*関連項目→〔肖像画〕
『雨月物語』巻之2「夢応の鯉魚」 三井寺の僧興義(こうぎ)は絵の名手だった。彼は臨終に際し、鯉魚の絵数枚を琵琶湖に散らすと、鯉魚が紙絹から抜け出して泳いだ。そのため、興義の絵は現存しない。
『祇園祭礼信仰記』「金閣寺」 謀叛人松永大膳は、足利将軍の母尼公を金閣寺の二階に幽閉し、雪舟の孫娘雪姫を庭の桜の樹に縛りつける。雪姫が雪舟の故事(*→〔絵〕6a)にならって、爪先で桜の花びらを集め鼠を描くと、白鼠が現れ、姫を縛った縄を食い切る。そこへ此下東吉(=真柴久吉)が来て、雪姫と尼公を助ける。
『太平広記』巻212所引『盧氏雑説』 呉道玄が某寺を訪れるが、応対が無礼だったので、寺の壁に驢馬を描いて去る。夜、驢馬は抜け出て寺の家具類を踏み荒らす。僧が詫び、呉道玄は絵を消す。
*絵から抜け出る虎→〔虎〕2の『傾城反魂香』(近松門左衛門)「土佐将監閑居の場」。
*絵の虎を縛れとの難題→〔難題問答〕1aの『一休と虎』(昔話)。
*絵から抜け出る鳥→〔鳥〕9の『抜け雀』(落語)。
★1b.絵に描いた動物に瞳を点ずると、生きた動物となって抜け出す。目をつぶすと、絵に戻って抜け出なくなる。
『古今著聞集』巻11「画図」第16 仁和寺の御室の壁に巨勢金岡が馬の絵を描いたが、その馬は夜ごとに絵から抜け出て、近辺の田の稲を食った。馬の目をほじくり出すと、抜け出なくなった。
『水衡記』 画家張僧ヨウは安楽寺の壁に龍を描くが、瞳を入れると飛び去るからと言って、白いまま残す。人々が信じないので瞳を点ずると、龍は雲に乗って天に昇った〔*「龍」の字に点を打つと昇天する→〔文字〕7の『弘法大師の書』〕。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之27〜29 巨勢金岡の描いた虎の絵に瞳を点ずると、生きた虎となって絵を抜け出し、洛中を暴れ回る。犬江親兵衛が虎の両眼を射て退治し、虎は絵の中に戻った。
摩利支天さんの龍の伝説 妻波の岩崎神社造営の折、宮大工の夢に本尊摩利支天の化身が現れて、本殿正面の上り龍・下り龍の彫り方を教えた。おかげで見事な彫刻ができたが、夜になると龍が動き出し、池を泳ぐようになったので村人は恐れる。相談の結果、龍の目玉に釘を打ち込んだところ、龍は池に出なくなった(鳥取県東伯郡大栄町)。
『太平広記』巻286所引『聞奇録』 男が屏風の美女に心奪われ、絵師に教えられて、百日間美女の名を呼び続ける。美女は呼びかけに答え、酒をそそぐと、生身の人間となる。男と美女は結婚し、子供も生まれる。ある時、友人が「この女は妖怪だから切れ」と言って剣を届ける。美女は「私は南嶽の地仙だ。疑われたからには、もういられない」と告げ、子供を連れて絵に戻る。
『衝立の乙女』(小泉八雲『影』) 書生篤敬が、衝立に描かれた女に恋する。篤敬は老学者の教えに従い、女に名前をつけて毎日呼び続け、百軒の違う酒屋から買った酒を捧げると、女は衝立から出て篤敬の花嫁となる。篤敬は来世までも変わらぬ愛を誓い、女は衝立に戻ることなく添い遂げる。
『魔法のチョーク』(安部公房) アルゴン君がチョークで壁に食べ物の絵を描くと、それは本物になる。アルゴン君は世界を創造するためイヴを描く。イヴは壁から抜け出、チョークでピストルを描き、アルゴン君を撃つ。アルゴン君が気づくとすべて壁の絵に戻っている。壁の絵を食べ続けて肉体が壁化したアルゴン君は、壁に吸いこまれてイヴの絵の上に重なる。
*テレビ画面から出て来る少女→〔井戸〕1cの『リング』(中田秀夫)。
『奇妙な死』(アルフォンス・アレ) 画家が海水で絵の具を溶き、美しい海の水彩画を描いて恋人にプレゼントする。恋人の部屋に掛けられた絵は、月の引力によって、現実の海と同様に潮の満ち干を起こす。ある晩、海岸に大津波が押し寄せたので、画家は心配して恋人の所へ行く。水彩画が氾濫して、恋人は部屋の中で溺死していた。
『メリー・ポピンズ』(スティーブンソン) 大道芸人のバートが、舗道にいくつもの絵を描いている。そこへ幼い姉弟のジェーンとマイケルと、乳母のメリー・ポピンズがやって来る。メリー・ポピンズの魔法で、四人はジャンプして、田園風景が描かれた絵の中へ入り込む。彼らは歌い踊り、メリーゴーラウンドの木馬に乗って、楽しい一日を過ごす。
『聊斎志異』巻1−6「画壁」 朱孝廉が、ある寺の壁画に描かれた少女を見て心ひかれる。いつしか彼は壁画の中に入りこみ、二日ほど少女とともにすごした後、寺僧に壁の中から呼び出されて、われに返る。
『押絵と旅する男』(江戸川乱歩) 青年が、押絵に描かれた八百屋お七の美しい姿に恋をする。青年は弟に、「遠眼鏡を逆向きにして自分を見てくれ」と命ずる。弟が大きなレンズを目に当てると、兄の姿が二尺くらいに縮小されて見える。兄は後じさりしてさらに身体を縮小し、絵の中に入りこむ。兄は押絵となって、お七に寄り添う→〔絵〕4。
『果心居士のはなし』(小泉八雲『日本雑録』) 明智光秀が果心居士を招いて酒を飲ませる。果心居士は「お礼に芸をお目にかけましょう」と述べ、部屋の近江八景屏風絵を見るように言う。絵の中で一人の男が小舟をこいでおり、それがしだいに近づいて来て、水が部屋へあふれ出る。果心居士が画中の舟に乗り込むと、舟はだんだん遠ざかり、やがて沖合いの小さな一点となって、消えてしまった。
『観画談』(幸田露伴) 学問で身を立てようと刻苦する男が、原因不明の病気になって山寺にこもる。大雨の夜、男は洋燈(ランプ)を手に、部屋の掛け軸の山水風俗画を見る。画中の老船頭が舟を出そうとして、「乗らないか乗らないか」と呼ぶ。男が「今行くよ」と返辞をしようとした時、隙間風に洋燈はゆらめき、舟も船頭も遠くへ去った。男の病気は治った。男は学業を廃し、平凡人となって世に埋もれた。
『押絵と旅する男』(江戸川乱歩) 二十五歳の青年が押絵の八百屋お七に恋し、自らも絵の中に入りこむ。しかし年月の経過とともに青年は老い、ついには、白髪でしわだらけの老人が若い娘に寄り添う絵になってしまう。老人の絵姿には、悲痛と苦悶の表情があらわれる。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ65 茶器商が、越後の酒問屋の旦那に、注文の茶碗を届ける。旦那は、掛け軸に描かれた美女を茶の相手として語りかけ、飲み食い興じる。二十年後、茶器商は再び酒問屋を訪れ、「絵が年を取ったようだ」と不思議がる。「はい。年を取りました」と旦那は答える。「共に老いようと、徐々に描き加えています。そうでないと、私ばかりが老いてゆく」。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)201「喉の渇いた鳩」 喉の渇いた鳩が、画板に描かれた水甕を本物だと思い、飛んで行ってぶつかる。鳩は翼を折り、地面に落ちて、人間につかまる。
雪舟の伝説 雪舟は少年時、絵ばかり描いていたので、師僧が怒って寺の本堂の柱に縛りつけた。夕方、師僧が縄を解こうとすると足もとに鼠がおり、追っても逃げない。それは雪舟が足指を使い、自分の涙で板の間に描いた絵だった。
*蔦の葉の絵→〔身代わり〕3bの『最後の一葉』(O・ヘンリー)
*腐乱死体の絵→〔わざくらべ〕1の『今昔物語集』巻24−5。
『炎天』(ハーヴィー) 八月の炎暑のある日、一人の画家に気まぐれな画想が浮かぶ。画家は、裁判で判決を受けた被告の姿を、鉛筆で描いてみる。よく描けたので満足して外出すると、絵にそっくりの男に出会う。その男は石屋だった。画家は、知らずして石屋の未来の姿を描いていた→〔墓〕7。
『青銅の基督』(長与善郎) 切支丹禁制時代の長崎。南蛮鋳物師・萩原裕佐は、役人から「紙の踏み絵ではすぐボロボロになるから、鋳物の踏み絵を作ってほしい」と依頼される。裕佐は、かつて切支丹のモニカに思いを寄せたことがあり、信者たちに好意を持っていた。彼はためらいつつも、青銅のピエタを作る。それは神々しいまでに見事な出来栄えだったので、役人たちは「裕佐も切支丹であろう」と考え、彼を殺してしまった。
『夢を食うもの』(小泉八雲『骨董』) 昔、日本の家には獏の絵をかけておく習慣があった。獏の絵は本物の獏と同じように、悪鬼を追い払う力がある。
*→〔鼠〕6の『狗張子』(釈了意)巻7−5「鼠の妖怪、附・物その天を畏るること」。
★9.ある時には名画と見えたものが、別の時に見ると印象が異なる。ある人が名画と見るものを、他の人は無価値なものと見る。
『秋山図』(芥川龍之介) 明末清初の画家・煙客翁は、かつて一度だけ、黄公望の名画「秋山図」を見て、その神品であることに驚嘆した。五十年後、煙客翁は貴族の邸宅で再び「秋山図」を見る機会を得た。しかしそれはどう見ても別の絵としか思われず、煙客翁は落胆した。五十年前の「秋山図」は幻だったのか、万事は夢だったのか、と煙客翁は自問した。
『知られざる傑作』(バルザック) 天才老画家フレンホーフェルは、美しい娼婦の画像の制作に十年間心血をそそぐ。彼はその絵に愛着し、誰にも見せない。しかし、狂った彼の眼にすばらしい絵姿と見えるものは、他の人間から見れば、カンヴァスの上に幾重にも塗られた混沌たる絵具の層にすぎなかった。
『真贋の森』(松本清張) 東大で日本美術史を専攻した「俺」は実力がありながら、権威主義の指導教授に嫌われ、学界から追放された。「俺」は、売れない画家鳳岳を指導して、浦上玉堂の贋作を描かせる。それを学界の権威者たちに「真作である」と鑑定させ、その後に贋作であることを暴露して、空疎なアカデミズムを嘲笑してやろう、と考えたのである。しかし鳳岳が「自分だって玉堂くらいの腕はある」と画家仲間に言ったことから、計画は破綻する。
*にせの美術品や宝物を偽造する→〔にせもの〕2a・2b・2c。
『月と六ペンス』(モーム) ロンドンの株式仲買人ストリックランドは、四十歳で職を捨て妻子を捨てて、絵を書き始める〔*ゴーギャンがモデル〕。彼は、恩人の妻を奪う(*→〔病気〕13)などのことをした後、タヒチ島へ渡る。島の娘アダと結婚して、ようやく安住の地を得たストリックランドは、数々の傑作を描く。晩年、彼は癩病に侵される。彼は自分の住む小屋の壁一面に、エデンの園を思わせる巨大な絵を描き、「自分の死後は小屋もろとも、この絵を焼き払え」と妻に遺言して、死んで行く。
『モンパルナスの灯』(ベッケル) 画家モジリアニの絵は世間に受け入れられず、しかも彼は健康を害していた。画商モレルは「モジリアニが死ねば、彼の絵は高額で売れる」と考え、モジリアニの死ぬ日を待っていた。ある夜モレルは、モジリアニが路上に倒れるのを見、彼を病院へ運んで臨終を見届ける。モレルは直ちに、安アパートのモジリアニの部屋へ行き、彼の絵を買い占める。モジリアニの死を知らぬ妻ジャンヌは、涙を浮かべて感謝の言葉を述べる。
*牡丹の絵を見て、香りのない花であることを知る→〔花〕7の『三国史記』巻5「新羅本紀」第5・第27代善徳王前紀。
『影』(芥川龍之介) 横浜、日華洋行の主人陳彩は、妻房子の不貞を疑って鎌倉の自宅に戻る。そこで陳彩は、房子を絞め殺している陳彩自身の姿を目撃する。以上のような内容の、『影』というタイトルの映画を、「私」は一人の女とともに東京の活動写真館で観る。しかし女が渡してくれたプログラムに、『影』という標題はなかった。
『仮面の恐怖王』(江戸川乱歩) 少年探偵団員二人が、映画『黄金仮面』を観る。黄金仮面の顔がスクリーンに大写しになり、口を三日月形に曲げて笑うと、白黒映画なのに、口の右すみから赤い血が流れ落ちる。観客は恐怖し、映写技師は驚いて機械を止める。それは怪人二十面相が、フィルムの一コマ一コマに赤い絵の具を塗っておいたのだった〔*絵の具を血に見せかける点で→〔血〕8の『カンタヴィルの幽霊』(ワイルド)に類似〕。
『人面疽』(谷崎潤一郎) 乞食青年が花魁(おいらん)菖蒲を恨んで死に、やがて菖蒲の右膝に乞食青年そっくりの人面疽が生ずる、という映画がある。人面疽に苦しめられた菖蒲は発狂して自殺するが、人面疽はなお生きているかのごとく笑う。無声映画であるのに、その笑い声が微かに聞こえてくるのだった。
『キートンの探偵学入門』(キートン) 映画館の技師がうたた寝をする間に、その分身が肉体から抜け出てスクリーンの中に入る。すると背景が市街地・崖・アフリカの平原・海、と次々に変わり、彼は自動車にひかれそうになったり、谷底へ転落しそうになったりする。しかし映画の中で彼は悪漢の手から美女を救い、やがて夢から覚めた彼も、現実世界で恋人と結ばれる。
『素晴らしき日曜日』(黒澤明) 雄造と昌子は『未完成交響楽』のコンサートに出かけるが、安い席が売り切れて、入場できない。夜、二人は誰もいない野外音楽堂へ行く。雄造が舞台に上がって、指揮者の真似をする。聞こえるのは木枯らしの音だけである。晶子はスクリーンの中から観客にむかって、「皆さん、拍手を送って下さい」と訴える。そして自ら拍手をして、雄造を励ます。その時、オーケストラの音合わせの音が二人に(観客にも)聞こえてくる。雄造が編み棒をタクトにして振ると、『未完成交響楽』が響きわたる。
★4.映画の登場人物が観客に呼びかけ、スクリーンから出て来る。
『カイロの紫のバラ』(アレン) 人妻セシリアは大の映画ファンで、毎晩のように映画館に通う。上映中の『カイロの紫のバラ』の登場人物トムが、客席のセシリアに語りかけ、スクリーンから出て来る。映画は進行が止まり、共演者たちは途方にくれ、客席は大騒ぎになる。トムを演じた俳優ギルが、トムをスクリーンに戻すために、駆けつける。トムもギルもセシリアに恋するが、セシリアは現実の存在であるギルを選び、トムはスクリーンの中に戻る。するとギルは安心し、セシリアを捨ててハリウッドに帰ってしまう。傷心のセシリアはまた映画館へ行き、新たな映画に見入る。
*テレビ画面から亡霊が出て来る→〔井戸〕1cの『リング』(中田秀夫)。
『完全映画(トータル・スコープ)』(安部公房) 東洋映画会社は諸方面から多額の資金を集め、観客が映画の内容をそのまま事実として体験できる、「完全映画」を開発する。しかし、試写会で『怪獣ゾガバの東京見物』を体験したAはゾガバ同様に狂暴化し、『ナポレオンの生涯』を体験したBは肉体が消滅してしまうなど、思わぬ事態が起こり、「完全映画」開発は失敗に終わる〔*実はこれは、破産寸前の東洋映画が金を集めるための詐欺だった〕。
『雨に唄えば』(ドーネン他) 一九二〇年代。美男美女のドンとリナは、サイレント映画の大スターだった。しかしリナは、かん高い悪声だったので、新たなトーキーの時代には向かない。そこで、コーラス・ガールのキャシーがリナの声の吹き替えをし、映画は大成功を収める。リナはキャシーの存在を秘密にして、自らのスターの座を守ろうとするが、ドンはキャシーを「真のスター」として、観客たちに紹介する。
★7.映画の中の時間進行と、現実の時間進行(=上映時間)を、おおむね一致させる。
『終着駅』(デ・シーカ) ローマ中央駅。人妻であるアメリカ人女性メアリーが帰国すべく、午後七時発の列車に乗る。ローマ滞在中に知り合い恋人となった青年ジョヴァンニが、発車直前に駆けつけ、メアリーは列車を降りる。メアリーが「別れねばならない」と言うので、ジョヴァンニは彼女を平手打ちして去る。しかし、すぐまた彼は駅に引き返してメアリーを捜し、二人は引き込み線の客車に入って抱擁し合う。駅員が二人を構内の警察に連行する。署長は事情を察して二人を釈放し、メアリーが八時半の特急に乗れるよう計らう〔*上映時間88分。アメリカの短縮版は72分〕。
『真昼の決闘』(ジンネマン) 西部の町。保安官ケインは任期を終え、エミィと結婚式を挙げた。午前十時四十分。「凶悪犯ミラーが釈放され、ケインに復讐すべく汽車でやって来る」との電報が届く。駅にはミラーの仲間三人が、彼の到着を待っている。ケインは、ミラー一味を迎え撃つため町の人々に協力を請うが、皆に断られる。正午。汽車が着き、町へ乗り込んでくるミラー一味四人に、ケインは単身で立ち向かう。エミィが敵の一人を撃って助け、ケインは銃撃戦に勝利する〔*上映時間84分〕。
『ロープ』(ヒッチコック) 夕方。二人の青年が、アパートの一室で友人デイヴィッドをロープで絞殺する。二人は死体を衣裳箱に入れ、その上にテーブルクロスを敷いて料理を並べ、数人を招いてパーティを開く。一時間ほどでパーティは終わる。客の一人ルパート教授が、帰り際に自分の帽子と間違えてデイヴィッドの帽子を手にし、デイヴィッドがこの部屋を訪れたまま、帰っていないことを知る。ルパートは二人の青年を問い詰め、殺人を自白させる。窓の外はすっかり暗くなっている〔*上映時間80分〕。
*→〔病気〕3bの『5時から7時までのクレオ』(ヴァルダ)は、上映時間90分で、夏至の日の午後五時から六時半までの90分を描く。
『最後の人』(ムルナウ) 高級ホテルの老ドアマンが、金ボタン・金モールの制服姿に喜びと誇りを持って、働いていた。ある日、支配人が、たまたま休憩中だった老ドアマンを見て「職務怠慢」と誤認し、制服を取り上げて、地階の洗面所掃除夫に格下げする。老ドアマンは屈辱と絶望のうちに、人生最後の日々を送る〔*これでは結末が暗いというので、ハッピーエンドのバージョンが作られた。洗面所で倒れた富豪の世話をしたため、老ドアマンは遺産を贈られ大金持ちになって、ホテルの上客として遇される、というものである〕。
『我等の仲間』(デュヴィヴィエ) 仲の良い五人の男たちが共同で、レストラン「我等の家」を開こうと、準備を始める。しかしいろいろな事情で二人が去り、一人が事故死する(*→〔五人兄弟〕2)。残った二人、ジャンとシャルルが開店までこぎつけるが、シャルルの別れた妻ジーナが金目当てで現れ、夫と縒りを戻そうとする。シャルルはジーナの甘い言葉を信じ、ジャンと手を切ろうと考える。ジャンは怒り、シャルルを拳銃で撃つ〔*別バージョンではジャンの説得によって、シャルルは「女との腐れ縁よりも、友情が大事だ」と思い直し、ジーナを追い返す〕。
『ニュー・シネマ・パラダイス』(トルナトーレ) シチリア島の小さな村の映画館パラダイス座。映画好きの少年トトは映写室に入りびたり、技師アルフレードの手伝いをする。トトは、アルフレードの後を継いでパラダイス座の映写技師になり、やがてローマに出て、一流の映画監督サルヴァトーレとなる。何十年もの後、サルヴァトーレは、アルフレードの死の知らせを受けて、故郷シチリアへ帰る。アルフレードは一巻のフィルムを、サルヴァトーレへの形見として遺していた→〔接吻〕7。
『8 2/1』(フェリーニ) 映画監督フェリーニは、プロデューサーと新作の契約を交わし、スタッフ、キャスト、ロケ地などを決めた。しかし、肝心のシナリオが書けない。ストーリーも、主人公の人物設定も、何一つできないのだ。彼は制作を断念するが、その時、「今の自分の状態そのまま、つまり映画を作れない監督の物語を映画にしよう」とのアイデアが浮かぶ。フェリーニはそれまでに九本の映画を作っていた。そのうちの一本は他の監督との共同制作だったので二分の一と数え、映画のタイトルは『8 2/1』となった→〔温泉〕2d。
*映画の終わりに、「終」でなく「始」というエンドマークが出る→〔長者〕2cの『小原庄助さん』(清水宏)。
『赤毛連盟』(ドイル) 質屋の主人ウィルソンは赤毛連盟の会員となり、毎日午前十時から午後二時まで連盟事務所に出かけ、大英百科事典をAから順に書き写して週給四ポンドを得る。八週間が過ぎ、そろそろBの項目に入ろうとする時、突然ウィルソンは赤毛連盟の解散を告知される→〔トンネル〕2a。
『嘔吐』(サルトル) ロカンタンが図書館で出会った独学者は、著者名のABC順に次々と本を読んでいた。彼は七年前からこの読書を始め、今「L」まで来ていた。
『ABC殺人事件』(クリスティ) ABCの署名のある殺人予告状がエルキュール・ポアロのもとへ届き、Aで始まる名前の町に住む、Aで始まる名前の老婦人が殺され、次いでB地でB嬢が、C地でC卿が殺される。犯人の真の目的はC卿を殺して遺産を得ることであり、その目的を隠蔽し、不可解な連続殺人事件と見せかけるために、A老婦人とB嬢は殺されたのだった。
*関連項目→〔ウロボロス〕
★1.もっとも良いものを求め、巡り巡ってまたもとの出発点にもどる。
『大鏡』「藤原氏物語」 河内国の某聖人は、ながらく庵から出ることがなかったが、法成寺金堂供養の折に上京し、関白頼通の有様を見て「これこそ一の人」と思う。ところが関白は入道道長を仰ぎ敬い、その二人はまた、行幸された帝の前でかしこまる。「帝こそ日本一」と思っていると、帝は阿弥陀仏を拝礼する。「やはり仏がもっとも尊いのだ」と聖人は悟る。
『カター・サリット・サーガラ』「愚者物語」第16話 賤民の娘が「世界で最も優れた男を夫にしたい」と望み、まず王の後を追う。王は聖仙の両足に礼拝し、聖仙はシヴァ神の像に礼拝する。そこへ犬が来て神像に小便をかけるので、「神より犬のほうが偉い」と娘は思うが、その犬は賤民の若者の足をなめる。娘は結局、賤民の若者と結婚する。
『漁夫とその妻の話』(グリム)KHM19 漁夫がカレイを釣るが、カレイが「私は魔法をかけられた王子だ」と言うので、海に放す。漁夫の妻が、小さな家をカレイに願うよう夫に命じ、叶えられる。次いで妻は大きな御殿を望み、王様になり、天使様になり、ローマ法王様になる。最後に妻が「神様になりたい」と望むと、夫婦はもとのあばら屋暮らしにもどる。
ギリシアの七賢人の伝説 網に黄金の鼎がかかり、「もっとも賢い人のもの」との神託がある。人々は鼎をミレトスのタレスに贈ったが、タレスは、自分は賢者ではないといって、これをプリエネのビアスに贈る。ビアスはまたそれを他の人に贈り、鼎は巡り巡ってふたたびタレスの所へもどって来た。タレスは鼎をアポロンの神殿に納めた。鼎が巡った人々をギリシアの七賢人という〔*異伝が多くある〕。
『パンチャタントラ』巻4−8 隠者が、自分の娘とした鼠の嫁ぎ先に、まず太陽神を選ぶ。次いで、太陽を隠す雲、雲を吹き飛ばす風、風をさえぎる山と、よりすぐれた婿を捜したあげく、「山に穴を開ける鼠こそ、もっともふさわしい」と言って、娘を鼠と結婚させる〔*『沙石集』古典文学大系本・拾遺69、ラ・フォンテーヌ『寓話』巻9−7「娘に変わったハツカネズミ」に類話〕。
*猫に良い名前をつける→〔猫〕9の『浮世床』初編・巻之中。
『輪舞』(シュニッツラー) 十名の人物が登場する。娼婦と兵隊の情事から始まり、次に兵隊と小間使いの情事、小間使いと若主人の情事、若主人と若奥様の情事、というようにしりとり式に男女の性的交情が描かれ、夫、可愛い少女、詩人、女優、伯爵を経て、伯爵と最初に出た娼婦との情事で物語が終わる。
『生きる』(黒澤明) 住民たちが市役所の市民課へ、下水溜まり埋め立ての陳情に来る。しかし彼らは、土木課・保健所・衛生課・環境衛生係・予防課・防疫係・虫疫係・下水課・道路課・都市計画部・区画整理課・消防署・教育課・市会議員・助役、と次々にたらい回しされる。最後に彼らは、ふたたび市民課へもどされる。
『きりしとほろ上人伝』(芥川龍之介) 山男「れぷろぼす」が、天下無双の大将に奉公しようと「あんちおきや」の帝のもとへ行き戦功をたてるが、帝が悪魔を恐れるのを知って悪魔の手下となる。しかし悪魔は隠者の十字架に打たれて逃げ、「れぷろぼす」はそれを見て「えす・きりしと」に仕えることを望む。隠者の勧めで「れぷろぼす」は「きりしとほろ」と改名し、流沙河の渡し守となる〔*原拠は『黄金伝説』95「聖クリストポルス」〕。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)2編下「蒲原」 木賃宿で、回国の六部が弥次郎兵衛・喜多八に次のような物語をする。数年前江戸で大風が吹いた時、ほこりが舞って大勢が目をわずらった。目の不自由な人が大勢できれば皆三味線引きになる。三味線には猫の皮がいる。猫がいなくなると鼠がふえる。鼠は箱などを齧るから箱が売れるだろう。そこで彼は、針箱・櫛箱・薬箱など多量の箱を仕入れて大儲けをたくらんだが、さっぱり売れなかった。
『天狗裁き』(落語) 男がうたた寝をして悲鳴をあげる。女房が男を起こして「何をうなされてるの?どんな夢を見たの?」と聞く。男は「夢など見ない」と否定するが、女房は信用せず問い詰める。友人、家主、さらに奉行までが、夢を問う。ついには天狗が男をさらい、「夢を言わぬと八つ裂きじゃ」と脅すので、男は悲鳴をあげる。女房が男を起こして「何をうなされてるの?どんな夢を見たの?」と聞く。
★6a.過去の世界へ送り込んだ自分自身と、年月を経てふたたび対面する男。
『ネオ・ファウスト』(手塚治虫) 昭和四十五年。七十歳の一ノ関教授は助手坂根第一とともに、悪魔を呼び出す実験をする。女悪魔・牝フィストフェレスが出現し、彼女の力で、一ノ関教授は十二年前、昭和三十三年の世界に送り込まれ二十歳の青年に若返るが、同時に一切の記憶を失う。彼は坂根第一という名前を得て、十年ほどの間に巨額の財を成した後、昭和四十五年には一ノ関教授の助手となり、悪魔を呼び出す実験をする。このまま放置すると、一ノ関教授は何度も坂根第一になり、坂根は教授に無限に会い続ける事になるので、牝フィストフェレスは一ノ関教授をこの世から消す。
★6b.三十年後の自分自身を殺し、それから三十年を経て、かつての自分自身に殺される女。
『火の鳥』(手塚治虫)「異形編」 戦国時代。男装の女侍左近介は、琵琶湖北岸の蓬莱寺の主・八百比丘尼を殺す。そこは閉ざされた空間で、左近介は寺から離れることができず、やがて彼女自身剃髪して八百比丘尼の姿となり、寺を訪れる人間や妖怪の病気怪我の治療をするようになる。火の鳥が八百比丘尼の夢に現れ、「三十年間隔で時間が円環し、あなたは過去の自分である左近介に、繰り返し殺される」と教える。八百比丘尼が無限の生類を救い続け、過去の罪を許されれば、円環から脱することができるのである。
*円環状の道を回る→〔地獄〕1bの『神曲』(ダンテ)「地獄篇」第7歌・第28歌。
*円環状の道へ入ることによって、問題の解決をはかる→〔乗客〕5の『スピード』(デ・ボン)。
*時空間を廻り、戻ってくるゴミ→〔穴〕4の『おーい でてこーい』(星新一)。
*関連項目→〔共謀〕
『人間失格』(太宰治)「第一の手記」〜「第二の手記」 人間の営みがわからない、空腹感すら理解できない「自分(大庭葉蔵)」は、自らの異質性を隠蔽するために幼い頃から道化を演じ、家族や級友を笑わせていた。ところが中学校の体操の授業で、「自分」が鉄棒につかまりそこねて砂地に落ち、皆を笑わせた時、竹一という低能の級友が「ワザ、ワザ」と囁いて、それが演技であることを見抜いた。
『十訓抄』第10−77 白河院の時、九重塔の金物に牛の皮を使ったとの噂が立ち、修理担当の定綱朝臣が問責されそうになった。院が、噂の実否を確かめるため仏師を塔に登らせると、仏師はおびえ、塔の半ばから返り降りてしまった。院は笑い、定綱問責の件も沙汰止みになったが、実はこれは、仏師がわざと臆病なふりをして定綱を懲罰から救ったのだった。
『黄金伝説』55「聖アンブロシウス」 裁判官アンブロシウスは、町の人々から司教になるよう請われる。彼は人々の考えを変えさせるため、大勢を拷問にかけたり異教徒のふりをしたり、果ては、娼婦を公然と家に入れるなどのことをする。
『閑居の友』上−12 近江国石塔の中年僧が、ある後家の宅を常に訪れ、女犯の噂がたって寺房を追い出される。実は、人との交わりを避けて念仏・観想に専心するため、ことさら破戒僧のごとくふるまったのだった。
『撰集抄』巻2−4 師大納言経信のもとを六十歳ほどの僧が訪れて物を乞い、「女と関係して寺を追われた」と述べて去る。この僧は花林院の永玄僧正で、遁世の志深く、官主にされそうになったのを嫌い、寺を出て流浪していたのだった。
『発心集』巻1−11 老年の聖が四十歳ほどの後家を妻に迎え、六年後に死ぬ。その間夫婦の交わりはなく、法門を談じ念仏を唱えて、臨終時には仏像の手に五色の糸をかけ、眠るごとき最期であった。
『発心集』巻1−12 美作守顕能のもとを僧が訪れ、愛人が懐妊して産み月にあたるので、と述べ食物を請う。深谷の庵に帰った僧は「仏のお助けで安居の間の食料を得た」と独り言して、夜もすがら法華経を読む〔*『古事談』巻3−104に同話〕。
『仮名手本忠臣蔵』9段目「山科閑居」 加古川本蔵は、塩冶判官が殿中で高師直を斬ろうとするところを、抱きとめた。そのことで塩冶の家来たちは本蔵を恨み、大星由良之助の息子・力弥と、本蔵の娘・小浪との婚約が破棄された。雪の日、本蔵は山科の由良之助を訪れて、ことさらな悪口雑言を吐き、怒った力弥の槍にわざと刺される。本蔵は、「私が死ぬことで、これまでの恨みを捨て、娘・小浪を力弥の嫁として受け入れてほしい」と請う。
『源平布引滝』3段目「実盛物語」 源氏の白旗を守る小まんは、琵琶湖で、旗を握る片腕を斬り落とされて死ぬ。引き上げられた小まんの遺骸を、平家方の瀬尾十郎が足蹴にし、小まんの子太郎吉にわざと討たれる。瀬尾は小まんの実の父であり、孫にあたる太郎吉に初手柄を立てさせようとしたのであった。
『摂州合邦辻』「合邦内」 俊徳丸殺害の陰謀を知った継母玉手御前は、彼を救うために、偽りの恋をしかけ毒酒を飲ませて、癩病にさせる。 玉手は父親の眼前で俊徳丸に迫り、父の刃にわざと刺される。寅の年寅の月寅の日寅の刻に誕生した玉手の血を用いれば、俊徳丸の病気は本復するからである。
『南総里見八犬伝』第4輯巻之3第36回〜巻之4第37回 指名手配中の犬塚信乃を、犬田小文吾がかくまう。小文吾の義弟にあたる山林房八が「役所へ訴え出る」と言い、小文吾に斬りかかる。しかし房八は、逆に小文吾に斬られて倒れる。それは房八が望んだことであり、彼は命を捨てて信乃を救うつもりだった。房八は小文吾に、「こうでもせねば、お前はおれを斬るまい。おれの顔は信乃に似ているから、おれの首を信乃だといつわって差し出せ」と言い残し、死ぬ。
『戯れに恋はすまじ』(ミュッセ) 男爵の一人息子ペルディカンは、従妹カミーユの気をひくために、カミーユの乳姉妹である村娘ロゼットに恋をしかける。ロゼットはペルディカンとの結婚を夢見るが、ペルディカンの求婚が一時的な気まぐれに過ぎなかったことを知って自殺する。
『藤十郎の恋』(菊池寛) 傾城買狂言の名手坂田藤十郎は新たな芸境を拓くべく、人妻と命がけの不義をする茂右衛門役に挑む。演技の工夫のつかめぬ藤十郎は、茶屋の一室で人妻お梶にいつわりの恋をしかける。しかし、お梶が覚悟を決めて行燈の灯を消すと、藤十郎は逃げ去る。興行が始まって藤十郎の芸は大評判をとり、お梶は縊死する。
『雨月物語』巻之3「仏法僧」 夢然父子が、高野山奥の院の霊廟前で通夜をする。夜がふけ、先払いの声とともに、高野山で自刃した関白秀次と家臣たちの霊が現れて、歌物語をし酒宴を開く。
『伽婢子』巻5−2「幽霊諸将を評す」 永禄七年七月十五日の夕刻、鶴瀬安左衛門は恵林寺に赴き、すでに死没したはずの山本勘助らの武将を見る。死霊たちは軍法の問答や諸将の批評をし、酒を酌み詩を吟ずる〔*『剪燈新話』巻4「龍堂霊会録」が原話〕。
『椿説弓張月』後篇巻之4第25回 鎮西八郎為朝が讃岐の祟徳院の御陵に詣でる。夜の夢に為朝は、天狗道に堕ちた祟徳院と左大臣頼長・父六条判官為義たちの霊が、世を乱し平家を亡ぼす企てなどを語り、酒宴をするさまを見る。
『春雨物語』「目ひとつの神」 東国の若者が都で歌道を学ぼうと志し、上京する。彼は近江国まで来て、老曾(おいそ)の森で野宿し、目一つの神や天狗・狐・猿など妖怪たちの宴を見る。目一つの神は若者に酒を勧め、「今の乱れた世には、都に師とするに足る人物はおらぬ。故郷に帰り、隠れ住む良き師を探して学べ」と諭す。若者は納得し、故郷へ戻る。
*→〔踊り〕2の『宇治拾遺物語』巻1−3。
『三国志演義』第61回 劉備玄徳と劉璋の酒宴の席で、魏延が劉璋を斬ろうとして剣舞 を始めると、張任が同じく剣を抜いて相対し、ともに舞う。それを見た玄徳・劉璋双方の部下たちが次々に立ちあがり剣舞に加わるので、玄徳が「鴻門の会でもあるまいに」と叱る。
『史記』「項羽本紀」第7 鴻門での項羽と沛公(劉邦)の酒宴の席上、項荘が剣舞をよそおって沛公を斬ろうとする。それを察知した項伯は、剣を抜いて立ちあがり、舞いながら身を挺して沛公をかばう。
『千一夜物語』「アリババと四十人の盗賊」マルドリュス版第859夜 商人に変装した盗賊の首領を、アリババはそれと気づかず夕食に招く。侍女マルジャーナが商人の正体を見抜き、舞姫の衣装を着て剣の舞いを披露しつつ、すきをうかがって商人の心臓に短剣を突きたてる。
『歴史』(ヘロドトス)巻5−17〜20 ペルシアの使節団七人が、マケドニアへ臣従の証拠を要求しに赴き、宴席で女たちとたわむれる。アレクサンドロスがひそかに女装した青年たちを送りこみ、ペルシアの使節団はみな刺殺される。
*酒宴の席で敵を倒す→〔酒〕1b。
『今昔物語集』巻28−3 円融院が子の日の野遊びに船岳へ御幸され、上達部や殿上人に加えて能宣・兼盛ら五人の歌人も召される。曾禰好忠が、招待されていないのにやって来て座に着くが、押し問答の末、彼はその場からひきずり出される。
『赤死病の仮面』(ポオ) 蔓延する赤死病を避けてプロスペロ公が大伽藍にこもり、千人の騎士貴婦人を招いて仮装舞踏会を催す。宴たけなわの真夜中に、死顔の仮面に血まみれの装束の人物がいるのに人々は気づく。それこそは赤死病の化身であった。
『ダニエル書』第5章 ベルシャツァル(ベルシャザル)王と貴族一千人の酒宴の最中に、人の手の指が現れて壁に文字を記した。ダニエルが「メネ、メネ、テケル、パルシン」と読み解き、王の世の終わりを告げた。王はその夜のうちに殺された。
『眠れる森の美女』(ペロー) 王女が誕生し、洗礼式後の宴会に、名付け親として七人の仙女が招かれる。そこへ、五十年以上も塔にこもっていたため招待されなかった老仙女が現れて、王女が紡錐で手を刺して死ぬ、との運命を予告する〔*『いばら姫』(グリム)KHM50では、黄金の皿が十二枚しかないので、十三人目の仙女が招待されなかった、とする〕。
『マクベス』(シェイクスピア)第3幕 王となったマクベスは、将来、僚友バンクォーの子孫に王位を奪われることのないように、刺客を放ってバンクォーを殺す(*彼の息子は逃げて無事だった)。その夜、マクベスは宮殿で晩餐会を開く。彼が挨拶を始めるとバンクォーの亡霊が現れ、マクベスの席につく。その姿はマクベス一人にしか見えない。マクベスは驚き恐れ、あらぬことを口走るので、マクベス夫人が宴会の中止を宣言し、客たちを帰らせる。
『ジェーン・エア』(C.ブロンテ) ジェーンとロチェスターの結婚式の最中、弁護士が現れて結婚の無効を訴える。実はロチェスターにはすでに精神病の妻がおり、彼は妻を屋敷内に隠していたのだった→〔夫〕6a。
『卒業』(ニコルズ) ベンとエレインとは恋人同士だが、ベンはエレインの母ロビンソン夫人に誘惑されて関係を持っていた。それを知ったエレインはベンと別れ、両親の勧める青年と結婚式をあげる。ベンは結婚式の行なわれている教会に駆けつけ、ガラスをたたいて「エレイン。エレイン」と叫ぶ。エレインもそれに答え、二人は手に手を取って式場から走り去る。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ) 十九歳のエドモン・ダンテスが船長に任じられる。それをねたむ同僚ダングラールらが、ダンテスをナポレオンのスパイにでっち上げ、密告する。ダンテスとメルセデスとの婚約披露の宴席に兵士らが踏みこみ、ダンテスを連行する。
『ルスランとリュドミラ』(グリンカ) キエフ大公の娘リュドミラと勇士ルスランの婚礼の宴に、魔法使いチェルノモールが侵入し、リュドミラをさらって行く。キエフ大公が、「娘を連れ戻した者には王国の半分を与え、娘の婿にする」と宣言し、ルスラン以外の者にもリュドミラを得るチャンスが与えられる。ルスランをはじめ四人の騎士が、リュドミラを捜しに出発する。
『園遊会』(マンスフィールド) 少女ローラの家でガーデン・パーティが開かれる直前、「近所に住む荷馬車屋が、妻と五人の小児を残して事故死した」との知らせがもたらされる。ローラは「パーティを中止しよう」と言うが、姉も母も取り合わない。客たちの満足のうちにパーティは終わり、その後、残りのサンドウィッチや菓子を持ってローラは荷馬車屋を弔問する。
『饗宴』(プラトン) 紀元前四一六年、夜長の季節に属するある日。アガトン邸の晩餐会に、ソクラテスをはじめとする市民たちが招かれた。食事の後は酒宴になって、席の右廻り順に一人ずつ、エロス(愛)讃美の演説をした(*演説者の一人アリストファネスは、なぜ人間が伴侶を求めるか、その起源を説く神話を語った→〔人間〕1b)。夜が更け、帰る者・眠る者がいたが、ソクラテスとアガトンとアリストファネスは、朝まで何事かを論じ合っていた。
『アイズ ワイド シャット』(キューブリック) 医師ビルは変装して、ある館の仮装パーティに潜入する。そこでは、仮面をつけた大勢の裸体の男女による乱交が行なわれていた。ビルは部外者であることを見破られ、制裁を受けそうになる。その時、仮面に裸体の一人の女が「私が身代わりになるから、彼を解放してほしい」と訴える。ビルは無事に館から出ることができた。翌日、高級娼婦マンディーが薬物中毒死する。彼女は、昨夜の仮面の女だった。マンディーの死が不慮の中毒死なのか、それともビルの身代わりに殺されたのかは、わからなかった→〔麻薬〕4。
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