をする。彼らは今も互いを愛しているが、リックはイルザへの恋をあきらめ、ラズロとイルザが飛行機で出発できるようにはからってやる。

『巴里のアメリカ人』(ミネリ)  アメリカ青年ジェリーは画家をこころざし、パリに住んでいる。ピアニストのアダムや歌手のアンリなどの友人もできた。ジェリーはパリ娘リズに一目ぼれするが、彼女はアンリの婚約者だった。アンリは少女時代のリズの命の恩人であり、リズはアンリと結婚してアメリカへ渡るはずになっていた。しかしリズの心はジェリーに傾き、二人が別れを惜しんで語り合う様子を、物陰からアンリが見ていた。アンリはいさぎよく身を引き、ジェリーとリズはしっかり抱き合った。

『巴里の屋根の下』(クレール)  アルベールは街角でシャンソンを歌い、集まった人たちに歌唱指導し楽譜を売って、生活している。彼は田舎娘ポーラと知り合い、アパートで一緒に暮らす。ところがアルベールは泥棒の嫌疑をかけられ、二週間ほど留置場に入れられる。疑いが晴れて出所して来ると、親友ルイが、ポーラと恋仲になっていた。アルベールはルイと格闘するが結局身を引き、翌日からまた街角に立ってシャンソンを歌う。

★7a.一人の男との関係が終わった後に、別の男に愛される。後の男が帝や関白の子などで、最初の男よりもはるかに身分が高く、女が幸福な生活に入る。

『岩屋の草子』(御伽草子)  対の屋の姫君ははじめ四位少将に愛されるが、姫君水死の噂を聞いて少将は出家する。姫君は海士夫婦に養われ、やがて関白の息子二位中将に見出されてその妻となる→〔継子〕3

『しぐれ』(御伽草子)  故三条中納言の姫君は清水寺で左大臣の息子中将さねあきらと出会い、契りを結ぶ。しかし中将は右大臣家の婿になり、姫君を忘れてしまう。姫君は、乳母の娘の縁者・丹後の内侍のもとに身を寄せ、やがて帝に見出され、承香殿の女御となって皇子・皇女を産む。

『忍音物語』(御伽草子)  嵯峨に母尼と住む故中務宮の姫君は四位少将に見そめられ、若君も誕生する。後、彼女は帝に愛され、承香殿の女御となって東宮を産む。

『とりかへばや物語』  権大納言家の姫君は男装していたが、宰相中将に女であることを見破られ、懐妊する。それを機に姫君は宇治に隠れて男児を産み、本来の女姿に戻って京に還る。姫君は尚侍(ないしのかみ)となって帝に愛され、東宮を産み、中宮となる。年月を経て帝は譲位し、東宮が即位、中宮(=姫君)は国母となる。

*女が貧しさゆえ夫と別れ、京に出て宮仕えし、身分の高い男と再婚する→〔再会〕2の『大和物語』148段。

*殺された夫の仇を討つために、第二の夫を持つ→〔仇討ち〕5aの『ニーベルンゲンの歌』。

★7b.二人の天皇を夫とする。

『平家物語』巻1「二代后」  右大臣藤原公能の娘・多子は、第七十六代・近衛天皇に入内し、后となった。久寿二年(1155)に近衛天皇は崩御し、多子は内裏を出て近衛河原の御所に移り住んだ。永暦元年(1160)、第七十八代・二条天皇(=近衛天皇の甥)が、「天下第一の美人」と評判の多子を后に望み、強引に再入内させる。清涼殿に上った多子は、近衛天皇の時代を偲んで、「思ひきや憂き身ながらに巡り来て同じ雲井の月を見むとは」と詠歌した。

★8.最初の夫も、次の夫も死に、女も自殺する。

『クレオパトラ』(マンキーウィッツ)  エジプトの女王クレオパトラは、ローマの武将シーザーと結婚し、男児をもうける。しかしシーザーは、皇帝になろうとしたために暗殺される。三年後、かつてシーザーの右腕であったアントニーが、クレオパトラと結婚する。やがてアントニーは、ローマと敵対することになる。アントニーはローマ軍との戦いに敗れ、自殺する。クレオパトラはアントニーの死を見取った後、毒蛇の牙を胸に当てる。

★9.夫の死後、その夫を殺した男と恋愛関係になる。 

『乱れ雲』(成瀬巳喜男)  由美子の夫が、商事会社の青年社員・三船史郎の運転する車にはねられて死んだ。事故は不可抗力で、史郎は無罪になった。由美子は史郎を憎むが、何度か顔を合わせるうち、憎しみは愛へ変わった。史郎はパキスタンのラホールへ転勤を命ぜられ、由美子は彼について行く決心をする。しかし出発の直前、二人は自動車事故を目撃する。瀕死の夫にすがって泣く妻の姿は、かつての由美子自身を思い出させた。由美子は、史郎と別れねばならないことを悟った。

★10.二人の男と一人の女、合計三人が仲良く暮らす。

『三原色』(三島由紀夫)  計一は二十五歳の美青年、妻の亮子は十九歳の美女である。計一は、友人である十九歳の美少年俊二を招き、俊二は亮子と関係を持つ。それを知った計一は俊二に「僕たちは兄弟になれた」と言って喜び、計一と俊二は抱き合って接吻する。亮子は「私が余計者なのだ」と思い、去ろうとするが、俊二が「僕たちは三原色だ。一人でも欠ければ、世界中の色は減ってしまう」と言って引き止める。彼らは、「三人でいつまでも仲良く暮らそう」と誓う。  

★11.現世の夫と来世の夫。

『遠野物語』(柳田国男)99  土淵村の助役北川清の弟に、福二という人がいる。夏の初めの月夜に便所に起きたが、便所は遠く、渚の道を歩いて行った。先年の大海嘯(つなみ)で死んだ福二の妻と、同じく海嘯で死んだ里の男が、近づいて来る。妻は「今はこの人と夫婦になっている」と、福二に言う。その男は、妻が結婚以前に心を通わせていた男だった。福二は彼ら二人の後を追うが、「死者なのだ」と気づき、追うのをやめて帰って来た。 

*現世の妻と来世の妻→〔二人妻〕7bの『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)』。

*夜の夫と昼の夫→〔夜〕3b

 

*中年夫婦と青年の葛藤→〔船〕7aの『水の中のナイフ』(ポランスキー)。 

 

 

【二人妻】

★1.男がもとの妻のほかに愛人を作るが、やがて、もとの妻の美質に目覚める。

『伊勢物語』第23段  大和に住む幼なじみの男女が結婚するが、やがて男は隣国高安に愛人を作って通う。しかし妻が「風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君が一人越ゆらむ」と、ひたすら夫の身を案ずる歌を詠んでいるのを知って、男は妻のもとへもどる。後に愛人を訪れると、不作法な食事をしていたので、男はうとましく思う。

『今昔物語集』巻26−11  三河国の郡司が、二人の妻にそれぞれ蚕を飼わせるが、本妻の所では蚕が皆死んでしまい、郡司は寄りつかなくなる。本妻の飼い犬が、ただ一匹残った蚕を食べて多量の糸を出し、それを知った郡司は本妻のもとへ戻る。

『堤中納言物語』「はいずみ」  男が愛人を作り、妻を家から追い出す。妻は、送ってくれた小舎人に「いづこにか送りはせしと人問はば心はゆかぬ涙川まで」の歌を託す。男は歌を聞いて後悔し、妻を連れ戻す。後に愛人の所を訪れると、愛人は白粉と掃墨とを間違えて顔に塗っていたので、男は逃げ帰る。

*→〔歌〕3a

★2a.一ヵ月を十五日ずつに分けて、二人の妻の所へ通う。

『源氏物語』「匂兵部卿」  夕霧は、幼なじみの雲居の雁との恋を実らせて結婚したが、後に彼は亡友柏木の妻・落葉の宮と関係を持った。そのため、雲居の雁は怒って実家へ帰ってしまった。結局夕霧は、落葉の宮を六条院の丑寅の町に迎え取り、三条殿に住む雲居の雁の所と等分に、一ヵ月に十五日ずつ、律儀に通うことにした。

『とりかへばや物語』  権大納言兼大将である人が、二人の妻を持っており、どちらからも怨まれぬよう、一ヵ月を十五日ずつに分けて通った。一方に若君、もう一方に姫君が生まれたが、若君はひどく内気であり、姫君はきわめて活発な性格だったので、権大納言は「二人の性格を取り替えたいものだ」と嘆いた。

『鈍太郎』(狂言)  三年ぶりに西国から帰京した鈍太郎は、下京の本妻からも上京の妾からも追い出され、腹いせに出家姿になる。しかし結局仲直りし、鈍太郎は一ヵ月の上十五日を上京の家へ、下十五日を下京の家へ行くことで皆得心する。

*→〔夢語り〕1の『夢見小僧』(昔話)。

*『ゼロの焦点』(松本清張)の鵜原憲一(*→〔一人二役〕1a)が、禎子と結婚した後に、一ヵ月のうち十日を東京で禎子と暮らし、二十日を金沢の内妻のもとで暮らす二重生活をしたならば、古代の二人妻物語の昭和版になる。

★2b.妻と妾が一日交替で、夫とベッドを共にする。

『華麗なる一族』(山崎豊子)  阪神銀行頭取・万俵大介は、妻寧子(やすこ)との間にもうけた子供たちの家庭教師として、高須相子を雇い、やがて彼女を愛人にする。広大な邸宅に妻妾が同居し、寧子と相子は一日交替で、大介とベッドを共にする。時には、三人で同衾することもあった。寧子は獣のような行為を嫌悪したが、大介の命令には逆らえなかった。大介が六十歳を過ぎても、こうした生活は続いた。 

★2c.二人の妻を平等に愛そうとして、盲目になる。

『百喩経』「二人の妻のために両眼を失う喩」  男が二人の妻を持つ。一方に近づくともう一方が怒るので、男は二人の妻の中間に、仰向きになって寝る。大雨が降り、雨漏りがして、男の眼の中に入ってくる。男は起きて雨を避けることなく、律儀にそのままの姿勢で寝ていた。その結果、男は両眼とも失明した。

*二人の妻を持ったため、禿げ頭になる→〔二人妻〕3b。 

★2d.想像上の二人妻。

『ふたりのロッテ』(ケストナー)  双子の少女ルイーゼとロッテは、「わたしたちはそっくりなんだから、同じ男性に愛され、わたしたちも同じ男性を好きになるわ。そして月・水・金はルイーゼが、火・木・土はロッテが、その人の奥さんになるの」と言う。二人の母は、「それもいいわね。そのかた、日曜日はお休みよ!」と言う。

★3a.二人の妻が夫を譲り合う。

『権助提灯』(落語)  商家の旦那が本妻のほかに妾を持つが、二人ともまったくやきもちを焼かない。ある冬の夜、本妻と妾が互いに相手を思いやって、旦那に「今夜はあちらへ行っておやりなさい」と勧める。旦那は権助に提灯をつけさせ、本宅と妾宅を何度も行き来する。そのうちに夜が明ける。

『さいき』(御伽草子)  豊前国の佐伯という男の妻が、京にいる夫の愛人を豊前の宅へ迎え、その美貌に感嘆し、彼女に妻の座を譲るべく自らは出家する。それを知って京の愛人も出家し、同じ庵室に籠もる。二人の妻に捨てられた佐伯は、生きて甲斐なき身と、髻切って高野山へ上った。

★3b.二人の妻のために禿げ頭になり、捨てられる。

『三国伝記』巻1−25  中年の男が二人妻を持っていたが、老妻からは「私につりあうように」と言って黒髪を抜かれ、若妻からは「私につりあうように」と言って白髪を抜かれる。男は禿げ頭になって、両方の妻から捨てられる。男は死後転生して犬になる。犬は、大河の東岸の里・西岸の里に食を求めて得られず、泳いで行ったり来たりするうちに、力尽きて溺れてしまう〔*物語の前半部は、『イソップ寓話集』(岩波文庫版)31「ロマンス・グレーと二人の愛人」に類話がある〕。

*二人の妻を持ったため、盲目になる→〔二人妻〕2c。 

★4a.妻妾同居。夫と妻二人、合計三人が仲良く暮らす。

『カター・サリット・サーガラ』「ムリガーンカダッタ王子の物語」5の挿話5  婆羅門カマラ・ガルバには、二人の妻パティヤーとアバラーがあった。年月を経て、老齢となった彼らは一緒に火の中に入り、「未来永劫、われら三人を夫と妻であらしめ給え」とシヴァ神に祈願した。三人はヤクシャ(夜叉)に、ついで人間界に転生したが、つねに夫婦だった。

『春色梅児誉美』(為永春水)  遊女屋唐琴屋の養子丹次郎は、悪番頭のために借金をかかえ、返済に苦しむ。唐琴屋の養女お長と、芸者米八は、ともに働いて丹次郎に金を貢ごうと、さまざまに苦労する。やがて丹次郎とお長は、実はそれぞれ立派な武家の落胤であることがわかり、借金返済の目途もつく。お長は丹次郎の本妻となり、米八は妾となって「お部屋様」と呼ばれ、三人は仲良く暮らした。

『大和物語』第141段  大和掾某が、筑紫から女を連れて来て本妻と一緒に住まわせた。本妻と筑紫の女は、仲良く暮らした。筑紫の女がひそかに他の男をこしらえても、本妻は彼女をかばった。後、筑紫の女が夫と別れて帰郷する時には、本妻は悲しんで山崎まで送り、一日一夜、様々なことを語り合った。

*逆に、二人の男と一人の女、合計三人が仲良く暮らす→〔二人夫〕10の『三原色』(三島由紀夫)。

★4b.妻妾対立。互いに相手を呪い殺そうとする。

『悋気の火の玉』(落語)  浅草の本妻と根岸の妾が、互いに相手を祈り殺そうと藁人形に釘を打ち、結局二人とも死んでしまう。すると本宅からも妾宅からも火の玉が出て、大音寺の前でぶつかり合い、旦那が両者をなだめる。

★5.夫が新しい女に心を移したので、もとの妻が怒って家を出る。

『和泉式部日記』  長保五年(1003)十二月十八日、帥宮敦道親王は愛人の和泉式部を自邸に迎え入れる。親王の北の方(藤原済時女)はこのことに怒り、翌年正月に邸を出て、里下がりしている姉(東宮女御)のもとに身を寄せる。

『源氏物語』「真木柱」  髭黒大将が玉鬘を手に入れ、彼女を自邸に迎えたいと考える。髭黒の北の方は心の平衡を失い、ある雪の夜、玉鬘のもとへ出かけようとする髭黒に、火取りの灰を浴びせかける。北の方は、父式部卿の宮の邸に引き取られる。

『源氏物語』「夕霧」  夕霧と雲居の雁は結婚して十一年、四男三女をもうけた。しかし夕霧が、親友柏木の未亡人・落葉の宮に心を移したため、雲居の雁は怒って父大臣の邸へ帰る。夕霧が迎えに出向いても、雲居の雁は帰ろうとしない→〔二人妻〕2a

★6.二人の妻の死。

『草迷宮』(泉鏡花)13〜14  三浦半島秋谷の鶴谷邸に、若主人喜太郎が東京で修業中に馴染んだ令嬢が、身重の体で養生に来る。その時、喜太郎の妻もまた、臨月に近かった。やがてまず令嬢が、ついで七日後に喜太郎の妻が、いずれも産後母子ともに死ぬ。喜太郎は悲嘆して井戸へ身を投げる。わずかの間に五人が死に、鶴谷邸から葬礼が五つ出る。

★7a.狐妻と幽霊妻。

『聊斎志異』巻2−69「蓮香」  桑子明は、蓮香と李という二人の女と情を交わすが、蓮香は狐、李は死霊だった。桑は一時死霊の陰気を受けて死にそうになり、蓮香の薬で命をとりとめる。後には蓮香も李も人間の娘として転生し、桑と一緒に暮らす。

*→〔不能〕2の『聊斎志異』巻2−75「巧娘」。

★7b.現世の妻と来世の妻。

『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)「隅田川渡しの場・双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)」  吉田家の嫡男松若は、永楽屋の娘お組と恋仲になる。一方、松若の許嫁・野分姫(のわけひめ)は、破戒僧・法界坊に殺される。お組は野分姫の死を悼(いた)み、松若に「この世の御縁は薄くとも、御本妻と定まった野分様。未来(=来世)は必ず添うて上げて下さりませ」と言い、野分姫の霊に「仮のこの世の殿御(=松若)をば、私がお預かり申しましたぞえ」と呼びかける。

*現世の夫と来世の夫→〔二人夫〕11の『遠野物語』(柳田国男)99。

★8a.二人妻の一方がにせもの。

『今昔物語集』巻27−39  京に住む雑色男(ざふしきをのこ)の妻が用事で大路に出て、ずいぶん時間がたってから帰って来る。しばらくして妻そっくりの女が、また帰って来る。雑色男は「一方は狐であろう」と思い、最初に帰って来た妻が怪しい、とにらんで捕まえると、妻は臭い小便をかけ、狐の姿になって逃げて行った。

『遠野物語拾遺』173  佐々木(喜善)君の友人・仲館某の祖父は、お城の家老だった。冬の夜、祖父が本丸から帰宅すると、どこからどこまで寸分違わぬ姿をした二人の奥方が出迎えた。家来の者の機転で、大きな飼い犬を連れて来ると、奥方の一人は狼狽して逃げ去った。

★8b.二人妻が両方とも本物。

『諸国百物語』第11話  出羽の国の侍・杉山兵部の妻が小用に行って戻って来ると、しばらくして妻そっくりの女が、また戻って来る。兵部は「変化の物のしわざ」と悟り、刀を抜いて一方の妻の首を打ち落とす。しかし、それは本物の妻だった。「さてはもう一方が変化のものだったか」と思って、もう一人の妻の首を打ち落とすと、それも本物の妻だった。死骸を数日そのままにしておいても、何の変わりもなかった。

『百物語』(杉浦日向子)其ノ53  信州諏訪の古着商・広造が、ある春の夕べ、家に帰ると妻が二人になっていた。二人はまったく瓜二つで、先祖の戒名から皿小鉢の置場所まで、どちらに何を問うても、滞りなく答える。広造は妻二人と、むつまじく日々を暮らし、双方三人ずつ女子を成した。広造の六人の娘は、皆同じ顔をしている。 

 

*夫が重婚していたことを、新妻が知る→〔夫〕6a。 

*龍宮の妻と人間界の妻→〔龍宮〕1aの『山城国風土記』逸文・『龍宮の婿とり』(昔話)。

*冥途から蘇生したために、二人妻を持つ→〔魂〕5aの『和歌知顕集』「伊勢や日向の物語」。

*二十世紀になっても、昔風の感覚の男が、二人妻を持とうとすることがある→〔不倫〕2の『幸福(しあわせ)』(ヴァルダ)。

 

*→〔妬婦〕に関連記事。

 

【二人同夢】 

★1.二人の人間が同じ夢を見る。

『今昔物語集』巻1−1  癸丑の年の七月八日の夜、摩耶夫人は夢に、「六牙の白象に乗った菩薩が虚空の中より来て、右の脇から身の内に入る」と見た。夫の浄飯王も同様の夢を見た。この夜、釈尊は摩耶夫人の胎中に宿ったのだった。

『捜神記』巻10−11(通巻261話)  謝奉は、「友人郭伯猷が博打の金のことで人と喧嘩し、水に落ちて死んだ」との夢を見た。謝が郭の家へ行って夢の話をすると、郭は「自分も同じ夢を見た」と語り、まもなく倒れて死んだ。

『太平記』巻29「瑞夢の事」  「高師直・師泰兄弟の軍が金鋼蔵王権現・聖徳太子の軍に打ち破られる」との凶夢を、武蔵五郎・川津左衛門の二人が見る。翌朝夢を語り合い危ぶんでいると、はたしてその日、師直らの軍は敗戦した。

『平家物語』巻3「無文」  春日大明神の鳥居とそこに上がる父入道清盛の首を、平重盛が夢に見る。目覚めたところへ、瀬尾太郎兼康が「不思議な夢を見た」といって参上し、重盛の見たのと全く同じ夢を語る。

*→〔額〕3の『山椒大夫』(森鴎外)

★2a.夫婦恋人が、お互い相手を夢に見る。

『転寝草紙』(御伽草子)  大臣家の姫君が、夢で逢った美しい男を恋し、石山寺に参籠して夢の中の男左大将に出会う。一方の左大将も、この姫君が夢で契った恋しい女であることを知り、二人は現実に結ばれる。

『今昔物語集』巻31−9  常澄安永が旅の夜の夢に、妻と見知らぬ童との同衾する現場を目撃し、怒ってそこへ躍りこむ、と見て目覚める。翌日帰宅すると、妻が安永に、「私が童と同衾したところへ貴方が乗りこんで来る夢を、昨夜見た」と語る〔*同・巻31−10にも類話〕。

『住吉物語』  継母にいじめられる姫君が、晩秋の夜、屋敷から姿を消し、行方知れずになる。姫君の恋人だった四位少将(後に関白)は翌年秋、初瀬に参籠して、夢で姫君と出会い、袖をとらえて「居所を知らせ給え」と請う。姫君は「私は住吉にいます」という意味の歌で答える。同じ夜、住吉にいる姫君も、四位少将に袖を引かれた、との夢を見る。四位少将は住吉に赴き、姫君と再会する。

『剪燈新話』巻2「渭塘奇遇記」  金陵の王青年は、旅先の渭塘の酒家で一目見た娘が忘れられず、家へ帰ってからも毎晩のように娘と逢う夢を見る。娘も王を想って同じ夢を見ており、一年後、再び渭塘を訪れた王はそのことを知り、娘と結婚する。

★2b.二人の僧が、お互い相手のことを夢に見る。

『源平盛衰記』巻25「大仏造営奉行勧進の事」  笠置寺の解脱上人貞慶は釈迦を信仰し、東大寺の俊乗和尚重源は観音を信仰していた。同じ夜に、俊乗和尚は「解脱上人は観音なり」との夢を見、解脱上人は「俊乗和尚は釈迦なり」との夢を見た。解脱上人は東大寺へ向かい、俊乗和尚は笠置寺へ向かって、平野の三間卒都婆という所で出会う。二人は互いの夢を語り、涙を流した→〔死夢〕3

★3.二人が、それぞれ相手の見るべき夢を見る。

『サザエさん』(長谷川町子)朝日新聞社文庫版16巻71ぺージ  波平とカツオが一緒の布団に寝る。波平はひさしぶりに学期試験の夢を見、カツオは定年の夢を見てしまう。

★4.三人同夢。

『聊斎志異』巻2−58「鳳陽士人」  長旅から帰る夫と、家で待つ妻と、その妻の弟とが、ある夜同じ夢を見る。夫が妻を無視して一人の美人と枕を交わし、妻の弟が怒って石を投げつける、という夢であった。

*→〔像〕8bの『捜神記』巻5−3(通巻94話)。

★5.五人同夢。

『そして、だれも・・・』(星新一『なりそこない王子』)  宇宙船の乗員五人が人工冬眠に入り、全員、同じ夢を見続ける。覚醒時の混乱を防ぐためだ。夢の内容は現実同様、宇宙船で長期旅行をする、というものである。目的地に近づき、乗員たちは一人ずつ目覚める。まだ夢の中にいる乗員からは、宇宙船内の仲間が一人また一人と、どこかへ消えてしまうように見える。覚醒すれば現実の宇宙船内で、消えた仲間と再会できるのである。 

★6.多人同夢。

『沙石集』巻9−10  山寺にいる母犬が、五匹の子犬のうち一匹を差別していじめるので、僧や稚児たちは、この母犬を憎んだ。するとある夜、大勢が皆、同じ夢を見た。夢の中で母犬は、自分の前世と、子犬をいじめる理由を語った→〔一妻多夫〕1c

『是楽(ぜらく)物語』(仮名草子)  山本友名の愛人「きさ」は、本妻の側からの敵視や呪詛に堪えられず、瀬田の橋から身投げした。後、「きさ」は、友名や本妻をはじめ縁者や知人、合計二十二人の夢に現れて、「『法華経』読誦の功徳により、私は成仏得脱の身となった。今後は一門の守り神となろう」と告げた。

 

【二人一役】

★1.二人が協力して、一人ではできないことをする。

『淮南子』「説山訓」第16  侵略軍が迫った時のこと。躄者(いざり)が盲者(めしい)に危険を知らせ、盲者は躄者を背負って逃げた。そのため二人とも死なずにすんだ。躄者は目が見え、盲者は走れる、という各自の能力を活かしたからだ。逆に、盲者が知らせて躄者が逃げる、ということになれば、うまくいかないだろう。

『シラノ・ド・ベルジュラック』(ロスタン)第2〜3幕  近衛青年隊のシラノは文才もあり弁舌の才もあるが、鼻の大きな醜男である。同僚のクリスチャンは美男だが、恋文も書けず女性を口説くこともできない。シラノは自分の才能とクリスチャンの美貌を合わせ、二人がかりでロクサーヌに求愛しよう、と提案する。シラノは自らのロクサーヌへの恋をあきらめ、クリスチャンの恋文を代筆し、クリスチャンの声色をつかってロクサーヌを口説く。

『棒しばり』(狂言)  主が外出するに際し、留守中の酒の盗み飲みを防ぐため、まず太郎冠者の肩に棒を担わせて両手首を棒に縛り、次いで次郎冠者を後ろ手に縛る。二人は手を口まで持っていくことができず単独では酒が飲めない。そこで協力して太郎冠者が盃を持ち次郎冠者に飲ませ、次郎冠者が盃を持ち太郎冠者に飲ませる。

『夕陽のガンマン(続)』(レオーネ)  南北戦争時代。ブロンディとトゥコは相棒だったが、敵対していた。重傷で瀕死の南軍兵士が、二十万ドルの金貨を埋めた墓地の場所を、トゥコに教える。ところが、兵士に飲ませる水をトゥコが取りに行っている間に、金貨が埋まっているのは誰の墓石の下かを、ブロンディが聞き出す。どこの墓地かはトゥコが、墓石の名前はブロンディが知っているので、二人は手を組まざるを得なかった。

*七歳の兄と五歳の弟が力を合わせ、父の敵を殺す→〔仇討ち〕1cの『沙石集』巻7−6。

★2.Aは殺人を考えるだけで実行はしない。Bは、Aの考えを十分に理解できないものの、それに従って殺人を実行に移す。

『Yの悲劇』(クイーン)  ヨーク・ハッターは、横暴な妻エミリー及び異常性格の子供たちとの長年の生活に疲れ果て、自分の家庭をモデルとする妻殺しの犯罪小説の筋書きを作りつつも、それを完成させることなく、自殺する。その後、ヨークの十三歳の孫ジャッキーが筋書きのメモを手に入れ、それに従って、彼にとっては祖母にあたるエミリーを殺す→〔誤解〕1a

*→〔父殺し〕1の『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)。

★3.一人の盗賊の奇妙な仕業と思われたことが、意図を異にする二人の人物の行ないであった。

『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「大盗懺悔」  武家屋敷・商人の店・寺院などから、大金や仏像や茶器を盗み出し、三日以内にまた持ち主に返す不思議な盗賊が、江戸を荒らした。これは、物を盗まずにはいられぬ病癖を持つ初老の男が諸方から金品を盗み、男の娘が困って、父の盗んだものを持ち主に返して廻ったのだった。銭形平次がまず娘を捕らえ、それをおとりに父をおびき寄せて、真相を明らかにした。

★4.死者二人の霊が合体して、一人の生者の姿になる。

『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)「隅田川渡しの場・双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)」  吉田家の嫡男松若は、永楽屋の娘お組と恋仲になる。松若の許嫁だった野分姫(のわけひめ)は、破戒僧・法界坊に殺される。法界坊は、お組を口説いているところを、吉田家の忠臣甚三(じんざ)に殺される。野分姫の霊と法界坊の霊は合体して、お組そっくりの姿になる。顔はお組だが、声は野分姫になったり、法界坊になったりする→〔双面(ふたおもて)〕2

 

*二匹一役。二匹の狸が、一人の女に化ける→〔性器〕1fの『聴耳草紙』(佐々木喜善)89番「狸の話(狸の女)」。二匹のはりねずみを、一匹のように見せかける→〔兎〕1bの『兎とはりねずみ』(グリム)KHM187。  

*四匹一役。四匹の動物の姿や声があわさって、化け物に見える→〔見間違い〕2の『ブレーメンの音楽隊』(グリム)KHM27。

*大勢一役。多くの亀を、一匹のように見せかける→〔兎〕1aの『亀とウサギ』(アフリカの昔話)。

*五十人一役。五十人の娘を、一人のように見せかける→〔にせ花嫁〕5の『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章。

 

【仏舎利】

 *関連項目→〔骨〕

★1.釈迦の遺骨である仏舎利は、白い玉であり、傷つくことも砕けることもない。

『今昔物語集』巻6−4  天竺の康僧会(こうそうえ)三蔵が仏法を伝えるために震旦へ渡り、呉の国を訪れた。呉王の求めに応じ、三蔵は祈りによって仏舎利一粒を出現させた。鉄床の上に仏舎利を置いて金槌で打っても、仏舎利はまったく傷つかなかった。呉王は「これは本物の仏舎利だ」と感嘆し、寺を建立して仏舎利を安置した。

『今昔物語集』巻6−26  唐代の官人粛mは、仏法を尊んでいた。彼の幼い娘が、仏塔中の仏舎利百余粒のうち、三十粒を取り出して斧でたたき、本物かどうか確かめた。すると仏舎利は三〜四粒ほどを残して、どこかへ消えてしまった。娘は恐れて父に知らせ、父は仏塔を調べる。仏舎利はもとどおりあって、一粒もなくなっていなかった。

『日本書紀』巻20敏達天皇13年是歳  蘇我馬子宿禰が仏舎利を鉄床の上に置き、鉄の槌で打った。鉄床と槌は砕けたが、仏舎利は少しも傷つかなかった。また、仏舎利を水中に投げ入れたところ、仏舎利は心の願いのままに浮いたり沈んだりした。これによって馬子は、仏法を深く信じて修行を怠らなかった。

★2.掌に仏舎利を握って生まれる。

『三国伝記』巻10−10  天竺の慶摩童子は十二月八日に誕生、三歳の春二月十五日になってはじめて両手を開き、二粒の仏舎利を示した。

『神皇正統記』第三十一代敏達天皇  聖徳太子は誕生以来手を握っていたが、二歳の時東方を向いて「南無仏」と唱え掌を開くと、一つの仏舎利があった。

*左の掌に舎利二粒を握って生まれる→〔出産〕13aの『日本霊異記』中−31。

★3.仏舎利の数が増える。

『古今著聞集』巻2「釈教」第2・通巻51話  永観律師が七宝塔に仏舎利二粒を安置し、「私が順次(=死後、他生を経ず、直ちに浄土へ生まれ変わること)に往生できるならば、この舎利の数を増やし給え」と祈誓する。後年に七宝塔を開いて見ると、四粒になっていたので、彼は随喜し、二粒を本尊の阿弥陀仏の眉間に込めた。永観律師は七十九歳で極楽往生した。 

★4.仏像から仏舎利を取ることができるか。

『茶の本』(岡倉天心)第3章「道教と禅」  寒い冬の日、丹霞和尚が木の仏像を打ち壊して、焚火をした。それを見た人が「何というもったいないことを」と咎めると、和尚は「灰の中から舎利を取ろうと思ってな」と言う。「木の仏像から舎利が拾えるはずがない」と言い返すと、和尚は「舎利が拾えぬなら、これは仏様ではあるまい。燃やしてもかまわないだろう」と答えて、焚火にあたった。

 

【舞踏会】

★1.貴族あるいは上流社会の生活様式としての舞踏会。

『安城家の舞踏会』(吉村公三郎)  第二次大戦終結とともに、日本では華族制度が廃止された。伯爵だった安城家も財産を失い、邸宅を手放さねばならない。安城家の最後の大舞踏会が、百人近くの紳士淑女を招いて催される。舞踏会が終わり、客たちが帰った後、安城家の当主忠彦は拳銃自殺をはかる。娘の敦子が忠彦にすがりついて、「これから、私たちの新しい生活が始まるんだわ」と説く。父と娘は、ガランとした大広間でワルツを踊る。

『舞踏会』(芥川龍之介)  明治十九年十一月三日の夜。某家の令嬢・十七歳の明子は、彼女にとって初めての経験である鹿鳴館の舞踏会に臨む。支那の大官も、燕尾服の日本青年も、主人役の伯爵も、明子の美しさに眼を見張る。フランスの海軍将校が明子と「美しく青きダニウヴ」のヴァルスを踊る。海軍将校と明子は露台に立ち、美しく開いては消えて行く花火を見る。海軍将校は、「我々の生(ヴィ)のような花火」と言う。 

『舞踏会の手帖』(デュヴィヴィエ)  三十六歳で未亡人となったクリスティーヌは子供もなく、広大な邸宅に一人残された。彼女は、二十年前、十六歳の時の初めての舞踏会で一緒に踊った男たちを尋ね歩く。六人の男と会うことができたが、皆、青年時代の夢も野心も失った、平凡な男たちに成り果てていた。廃人同然の男や犯罪者さえいた。クリスティーヌは深い失望と幻滅を味わう。いちばん会いたかった男ジェラールは死去しており、彼の面影をとどめる遺児ジャックを、クリスティーヌは養子に迎える。 

『山猫』(ヴィスコンティ)  ポンテレオーネ公爵の屋敷で大舞踏会が催される。サリーナ公爵の甥タンクレディが、平民の娘アンジェリカと婚約したので、彼女を貴族社会の一員として受け入れる、そのデビューの場でもあった。アンジェリカはサリーナ公爵に「ワルツを一緒に踊って欲しい」と申し込む。初老のサリーナ公爵と若いアンジェリカの見事な踊りに、皆感嘆する。舞踏会が終わり、サリーナ公爵は深い疲労を感じて、近々自身に訪れるであろう死を思いつつ、家路をたどる。

★2.男女の出会いの場としての舞踏会。

『女相続人』(ワイラー)  財産家の医師の一人娘キャサリンは、美人とはいえず社交性にも乏しかった。パーティに出席するが、一緒に踊る相手がなく、キャサリンはさびしく座っていた。その時、美貌の青年モリスが彼女の前に立ち、踊りを申し込む。翌日から彼は、たびたびキャサリンの家を訪問するようになり、やがて求婚する。キャサリンは喜んで彼の愛を受け入れる。しかしモリスの目的は、キャサリンが父から受け継ぐはずの財産だった〔*『ワシントン広場』(ヘンリー・ジェイムズ)の映画化〕→〔結婚〕1b

『戦争と平和』(トルストイ)第2部第3篇  十六歳のナターシャがはじめて大舞踏会に出て、アンドレイ公爵が彼女に踊りを申し込む。アンドレイの心には、「ナターシャが踊りを終えてから、最初に従姉のソーニャの方へ行ったら、彼女は僕の妻になるだろう」との思いが不意に浮かぶ。すると彼の思いどおり、ナターシャはソーニャの所へ行った〔*二人は婚約するが、一年後に破談になる〕→〔妻〕5

『マーティ』(マン)  マーティは醜男だった。母親に勧められて、土曜の夜にダンスホールへ出かけるが、かわいい娘に踊りを申し込んでも断られる。クララは不美人だった。いやいやながらクララと一緒に来た男は、クララを一人残して、姿を消してしまう。その有様を見ていたマーティは、バルコニーにたたずむクララに「お嬢さん。踊りませんか」と声をかける→〔顔〕1b

*→〔結婚〕2aの『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア)。

★3.舞踏会の夜の事件。

『鹿鳴館』(三島由紀夫)  明治十九年十一月三日の夜。政府の卑屈な外交政策に抗議すべく、壮士たちが白刃をひらめかせて鹿鳴館の夜会に乱入する。影山伯爵はこの機に乗じて、政敵・清原永之輔を、その私生児・清原久雄に殺させようとたくらむ。しかし逆に、久雄は永之輔に射殺されてしまう。そこで影山伯爵は、刺客を放って永之輔を暗殺する。実は久雄は、影山伯爵の妻・朝子が芸妓時代に、永之輔との間にもうけた子供だった。朝子は一度に、かつての愛人と息子を失ったのである。

★4.仮面舞踏会の扮装。

『こうもり』(J.シュトラウス二世)  四年前の仮面舞踏会の帰途、ファルケ博士はこうもりの扮装のまま眠ってしまった。友人のアイゼンシュタインがファルケを道端へ置き去りにしたので、翌朝目覚めたファルケは、人だかりの中で笑われ、以来「こうもり博士」とあだ名されるようになった。ファルケは、アイゼンシュタインへの仕返しの方法を考え、ずっとその機会をねらっていた→〔大晦日〕3

 

【船】

 *関連項目→〔うつほ舟〕

★1.船が氷山と衝突する。

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)  ジョバンニやカムパネルラたちが乗る銀河鉄道に、十二歳ほどの女児と六歳ほどの男児、そして彼ら姉弟の家庭教師である青年が乗って来る。青年は「氷山にぶつかって船が沈んだのです。救命ボートに乗客全員は乗れませんでした」と説明する。やがて汽車は、サウザンクロスに停車する。青年と二人の子供はここで汽車を降り、天上へ向かう。

『タイタニック』(キャメロン)  一九一二年四月。二千二百人を乗せた豪華客船タイタニックが、イギリスからアメリカへ向けて処女航海に出る。名家の娘ローズが船尾から投身自殺しようとするのを、貧乏画家の青年ジャックがとめ、それがきっかけで二人は恋に落ちる。夜、タイタニックは氷山に衝突し、沈没する。ローズは救命ボートに乗らず、ジャックと行動をともにし、二人は海に投げ出される。ジャックは、浮かぶ板切れの上にローズを乗せ、自らは極寒の海に力尽きて死ぬ〔*ローズは救助され、その後、百歳を越える長寿を保った〕。

『歴史は夜作られる』(ボーゼージ)  アメリカの海運王ヴェイルは妻アイリーンを熱愛し、新造の客船を「プリンセス・アイリーン」と命名する。アイリーンはヴェイルの嫉妬深さを嫌い、恋人ポールとともに「プリンセス・アイリーン」に乗船し、去って行く。ヴェイルは怒り、航海時間の新記録を作る名目で、濃霧の大西洋を全速力で航行せよ、と船長に電話で命ずる。船を氷山と衝突させて、三千人の乗客をまきぞえにアイリーンとポールを殺そうと考えたのである。「プリンセス・アイリーン」は氷山に衝突し、人々は死を覚悟する。しかし隔壁が浸水を防ぎ、船は沈没を免れる。

★2.船が大津波を受けて転覆する。 

『ポセイドン・アドベンチャー』(ニーム)  豪華客船ポセイドンが、海底地震による大津波を受けて転覆する。船は真っ逆さまになり、甲板が海中に沈んで船底が海上に出る。乗員乗客たちは、床から天井に落下して死ぬ。助かった人々も、爆発と浸水のために命を落とす。牧師スコットたち男女十人が、船底部分まで登り、救助を待とうとする。途中で三人が力尽き、スコットも皆を救うために自らの身を犠牲にして、六人が生き残る。

★3.船が台風で転覆・沈没する。

『クオーレ』(アミーチス)六月「遭難」  リヴァプールからイタリアへ向かう貨物船に、ともに十二歳の少女ジュリエッタと少年マリオが乗り合わせる。ジュリエッタは父母に会いに行くのであり、孤児のマリオは遠い親戚の所へ送られるのだった。嵐が来て、船は沈没しかける。救命ボートに何人かが乗り移り、あと一つだけ席がある。マリオはジュリエッタをボートに乗せ、自分は船と一緒に海に沈んでいく。

『氷点』(三浦綾子)「台風」  昭和二十九年九月二十六日。旭川の辻口病院院長・辻口啓造は、京都での学会に出かけるため、青函連絡船・洞爺丸に乗船する。台風による荒波で、洞爺丸は函館港内で横倒しになり、浸水する。「救命具の紐が切れた」と言って女が泣くので、外国人宣教師が自分の救命具を与える。千数百人が水死するが、辻口啓造は砂浜に打ち上げられて助かった。

*→〔人数〕9の『飢餓海峡』(水上勉)。 

★4.乗組員のストライキ。反乱。

『蟹工船』(小林多喜二)  大正末〜昭和初期。漁夫・雑夫・水夫・火夫など乗組員三〜四百人、三千トン近い蟹工船・博光丸が、帝国海軍の駆逐艦に護衛され、ロシア領海を侵しつつ蟹漁をする。非情な漁業監督浅川の下での過酷な労働で、死者まで出るにおよび、乗組員たちは団結してストライキを決行する。しかし浅川は無電で駆逐艦を呼び、ただちに銃剣を持った兵たちが来て、ストライキの指導者九人を連行する。漁夫たちは、帝国海軍が自分たちの味方ではなかったことを知る。

『戦艦ポチョムキン』(エイゼンシュテイン)  一九〇五年。戦艦ポチョムキンの水兵たちが反乱を起こし、艦長や将校たちを海に放り込む。ポチョムキンはオデッサの港に数日間停泊し、オデッサの市民も水兵たちと一緒に「専制政治打倒」を叫ぶ。政府軍の兵たちが現れ、市民たちを次々と銃撃する。ポチョムキンはこれに対抗して、政府軍司令部を砲撃し、破壊する。政府から反乱鎮圧のために艦隊が派遣されるが、彼らはポチョムキンを攻撃せず、合流する。水兵たちは歓呼する。

★5.船の発明。

『猿の草子』(御伽草子)  昔、黄帝が逆臣蚩尤(しゆう)を滅ぼそうとしたが、蚩尤は遥かな海の彼方にいるので、攻めることができなかった。ある時、池水に柳の一葉が浮かんでいるのを見て、臣下貨狄(かてき)が船を発明した。黄帝は船に乗って海を渡り、「れい山の岡」で蚩尤を殺した。

『自然居士』(能)  秋の末頃、嵐に散った柳の一葉が水に浮かび、その上に蜘蛛が落ちた。蜘蛛は葉に乗ったまま、風に吹かれて汀に寄った。貨狄がこれを見て、船を発明した。黄帝は船に乗って烏江という海を渡り、逆臣蚩尤を滅ぼした〔*『藤栄』(能)に同話〕。

★6.たらい舟。

お弁の滝の伝説  佐渡の海女少女お弁が、柏崎の男と夫婦約束をする。毎晩、お弁は大きなたらいに乗り、佐渡から柏崎まで四十九里の海上を、岬の常夜灯を目当てに通う。男はだんだん気味悪くなって、ある夜、灯火を消してしまう。お弁は方角がわからなくなり、暴風が起こって、たらい舟は転覆する。お弁の死骸は海岸の滝に漂着し、以後そこを「お弁の滝」と呼ぶようになった(新潟県柏崎市)。

★7a.ヨットに乗る男二人と女一人。

『水の中のナイフ』(ポランスキー)  中年夫婦がヒッチハイクの青年をヨットに乗せ、湖で遊ぶ。夫は青年に敵意を持ち、妻は青年に好意的である。青年の持つ大型ナイフを夫が隠したので、青年は怒り、夫と殴り合う。ナイフも青年も湖に落ち、沈んで行く。夫は警察に知らせようと、泳いで岸へ向かう。その後に青年が姿を現わし、妻と青年はヨット上で関係を持つ。妻は岸辺で青年を下ろしてから、ヨットを船着場へつける。そこには、何も知らぬ夫が待っている。

★7b.救命ボートに乗る男三人。

『自己犠牲』(安部公房)  救命ボートに乗る「私(医者)」とコック長と二等航海士が、それぞれ「自分の肉を食ってくれ」と申し出て、議論になる。やがて二等航海士が他の二人に食料を提供すべく自殺し、ついでコック長が「私」の食料となるために自殺する。七十五日の漂流の後に生還した「私」は、遭難前より三キロ肥っていた。

★8.船の中の一人が、海に入る。

『古事記』中巻  ヤマトタケルの船が走水の海(=浦賀水道)を渡る時、その海峡の神が荒波を起こした。船はぐるぐる回って、先へ進むことができない。后オトタチバナヒメが「私があなたの代わりに海へ入りましょう」とヤマトタケルに告げて、海に沈んで行く。海は静かになり、船は前進可能になった〔*『日本書紀』巻7景行天皇40年是歳に類話〕。

★9.船の中から一人を選んで、海に入れる。船の外へ追いやる。

『兵庫船』(落語)  明石の浦を帆かけ船が行く。鱶(ふか)が波を逆立てて、船を沈めようとする。船に乗る人々が各自の菅笠を投げ入れると、十六歳ほどの娘の菅笠が沈んだ。人々は「鱶はあの娘に魅入ったのだ」と言って、娘を海に入れようとする。船客の一人に蒲鉾(かまぼこ)屋の親爺がおり、出刃包丁をかまえて鱶を叱りつける。鱶は恐れて逃げ去る。

*手拭いを投げ入れて、海に入れる人を決める→〔影〕3bの『ふかと影』(昔話)。

『聊斎志異』巻9−348「孫必振」  孫必振が船で長江を渡った時のこと。強風と雷で船が揺れ、乗り合わせた人々は恐れた。雲の中に金の鎧の神が立ち、「孫必振」と金字で書いた牌(がく)を下に向けて示す。船内の人々は、「孫必振が天の咎めを受けているのだろう。巻き添えはごめんだ」と言って、傍の小舟に彼を追いやる。孫必振が小舟に乗り移ってふりかえると、今まで乗っていた船が転覆していた。  

*海に入れる人をくじ引きで決める→〔くじ〕2aの『ヨナ書』。  

★10.沈んだ舟と沈まなかった舟。

『古今著聞集』巻3「政道忠臣」第3・通巻82話  大江匡房が大宰の権帥(ごんのそち)の任期を終え、道理で取った物(=正当な所得)を舟一艘に積み、非道で取った物(=不正な所得)をもう一艘に積んで、上京した。途中で道理の舟は海に沈み、非道の舟は無事に京へ着いた。大江匡房は「世はすでに末世だ。人は正直ではだめなのだ」と言った。 

 

【不能】

★1.戦傷によって、性的不能になる男。

『チャタレイ夫人の恋人』(ロレンス)  一九一七年にクリフォード卿とコニー(コンスタンス)は結婚した。一ヵ月の蜜月の後、クリフォード卿は第一次世界大戦に出征し、負傷して下半身不随、性的不能の身体となって戻って来た。その時クリフォード卿は二十九歳、妻のコニーは二十三歳だった。何年かの後、コニーは、森番メラーズと関係を持つようになった。

『日はまた昇る』(ヘミングウェイ)  新聞記者ジェイクは第一次世界大戦に従軍し、重傷を負って不能になる。彼は病院の篤志看護婦をしていたブレットと愛し合うが、性交渉はできない。ブレットは何人かの男と関係を持ちつつも、ジェイクの愛を求める。

『裸足の伯爵夫人』(マンキーウィッツ)  酒場の踊り子出身で国際的映画女優となったマリアは、ファブリーニ伯爵と結婚する。結婚式の夜、伯爵は「私は戦傷のため不能だ」と告白する。四百年続いた伯爵家が自分の代で絶えることを悲しむ伯爵は、美しいマリアを伯爵夫人として、その肖像画を後世に残したいと願ったのだった。マリアは結婚後まもなく情人を作り、妊娠する。生まれてくる子をファブリーニの跡継ぎにして伯爵家を存続させよう、とマリアは考えるが、伯爵はマリアと情人を射殺する。

*原爆の影響で、性的不能になる男→〔原水爆〕5の『残虐記』(谷崎潤一郎)。

★2.生まれつき・あるいは病気などによって、性的不能になる男。

『金閣寺』(三島由紀夫)第5〜7章  金閣寺の徒弟である「私(溝口)」は、金閣寺の美しさに心奪われつつ、嫉妬する。「私」は友人柏木の手引きで、下宿の娘と初めての性交渉を持とうとする。その時「私」の前に金閣が現れ、「私」は性交不能になる。その後も、幾度か同様の挫折を「私」は経験する。

『卍』(谷崎潤一郎)  綿貫栄次郎は、子供の時のお多福風邪がもとで睾丸炎になり、性的不能となる。彼は美男子ゆえ多くの女に好かれ、特殊な方法で女と接する。彼は徳光光子と関係を持つが、光子が柿内園子と同性愛関係を結んだことを怨み、これをスキャンダルとして新聞社に売りこむ→〔同性愛〕3

『聊斎志異』巻2−75「巧娘」  廉は生来の不具で、十七歳になっても男根が蚕のごとくだった。彼は狐の母娘に出会って男根を治してもらい、狐の娘三娘と、幽霊娘巧娘の二人を妻とし、子供もできて幸福に暮らした。  

★3.死んだ妻の呪いによって、夫が性的不能になる。

『夷堅志』甲志巻2  張子能は、重病で臨終の床にある妻から「あなたはきっと再婚なさるでしょう」と恨まれた。張子能は「決して再婚しない」と天に誓い、「もし誓約を破ったら、宦官にされても良い」と言う。しかし妻の死後三年して、彼は再婚してしまった。すると妻の幽霊が現れ、手で張子能の陰部を叩いた。以来、彼は宦官同然の不能者になった。

★4.不能者の暴行。 

『サンクチュアリ』(フォークナー)  不能の男ポパイは、十七歳の女子学生テンプルを、とうもろこしの穂軸で犯す。彼は、手下のレッドをテンプルにあてがい、二人が性交するありさまを、ベッドの傍で見て興奮することしかできない。テンプルは「彼(=レッド)は、あんたよりもすごい男よ。あんたは男でさえないんだわ」と言って、ポパイをののしる。ポパイはレッドを殺す。ポパイはそれ以前に別の仲間をも殺しており、逮捕されて死刑になる。

 

【不倫】

★1.夫の不倫の結果、妻が心を病む。

『死の棘』(島尾敏雄)  三十代半ばの「私(トシオ)」は小説家であり、夜間高校の非常勤講師をして、生計を立てている。妻ミホとの間には幼い子供が二人いる。妻は「私」の日記を読み、「私」に十年来の愛人がいたことを知る。その日を境に、狂気の発作が妻を襲うようになる。妻は、「私」と愛人との交渉のすべてを知ろうと、執拗に問う。「女と一緒に行った場所を全部言いなさい」「あなた、あいつを喜ばせていたの?」「あいつと一緒にお風呂に入ったの?」。妻は精神病院に入院し、「私」も付き添いとして、ともに入院する。

★2.夫の不倫の結果、妻が死ぬ。

『幸福(しあわせ)(ヴァルダ)  フランソワとテレーズは仲の良い夫婦で、二人の幼い子供がいる。フランソワは郵便局でエミリという娘に出会い、愛人関係になる。日曜日、フランソワとテレーズは子供二人を連れてピクニックに出かける。フランソワはエミリとの関係をテレーズに打ち明け、二つの愛を持つことの幸福を語る。しかしフランソワがうたた寝をして目覚めると、テレーズは池で溺死していた。数ヵ月後、フランソワはエミリと結婚する。彼らは子供二人を連れてピクニックに出かける。 

★3.夫の不倫相手の女が自殺する。

『わらの男』(ジェルミ)  機械工アンドレアは、妻と八歳の息子の三人家族で、アパートに暮らしている。彼は同じアパートに住むOLのリータと親しくなり関係を結ぶが、自分の家庭を捨てるわけにはいかず、やがてリータを避け、逢わないようになる。リータはアパートの五階から飛び降り自殺する。アンドレアは妻にリータとの関係を告白し、妻は息子を連れて家を出る。大晦日の夜、妻と息子は帰って来るが、妻は心の中で「私たちは大事なものを失った。以前の生活にはもう戻れない」と思う。

*夫の不倫相手の女が、堕胎手術をして死ぬ→〔堕胎〕1の『ヘッドライト』(ヴェルヌイユ)。

★4.夫の不倫の結果、妻が夫を殺す。

『柔らかい肌』(トリュフォー)  中年の文芸評論家ピエールは、妻と一人娘との三人家族だった。彼は講演に出かけた時、スチュワーデスのニコルと知り合い、愛人関係になる。妻はピエールの不倫に気づき、口論の末、彼らは離婚することになる。ピエールはニコルと結婚しようと思うが、ニコルは彼の求婚を受け入れない。ピエールは妻ともう一度やりなおそうと考え、電話をかける。しかし妻は猟銃を持って家を出た後だった。妻は、ピエールのいるレストランへ向かい、彼を射殺した。

★5.妻と情婦が手を組んで夫を殺す、と見せかけ、実は夫と情婦が共謀して、妻を死に追いやる。

『悪魔のような女』(クルーゾー)  小学校長ミシェルには、妻クリスティーナの他に情婦ニコルがいた。妻は、横暴なミシェルに苦しめられていた。情婦は妻に同情し、二人協力してミシェルを浴槽に沈め、殺してしまう。しかしミシェルは生きていた。すべてはミシェルと情婦が、邪魔な妻を死なせるために仕組んだ罠だった。死体のふりをしたミシェルが浴槽の中で動き出し、立ち上がるのを見て、心臓の悪い妻は発作を起こして死んだ。

★6.不倫願望

『七年目の浮気』(ワイルダー)  結婚して七年目のリチャードは、妻と息子を避暑に送り出した留守に、「浮気の一つもしたい」と夢想する。彼は、同じ共同住宅の階上に住むブロンド娘と知り合い、娘を部屋に誘う。娘は部屋に泊まるが、夜中に管理人がやって来て邪魔が入り、リチャードにも「妻を裏切ってはならない」との思いがあって、結局、娘は寝室に、彼は居間のソファに寝る。翌朝、友人のトムが避暑地から、妻の伝言を持って訪れたので、リチャードは妻とトムの仲を疑い、あわてて妻のもとへ駆けつける。

★7.上司の不倫。 

『アパートの鍵貸します』(ワイルダー)  保険会社の社員バクスターは、上司たちの秘密の逢引き場所として、アパートの自室を貸していた。彼が好意を寄せるエレベーター・ガールのフランは、妻子持ちの部長の愛人だったが捨てられ、バクスターの部屋で睡眠薬自殺をはかる。さいわいバクスターがすぐに医者を呼んだので、フランは息を吹き返す。バクスターは、以後は部長に部屋を貸すことを断り、会社を辞める。部長は妻に家を追い出され、フランとよりを戻そうとする。しかしフランはバクスターのもとへ行く。

 

*妻の不倫については、→〔夫殺し〕〔人妻〕〔密通〕などに記事。

 

【風呂】

 *関連項目→〔温泉〕

★1.玄関で風呂に入る。

『玄関風呂』(尾崎一雄)  練炭一つで沸くという風呂桶を、家内が買って来た。「私」たちは借家に住んでおり、風呂桶を据える適当な場所がないので、玄関の一坪のたたきに置いた。「私」も家内も子供たちも、玄関で風呂に入った。暖かい気候になってから、風呂桶を裏庭に移した。深夜一時過ぎに、星空を見上げて風呂に入り、唄をうたっていたら、お巡りさんに叱られた。

★2.五右衛門風呂(=風呂の底が釜になっており、下から直に湯を沸かす)の入り方。

『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)初編「小田原」  弥次・喜多の泊まった旅籠の風呂は五右衛門風呂で、湯に浮いている板を底に沈め、その上に乗って入るのであった。それを知らない弥次郎兵衛は、板をフタだと思って取りのけ、風呂底の釜に足をつけて火傷をする。考えた末、彼は下駄をはいて風呂に入る。その後に喜多八も下駄をはいて風呂に入るが、立ったり座ったり、下駄でガタガタやっているうちに、釜を踏み抜いてしまう。

★3.銭湯の男湯と女湯。

『いじわるばあさん』(長谷川町子)朝日文庫版第3巻138ページ  いじわるばあさんが、パートタイムで銭湯の番台に座っている。ばあさんは、やって来た男の客に「千人目だから、女湯ご招待です」と言う。男は喜んで女湯へ入って行き、皆から桶を投げつけられる。

★4.入浴中の妻が、夫の危難を救うため、裸のまま出て来る。

『渋江抽斎』(森鴎外)60〜61  渋江抽斎が大金八百両を某貴人宅へ届ける前夜、にせの使者三人が訪れて「今夜、金を受け取りたい」と言う。抽斎が断ると、三人は刀に手をかけて抽斎を囲む。この時、妻五百(いお)は湯殿で沐浴中だったが、常に身から放さぬ懐剣を口にくわえ、湯を入れた小桶二つを持ち、腰巻だけの裸体で、賊たちの前に現れた。五百は桶を投げつけ、懐剣の鞘を払って、「泥棒」と叫んだ。三人の賊は狼狽して逃げ去った。

★5a.風呂場で丸腰でいるところを、襲って殺す。

『極附幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)(河竹黙阿弥)  旗本水野十郎左衛門は、侠客の長兵衛を、酒宴にかこつけ自邸へ招いて殺そう、と考える。長兵衛は水野のたくらみを察知しつつ、単身、水野の屋敷へ乗り込む。家来がわざと長兵衛の着物に酒をこぼし、着替えを勧めて、湯殿へ案内する。水野は家来とともに湯殿の長兵衛を襲い、槍で長兵衛を突き殺す。

『平治物語』下「義朝内海下向の事、付けたり忠致心替りの事」  平治の乱に敗れた源義朝は尾張の内海へ逃れ、長田庄司忠致の宿所へ身を寄せる。正月三日、忠致は湯屋に湯をわかし、義朝に入浴を勧める。義朝の家来を湯殿から遠ざけ、三人の侍が裸の義朝を襲う。一人が義朝を抱きとめ、二人が左右から刀で突き殺す。

★5b.風呂場なら丸腰だろうと思って襲い、失敗する。

『腰抜け二挺拳銃』(マクロード)  女ながらも拳銃の名手であるカラミティ・ジェーンを、三人の殺し屋がねらう。ジェーンが公衆浴場(=簡単に仕切られた個室がいくつも並んでいる)に入ったので、殺し屋たちは「風呂場なら丸腰だ」と言って、ジェーンの衣服がかかっているカーテンの中へ銃弾を撃ち込む。しかしジェーンは別の個室におり、しかも二挺拳銃を持っていた。ジェーンはたちまち殺し屋たちを撃ち殺した。

★5c.風呂場に閉じ込めて蒸し殺す。

雷休権現(高木敏雄『日本伝説集』第6)  北条の城主丹後守が、娘婿の毛利太万之助を殺そうとたくらみ、御馳走にかこつけて城へ招く。毛利が城に一宿して湯に入っていると、北条は外から錠を下ろし、火を強くして毛利を蒸し殺した。その後、毛利の居城のあった八石山から、怪火が北条の方へ飛んだり、雷が鳴ったりしたので、雷休権現という社を建て、毛利の霊を鎮めた(越後国柏崎八石山)。 

★6.妻が夫を風呂に入れて殺そうとするが、失敗する。

『異苑』86「二つの戒め」  男が出征して十年目にようやく家へ帰る。易者が「家の中でなければ宿泊するな。食事時でなければ入浴するな」と男に忠告する。男は家への帰途、岩かげに野宿するのを避け、岩崩れでつぶされずにすむ。帰宅すると妻が風呂を勧めるが、男は易者の言葉を思い出して、入浴しない。入浴すると髪が濡れるので、それを手がかりに、夜中に妻の情夫が男を殺す手はずだった。

『捜神記』巻3−17(通巻65話)  夫が帰宅の途次、占者から「止まれといわれても止まるな」などの予言をもらい、おかげで道中の危険を逃れる。家では妻が間男と共謀し、夫を風呂に入れて殺そうとする。夫は「洗えと言われても洗うな」との占者の言を思い出し、あやうい命を助かる。

*アガメムノン王も、姦通した妻によって、浴室で殺された→〔夫殺し〕1の『アガメムノン』(アイスキュロス)。 

★7.銭湯での殺人事件。

『柳湯の事件』(谷崎潤一郎)  青年が、銭湯「柳湯」の湯船の底に、何かヌラヌラした物を踏む。それは女体のようであり、青年は、自分の情婦・瑠璃子の死体だ、と思う。ところが帰宅すると、瑠璃子は無事で家にいた。その後も「柳湯」の底にはヌラヌラした物があり、青年は「瑠璃子の生霊だ」と考え、両手でつかんで引き上げる。「人殺し」という声があがる。青年は、入浴中の男の急所をつかんで殺したのだった。青年は瘋癲病院へ送られた。

 

*人妻の湯殿をのぞき見る→〔のぞき見〕2の『太平記』巻21「塩冶判官讒死の事」。

*自分の妻の湯殿をのぞき見る→〔人魚〕1aの『人魚』(巌谷小波)。

*風呂桶から棺桶を連想する→〔連想〕3bの『風呂桶』(徳田秋声)。 

 

 

 

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